元気がくたくた




「大ちゃん、今日は何処にも出掛けないの?」

珍しくリビングで寝転んでいる愛息に、キッチンからほんわかと話しかけてくる母親。

「そう言う、乙女も、今日は仕事は休みなのか?」

ニュース番組をぼんやり眺めていた視線を母親へと向ければ、其処には見慣れた、ほぇほぇした笑顔。
とても、NASAの宇宙食開発チームでバリバリ働いている女性には見えない。全くのアホ面だ。
でも、この笑顔に、この雰囲気に、不破大地は、めっきり弱い。

出来の悪い母親ほど、出来の良い息子にとっては、可愛いくて仕方ないらしい。
否!、父性本能というか、男の性というべきか、とにかく庇ってしまいたくなるようだ。

「日曜日だもの、お休みしたのぉ〜。」
「...」
「大ちゃんは? 今日は風祭くんと練習しないの? 水野くんと勉強は? 佐藤くんとは?」
「...」
「渋沢さんは? 三上さんは? 藤代くんは? 大ちゃん、お友達たくさんいるから、大変よねぇ。」
「...」

ソファに寝そべる愛息のそばにしゃがみ込んで、ひょろ〜んと笑う乙女。
不破の鋭い眼差しも、乙女といると、いつもの輝きが無くなるとうか...単に呆れているだけにも見える。

しかし、近頃の不破ファン(?)も、彼が如何に母親の乙女に弱いのか理解してきたようで、 『将を射んとすれば、まず馬を射よ』如く、彼女にやたらと接近しているらしい。 その証拠に、彼らの名前を次から次へと喋るのだから、これはかなりなものかもしれない。

不破は軽く溜息を吐くと、「今日は何処へも出掛けない。家にいる。」と答えた。
其れを聞いた乙女は、「ふ〜ん、じゃあ、これ、お願いね。」と、愛息に四角い箱を手渡した。

「???」

手渡された其れは、じいさんが酒を飲むときに愛用している『升』だった。
その中に、じゃらじゃらと入っているもの。

「豆?」
「そっ!今日は節分でぇ〜っす!!」
「...」
「大ちゃん、それ、まいてねぇ〜!!」
「オレが、か?」
「そっ!小さい頃、やってくれたでしょ?忘れちゃった?」
「...」

確かにやった記憶はあるが、何故、今頃、こんな事をさせるのか?
不破がじっと乙女の顔を見ていると、乙女は、またほぇほぇと笑い出した。

「近頃、大ちゃんに近づく人が多くなっちゃったからねぇ。」
「...」
「そろそろ、厄はらいしておかないと...ね!」
「ふむ。」

寝ぞべっていた身体を起こして、不破が手にした升をじゃらじゃらさせていると、

「おい、乙女、茶!!」

庭先から、じいさんが家の中に声をかけた。何やら、発明品の実験をしているようだ。

「『鬼は外』!!」
「おわぁっ!! 何をする! 大地!!」

窓からひょっこり家の中を覗き込んだ、じいさんの顔めがけて、豆を投げつける。そして。

「『福はウチ』」

家の中に数粒、乙女に向かって投げてやる。きょとんとする乙女。

「大地! ワシは『鬼』かぁ!?」
「いや、『怨霊退散』と言うべきか?」
「なんじゃとぉ〜!!」
「...茶ぐらい、自分で煎れろ、ボケるぞ。」

不破はソファーから立ち上がって、玄関へと歩いていく。

「大ちゃん?」

その後ろを、乙女がひょこひょことついてきた。すると。

「ただいま。」

タイミング良く、玄関を開けて、父親の大陸が帰宅した。

「『鬼は外』!!」
「おわぁっ!! 何だ! いきなり!!」

これまた、父親に向かって、思いっきり豆を投げつける。そして。

「『福はウチ』」

もう一度、家の中に数粒、乙女に向かって投げてやる。

「おれが『鬼』で、乙女は『福』なのか!?」
「当然であろう? 『諸悪の根元』の貴様が、何を今更。」
「何!?」
「じいさん共々、不破家の財産、食い潰しているおまえには『悪魔祓い』が必要であろう。」

不破はくるりと踵を返すと、別な部屋の窓を開けて、「『鬼は外』『福はウチ』」と、繰り返した。

「三回くらいやれば良いか? 乙女?」
「うん! ありがとうね、大ちゃん!!」

乙女に升を返してやると、彼女は「お豆、拾って、年のカズだけ食べなくちゃ。」と、 愛息がばらまいた豆をその中に拾い上げようとする。

「おい、それは止めておけ。」
「なんで?」
「...ウチの衛生状態はきわめて良くない。食べるのは、まいていないものだけにしろ。」
「まいちゃったの、どうするの?」
「あとで、オレが掃除しておいてやるから、心配するな。」

「まったく、近頃、めっきり乙女に甘いぞ、大地。」

二人の会話を聞いていた、じいさんと大陸は、やや呆れ顔で此方を見ていた。すると。

「あらっ? お二人とも、やきもちかしら?」

と、乙女が、またしても、ほぇほぇと笑い出す。がっくりと肩を落とす、じいさんと大陸。
不破家の男性陣は、乙女には、めっぽう弱いようである。

「あっ...お夕飯、作らなきゃ。」

乙女がぱたぱたとキッチンへと入っていくので、不破はその後を慌ててついていった。

「オレが作ってやる。」
「えっ? 何で?」
「乙女の料理より、オレの方がまだマシであろう?」
「う〜ん、そうねぇ...こんな時、渋沢さんみたいな人がいるといいわよねぇ。」
「渋沢?」
「うん! 渋沢さんみたいな『おヨメさん』来てくれないかしら?」
「!?」

「それはムリだろう!」

驚いている不破の後ろで、大陸が冷蔵庫からミネラルウォーターを出しながら、口を挟んできた。

「何で?」

目をぱちくりさせる乙女に大陸は、「あれは、大地を『ヨメ』に欲しいと考えているヤツだぞ?」と事も無げに言った。

「あらっ? そうなんですか?」
「乙女、おまえは母親のくせに気がつかなかったのか? 他の連中も似たようなものだぞ?」
「あらあら、それは大変だわ! 可愛いおヨメさんが欲しかったんだけど..でも、大ちゃんが選ぶ人なら、きっと大丈夫よね!」
「男、でもか? しかも、ヨメに来るのではなく、ヨメに欲しがっているのだゾ?」
「う〜ん、でも、大ちゃんが選ぶなら仕方ないから...」

「だが、どうせならば、乙女のような性格でなければ、な。」

乙女と大陸の会話に、今度はじいさんが口を挟んできた。

「あらっ? どうしてです?」
「不破の家風に合わんゾ。」
「家風ですか?」
「と言うよりは、ワシも大陸も、それから大地も、乙女のような人間でなれば、きっと一緒に生活できないゾ。」
「そうかしら?」
「第一、息子というものは、どんなに反発しても、結局は、自分の母親によく似た相手を選ぶもんじゃ。」
「ええっ! そうなんですかぁ!?」

「それは、大変だ。」

大陸が呟いた。

「今、付き合っている連中には、乙女のような性格の持ち主はいないと見たゾ。」
「そうですねぇ...困りましたねぇ。」

乙女は他人事のように、ほんわか喋っている。

「他にいないのか? 大地?」

じいさんが、自分で煎れた茶を啜りながら、孫の背中に問いかける。
だが、愛孫は、黙々と夕飯の支度をしている。

「イメージ的には、やはり渋沢くんか?」
「いや、あのちっこい風祭とやらも、乙女のように、そそっかしいところがあるゾ。」
「脳天気、という意味では、藤代くんも、なかなか...」
「あらあら、お二人とも...わたし的には、三上くんが好みなんですけど...」

「おい。」

怒気を孕んだ瞳で不破が、ついに振り返った。右手には包丁。ちょっと怖いかも...。

「くだらない事をいつまでも、ぐだぐたを喋っているな。メシを作ってやらんぞ。」
「「「...」」」

さすがに三人は黙り込んだが、こういった状況でも、乙女は強い(?)。

「じゃあ、そーいう人、見つけたら、是非、おウチに連れてきてね!」
「それは、乙女に似たようなヤツ、という意味か?」
「そうそう。」
「...わかった、見つけたら、すぐに連れてきてやる。」

何故、その時、そのような約束をしてしまったのか?
不破自身、その理由が見つからなかったが...乙女に弱いとすれば、これは仕方のない約束だったのだろう。


数週間後、不破は都選抜へ復帰した。
その後、目まぐるしい日々を送り、ついにトレセンへと赴いた。

そして。

見つけてしまった。というよりは、すでに一度、会ったことのあるヤツだった。
そうか、乙女とすんなり約束したのは、彼のことを思い出していたからだ。

なるほど。

不破は手をポンと打った。

そして。

「須釜。」
「うん? なぁに〜?」

身長同様、ひょろ〜んとした返事が返ってきた。

「これが終わったら、ウチに来てもらえないだろうか?」
「えっ?...不破くんのおウチへ!?」
「あぁ、オレの母親に逢わせたい。」
「ええっ!? それって...」
「迷惑か?」
「とんでもない!!やはり、きちんとお付き合いするには、お母様の了承を得ませんと!ねぇ♪」
「???」

思いっきり須釜に誤解されている不破。
単に乙女との約束を果たそうとしているだけなのだが...。
何処か焦点がずれている。

須釜は、突然の不破からの告白(?)に、それはそれはご機嫌で、乙女によく似た、ほぇほぇ笑顔で笑っている。

二人の周囲では...唖然として、声もでない。硬直しまくりである。息を呑んで...睨み付けている。


争奪戦に、また一人...強敵が加わってしまったようだから。





おしまい(なんだ、これは...)



☆ ―――――――――― ☆


あとがき

節分、豆まき! 数年ぶりにやりました。(ウチのじいばあは、毎年やってますけど。)
3回やるのが、ウチの地方の風習みたいですが...不思議なもんだと思いました。
で、ついつい、豆まきを不破にやらせてみたくなって、こんなものを書いてしまいました。
そうです!単に不破が、じいさんと父親にぶつけて遊んでいるところが書きたかっただけでした!
でも、それが、どーしてこうなるのか? 須釜ファンには申し訳ないです!! ごめんなさい!!

乙女と愛息の会話には、自分の儚い理想の、親子の姿を見ておりまして...(汗)。 こーいう息子がいたらなぁと...じいさんと大陸にも同じように、理想の家族ってこんなカンジって、どんなカンジだ!?

しかしながら、自分は絶対違うゾ!と思っていても、娘は父親に、息子は母親に、よく似た相手を見つけてしまうようです。 不思議ですねぇ〜、結婚した時は違っていても、数年たつと、いつのまにか、あれっ?ってことになっているらしい(友人談)。 そんなもんか?...きっと、そんなもんでしょう!! (嫌だけど...)

本気(マジ)に、くだらないものを書いてしまいました(反省)...もう、寝ます。12時過ぎて、節分、終わっちゃたし。
明日は、会社です。居眠りしたりして。でも、そんなことすると、『寝る子は働く!』と、からかわれます(爆)。


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