今宵月の見える丘に





いつになく静かな夜。
空に輝く月は、半分ほど欠けている。
それでも、雲一つない星空は、澄み渡った空気のせいで眩いほど明るい。

――――― 忘れたふりをしてるだけで...

何一つ忘れていない。
夢の中で何度も貴方を失う。

だから、眠ることが恐くなる。
こんな時は、何も考えないで動き続けることが良い。
身体を酷使して。自分を苛めて。くたくたになるまで動き続けて。
そして、ようやく夢をみないで眠ることが出来る。

なのに、今夜は眩しい月灯かりのせいだろうか。
朝から動き続けて...戦い続けて、長かった一日が終わり、疲れた身体をベットに
放り投げたにも関わらず、眠ることが出来ない。

目を閉じると、貴方の声が聞こえてくる。
貴方の悲しそうな笑顔が見えてくる。

――――― 救えなかったただひとつの愛


「おい、眠れねぇのか?」
「!!」

背後から急に声をかけられて、八戒は驚いて振り返った。

「悟浄...ビックリしたぁ」

眠れないので、こっそり部屋を抜け出した八戒は、家の裏手にある小高い丘に上っていた。
昼間の喧燥がウソのように静まり返っている今宵は、半分に欠けた美しい月が輝いている。

一人で物思いに耽っていたせいか、真後ろに悟浄が来ていたことに気が付かなかった。

「そりゃ、こっちの台詞だ。こぉも簡単にお前の背後を取れるなんざ...」

月に照らされて悟浄の髪と瞳は、燃えるように紅い。

――――― 血のように見えた...僕の戒めの色

「すみません、起こしちゃいましたか?」
「まぁな」

悟浄は八戒の横に同じように座ると、タバコをふかし始めた。
紫煙が澄んでいた空気をすこし濁らす。

「...タバコ、ちゃんと始末してくださいね」
「ん??」
「山火事になったら困りますからね」

いつも八戒の笑顔。
だが、悟浄は気が付いている。

八戒が何を考えていたのかを。
何を思い出していたのかを。

――――― オレじゃぁ、まだ役不足ってところかよ...?

悟浄はタバコを吸い終わると、足元の石で火をもみ消してから、胸ポケットに放り込んだ。
そこら辺に捨てたら、八戒に怒られるから。

「そーいうトコに入れておくと、洗濯しちゃって困るんですよね。
家に帰ったら、灰皿に捨てておいてくださいね。」
「...母親か、おめぇは...」

苦笑いして、悟浄は八戒の髪を、くしゃっと掴んだ。
八戒の奇麗な緑の瞳が、気持ちよさそうに細くなった。

「明日あたり、三蔵と悟空が到着しそうですね」
「あぁ、そうだな」
「今、この桃源郷で自我を保っている妖怪は、僕と悟浄と、多分...悟空だけでしょうから」
「まぁったく、毎日、毎日、懲りずに襲撃してくる連中だ。なぁにが、妖怪国家だってぇんだ」
「何がこの世界で起っているのか...それを阻止するために、西へ向かうそうですよ」
「へぇー、そう??じゃぁ...」

悟浄は八戒の顎に手をかけてこちらを向かせると

「これから連中と一緒じゃあ、ゆっくりできねぇから、今夜はオールナイトでいこうぜ?」

にやりと笑う悟浄に、八戒も負けずに言い返してくる。

「...ヤリ溜めですか?」

緑の目が意地悪そうに笑う。

「ぐっ!...キレーな顔して、言うねぇ、おめぇ!」
「悟浄に言われたくないですけど?
でも、できればお手柔らかに。明日がありますから。」

――――― いつも八戒に戻ったか...

まぁ、いいか。
とりあえず、明日になれば、連中と合流しなきゃならないわけだし。
今夜はヤらなきゃ...いや、休まなきゃ、な。

悟浄は、くっと喉を鳴らして笑うと、八戒を促して立ち上がった。

家に戻る二人の頭上には、満天の星空と澄み渡った月。
明日から始まる新しい旅路に、何を思っているのか??

おまえの中に入り込んで、その緑の奇麗な瞳で、
自分を見たら何が見れる?
少しは分かるだろうか...
オレのこと。
おまえのこと。

そして、これからのこと



FIN



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とうとう書いてしまいました!
悟浄×八戒ですね。
三蔵と悟空が、悟浄と八戒を訪ねてくる前日の設定で、書きました。
(ようするに、1巻目より前の話のつもりです。)

タイトルと最後に使ったパクッたのは、ご存知、B'Z の曲です。
実は、このタイトル、あちこちで使い回ししてます。(^^;
意外と書きやすいです。なぁんて...カップリング次第ですけど。

それにしても、オールナイトって死語ですよね。
でも、悟浄らしいカンジがしたので使ってみました。
やっぱりヘンですね。

date:2001.03.06


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