|
夢の中 ―――― 俺がみじめだろォが... 頭上に広がる満天の星空。 寝つけなくて見上げていたら、流れ星が視界に飛び込んできた。 初めてかもしれしれない、流れ星を見たのは。 ふと、煙草に火を付ける音が聞こえて、意識が戻る。 「...寝付けませんか?悟浄...」 振り返ると、ジープの後座席に寝ていたハズの悟浄が、煙草に火を付けていた。 「まーな、星が明る過ぎてよ」 「...そうですね」 八戒もまた空を見上げる。 眩いほどの星空だ。 「さっき流れ星みちゃいました。でも願い事が咄嗟に浮かばなくて...即座に思い付く人ってウラヤマシイですね。」 煙草の煙が緩やかに流れてくる。 「...そりゃアレだ。願い事なんざ必要ねーからだろ?」 悟浄に言い返されて、はっとする。 「...成程」 妙に納得してしまった。 そうかもしれない。 今の自分には願い事はないのかもしれない。 幼い頃、孤児院にいた時だって、笑わない子供だと言われていたって、それでも、願い事はあった。 ―――― 自分を愛してくれるだろうか...僕の片割れは... そうして出会って、本当に愛し合って...引き裂かれて。 今の自分はこうしてまだ生きている。 今度は自分の為に、こうして生きている。 今の自分には何がある? 願い事...何がある? ―――― 俺がみじめだろォが... また、悟浄の声が聞こえてきた。 砂漠の中で言われた、悟浄の言葉が...心の中に染み込んでいる 今だって。 今の自分には願い事なんか必要ないだろうって言われて...。 「不思議ですね...」 「ん?」 「悟浄の言葉は僕の中に入り込んできます。」 「...そりゃ、オレが中に入るのは当たりめぇだろうが」 「そーいうことではないのですが...」 八戒はくすりと笑うと、ゆっくりと立ち上がった。 「どこ行くんだ?」 悟浄が呼び止める。 「えぇ、眠れないからちょっとそこまで...散歩ですかね?」 「...一人で行くと三蔵に叱られるゾ。」 「大丈夫ですよ。そんなに遠くに行きませんから。」 そう答えると、八戒の姿は木々の陰に消えていった。 悟浄は煙草を消すと、ゆるりと立ち上がった。 「...って行っちゃいましたよー、どーしますかぁ?」 答えが無い。 「あっそ、じゃぁ遠慮なくオレも行っちゃおうっと」 悟浄もジープから離れると、八戒の後を追い駆けるように歩いて行った。 「...ふん」 取り残されたのは、三蔵と悟空。悟空はぐっすり眠り込んでいるが、三蔵は起きていた。起きてしっかり八戒と悟浄のやりとりを聞いていた。盗み聞き、というわけではないが、聞いているのを悟られたくなくて、寝たふりをしていたのだが...やはり、バレていたようだ。 「どーせオレが何言ったって行くんだろーが」 おめぇらは...。 出会った時からずっと。 三蔵は目を閉じて、今度こそ眠ろうと努力した。 明日も走り続けなければならないのだから。 一人で小高い丘に登って、星空を見上げた。 こうしていると、旅立つ前日のことを思い出す。 あの夜も、月が、星が奇麗だった。 でも、今の自分とあの時の自分は...違う?どこが? 旅を続けて、色んな事があって、こうして今辿り着いた、この想いは... ふと気配に気が付いて振り返る。 「悟浄...やはり来たのですね?」 満天の星空を背に、八戒が微笑む。 ゆっくりと近付いてくる悟浄。 互いの息がかかるほど近付いて...八戒が徐に言う。 「...今までが夢の中だったんでしょうね」 「?」 「こうして居ることが...」 言葉を詰まらせる八戒の背中を優しく悟浄が抱きかかえる。 微かに震える背中を優しく撫でてやる。 「...ようやく出てきたか」 「悟浄?」 「夢の中ってやつからよ。怯えるこたぁないぜ。そうだろ?」 ―――― これからは オレがそばにいる 「だから、願い事なんかねぇだろう?違うか?」 強く抱きしめてくる悟浄の腕に、八戒も黙って抱きしめ返す。 抱きしめて...悟浄は軽く八戒に口付ける。 「...けど、オレには願い事があるけどな」 「えっ?」 少し驚く八戒に、にやりと悟浄がわらう。 「オレをみじめにさせるなよ、な?」 ―――― 一人で無理するんじゃねーよ...オレがいるだろ? 緑の瞳も優しく微笑む。 服の上からも悟浄の肌の熱さが伝わってくる。 「ええ、そうですね。これからは...」 ―――― 一人じゃないんですよね... 星の輝きが眩しいのか、緑の瞳は静かに閉じられた。 まるで悟浄の言葉を受け入れるかのように。 君に One More Kiss 恋心を 夢の外に 目覚めさせたい 君に One More Kiss 感じるなら 夢の外に 出ておいで 君に One More Kiss 唇から いつもそばに 一人にしない 君に One More Kiss 熱い肌で いつもそばに 抱きしめたい ―――― 願いごとなど...無い これが全てだから...
FIN |