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SORRY BABY 誰かさんみたいに 俺に明日は見えないから SORRY BABY 約束なんて とても できたもんじゃないんだ こんな俺を うらむかね 「どうした、三上?」 穏やかな雰囲気で、三上の不調を気遣う渋沢。だが、今の三上にとっては、それさえもうっとおしい。 「べっつにぃ〜」 「そうか、身体のキレが悪そうだから、どこか身体の具合でも悪いのかと思った」 さすが鋭い...長年の付き合いゆえか...といっても、互いに高校一年生、二人が出会って共に過ごした時間は、長い人生の僅かな時間。これから、さらに、三上にとっても、渋沢にとっても、もっと深く付き合う人間が出てくるだろうう。 そう、もしかしたら、互いに、すでに出会っているのかもしれないが。 「昨日の夜の事だけど」 ぎくっと三上の肩が震えた。急に何を言い出すのか、と渋沢を訝しげに睨み付けると、渋沢は苦笑いしながら、 「いや、その...おまえにしては、珍しく失敗をしたものだなぁって」 「へっ?」 三上がきょとんとした顔になった。渋沢は、三上の様子を見て、三上以上に目を丸くした。 「知らないのか?、あの騒ぎを...おまえ、いつも使っている浴室の小窓、カギかけわすれただろう?」 「なっ!?」 「今朝、寮長が見回って、風呂場の小窓のカギが開いているのに気がついたんだ。それで、誰かが勝手に出入りしているって、今、寮どころか、学校内は大騒ぎしている最中だ」 「...」 「つまりは、犯人探し」 「!?」 「点呼はオレが誤魔化しておいたから、三上の場合は大丈夫だと思うけど、念のため、注意しておいた方がいい」 呆然としている三上の肩をポンと叩いて、渋沢は練習に戻る。戻りながら、ぽつりと囁いた。 「昨夜、何があったのか知らないけど、あまり意地をはらない方がいいと思うな」 立ち去る渋沢の背中を横目で見ながら、三上は複雑な想いに囚われていた。 (意地ねぇ...) 昨晩、三上が隠れて逢っていた相手の事など、渋沢は知るはずが無い。否、知っていたら、おまえはどうする? 渋沢は、三上がこそこそ隠れて逢っているのが、どこかの女子学生ぐらいにしか考えていないのだろう。そうでなければ、渋沢が三上の事を心配するハズがない。そう、自分の想い人が、親友に寝取られていると知ったら...三上は、ベンチにどさっと腰掛けた。 バックの中からタオルを取り出す。汗を拭いながら、ふと、となりに置いてあるバックが目に付いた。渋沢のものだ。そのバックの外側のポケットから、ややはみだし気味のカードケースが見え隠れしている。其れを見ただけで、三上は深い溜息を吐いた。 そのカードケースに入っている中身を知っている三上には、ある意味、渋沢からの無言の威圧に感じ取れることがある。否、渋沢はそう思っていないだろう、そう思えてしまうのは、三上に負い目があるからだ。親友の、渋沢の想い人を寝取ってしまっているのだから。 三上は再び溜息を漏らすと、何気なく、そのケースに手を伸ばした。二つ折りのケース、中を開いてみれば...其処には、昨夜、自分の下で両足を開き、甘い吐息を漏らしながらも、その恥ずかしさ故に目に涙を潤ませていたアイツの...いつもの無表情な顔つきの写真が飾られていた。選抜合宿で誰かが撮ったものだろう、其処には、不破と渋沢が写っている。練習中らしく、渋沢が不破を指導しているような様子だった。この写真を大切に今でも持ち歩いているとは...それほどまでに、渋沢がアイツのことを想っていることが、よく分かる。 選抜合宿。 だが、その単語が頭を横切った瞬間、三上はパタンとケースを閉じて、元の場所に其れを戻した。そう、あの合宿が終わってからだった、三上と不破が付き合い始めたのは。そうだ、もう一年近くなる、一年...なのに、だっ!! 三上は急に苛立つように、自分の肩に下げていたタオルをばさっと勢い良く、ベンチの背もたれにかけた。 (あのタコが...っ!) 「どうした、三上?」 練習に戻ってこない三上を心配して、渋沢がベンチへと走ってきた。思わず、三上はぎょっとするが、すぐに平常を装うと、「すまん」と一言、渋沢に告げて、自分も練習に戻った。その後ろ姿を、やはり心配そうな渋沢の視線が追いかけてくる。 (別に意地なんか、はってねぇーっての) ただ、気に入らなかった。と言うよりは、驚いたのだ。一年近くも一緒に夜を過ごしながら、不破が...。 三上は昨晩、不破に自分の名前を呼んで見ろと、行為の真っ最中にそれを要求したのだ。いつも、「三上」としか呼ばないから。たまには名前で呼んで見ろと、耳元で囁いた。喘ぎながら、不破は頬をより一層赤らめた。顔を背けて、それでも口唇から漏れてくる甘い吐息。三上の動きが一段と早くなると、不破は耐えかねたように、微かな声を出した。 「りょ...ぅ...」 一瞬、三上は自分の耳を疑った。三上の動きが止まったので、不破は組み敷かれた状態で、三上の顔を見上げた。目と目が合って...次の瞬間、三上は物凄い勢いで、すでに繋がれた不破の身体を思いっきり突き上げた。 「あぁっ!!!」 思わず不破が、三上の肩に爪を立てる。日頃、そのような事をしては...と、気遣っていた不破だったが、それを忘れさせてしまうほど、三上は激しく、不破を責め立てたのだった。 三上の名前を呼んだ瞬間から。 不破は、もう三上の名を呼ぶ余裕はなかった。只ひたすら、三上に激しく追い立てられて、意識を失いつつあった。それでも不破は、手放しそうになる意識の中で呟いた。 「すまない...」 そう、不破も気がついたのだ。だが、三上が気がついてから、すでに数秒は経過していた。だからこそ、この激しい三上の動きに、大人しく従ったのだ。三上の気が済むまで。三上を怒らせてしまったと、不破はその瞳にうっすらと涙を浮かべた。その涙が、溢れこぼれ落ちた時、三上は不破の中で果てた。荒々しい三上の息と、不破の息が部屋中に交互に響きあった。 「てめぇは...まぁったく...」 「本当に...すまない...悪かった...ぁ...あきら...」 途切れ途切れに、互いの声が交差する。 そう、不破は三上の名前を呼び間違えたのだ。 『亮』 たしかに、「りょう」と呼び間違えられることがある三上であったからこそ、不破の間違いにすぐに気がついて、そして、今の今まで、その間違いに気がついていなかった不破に対して、腹を立てたのだ。 三上の名は「りょう」ではなく「あきら」である。 突然、様相が変わった三上に不破は驚いて、責め立てられながら、混濁しつつある意識の中、不破も考えついたのだ。三上の名前を呼び間違えたことに。最初、不破は三上の名を「りょう」と読んでいた。だが、風祭に教えられて、同じ名でも読み方が違うことに、不破は記憶したハズだった。だが、咄嗟に口から出た名は、最初に読み間違えた名であった。それ故、不破も三上に対して申し訳ないと思ったのだ。 こうして何度も、互いの身体を重ね合わす仲になっているにも関わらず...。 その後、三上は無言で着替えると、不破の部屋から出ていった。不破は引き止めることをしなかった。三上にしてみれば、何か他に言って欲しいような気もしたが、今の自分では、何を言われても悪態を吐くことしか出来なかっただろう。不破が黙って三上を見送ったのは正解であったかもしれないが...やはり、終わってから何も言わずに出きてしまったことに、今度は三上の方が後悔した。帰ってきてからも、ずっとずっと後悔し続けた。それは、今も、練習である今も、そうだった。 それを渋沢に見抜かれて、余計に三上は、自分自身に苛立ちを感じた。さらに、名前を呼び間違えた不破は、それに気がついて謝っていたのに、その不破に何も言わなかった自分に、かえって不破を傷つけてしまったと、三上は渋沢の言うように意地をはっているのではなく、落ち込んでいたのだった、三上には珍しく、だ。 練習終了の合図に、まだ一年生の渋沢と三上は後片づけを始めた。渋沢がまた何か言いたそうな顔をしていたが、三上は其れをあえて無視するかのように、目を合わせなかった。親友の想い人を寝取った罰かもしれない、そんな自嘲気味な考えも浮かんでは消えていった。 仕事を終えて、三上達、一年生もロッカーへと引き上げる時だった。グランドの外、桜の樹に身を隠すかのように、此方を伺っている視線に気がついた。とても遠い場所からだったが、三上には其れがすぐに誰のものであるのか理解した。 そして...三上は口元を緩ませた。 「どうした、三上?」 ロッカーへと歩きながら、渋沢が話しかけてくる。その時には、すっかり、アイツの気配は消えていた。さすがである。 「べっつにぃ〜」 三上は渋沢を適当にあしらった。寝取ったとはいえ、同意の上でのことだ。何を遠慮する必要がある、三上に不敵な笑みが戻った。この方がいつもの三上らしいが、渋沢はやや苦笑い気味だ。だがそれも、もうじき、苦渋に満ちた表情に変化するかもしれない、それでも、三上は今更、渋沢に譲る気などサラサラ無い。そうだ、誰に恋をしようと、誰と愛し合おうと、それは個人の自由だ。 そうだ、間違いなく、これは...。 「悪い、先に行っててくれないか」 三上は渋沢にそう告げると、そそくさと校舎の影に隠れた、だが、その右手にはしっかり携帯が握られている。物陰に隠れた三上は、校舎の壁に背もたれると、早速、電話をかけた。メールより、直接、話した方が早い。否、すぐ其処まで本人が来ているのだから、出来れば顔を見て話をしたいが、練習後の汗とドロにまみれた姿である。三上なりに格好をつけたつもりだった。 電話をかけると、十回以上コールが続いた、つまり待たされた。いや、そうではないだろう、多分、出ようか出まいか迷っているのだろう、アイツらしくないと苦笑いした途端、コール音が切れた。 「三上」 不破の声が聞こえた。やや弱々しく聞こえるのは、昨晩の負い目ゆえであろうか、三上はクスリと笑った。 「随分とシケた声、出してんじゃねぇーよ」 「....怒っているのだろう?」 単刀直入である。三上はまた笑った。 「まぁな、ちょっとムカついたけどな」 「....」 「今晩も間違えたら、今度こそ容赦しないぜ」 「では...今夜も逢えるのか?」 電話の向こう側で、不破の声が明るくなったような気がした。それだけで、三上の気持ちが浮上していくのがわかった。単純だなと思いながら、「あぁ、そうだな...けど、消灯前には戻るようだけどな」、三上はそう答えた。 昨晩、動揺したせいだろう。いつも使っている、小窓にカギをかけ忘れたのは。それがバレて学校内は大騒ぎしているらしいが、そんな事は知ったこっちゃない。だが、それでも、消灯前に帰寮するしておく方が無難であろう。自分だけではなく、点呼を誤魔化してくれる渋沢と、そして不破のためにも。 「着替えてシャワー浴びてくるから、其処で大人しく待ってろ」 「此処で、か?」 「へっ?」 電話の声と、ホンモノの声がだぶって聞こえたので、三上は間抜けな声を出して顔を上げた。三上の視界に、フェンス越しに立つ、不破の姿が飛び込んできた。 「三上が、此方に歩いていくのが見えたので、此処まで追いかけてきたのだが...」 フェンス越しとはいえ、数mの距離。互いの顔が良く見える。しかし、不破は前髪で瞳を隠している。その表情は読みとりにくい。だが、それでも、全体の印象にはいつも感じ取れる鋭さがない。 明らかに、昨晩の失態を、不破自身、気にかけている様子が分かる。 三上は携帯を切ると、不破に近づいた。不破も携帯を切り、ポケットにしまいこんだ。 「おい」 「...」 フェンス越しに顔を覗き込んでみる。前髪で隠していた瞳がはっきりと見えた。意外と大きな瞳だが、白目の範囲が広くて、いわゆる三白眼というヤツだ。しかし、これはこれで、らしくて愛嬌がある。三上がにやりと口唇の片隅を吊り上げた。 「もう二度と間違えるんじゃねぇーぞ」 「あぁ、もう絶対に間違えない」 即答する不破に、三上はくくっと喉を鳴らして笑った。 「じゃぁ、裏門で待ってろ。但し、誰にも見つかるなよ、特に、渋沢にはな」 「渋沢?」 「あぁ、アイツ、あれでもカンが良いからな」 「わかった...待ってる」 微かに...微かに、不破が笑った。ほっとしたようにも見えた。きっと、昨晩の事が心配で眠れなかったのかも知れない、わずかながら、目が充血しているようにも見えたから。それだからこそ、不破は、三上の態度に安堵して、微かに微笑み返したのだった。 もっと笑顔が見たい...自分の下で泣いている姿も見たいが。 三上は踵を返して、ロッカーへとゆっくりと歩いていった。本当は全速力で走りたかったが、不破にそんな姿は見られたくなかった。まるで、自分ががっついているようで...いや、本能に従えば、名前を呼び間違えられようが、アイツを手放す気など全く無いし、何よりも、誰よりも、欲しくて欲しくて仕方ないのだから。 (悪いな、渋沢...) そう心の中で手を合わせる三上だが、気分は先程とはうってかわって、昂揚していくのが押さえられない。 (こんなオレを恨むだろうな) それでも、三上の足取りは軽かった。 終わったあとで よくあるように 眠ったあとで よくあるように よくある顔で ねぇ よくある顔で 笑っておくれよ... 今は、欲しい物は只ひとつ。 FIN ☆ ―――――――――― ☆ 眞木空人さまに、勝手に捧げます! 神経性のご病気にかかられたと聞いて(いえ読んで)、とても心配になりました。 佐藤の病気も、元は神経性、つまりはストレスからきているものですから、とても他人事のように思えませんでした。 でもって、このような駄文を送りつけてしまうのですが...実は、作中、不破と渋沢のツーショット写真は、眞木空人さまが描かれた「不破と渋沢の練習風景」のイラストを元に、イメージさせて頂いております。勝手に使って申し訳ありません!!(平伏) 一日も早いご快復を心よりお祈り申し上げます。 それと同時に、自分も気張らず、マイペースでサイト運営していこうかと思っております。 これからも、お付き合いの程、ヨロシクお願い致しますデス。 それでは、拙い駄文でお目汚ししてスミマセンでした。失礼いたします。 date:2003:04.28 佐藤圭大 拝 追記: 実は、お恥ずかしながら、佐藤は、当初、三上亮(みかみあきら)ではなく、作中にもありますように「りょう」と読んでました。何で、こんな間違いしてたんだろう...と、よく考えましたら、一緒に仕事をしている人の中に「亮」と書いて「りょう」と読む人がいたからなんですねぇ。これで何の疑いもなく、「みかみりょう」と読んでいたのです。気がついた時、一人でハズカシイ思いをしてました、はい(滝汗)。 ☆ ―――――――――― ☆ |