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Begining 鐘の音が聞こえてくる。 今年の終わりを告げる鐘の音だ。 街は真夜中とは思えないほど明るく照らされ、往来は人で溢れている。 ぼくとご主人様は、新年の買い物をようやく済ませて、家に帰るところだった。 行き交う人達の騒ぐ声を聞きながら、ぼくのご主人様は沢山の買い物を抱えて黙々と歩いていた。 一緒に住んでいるヤツは、きっと遊びに行って楽しくやっていることだろうに。 なんてヤツだ。 いっつも思うけど、何であんないい加減なヤツと、真面目で温厚なぼくのご主人様が一緒に 暮らしているのか、とっても疑問だった。 ご主人様は近所でも評判の人だった。 とにかく真面目で優しくて誰からも好かれていて...とにかく、とにかく、あーんなヤツと 一緒に住んでいるのが信じられないくらい良い人なんだ。 ぼくだって、ご主人様と一緒じゃなければ暮らさないよ!あんなヤツ!! 今頃は飲んだくれて、女と遊んで、今夜はゼッタイ帰ってこないよ!あいつは! なのに、ぼくのご主人様は、あんなヤツの分まで食料を買い込んできて...。 ぼくは、ご主人様の考えていることがわかんないよ。 なんで、あんなヤツと暮らしているのか... 良い事なんて全然無いじゃないかぁ!! 沢山の荷物を抱えて、ご主人様が家に辿り着いた。 ぼくだって手伝いたかったけど、ジープに変身すると、反って往来の邪魔になるからって、ご主人様に 言われたから、こうして家までじっと肩に乗っていたんだけどね。 ご主人様が荷物を片付け始めたので、それぐらいお手伝いしようと、ぱたぱたと羽を動かしたけど、 ご主人様は、大丈夫だよ、と言わんばかりに、手際よく片付けていった。 結局、何も出来なくて、ぼくは、きゅーんと鳴くだけだった。 ご主人様は、ぼくが疲れたのだと思い込んで、ぼくを寝床がわりの箱の中に運んでくれた。 ぼくは、そうじゃないよ!ってつもりで、また羽をぱたぱたさせたのに、ご主人様は静かに寝なさいって ぼくに言うものだから、ちょっと寂しくて拗ねてたら...。 「たっだいまぁ!」 なんと、あいつが帰ってきた。 あの調子からみると、かなりご機嫌だ。 きっと女と遊んできて、御満悦ってとこだろう。 ぼくのご主人様が、一生懸命働いていたっていうのに、こいつはぁ!! ぼくは寝たふりしながら、アイツとご主人様のやりとりを聞いていた。 「...生グサ坊主から、なんか連絡あった?」 「いいえ、別に。何かあったんですか?」 「んー、いや、ちょっと...」 「...近頃、自我を無くす妖怪が増えてきているみたいですね。」 「あ、あぁ。」 「さっきも街で買い物に歩いていたんですが、活気があるんですけど、何だか妙に神経質っていうか、 警戒が強かったですね。 まぁ、僕の場合はあんまり妖怪らしくないから、さほど警戒されませんでしたけどね。」 「オレも。せっかくに店に行ったのに、なんつーか活気がなくてさぁ。早々に追い出されたってとこ。」 「あぁ、それで、いつもより早いんですね、帰ってくるのが。」 「....まぁーな。」 ご主人様は、二人分のお茶を注いで、テーブルの上に置いた。 「3年になりますね。」 「ん?」 「年が明けると...、3年になります。ここにきて。」 「.....」 「早いものですね。」 「あぁ...」 「...どうして、あの時、助けたんです?」 「ん?」 「放っとけば死んでいた僕を、どうして、あの時助けたんです?」 「.....」 「悟浄?」 「そーいう聞き方するヤツには教えてやんない。」 「.....」 二人の間に沈黙が流れる。 ぼくは聞き耳を立てて、じっとしていたんだけど、急にぞくっと身体が寒くなって... 「くしゅん...」 小さなくしゃみをしてしまった。 ご主人様は、はっとしてぼくのところに来てくれた。 ぼくが微かに震えているのを見て、すぐに毛布を余計に1枚かけてくれた。 なんて優しいご主人様。 構ってもらえるのが嬉しくて羽を動かしたかったけど、じっとガマンして、ぼくは寝たふりを続けた、 「なに?具合わるいの?こいつ?」 「いえ...昼間は元気だったんですけど、多分夜遅くまで買い物に付き合わせてしまったんで、疲れたんだと思います。 一晩、よく眠れば大丈夫だと思うんですが...」 「ふ〜ん」 何時の間にかご主人様だけでなく、アイツもぼくの近くまで来ていたものだから、必死に目を瞑ってガマンしていたんだ。 そしたら... 「一緒に暮らそう...そう言ってくれた時、すごく嬉しかったです。」 「ん?」 「悟浄が一緒に暮らそうって言ってくれた時、本当に嬉しかった...」 「.....」 「僕は悟浄に助けられてばかりですね。」 あいつが何も言わないものだから、ご主人様も何も喋らなくなった。 部屋の中はものすごく静かになって、耳を済ますと、遠くから鐘の音が聞こえてくる。 「今年も、もう終わりなんですね...」 「あぁ...」 「さっきから何も言わないんですね、悟浄。どうしたんですか?」 「...なんつーか、今夜のおめぇ、ちょっとヘン?」 「えっ?そうですか。別に何もありませんけど。」 「ふ〜ん...」 「まぁ、今年一年を振り返って...行く年来る年、ですかねぇ」 「どこのジジィだ、てめぇは」 くすくす笑うご主人様は、ふと窓の外を見て、あっと驚いた顔をした。 「何?」 あいつがご主人様の顔を覗きこんだ。 近頃、何かにつけて急接近するんだ、あいつは。 いつもならすぐに飛んでいって邪魔してやるんだけど、今は寝たフリしているから、じっとガマンした。 「雪...降ってきたんですね。道理で寒いと思いました。」 ご主人様は両手で自分を抱え込むような格好をしてみせると、そんなご主人様をあいつが後ろから そっと抱きかかえる。 ぼくはもうガマンできなくなって、寝床から飛び出そうとした。 ぼくのご主人様に何するんだ! けど... 「暖かい...」 ご主人様のすっごくキレイな笑顔が、あいつに向けられるものだから、ぼくはまた慌てて寝床に丸まった。 「今年も悟浄の近くにいられて良かった。」 「....」 「これって...誘っているみたいですね。」 「じゅーぶん、誘ってんじゃねぇかよ」 「はい」 「って、おめぇ...」 「自惚れてますから」 「.....」 「違いますか?」 白い息がお互いの顔にかかるくらい接近して、あいつが何かを告げる。 静かな部屋なのに、それは聞こえないくらい小さな声だった。 「何です?」 「...」 「悟浄?」 「...今夜は長いな...」 「え、えぇ。そうですね。」 「雪積もってきたな。」 「えぇ」 「.....」 「悟浄?」 「...オレの方から言わせたいってワケか?」 「はい」 にっこり微笑むご主人様に、あいつはがっくりと肩を落とす。 「おまえね...」 「鐘の音が消えちゃう前に聞きたいんです。」 「なんで?」 「なんとなく」 「確信犯だな、おまえ」 「はい。でもちゃんと聞きたいんです。悟浄の口から。」 「八戒...」 「ダメですか?」 「...ダメなワケねぇーだろ」 「じゃあ、どうぞ」 「おい」 「それとも僕の方から言いましょうか?」 「へ?」 ――――― あなたが欲しい 耳元で囁かれて、あいつは真っ赤になった。 ぼくも見ていられない!聞いていられない!ってカンジになって、ひたすら寝床で固まっていた。 でも... ホントは何となく、気が付いていたんだけどね。 ご主人様とあいつのこと。 だから余計邪魔してやろうって思ってたんだけど.. 「...そうくるか」 「はい」 「フツーさぁ、そう言う前にもっと違うこと言うんじゃないの?」 「?何て言うんです?」 「だからさぁ、フツーだったら、その...」 ――――― 愛してる...ずっとそばにいる... 「...とか何とか」 「うわぁ...砂吐そうですね」 「って、おめぇが言うかよ!」 「ははは...そうですねぇ」 「まぁたく」 「でも、ウレシイです」 「ん?」 「ちゃんと聞けて」 「.....」 「やっぱ分かっていても言葉で聞かないと、どこか不安で...」 「言葉なんかいくらだって、何だって言えちまって軽すぎるぜ」 「そうですか?でも言葉に出さなければ伝わらない思いもありますよ」 「これがそうなのか?」 「そうですねぇ。やっぱ不安はありましたよ」 「.....」 「だって基本的に僕等、男同士ですから」 「.....」 「こうなると、どっちが上でどっちが下で、...」 「おい」 「あ、リバーシブルもいいかも」 「こーいう状況でも、おまえってのほほんとしてんだな」 「え?」 「最初の頃の、自虐的傾向が無くなってきて、まぁまぁだな」 「...お蔭様で」 ――――― だから好きになったんだよ、多分な... 「花火が上がりましたね」 先程まで聞こえていた鐘の音はいつしか聞こえなくなくなっていて、その代わりに 花火の弾ける音が聞こえてきた。 「新年ですね」 「あぁ」 「今年もヨロシクお願いします」 「へいへい、こちらこそ」 窓の外を見つめている二人の後ろ姿を、ぼくは寝床からじーっと見ていた。 あーあ、とうとう、こうなっちゃった。 ぼくのご主人様が、よりにもよってこーんなヤツとぉ! でも仕方ないか。ご主人様が選んだのだから。 もう、甘えちゃいけないのかな? う〜ん、そんなことないよね。 だって、ぼくのご主人様なんだから。 けど、なんか...悔しいなぁ。 「くしゅん...」 顔だけ出してたら、またくしゃみが出てしまった。 ご主人様が気が付いて、振り返った。 ぼくは寝たふりしてよーとしたけど、しっかり目が合ってしまって、 「ジープ、起きてたんですか?」 そう言って、あいつの腕を軽く解いて、ぼくに近付いてきた。 ぼくは、もうガマンできなくて、毛布から出て羽をぱたぱたさせた。 ご主人様は、ぼくのことを抱きしめてくれると、 「寒かったんですね。湯たんぽでも入れてあげましょうか?」 ぼくはうれしくて、ますます羽をぱたぱたしてたら、 「おまえ甘やかさせすぎ」 あいつがそう言った。 ぼくがむっとしていると、ご主人様はぼくの頭を優しく撫でくれた。 そして、 「はい、もうこれで大丈夫ですよ。」 小さなぼく用の湯たんぽを作って寝床に入れてくれたので、ぼくはまたしっかりと寝床に戻らさせられてしまった。 ご主人様は、よしよしってカンジでぼくの背中を軽く撫でると、 「さっきのことは、三蔵や悟空には内緒ですよ」 って、ぼくは口止めされた。 ジト目でご主人様のことを見上げていると、ご主人様はくすりと笑いながら、おやすみって言って、 ぼくの頭に毛布をかけた。 これで、もうぼくはご主人様とあいつのことが見えなくなったわけで...。 「雪、だいぶ積もってきましたね。」 ご主人様の声。 「あぁ」 素っ気無く答えるあいつの声。 声しか聞こえなくなってかえって良かったかも。 だって、これから何が起るのか、きっと見てられないから。 もう寝よぉっと。 湯たんぽは、とっても暖かいし。 これ以上、邪魔したら、ご主人様だっていい加減怒るだろうし。 だって、せっかくの....二人だけの新しい夜なんだから。 FIN ☆ ―――――――――― ☆ あとがき 自分で書いて砂吐きました。 ゴスペラーズの「Begining」聞いて、う〜ん...これだ!なんて意気込んで書き始めたんですけど いきなり力尽きて、最後はこんなになってしまいました。ははははは....はぁ... ジープの視点で二人が書きたかっただけなんですけどね。 鐘の音が消える前に もう一度この愛が届くように どんな時も忘れないで 僕がいつでもそばにいるから そして鐘の音が消える頃は もう二度とこの愛は消せない 二人で新しい時を刻もう ただいつでもそばに 僕が君のそばに 君だけのそばにいるから 詩も甘いんですよね。 甘いですぅ...激甘でした。 最後まで読んで頂いて感謝です! date:2001.03.27 (おぉっ!今、気がつきました!自分の誕生日だわさっ!?...苦笑) ☆ ―――――――――― ☆ |