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ねぇねぇ、あそぼうよ! いっしょに...さっかーしようよ!! ぱちりと目を開ければ、視界一面に広がる『蒼』。 その中心に、小さな笑顔がちょこんと見えた。 見たことのない笑顔だった。 誰だろう? 小さな子供のようだが... しばらく、じっとその子供の顔を見ていると、また、その子供は笑った。 あどけない少年の笑顔だった。 思わず、目をごしごし擦って、もう一度、確認する。 その子供の笑顔は、視界から消えなかった。 「ねぇ、あそぼ!」 可愛いらしい声だった。少年特有のカン高い声だった。 (誰だ? この子供は? 全く見覚えがないのだが...) 不破大地は、首を捻って考える。 すると、その子供は、「ねぇ!おきてよ!」、そう言って、不破の身体を引っぱり起こした。 「ん?」 不破は目をぱちぱちさせて驚いた。 それもそのはず。その子供に、軽々と自分の身体を起こされたのだから。 こんな小さな子供に、中学生の自分が... 「ねぇ!さっかーしよう!」 身体を起こされて、不破は、その子供と正面から向き合った。 一面に広がっていた『蒼』は上半分になって、残りの半分は『緑』になった。 彼は、その真ん中で、にこにこ笑っている。 その笑顔と自分の視点が同じ高さにあることに、不破は気が付いた。 そして、彼に掴まれた自分の腕を見る。 小さい... 彼の手と自分の手に、大した違いがない。つまり、同じ大きさ。か細い、子供の腕。 思わず自分の全身を見渡して、確認してみる。腕だけでない、足も細くて短くて、履いているクツも... 「ん?」 不破は自分が着ている服に、気が付いた。 何を着ているのだ?見覚えあるようだが... しばらく考えて、ふと、不破の腕を掴んでいる少年の服装に目を向けた。 同じ服を着ていた。 そう、これは、幼稚園の『うわっぱり』。 不破は咄嗟に辺りをきょろきょろと見渡した。 見覚えのある風景だった。綺麗なピンク色した壁の建物。ブランコ。滑り台。色とりどりの遊具。 (此処は、確か...幼稚園だったな...) 幼い頃、自分が通った、幼稚園の園庭だった。 綺麗な芝生の『緑』、綺麗な『蒼』い空が、目に眩しい。 数名の園児達が、楽しそうに遊んでいる姿が見える。 どうして、自分は此処にいるのだろう? 「ふむ?」 不破は首を捻った。 混乱している自分の頭の中を整理しようと、フル回転させる。 「ねぇねぇってば!!」 目の前の少年が、また不破の腕を引っぱっるので、不破の考察は中断させられてしまった。 「さっかーやりたい! やろう!!」 彼の腕の力は意外と強くて、不破を強引に立ち上がらせると、ずるずると引っぱっていった。 引っぱられるまま、不破は中断していた考察をまた始める。 そうだ...練習中だった。 不破は思いだした。いつもの部活。いつもの練習。 そして今は...休憩中だった。 ようやく其処まで思い出したが、不破の考察はまたそこで中断させられた。 引っぱられている途中、幼稚園の建物の窓ガラスに映る自分の姿に、唖然としてしまったのだ。 この姿は、紛れもない幼稚園児の自分。 写真で見たことある幼い頃の自分の姿が、窓ガラスにはっきりと映っていたのだ。 立ち止まり、しげしげとその姿を考察する。 100cmにも満たないような身長。3頭身...4頭身くらいはあるだろうか? 小さな子供特有の、頭ばかり大きい身体。 瞳も大きくて、やや丸みを帯びているせいか、いつもの鋭さがない。 だが、幼いながらも、やはり、生まれつき、目つきは悪かったようだ。 鼻筋はすっと通っているが、小さくまとまっている。 口唇も子供によくある桜貝のように艶やかな色合いで、ふっくらとしている。 髪は今と同じような色と性質らしい。やや薄茶色の硬そうな髪の毛。 けれど、そよ風が吹いているらしく、ぽわぽわと揺れている。 今よりは...随分と可愛いらしさがあったのだな...と、自分で自分に愕いた。 しかし (一体、どういうことだ? これは...) 首を捻って考える。どう考えても理解できない。 これは...科学ではとても実証できない現象だ。 「ねぇ!はやく!じかんがなくなっちゃうよ!!」 また彼が、ぐいっと不破の腕を引っぱった。 不破の身体は大きくよろめいて、仕方なく歩き出す。 そうだ...こいつは誰だ? 自分の身体の、変化ばかりが気になって、肝心の彼のことを考えていなかった。 同じような小さな身体。身長も同じくらいだろうか? 彼の瞳は、不破の其れよりも大きくて丸くて、くるくると、よく動く。 鼻はやや低めだが、その高さが瞳の大きさに似合っていて、少女のように可愛いらしい。 口唇も、零れ落ちてくる笑みのせいか、とても愛くるしい。 歩くたびに軽やかに揺れる、彼の髪は、不破より茶色くて猫っ毛のようだ。 ずんずん引っぱって歩く彼の横顔を見ながら、不破は遠い記憶の中に、何かを思い出す。 だがそれは、僅かな記憶で、ぼやけていて...大切な何かが思い出せない。 不破が、記憶のデータベースをフル稼働させていると、いつの間にか、園庭の隅っこで、 サッカーボールを蹴飛ばして遊んでいる数名の園児達のところへ連れてこられていた。 「あっ! ふわ、おきたんか!?」 一番手前にいた子供が、不破に振り返った。 金髪...? 幼稚園児のくせに、金髪?外人か? いや、違うぞ、こいつは紛れもない...。 「ふわくん、おきたんだ! じゃあ、ぴーけーのれんしゅうやろーっ!」 器用にリフティングしていた一人の子供が、不破に話しかけた。 頬に大きな絆創膏を貼って、お日様みたいな笑顔で笑っている。 負けん気が強そうで、彼の身体中から元気が溢れ出ている。 不破の大好きな笑顔の持ち主。それが、どうして...。 「まずは、ふょーめーしょんのかくにんからだろ?」 もう一人の子供が、サッカーボールを小脇に抱えて、不破の顔を覗き込んできた。 綺麗な顔立ちだ。さらさらの髪の毛に、幼稚園児には不似合いな細い眉。 美形...いや、美少年、と表現すべきか? こいつも、多分...。 「うん! さっかーやろっ!」 不破の腕を引っぱっていた彼が、三人にそう言った。 すると、 「おまえ、だれや?」 金髪の子供が、彼を指さした。 「ふわくん、そのこ、だれ?」 絆創膏の子供が、不破に訊いてきた。 「みたことないな。」 美少年の子供も、口を開いた。 代わる代わる三人にそう言われて、彼が身体をびくりと震わせる。 不破の腕をぎゅっと掴んできた。 小さな指先が震えている。 彼の大きな瞳が震えている。 あぁ、そうか...思い出した... 不破は今度こそ、彼の横顔を思い出したのだ。 そして今、自分がどうして此処にいるのか、ようやく理解できたのだ。 科学では実証出来ないけれど... とても、説明できないけれど... 不破は微かに笑った。 「こいつは、おれのでぃふぇんだーだぞ。」 「!?」 彼がおどろいて不破の顔を見た。 目をきょときょとさせている。 あぁ、間違いない... 不破は笑った。 不破が笑うので、三人の子供達は目を丸くした。 「うん!おれ、でぃふぇんだーだ!!」 彼は明るい大きな声で言った。ぱっと笑顔になった。 「う〜ん、みたことないんやけど...」 金髪の子供が首を捻る。 「でも、いいーよ! いっしょにやろ! ねっ!?」 絆創膏の子供が、笑顔で答える。 「そうだな、にんずーがたらないから、しかたないな...じゃぁ、やろーか?」 美少年の子供も頷いてくれる。 「よし、やろう。」 不破が、かけ声をかけた。 「うん! じゃあ、いくねー!!」 絆創膏の子供が元気良く、サッカーボールを蹴った。 それを、美少年の子供が受け取る。 ゴールまえに金髪の子供が走り込んできた。 出されたパス。 それをカットしようと、彼も走り込んだ。 「なんのー!!」 金髪の子供が叫んで、彼をかわそうとする。 「まっけるもんかぁ!!」 彼も大きな声で叫んでいる。 一瞬の競り合い。 けれど、金髪の子供の動きの方が早かった。 「いっけーっ!!」 シュートしてきた。 それを、不破はがっちりと受け止めた。 「あっちゃー! しょーめんやんか!!」 金髪の子供が悔しがる。 「へったくそー!」 美少年の子供が後ろから、野次を飛ばす。 「なんやとー!!」 金髪の子供が怒って振り返ると、 「まぁまぁ! もういっかい、やろーよ!!」 絆創膏の子供が、仲裁に入る。 「うん! もういっかい、やろー!!」 彼も元気に答えた。 「よし! いくぞ!」 不破がサッカーボールを思いっきり蹴飛ばした。 また、歓声が高らかに上がった。抜けるような蒼い空に響き渡る。 目に眩しいほどの緑の芝生の上に、ボールが転がって行く。 それを小さな身体が懸命に追いかけていく、転がっていく。 空の蒼さに、赤みが差しかかる頃まで、皆でボールを追いかけ続けた。 「そろそろ、おわりにしよう。」 ボールをキャッチした不破が、そう言った。 「うん、そうだね! もう、いえにかえらなきゃ!」 絆創膏の子供が、元気に答えた。 「そうやな! ひもくれてきたし...」 金髪の子供が空を見上げて、そう言った。 「ああ、きょうは、もうこれくらいにしよう。」 美少年の子供が、まるでキャプテンのような口調で、そう言った。 彼は....何も言わない。 静かに、俯いたまま、何も喋らない。 「もう、いいだろう?」 不破が彼に話しかけた。 「もう、これで...気が済んだだろう?」 「えっ?」 彼が顔があげた。 「もう、そろそろ...おまえは、行かなければならない...違うか?」 「...」 彼は、また黙り込んだ。 「オレ達も、もう戻らなければならない。そうだな?」 不破の身体は、いつの間にか、元に戻っていた。 後ろに立っていた三人も、元の大きさになっている。 「あれっ? ボク...どうしたんだろう?」 風祭が、きょとんとしている。 「なんや...これ、一体...」 シゲもぽかんと口を開けている。 「此処は、どこなんだ...オレ達はどうして...」 水野もあたりを見渡している。 その時 突然、暗闇が襲ってきた。 蒼い空も、緑の芝生も、皆の視界から消え去った。 漆黒の闇が、全てを覆い隠していく。 そして 目の前の彼が...自分達とそう変わらない年頃の少年になっていた。 けれども、その身体は細くて華奢で、身長は、辛うじて風祭よりも大きいくらいで。 髪は、幼い頃と同じように茶色くて細くて、とても長くて、真っ白い顔を隠すように揺れている。 大きな瞳もそのままだけど、大粒の涙が溢れていた。零れた滴は、頬を伝って、落ちている。 「此処は、おまえの夢の中なのだろう? おまえは....」 不破が、彼の名前を呼んだ。 彼の身体が、ぴくりと揺れた。 そして...微笑んだ。 「覚えていてくれたんだ、ボクの事...」 「あぁ、すぐには思い出せなかったが...」 不破も微かだが、笑い返したやった。 「ありがとう...」 彼がぽつりと呟いた。 「いっつも、窓から見ていたよ、キミのこと。」 彼の涙は止まることなく溢れつづける。 「ボクはずっと...サッカーがやりたかった。けど、こんな身体になって、学校にも行けなくなって...」 「...」 「だから、キミがサッカー始めたのを見つけて、とても羨ましくて...でも嬉しくて...キミとサッカーやりたくなった。」 「...」 「元気な頃の自分に、ボクは戻りたかったんだ。戻って、キミと...。」 彼が涙を手の甲で、ぐいっと拭った。 「ありがとう...本当にありがとう...」 もう、行くね... ふっと意識が遠くなる。けれども、その瞬間、不破の目の中に、彼の笑顔が飛び込んできた。 泣いていたけれど。 でも、嬉しそうに笑っていたから。 だから 彼は満足して逝ったのだろうと、不破は確信したのだった。 「いー加減、起きろ〜っ!!」 聞き覚えのある怒声に、身体中が凍り付く。 いや、違う。これは... くしゅん! 不破はくしゃみをして、起き上がった。 「何すんねん!!」 「つめたい〜っ!!」 「おい!何だよ!小島!!」 不破の背後からも、大きな声が上がった。 きょろきょろと、まわりを見れば、自分の座り込んでいる場所は水浸し。 自分もずぶ濡れで、後ろにいる彼らも、不破と同じくびしょ濡れである。 「いっつまで、寝てんのよーっ!! あんた達はっ!!」 「???」 「休憩時間はとっくに終わってんのよ! いー加減にしてよね!!」 不破の正面に立つ小島は、バケツを手にしたまま、まさしく仁王立ち状態で、こちらを見下ろしている。 彼女の背中からは、殺気立つ怒りのオーラが見え隠れてしていて、思わず後退したくなるほど、鬼気迫るものがあった。 けれども、不破は、小島の顔をじっと見上げているだけで、何も言わない。 いつもなら、小島でさえも勝てないほどの毒舌をぶちかます不破が、である。 黙り込む不破に、小島も一瞬、怯んでしまった。 「ちょ...ちょっと...どうしたのよ?」 さすがに、バケツの水を、彼らの頭上にぶちまけたのはまずかったのだろうか? 一番に、水をかぶってしまったのは、不破。それもそのはず。 不破を中心に、風祭、水野、シゲがぐるりと囲むように、芝生の上に寝転んでいたのだから。 後の三人も、濡れているが、不破ほどではない。しかしながら、彼らも呆然としているだけで、何も喋らない。 これは、本当にやばかったのかもしれない。小島は額から冷や汗が流れ落ちてくる感覚に、しばらく、声が出なかった。 ずぶ濡れになった四名と、小島との、奇妙なにらみ合いが続いた。 すると、この均衡を破ったのは、さすがに年上の彼だった。 「何や...ヘンな夢、見たような気がすんやけど...」 シゲの呟く声に、風祭が大きな声を上げた。 「ええっ!? シゲさんも! ボクも、今、何だか、ヘンな夢、見ちゃってさ...」 「おまえらもか...」 「えっ?」 水野が独り言のように呟いた。 「誰かと...サッカーしてたような...それも...」 「幼稚園児に戻って...か?」 「「「!?」」」 不破の台詞の、三人は愕いて、目を見張る。 これは、一体... 「同調(シンクロ)したようだな...」 「「「はぁっ!? 同調(シンクロ)っ!?」」」 叫ぶのも三人、同時だった。小島がびくびくしながら、彼らの様子を伺っている。 「あいつが...用があったのは、オレだけだったが...オレの近くで、同じように眠りこけていたから、おまえ達もそれに引っ張られたのだろう。」 「「「...」」」 「そうか...あの家だったな...」 不破はふと顔を上げて、遠くを見つめる。不破の視線の先に、日頃見慣れないものが掲げられているのが、目に入った。 同じように、三人も、小島も、不破が見つめる方向に、何があるのかと、じっと目を凝らす。 そして 「あっ...」 最初に声を出したのは、小島だった。 不破が見つめるもの、小島にも見えた。同じように、彼らにも見えた。 それは、白い花。遠くからでも分かるほど、大きくて白い...花輪。 あれは... 「遠い...記憶だな...」 不破がぽつりと呟いた。そして、勢い良く、頭を左右に振った。 髪の毛に付いた滴が振り払われて、あたりに飛び散る。 不破は軽く息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。 「不破くん?」 風祭が不破の背中に声をかける。 「着替え。」 「へっ?」 「着替えないと、風邪、引くぞ。」 「...」 不破は、黙って小島の横を通りぬけると、部室へと歩いていった。 風祭も立ちあがり、不破の後を追いかける。 「おい...」 「あぁ...」 水野がシゲを促すと、いつもは賑やかで五月蝿いシゲも、大人しく立ち上がる。 二人も、不破と風祭の後に続いて、部室へと静かに戻っていった。 残されたのは、小島。そして、この様子を、遠巻きに見ているサッカー部員達。 「なんなの? 一体...」 先程までの威勢は何処へ行ったのか...小島は、毒気を抜かれてしまった。 (あの...花輪...お葬式よね?) 小島は、胸中で呟く。誰のであろう、不破の知り合い? 何にせよ、彼らの様子がおかしいのは、あれが原因だとは推測できるのだが...。 すっかり怒る気力を無くした小島。 彼女もまた、彼ら同様、すごすごと、手にしたバケツを片づけに歩き出したのだった。 練習が終わった帰り道。 すっかり日も暮れて、あたりは夕闇が色濃く迫っている。 「なぁ、不破...」 重苦しい空気の中、口を開いたのは、やはり一番年上の彼。 めっきり黙り込む四人は、足取りも重く、家路に向かって歩いていた。 あの夢は、何だったのだろうか? 不破に聞きたいが、不破の背中がそれを押し殺すように、黙っている。 三人は、不破の後ろを歩きながら、互いに顔を見合わせるだけだった。 だが、やはり、沸き上がる好奇心に、一番最初にネをあげたのが、シゲだった。 「オレら、みんな、一緒におんなじユメみたんかいな? なぁ?」 「...」 不破は答えない。黙々と歩き続けている。 今度は風祭が、不破に話し掛けた。 「あの子...不破くんの友達だったの?」 不破の肩がぴくりと震えた。 そのまま立ちどまって、不破がじっと、何かを凝視する。 不破の視線の先を、三人が目で追うと、そこには、先程、校庭から見た...あの花輪があった。 家路に向かって歩いていた筈なのに、不破の後を追いかけていたから、いつのまにか、此処に歩いてきたことに三人は気づかなかった。 「幼稚園、年長、さくら組」 「「「はぁっ?」」」 突然、不破が喋り出したので、三人は間抜けな声を出してしまった。 「あいつとは、その時、同じ組だった。」 「...」 「話しをしたことなど無かったが、ただ一度だけ、ボール遊びをしようと誘われたことがある。」 幼い頃から、本を読むことが好きだった不破。 子供の性格を尊重する意味で、保育者サイドも外遊びを強要しなかったから、不破は他の子供達と遊ばずに、本ばかり読んでいた。 いつものように本を読んでいたら、いつのまにか、うたた寝をしていたらしい。彼は、其処にやってきたのだ。 ねぇねぇ、あそぼうよ! いっしょに...さっかーしようよ!! サッカーといっても、所詮、幼稚園児のボール遊びだ。 木陰で気持ちよく寝ていた不破は、睡眠を邪魔されたせいか、ひどく不機嫌に彼をあしらった。 その時、彼は無理強いしないで、早々に引き上げていった。 次の日。 不破のかたわらに、彼がいた。 本を読む不破と一緒に、彼も本を読んでいた。 不思議だったが、特に邪魔だとは思わなかったので、そのまま過ごした。 そうして数日間、彼と一緒に、本を読む時間を過ごしていた、ある日の事。 おれ、さっかーせんしゅになるんだ! 突然、将来の夢など言われても、不破は、「そうか。」と答えるくらいしかできない。 けれども、彼は、にこにこ笑いながら、 おれ、でぃふぇんだーになるんだ! ぷろのさっかーせんしゅになるんだ!! 蒼い空に、彼の笑顔が眩しかった。 不破には眩しすぎて...。 ほんの少しだけ彼のことを、羨ましいと思った。 その次の日。 彼が交通事故で、下半身不随になったことを聞かされた。 もう一人で歩くことも出来ないと聞かされた。 そして、彼に逢うことは、二度と無かった。 だから、彼のことを思いだすまで、とても時間がかかったのだ。 彼の家の前を通過する。 白い花輪の数が、先程より増えている。 人通りも多くなってきている。 不破が立ち止まった。家の前から、桜上水のグランドに顔を向ける。 此処からでは、フェンスや桜の木で見えにくいのだが、多分...。 不破は、家の二階の窓を見上げた。 あの二階の窓からは、よく見えるだろう。 サッカーの練習風景が、よく見えるだろう。 校舎を行き交う生徒達の姿も、よく見えるだろう。 学校に行きたいと、サッカーをやりたいと、いつも彼は願っていたのだろう。 けれど、健常人では当たり前に出来ることが、彼には出来なかったのだ。 どれほど、悔しかっただろうか、悲しかっただろうか。 あの窓を通して、覗き込むだけの世界。 「でも、笑ってたよね!」 「風祭?」 不破の腕を風祭が後ろから掴んできた。 「ありがとうって言って、笑ってた。違う?」 「...」 「夢の中だったけど、それでも、不破くんとサッカー出来て、楽しそうだったよ。」 「...」 「不破くんが笑ってたから、あの子も嬉しそうだったよ。」 僕らも楽しかったよ、嬉しかったよ... 「世にも奇妙な物語。」 「なんだよ、シゲ。いきなり...。」 「まぁ、貴重な体験させてもろて、エエ勉強になりましたわ。」 「勉強ねぇ...あっ?」 水野が何かを思いついた。 「何? 水野くん?」 「オレ達、幼稚園生になってたんだよな?」 「うん、多分、そうだと思うんだけど...」 「...風祭とオレ、そんなに身長、変わらなかった...」 「!!」 「そういえば、そーやなぁ。」 風祭と水野の会話に、シゲが口を挟んできた。 「ぼ、ぼくだって、最初から小さかったわけじゃなくて...っ!」 「いつから、小さいままなんや?」 「もう、シゲさんったら!! スピードが遅いだけです! ちゃんと伸びてます!!」 「はいはい、そうやろなぁ...けど、四人して、目の高さが一緒やったちゅーのは、結構おもろかったなぁ。」 そこまで喋って、シゲがふと思い出す。シゲだけじゃない、風祭も、水野も、だ。 自分たちの幼い頃の姿はともかく、不破の小さい頃の姿を見れたのは、もしかして、とっても、おトクだったのでは!? そうだった、うっかりしていた。そう、とっても...可愛いらしかった、なぁ... 小さな不破。今も可愛いトコあるけど、もっと、子供らしい可愛いらしさがあって...。 彼には悪いような気もするが、おかげで、思いがけず、不破の子供時代に遭遇できた。 ちょっとだけ、感謝してしまう。 不慮の出来事で、やりたい事が出来なくなって、とても辛かっただろうけど。 最後の最後に一つだけ、彼の願いが叶ったと思うのは、生きている者達の自己満足か? 風が吹いた。 優しい風。 誰かの掌が、自分たちの頬を撫でたような気がした。 気のせい? いや、気のせいではないだろう、多分... 死に逝く瞬間 何を考えるのだろうか? 何を思い出すのだろうか? 最後の願いをかなえてもらうのならば 貴方は何を願いますか? この世に遣り残したことを... 一度も見れなかったものを... 彼の笑顔が見たかったのです FIN ☆ ―――――――――― ☆ あとがき 『ちび不破』じゃない!? 思いっきり偽物ですね。お題に則してないしぃ!? すみません、消化不良、起こしてしまいました。 幼稚園にこだわったのは、コミック5巻の「STAGE.38 仲間だろ」の表紙に描かれていた、 彼らの園児姿が気に入っておりまして...それをイメージして、これを書いたのですが...。 MY設定キャラを中心にした作品だったので、滅茶苦茶つまらない物になってしまいました。 すみません...実質1日で書き上げた事自体にも無理があったと、猛反省してます。 (だからと言って、時間かけても、書けないんですよね...あぁ、文才が欲しい...) |