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此処はどこだろう... あぁ、そうだ、オレは都選抜に小堤のかわりに入って... 其処まで思い出して、不破大地は目を覚ました。 (今、何時だ? いつの間に、眠ったのだ?) ぼんやりと天井を見上げると、見覚えのない壁紙の模様が目に入る。 (トレセンの宿泊施設にしては...ヘンだな?) 不破は目をぱちぱちさせる。ゆっくりと身体を起こすと... 「ん?」 何かがおかしい。何処がどうおかしいのか、咄嗟に説明できないが、何かが...自分を取り巻く環境が何処かヘンだ。 そう、不破は、そそり立つ赤と黄色のカーテンに囲まされていたからだ。どうして、カーテンがそそり立っているのだろうか? 天井からぶら下がっているのなら、ともかく...そうか、これは、カーテンではなく、パーティションか? 病院などで置かれている、あれか? 不破は一人で納得すると、ベットから立ち上がろうとして... 「ぬっ?」 今度は、自分がベットだと思っていた場所をよく観察すると、それは、どう見ても、植物図鑑で見たことあるものだった。 「花のめしべ...か??」 みどり色の『めしべ』だ。何故?これは、一体...とすると、このド派手なパーティションは...花びらか? 色合いからして...まさか、チューリップ!? その時、不破の頭上から、雷のような大きな音が聞こえて、思わず、不破は耳を塞いでしまった。 だが、その音をよく聞けば、誰かが、何かを盛んに叫んでいるようだった。 おそるおそる、天井を見上げてみると、其処には....巨大な...乙女の顔があった。 「キャー! 可愛い!! 可愛いわぁ!!」 乙女はしきりに、そう叫んでいる。だが、その声は、小さな身体の不破には、雷にしか聞こえない。 しばらく耳を塞いで、じっとしていると、ようやく乙女の興奮が収まったようだった。 両手を離して、乙女を見上げれば、彼女は満面の笑顔で、不破をじっと見ている。 「魔法使いのおばあさんの言うとおりだったわ!」 「???」 「こーんな可愛い子供が授かるなんて...」 乙女はそう言いながら、花の中から、そっと不破を出してやった。 親指くらいの小さな身体。不破は、乙女の掌の上でも余るほどの、小さな身体になっていたのだ。 「すごいわぁ! チューリップの花から、こんな可愛いらしい子供が生まれるなんて、大感激!」 (なに...?) 不破は、乙女の掌にちょこんとお座りしながら、目をぱちくりさせた。 チューリップの花から生まれただと?...人間が、花から生まれるワケはなかろーが! なに、寝惚けたことを言っているのだ、乙女!! 子供とは、男女間で行われる... 「はい、ここがあなたのベットよ!」 不破の声は、乙女には聞こえないらしい。 確かに、これ程、身体が小さければ、声量もそれに合った大きさしか出ないだろう。 耳を澄まさなければ、聞こえない大きさなのかもしれない。 乙女は、くるみのからで作ったゆりかごを、テーブルの上にコロンと載せて、青いすみれの花びらを敷き布団に、 ばらの花びらを掛け布団にして、その中に、不破の身体を寝かせると、満足気に微笑んだ。 「おやゆびくらいの大きさだから...そう、おやゆびひめ、かしら!」 (や、やめろ...) 花びらのベットの中に寝かされて、不破は目眩を起こしかける。 (そうだ...これは夢だ...夢なら...もう一度、眠って起きれば、醒めるのではないか??) 不破は、そう思いつくと、すぐに目を閉じて眠ろうとした。 「おやすみなさい、私の可愛いおやゆびひめ♪」 (...) 睡魔に襲われると言うよりは、気絶したと言う方が正解だろう。 不破は瞬く間に、意識を手放してしまったのだった。 (ん...此処は...?) 二度目の覚醒。これで、元に戻っただろう。 不破はゆっくりと目を開けると... 「な...に...っ!?」 どっちを向いても、水ばかり。どうやら、川の上に浮かんでいる、大きなすいれんの葉の上にいるようだ。 岸へあがることなんて、とても出来そうもない。 それに、不破は眠る(気を失う?)前に寝かされた、くるみのゆりかごの中にいた。 まだ、夢が覚めていないのか...。 その時、目の前の水面がさざ波立って、何かが顔を覗かせた。 不破にとって、とても大きく感じられる、それは... 「ガック、ガック。(なんて可愛いんだろう!!)」 (ぎゃーっ!!) 不破はあまりの恐ろしさに、悲鳴を飲み込んだ。 目の前に姿を現したのは、ぶよぶよの、醜い大きな『がまがえる』だったのだ。 (しかも...この顔は...鳴海かぁ!!) 不破は、またしても目眩を起こして、気を失いかけた、その時。 「ガック、ガック。(オレのよめさんに、ちょうどいい!!)」 (なんだと...?) 失いかけた意識を、どうにか取り戻し、不破が、がまがえる=鳴海の顔をじっと見る。 すると、がまがえる=鳴海は、でれっとしながら、また汚い声で鳴いた。 「ガック、ガック。(部屋を綺麗にしてくるから、一緒に暮らそう♪)」 そう言って、がまがえる=鳴海は、不破の寝床を担いで、さっさと泳いでいってしまった。 自分の部屋を片付けて、其処に、不破の寝床を置きに行ったらしい。 「そんな...」 唖然とする不破。よりにもよって、鳴海だぞ!鳴海!!...あいつのヨメになるだとぉ!? 只でさえも、不破は鳴海が大嫌いだ。それが、醜いがまがえるに変身して...。 不破は両腕で自分の身体を抱え込む。すると、突然、嗚咽が自分の口から零れてきた。 止めようと思っても、止まらなかった。 とうとう、不破は、両手で顔を覆って、ぐすぐすっと泣きじゃくり始めてしまった。 (夢だ...これは、悪い夢だ...早く醒めてくれ...) 不破が泣きじゃくりながら、必死に祈っていると... 「なーんか、可哀相じゃねーか?おい、どうする?」 「助けて...やってもいいか...?」 「うん!助けてやろーぜぇ!!」 声に驚いて、不破は、覆っていた両手を外すと、ぱっと顔をあげた。 すると其処には、水面からひょこっと、三匹のさかなが顔を覗かせていた。 (さかなって...こいつらは確か...U−14の三人組か...) 不破はがっくりと肩を落とす。 (悪い夢だ...早く、早く...醒めてくれ...頼む...) 「へぇ〜、ホント、可愛いかも!!」 「よし、助けてやろう!」 「うん、賛成!!」 三人は口々にそう言ながら、不破がのっている、大きな葉の下に集まると、すいれんの茎をかみ切った。 ゆらり。大きな葉は、不破をのせたまま、川の流れをゆっくりと下り始めたのだった。 「「「やったぁー!!」」」 さなか=U−14の三人が喜びの声をあげると、それに、がまがえる=鳴海が気が付いた。 慌てて、不破をのせた葉を、猛烈な勢いで追い始めた。 (まずい!このままでは追いつかれる!!) 不破はあたりをきょろきょろ見渡すが、他に逃げる場所がない。 せめて、オール代わりになる物がないかと探したが、適当なものは見つからない。 そのうち、がまがえる=鳴海が、距離を縮めてきて、あと少しで追いつかれる所まで接近してきた。 (どうする!?) 不破は進退窮まった。その時だった。 「おーい!! そんな所でなにしてんだぁ!?」 空から声が降ってきた。見上げれば、白い蝶が、ひらひらと舞いながら、不破の後をついてきたのだ。 今度は、蝶か...あれは...小岩か!? 天の助け! 不破は、咄嗟に大声で、蝶=小岩に叫んだ。 「頼む!助けてくれ!!この葉を、引っぱってくれ!!」 不破は、リボンの帯をといて(「いつの間に、リボンなんて身につけていたのだ?」by.不破の心の声)、 一方の端を、すいれんの葉に、もう一方の端を、舞い降りてきた、蝶=小岩の身体に結びつけた。 「よっしゃぁ! 韋駄天、小岩さまとは、オレのこったい!!」 蝶=小岩は、猛スピードで、葉の船を引っぱっていった。 ぐんぐん加速して、がまがえる=鳴海が追いつけないほど、早く走ったのだった。 そして、がまがえる=鳴海が、見えなくなるまで、遠くへやってくると、蝶=小岩は、安心したのか、 葉の上にひらりと舞い降りてきて、不破の横にぺたりと座り込んだ。 「あーっ!疲れた!!」 蝶=小岩は、大きく深呼吸をした。 「助かった、本当に有り難う。」 不破は心から礼を言った。そして、結びつけていたリボンを外して、蝶=小岩の身体を自由にしてやった。 「おまえ、何処から来たの? すっげぇ〜、可愛いなぁ!!」 (おまえに、可愛いと言われても...) 不破は、またがっくりと肩を落とした。 (いつになったら、この悪夢は覚めるのだ...) しばし、川の上を葉に乗っかりながら、進んでいくと、いつの間にか別な国に来たようだった。 蝶=小岩は、葉の上に寝そべって、眠りこけている。 「此処は...?」 不破が辺りをきょろきょろ見ていると、ふいに身体が軽くなったような気がした。 (???) 何が起きたのか、自分でも一瞬、分からなかった。 下を見ると、すいれんの葉と、それに乗っていた蝶=小岩が、ぐんぐん川を下って小さくなっていく。 こがねむしが飛んできたのだった。 いきなり、不破のほっそりとした身体を前足で掴むと、そのまま木の上に飛んだのだった。 つまり、不破は、こがねむしに拉致されたのだ。 すいれんの葉と、蝶=小岩が見えなくなって、不破は、頭を抱え込んでしまう。 目の前にいる、こがねむしは、 「君って、綺麗な子だねぇ...」 うっとりと、不破の顔を見つめてくる。 (こいつは...関東選抜の須釜だったな...) 「元気になるから、沢山、おあがりよ。」 そういって、こがねむし=須釜は、不破に、花から摂ってきたみつをプレゼントしてきた。 喉が乾いていたので、それを飲むと、甘くて美味しかった。 こがねむし=須釜は、それほど悪い虫でもないらしい。不破に、みつを懸命に運んで来くれる。 そこへ、他のこがねむし達がたくさん飛んできた。 (げっ...こいつらは...) 関東選抜、須釜の取り巻き連中(?)。不破をしばらくの間、じろじろと眺めていた。 「ヘンなやつ。」 幼い顔立ちのこがねむしが言った。 「目つき悪い。」 と、不破と同じく目つきが悪い=吊り目のこがねむしが、そう言った。 「腰も細いなぁ。みっともないぜ。」 がっしりとした身体のこがねむしが、そう言った。 皆に口々にそう言われて、こがねむし=須釜は、ちょっとむっとした顔をした。 こがねむし=須釜は、とても不破を気に入っていたのだ。 それを馬鹿にするような態度を、仲間からされたので、大変気分が悪い。 怒って、不破を連れて、ふいっと、地面の上に降り立った。 「気にしちゃダメだよ、君はとっても綺麗なんだからね!」 後ろから抱きしめられて、頬をすりすりされて...不破の全身は泡立った。 こがねむしに、こんなコトされて、嬉しいわけないだろうがぁ!! 半泣き状態の不破。だが、こがねむし=須釜は、お構いなしだ。 (頼むから...もう、覚めてくれ...) がさがさっ!! 前方から、大きな音が聞こえた。草むらをかき分けてくる音だ。 そして、茂みから現れる大きな黒い瞳。 「うわぁっ!やばい!! じゃあ、またね!!」 こがねむし=須釜は、そう言うと、空高く飛んでいってしまった。 不破は、目の前に現れた、巨大の瞳の持ち主をじっと見つめた。 すると、 「あらっ?また、彼に逃げられちゃったわ。とても気に入っているのに...おや、あなたは誰?」 不破に気がついた。真っ黒い瞳の...それは、のねずみだった。 (疲れる...) 不破は、げんなりとした。それもそのはず、のねずみは...西園寺監督だったからだ。 「あら、あなたもなかなか良い顔してるわねぇ...」 と、にっこりと微笑みかけてくる。 (こいつが、この笑顔をする時は...何かしら、企んでいる時だったな。) 近頃、選抜での練習も慣れたきた不破である。 監督も不破の性格を理解してきたとの同じく、不破も監督の考えが分かるようになっていた。 (とても...嫌な予感がする...) だが、もう此処までくれば...どうでも良いような気がする。 この先、夢が覚めなければ、悪い事ばかり続くのだろうから。 「ねぇ、ちょっとウチに来ない?」 のねずみ=西園寺監督は、優しく手招きをする。 不破は、もうどうだっていい、と思っていたので、そのまま、のねずみ=西園寺監督に従った。 不破が連れてこられた其処は、麦の切り株の下にある、小さな家だった。 けれど家の中は、麦がいっぱい入った蔵もあれば、立派な台所もあって、なかなか良い暮らしをしているようだった。 不破が通されたリビングには、すでに先客が座っていた。 客といっても、のねずみではない。丸くて大きくて、黒くて...もぐらだった。 のねずみ=西園寺監督は、もぐらは、隣に住む親類だと紹介してくれた。 そして、このもぐらは、お金持ちで、物知りだと教えてくれた。 しかし... もぐらが、不破をみてにやりと笑った。 (...間宮か...) 不破の背筋が凍り付いた。 「あなたが、このもぐらさんのおヨメさんになれば、食べることには困らないのよ。」 (なに...っ!?) またしても、ヨメ話。今度は、もぐら=間宮、か。不破は、また気を失いそうになるが、もぐら=間宮の笑い顔に 言い知れぬ恐怖感を感じて、どうにか意識を取り戻した。 「それじゃあ、お嫁入りは明後日にしよう。」 「はっ?」 目をぱちくりする不破。もぐら=間宮は、にたにた笑って満足そうに、 「気に入ったから、結婚しよう♪」 と、不破の耳元で囁いた。不破は、それを聞いて、今度こそ、完全に意識を手放してしまったのだった。 「う...ん...」 どれくらい意識を失っていたのだろうか? それとも、今度こそ、元に戻ったのだろうか? 暗闇で目をぱちぱちしながら、不破は辺りを確認する。暗い、洞窟のようだった。不破は大きな溜息を吐いた。 起きあがって、灯りが漏れてくる扉に、耳をあてると、向こう側から、のねずみ=西園寺監督と、もぐら=間宮の話し声が聞こえてきた。 逃げ出さないように、閉じこめられたのだ。 全然、夢から覚めていない。 不破はがっくりと肩を落として、そのまま壁にずるずると背中を擦り付けて、地面へぺたりと座り込んだ。 再び大きな溜息を吐くと、洞窟の天井から光が射し込んでいるのに気がついた。 すると、洞窟の奥の方に、何か大きなものが転がっているのが、微かに見えた。 目を凝らしてそれを確認する。なんだろう?とても、大きいもののようだが...。 不破の身体は、おやゆびくらい、つまり3cmくらいだろうか。 とにかく小さいから、元の大きさに戻れば何て事はないものでも、今の大きさからすると、とても恐怖に感じられるのだ。 それは、とても大きく感じられて、不破はとても怖くなった。 けれども、勇気を出して、それに近づいてみた。大きな黒い山。 表面は...羽? そう、大きな、大きな鳥だった。いや、大きくはない。その鳥は、つばめなのだから。 元の大きさに戻れば、全然怖くない。しかし、今の不破にとっては、つばめは大きな鳥なのだ。 おそるおそる、顔を覗き込む。けれど、暗闇でよく見えない。 死んでいるのか? 不破がじっと、つばめを見ていると、太陽が動いたらしく、差し込む光の位置が変わって、つばめの顔がよく見えるようになった。 (こいつは...) 気がついた途端、不破は、思いっきり、そいつを蹴飛ばした。 「死んだフリするな! 起きろ!! 風祭!!」 つばめ=風祭は、不破に蹴飛ばされた衝撃で、驚いて、羽をぱたぱた動かした。 「うわぁ! びっくりした! 誰!?」 いい気持ちで寝ていたらしい、つばめ=風祭。両方の羽で目をこしこし擦っている。 どうやら、天井から入り込んで、そのまま越冬したようだ。 不破が両腕を組んで、その様子を伺っていると、つばめ=風祭は、不破がいることに、ようやく気がついた。 「あれっ、きみは...うわぁ、可愛いなぁ...」 途端に、ぽっと頬を赤らめる、つばめ=風祭。 (おまえにまで、言われたくないゾ!!) 不破は口に出さなかったが、人知れず、胸中で握り拳を握りしめたのだった。 「おい、おまえ、空を飛べるな。」 「へっ?それは飛べるけど...」 「では、あの天井から飛び出すことは可能だな。よし、すぐに此処から脱出しよう。」 「脱出!? ちょっと、待ってよ!」 「なんだ?」 「まだ、冬だよ。ボクは春にならないと、空を飛べないよ!」 どかっ! 不破が、つばめ=風祭を蹴飛ばした。 「いったい〜!! 何で、蹴るの!?」 「今は冬ではない! とっくに旅立つ季節になっているぞ! いい加減、起きろ! 貴様は!!」 「へっ?そうなの?もう、春になっちゃったの!? それは、大変だ!!」 つばめ=風祭は、慌てて毛繕いを始める。冬籠もりにしては、エラク長く眠っていたようだ。 外の気候は、多分、初夏であろう。そうだ、チューリップが咲くくらいなのだから。 「よし! じゃあ、此処から出よう!」 つばめ=風祭は、背中に不破を乗せると、不破はリボンの帯を、互いの身体にしっかりと結びつけた。 どんなに早く飛んでも、振り落とされないようにするためだ。 「さぁ! 出発だ! しっかり捕まっててね!!」 つばめ=風祭は、空高く、飛び上がった。 森を越え、海を越えて、どこまでも飛んでいった。そして、とうとう暖かい国へと辿り着いた。 美しい緑の森に囲まれた青い湖のほとりに、真っ白い大理石の御殿が建っていて、その柱の上の方に、 つばめの巣が沢山あるようだ。 他のつばめ達が飛び交う中、つばめ=風祭は、不破に言った。 「これが、ボクのウチだよ。下の方に咲いている花の中から、きみが好きな花を一つ選んで下さいな!」 「えっ?」 「そこへ連れていってあげるよ!きっと、幸せに暮らすことができるから!」 「なに?」 つばめ=風祭は旋回して、不破が答えるのを待った。 不破は、何の事だか分からずに、けれども、このまま背中にのっているワケにもいかないので、どれか選ぶことにした。 土の上に大きな大理石の柱が割れていて、その割れ目に、一番綺麗で白い花が沢山咲いているのに気がついた。 不破は、その花を選ぶと、つばめ=風祭に、その花の上に連れていった貰った。 「!?」 花に近づいてみると、不破と同じ大きさの人が、花の上に立っていた。 頭には、金の冠をかぶり、肩には翼を生やしている。よく見ると、他の花にも、不破と同じ大きさの人が沢山いるのが見えた。 不破が呆気にとられていると、つばめ=風祭は、くすくす笑い出した。 「さすが、目がいいんだね!!」 「おい! あれは何だ!?」 「あの人達、冠をかぶった人達は、花の国の王子様たちだよ!」 「おうじさま〜っ!?」 「そう! けど、ちょっと複雑な事情があってね、一人じゃないんだよ!!」 「...何人くらいいいるんだ?」 「そうだね...5,6人は...いるかな?後は、王子様の家来の天使たちだよ!!」 つばめ=風祭は、もう一度旋回して、降りようとする。 「ねぇ、何処がいい?」 「何処って...降りてどうする?」 「結婚するんだよ!」 「なっに〜!?」 「こーんな可愛い人、王子様たちが放っとくワケないでしょ!? それに、その方が幸せになれるって!!」 「ちょっと、待て!! オレは男なんだぞ!!」 「花の天使は、そんなこと関係ないんだよ!」 「...」 「ねぇ〜、ホントに、何処にする? 選り取りみどりってヤツだね!!」 「...」 「もう! 決まんないんだったら、ボクが勝手に決めちゃうからね!!」 つばめ=風祭は、勢い良く、急降下を始めた。 (頼む...本当に、もう...覚めてくれ...) 掠れていく意識の中、不破は花の上に立つ『王子様』の集団の顔を確認していく。 (あれは、水野...藤代...天城...三上に...それから...シゲ...) 揃いも揃った面子に、不破は本当に意識が無くなりそうだった。 「ねぇ〜!! テキトーに降りちゃってもいい?」 「いやだ...。」 「もう! 我が儘だな! ぜーたくだよ、きみ!!」 「...」 (何故、おまえに怒られなければならんのだ?) 不破は考え込んだ。すると不破の瞳は、一つだけ、花の天使がいない花を、目敏く見つけた。 「おい! 彼処だ!!」 「えっ!? 彼処!? 誰もいないよ!?」 「だから、良いのだ!! 誰もいないから、彼処で良い!!」 不破が指さした花には、確かに誰もいる気配がない。 つばめ=風祭は、しずかに、その花の上に、不破をのせてくれた。 「ホントに、此処でいいの? 誰もいないよ!」 「あぁ! その方が都合が良い。これで安心だ...」 「もう、せっかく、花の王女さまになれたのに...」 「オレは男だと言っているだろう!?」 「けどさ...」 つばめ=風祭は、ぶつぶつと文句を言っていたが、そのうち、「じゃあ、元気でね!」と言って、空高く舞い上がった。 取り残された不破は、ほっとしながら、辺りを見渡す。 どうやら、先程の『王子様たち』の群れから、此処は離れたところらしい。 しかし、花の上から飛び立つ天使達の姿が見えた。こちらに向かってくる。 さて、どうしたものか... 不破は腕を組んで、座り込んだ。 このまま、誰かのヨメになど...考えたくもない。 それでも、『がまがえる』や『もぐら』よりはマシだが...。 しかし、どうする? そもそも、これは...夢のはずなのだが...どうして覚めないのだ? 不破は首を傾げる。そうしているうちに、次第に、飛んでくる天使達の数が増えてきた。 考えあぐねていると... 「ん?」 不破が座り込んでいる花の花弁が動いた。 (下に何か、いる!?) そう、思ったのも束の間だった。 不破の細い腰は、あっという間に捕らえられてしまったのだ。 「捕まえた♪」 「!?」 花弁の下から、一人の天使が起きあがった。 彼の両腕にはしっかり、自分の腰が抱きかかえられている。 「私のきさきになって下さい。そうしたら、花の王女にしてあげましょう!」 「ふざけるな〜!!」 不破のパンチが彼の顔に飛んだが、彼はびくともしない。 華奢な不破の腕では、『象』とあだ名される彼には通用しないのだ。 (『象』のくせに、なんで『王子様』なんだよ、おまえはっ...渋沢ぁ!!) 懸命に不破は、王子様=渋沢から離れようと藻掻くが、かえって、彼に押さえこまれてしまった。 「どうか、結婚して下さい!」 「イヤだ!!」 「う〜む、手強い...では、仕方ない、こうなったら、とりあえず『既成事実』を...」 「い、いやぁ! やめろ! 離せぇ!!...あっ...いやぁ...よせっ...あっ...ん...い、いやだぁっ!!」 こんなに手の早いヤツだったのか? 渋沢、おまえというヤツは... 不破の抵抗も虚しく、あっという間に、不破の身体は渋沢の下に組み敷かれてしまう。 「あっ...いやぁ...やめろ...ん...」 渋沢はしっかり、不破の弱いところを攻めてくる。 (...って、どうしてオレの弱いところ、知っているのだ、おまえはぁ!?) 身を捩って不破が逃げようとするが、瞬く間に封じ込まれて...もはや万事休す!? ついに、不破大地、貞操の危機かっ!? 「なに、一人でええことやっとんじゃあ! このボケがぁっ!!」 どかっ!! 関西弁の絶叫と、鈍い衝撃音が聞こえたのと同時に、不破の身体は解放された。 「大丈夫かいな?」 もう一人の王子様=シゲに、優しく抱きかかえられて、不破は延びている渋沢に気がつく。 「もう、安心しぃや、な? オレやったら、こないに...がっついとらんから...」 そう言いながらも、しっかり、不破の胸元に指を滑らせてくる。 「あっ! いやぁ...っ!」 腕を突っ張らせて、不破の身体が仰け反るが、シゲの腕からは逃げられない。 「いやだぁ...ん...っ!」 不破の瞳から涙が滲んだ。 「おまえも同じじゃないかよ!!」 シゲの背中に、しっかりケリがヒットした。 痛がるシゲからどうにか解放されて、不破はようやく辺りを見渡す。 見れば、不破のいる花のまわりには、大勢の天使達が飛んできていた。 「大丈夫? ねぇ、きみ!」 王子様=水野が、不破に近づいてきた。 「てめぇ! そうはいかないぜ!」 王子様=三上が、水野を制する。 「なんだよ! 邪魔だよ!!」 「おめぇこそ!」 言い合いする二人を後目に、 「わーい! ホント、可愛いなぁ〜!!」 王子様=藤代が、飛んでくる。 ぎょっとする不破。すると、 「そうはいかないゾ。」 延びていたハズの渋沢が、がばっと起き上がって、その腕を掴んだ。 そのまま不破を連れて逃げようとする。 「おい!こら!ちょい待ち!!」 シゲも負けていない。 二人から両腕を掴まれるような格好になって、不破は咄嗟に暴れ出す。 (じょーだんではないぞ!) このままでは、本当に誰かに...やられてしまう!? 不破は必死に彼らの手を振りきった。 その時 「あっ!?」 不破の身体が宙に舞った。 (しまった...此処は花の上だった...) もみ合った挙げ句、とうとう、不破の身体は、花の上から落ちてしまったのだ。 この高さから落ちるということは、小さな身体では、高層ビルから飛び降りたと同じ事。 ゆっくりとスローモーションのように、地面が近づいてくる。 (叩きつけられる!もう...ダメだ!!) 不破はぎゅっと目を瞑った。 次の瞬間 どたっ! 後頭部と背中への強い衝撃と、激突音。 声も出せずに、顔を歪めた。 「不破くん! 大丈夫!? ねぇ! しっかりして!!」 身体を揺さぶられて、不破は、ゆっくりと目を開けた。 「不破くん!?」 不破の視界に飛び込んできたのは... 「つばめ。」 「へっ?」 風祭の大きな瞳が心配そうに、くるくる動く。 「ど、どうしたの? ねぇ...不破くん...大丈夫!?」 不破は黙って、じっと風祭の顔を見つめている。 「おい?大丈夫か?不破?」 風祭の後ろから、覗き込んだ顔。不破は、ぴくりと眉を動かした。 「花の王子様。」 「はぁっ!?」 水野が呆気にとられている。 「おい...どうした?...頭でも打ったんじゃないのか!?」 不破の周りが騒然としてくる。そのざわめきに反応して、不破はがばっと上半身を起こした。 首を左右に回して、自分を取り囲む人達の顔を順々に見渡していく。 「おいおい、どうしたんだよ?マジに頭、打っちまったんじゃねーのか?」 覗き込む群衆の中、一際、頭のでかい(?)鳴海が、ひょいっと顔を見せた。 不破は鳴海を見ると、途端に身体を震わせて、口唇をぎゅっと噛み締める。 その様子に、鳴海が「なんだよ!」とふれくされていると、鳴海の後ろから、間宮が顔を覗かせて、にたりと笑った。 不破は、大きく息を呑んで、口元に両手をあてがった。まるで、悲鳴を押え込むかのような仕草だった。 「不破、どーしたの? ねぇ?」 藤代も心配そうに、顔を覗き込んできた。 「医務室に行った方がいいんじゃないか? 不破?」 不破の傍らにしゃがみこんでいた水野が、不破にそっと話しかけた。 「そうだね、それが良いかも...不破くん、連れていってあげるよ!」 水野と同じく不破の横に陣取っている風祭が、そう言った。 けれど、不破は口を押さえたまま、身体を震わせて、何も喋らない。 ただ、ひたすら...見に見えない恐怖に耐えているかのようだった。 「不破くん! どうしたんだ!!」 大きな声をあげながら、群がる群集をかき分けて近づいてきたのは、都選抜の守護神。 愛しい彼が倒れたと聞いて、監督の元から猛然と駆けつけてきたのだった。 「おい! 不破! 大丈夫かいな? ホンマ、どないしたんや、この騒ぎは!?」 渋沢が来るのと同時だった。 同じく、人込みを掻き分けて、一際目立つ金色の髪が、不破の目の中に飛び込んできた。 絶叫。 驚愕。 眦が裂けんばかりに見開かれた不破の瞳は、恐怖に怯えている。 身体は、がくがくと震えだし、頭を左右に激しく振った。 凄まじいほどの...拒絶反応。 さすがに、これには、渋沢もシゲも、愕いて声が出せない。 それは、不破を取り囲んでいる連中も、遠くから、その様子を伺っている連中も同じだった。 奇妙な沈黙が流れて、さて、これからどうなるのかと、一同、固唾を飲んで不破を見守っている時だった。 「不破くん、もう大丈夫だよ、もう、元に戻ったから、ねっ!」 「!?」 いつの間にか、不破の近くまで来ていた、杉原がひょこっと顔を見せて、話しかけた。 「此処は、トレセンの、食堂、兼、談話室! 不破くんは、ボクが貸した本を読んでいるうちに、居眠りしちゃったんだよね。」 「...」 「居眠りしているうちに、身体のバランス崩して、イスから思いっきり転落! 物凄い音がして、みんなの注目を浴びちゃっているだけなんだよ!」 「...」 「だから...もう大丈夫だよ、心配しなくていいんだよ...元に戻ったんだから!」 さらに、杉原は、不破ににこっと笑いかけた。 「...ものすっごく、悪い夢、見ちゃったんだね?」 「!?」 杉原は、片手に持った本を、不破の前にひらひらを見せる。 「これのせいだね?」 小さな文庫本だった。タイトルがよく読み取れない。 「夢、覚めたから、もう大丈夫!」 杉原に念を押されて、ようやく、強ばった不破の身体が、ぐったりと緩んだ。 夢...とても、長かった夢...悪夢... そうだ、早く覚めてくれと、必死に祈っていた 祈っていたのに、なかなか覚めてくれなくて... 最後はとても恐ろしくて... ようやく、それから目覚めたのだ。 元に戻ったのだ。怯えることはない。 もう大丈夫...恐くない... いつもの...自分...いつもの世界。 「うっ...く...」 溢れ零れ落ちる、大粒の涙。 不破の瞳から、頬へと伝い落ちる。 口元を押え込んで、肩を震わさせる。 恐怖からではない。 ようやく安心出来たのだ。 そう、これは安堵の涙。 「よかっ..た...ひっく...」 泣きじゃくる不破。 涙は止まることなく溢れ続け、頬は真っ赤に染まっている。 ズギューン!! この場に居合わせた連中の心臓が、不破の涙に打ち抜かれた。 室内を信じられないほどの衝撃波が駆け抜ける。 一同、ひたすら、息を呑み込み、不破を見つめる。 ...超絶...か...可愛い....っ !!! 普通だったら、「たかが夢くらいで大騒ぎすんじゃねーよ!」と笑われて終わるところが、不破の場合はそうではなかった。 悪い夢を見て怯えて、でも、それから覚めてほっとして...泣きじゃくる不破の...溢れ零れる涙の、なんと、奇麗なことかっ! 目の当たりに、不破の可愛らしさを見てしまった一同は、微動だに出来ずに、只ひたすら、不破を見つめるだけだ。 すると、不破が、すっと立ち上がった。 まだ目から涙が溢れているが、それを両手の甲で、ごしごし拭うと、 「騒がせて...済まなかった...ぐしっ...」 それだけ、ようやく喋ると、自分を取り囲んでいた群集をかき分けて、不破は猛然とダッシュして、部屋から出ていった。 誰も何も言わない。 呆然と、不破が走り去るのを、黙って見送ってしまった。 しかし この状況に、とっても強かったのは...小さな身体の持ち主だった。 「不破くん!! 待って!!」 風祭はそう叫ぶと、不破の後を追いかけるように、部屋から出ていった。 それが、合図だった。 「不破っ!?」 「不破くんっ!?」 口々に不破の名前を呼んで、一陣の強風が部屋の中を吹きぬけていった。 「...すっごいねぇ...」 「あ...あぁ...」 都選抜のメンバーだけではなかった。 シゲの属する関西選抜、須釜率いる関東選抜...その他、もろもろ。 先程まで、談笑して賑やかだった室内は、ほとんどもぬけのカラ状態になった。 その中、意外と此処に残ったのは...杉原と小岩の二人。残りは、不破の騒ぎがよく見えなかった数名の連中。 「今回も...物凄く大変そうだね、不破くん...」 「あぁ、去年の夏だって、水面下で、すっげぇー騒ぎだったんだろ?」 「うん、でも、此処まで凄くなかったねぇ。なんて言うか...不破くん、パワーアップしてない?」 「う〜ん...」 杉原も小岩も、普段から不破と接する機会があるから、正直言って、これくらいでは騒がない。 けれど、他の連中は違う。改めて、不破の可愛いらしさを目の当たりに見てしまって、にわかファン集結である。 いつも不破と一緒にいる桜上水の面々は...かなり、切羽詰まったようだ。武蔵野森も、同様ってところだろう。 不破に群がる連中の集結に、神経尖らせるのも、無理はない。 「後から出てきた連中に、盗られちゃったら、悔しいもんねぇ。」 「そーだよな、うんうん。」 「で、小岩くんはいーの?」 「オレ? そーだなぁ...オレはダチでじゅーぶんかな?タッキーは?」 「う〜ん...ボクは...」 杉原は顎に手を当てて、ちょっと考え込む。 その杉原のひざに、さきほどの本が乗っかっているのに、小岩が気が付いた。 「その本、何?」 「ん?」 「不破に貸して...読ませた本って...」 「あ、あぁ、これ? 面白いんだよ! アンデルセン童話の裏話が書いてあってね...」 「裏話ぃ〜っ!?」 「そっ!楽しいーよっ! 特に『おやゆび姫』は、最高!!」 「...何だよ、それ...」 杉原は、ふふっと含み笑いをして、不破が出ていったドアを見た。 不破くん、今頃、どうしてるだろう?...どうなってるだろう? とてもとても大変なことになってるんだろうなぁ...可哀相に...くすくす... 渋沢さんと...あの金髪の人が、かなり頑張ってるみたいだから、カザくんや水野くんも大変だねぇ。 スガさん、なんて強敵も出てきたみたいだし。けど、鳴海は、やっぱり嫌われてるみたいだねぇ。 杉原は笑いが堪えられない。その杉原をみて、小岩がぶるっと背中を凍りつかせる。 トレセン初日。 大変な幕開けであった。 FIN ☆ ―――――――――― ☆ あとがき(っていうか、言い訳!?) 咄嗟に思い付いて仕上げてしまったので、いやはや、偽者の不破になってしまいました。 渋沢、シゲ以上に狡賢いかも!? とってつけたような、王子様の集団。支離滅裂でした(滝汗)。 『ちび不破』をお題にしたのですが、どこが小さいんだか!? おやゆび姫が生まれる『種』を渡す魔法使いは、杉原を設定してたのですが、そこまで書き込めませんでした。 でもって、『つばめの犠牲愛』についても描きたかったんですけどね...力尽きてしまいました。 ちなみに、部屋から逃げた不破を追いかけてのエピソードは...お恥ずかしながら、此方からどうぞ(苦笑)。 (→此処をクリック) ☆ ―――――――――― ☆ |