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「うわぁ..懐かしなぁ...」 傍らに立つ風祭が、初夏の日差しに目を細めながらグランドを見つめている。まだ、自分よりも背が低い。 「いつか追い越してみせるからっ!」と意気込んでいた彼だったが、健闘虚しく(?)、いまだ追いついてこない。 しかし、この小さな身体で、彼は全日本代表に選ばれたのだった。自分は、その選考に..落ちた。 「んーっ!! きっもちいいいねぇ!!」 背伸びをする風祭に、ほんの少しだけ笑ってみせる。風祭はそれに応えるかのように、笑い返してくれた、不破の大好きな笑顔で。いつしか笑えるようになった自分、今の自分がいるのは、全て...風祭がいるからだと、素直に思えるようになっていた。多くのことを彼は教えてくれた、今だって、そうだ。気落ちしていた自分を励まそうとして、こうして、母校に連れてきてくれたのだ。 「此処から始まったんだよね」 「ん?」 「此処で、不破くんと一緒にサッカーをした」 「...」 「僕らは此処から始まったんだよ、此処から...」 見渡すグランドは、桜上水中学のものだった。卒業して早2年、ともに汗を流した後輩達も皆、卒業してしまった。 今、グランドを駆け回っている彼らは、顔見知り程度の連中だった、練習したことも、試合をしたこともはない。 「よぉっ! もうかってまっかっ!!」 不破の後ろから、声がした。聞き覚えがある声とその口調、振り向かなくても誰だなのか、すぐに分かった。 「シゲさんっ! 水野くん!!」 「ん?」 不破は振り向いた。来たのはシゲだけだと思っていたので、思わず振り向いてしまったのだった。 「よっ、不破」 水野が軽く手をあげた。不破もそれに頷いた。4人並んで、黙ってグランドを見下ろす。サッカー部だけではない、野球部に、ソフトボール部に...グランドは、部活に汗を流す生徒達で埋め尽くされている。ふいに、暖かい風が吹いて、頭上の木々を揺らした。すっかり、葉桜になった木の枝から、木漏れ日とぬけるような蒼い空が見え隠れしている。 ぽーん... サッカーボールが転がってきた。風祭が其れを手にすると、 「ごめんなさーいっ!!」 遠くから、一人の女性が走ってきた。紅白戦の最中、近くで練習していた控え選手の蹴ったボールが、此処まで転がってきたのだった。彼女は、その生徒の代わりに取りに来たようだったが、4人の姿を見て、さらに大きな声を上げた。 「風祭くんっ! それに、佐藤...じゃなかった藤村くんに水野くんっ! ええっ! 不破くんもっ!?」 「こんにちは! 香取先生!!」 駆け込んできた女性は、サッカー部の顧問、香取だった。今でも、彼女は顧問として桜上水サッカー部を支えている。 「どうしたのっ! みんなして、揃っちゃってっ!」 久しぶりに逢った元教え子達に、香取も笑顔が絶えない。ご機嫌な香取に、シゲがぷっと吹き出しながら、 「せんせ、息、切れとるでぇ〜、そーや、もう、ええ歳やもんなぁ」 「ちょっと、何よっ!? 久しぶりに逢ったのに、その台詞はぁっ! 相変わらずだわねっ! あんたって子はぁ!」 シゲの憎まれ口に、香取はむっとするが、すぐに、(あら?)と、目をぱちぱち瞬きさせた。 卒業して早2年、今、目の前にいる彼らは、高校3年生になった。しかし、たった2年間の間に、すっかり一人前の、男らしく成長した彼らに、香取は驚きつつも、嬉しさを隠しきれない。3年間の、彼らの中学生としての時間を、共に過ごせたことは、教師冥利につきたのではないか、と。くすくす笑い出す香取に、今度は水野が「どうしたんですか?」と苦笑いしながら聞いた。 「うぅん! なぁんでもないわ! そうだ! 代表に選ばれたのよねっ! 風祭くんと藤村くん、水野くん...あっ」 不破の顔を見て、香取は一瞬、戸惑って口を押さえてしまった。この中で、たった一人、選考から漏れて落ちてしまったのだから。不破は、ふっと口元を緩めた。 「渋沢がいるからな」 「...」 「次がまだある」 今度は香取が、ふーっと息を漏らした。 「ホント...」 「ん?」 「みーんな、イイ男に成長しちゃってぇっ! そうそう! せっかくだから、写真撮らせてよっ!」 香取がポケットからデジカメを取り出すと、シゲが、「オレらの写真は、高くつくでぇ!」とふざけて笑っている。 「うっさいのっ! これくらいでエラソーにしないのっ! 今から、これじゃ、先が思いやられるわよ、あんたは!」 香取はしっかりとデジカメを構えると、「はい! こっち向いて!」と、大きな声で叫んだ。 4人が香取の方を向いた。風祭はボールを手にしたままで、シゲは昔と変わりない悪戯っ子のような笑顔で、水野も相変わらずの秀麗な笑顔で...そして、一番片隅の不破も、微かに微笑んでいる。 かしゃ...っ... シャッターを押す小さな音が聞こえた。撮り終えた香取が、にっこりと笑った。 「香取せんせーいぃ!!」 その時、遠くから生徒の、香取を呼ぶ声が聞こえてきた。それに、大きく手を振って応えると、香取はボールを風祭から受け取った。 「じゃあねっ! みんな、頑張ってねっ!!」 ぱたぱた走り去っていく香取の後ろ姿を見送りながら、4人は再び、グランドを見つめた。 自分たちが卒業してからも、このグランドは此処にあり続けたのだ...当然のことなのに、それが不思議に思えた。 「此処で...」 水野が口を開いた。 「此処で、風祭に出会った」 「水野くん?」 きょとんとする風祭に、水野がくすっと笑った。 「シゲがサッカー部やめちまって、クサってた時に、おまえが此処に来てくれて...出会えて良かった」 「...」 「風祭に出会えて、そしたら、シゲが戻ってきて..おまえが、不破を連れてきた」 「ん?」 今度は、不破が目をぱちくりさせた。 「此処は、オレにとって大切な場所だ」 水野に微笑みかけられて、不破はますます、きょとんとしている。 「たつぼーんっ! 一人で勝手に、ノルスタジックな気分に浸るなやっ!!」 シゲに横から揶揄を入れられて、水野は軽く、ふんと鼻を鳴らした。 「さて、これから、どうする?」 「そうだな...」 シゲの問いかけに、水野が顎に手を当てて考えていると、その脇をするりと通り抜けて、シゲが不破の肩を抱いた。 「ひっさしぶりに、不破に逢うたような気がすんねん、なぁ、これから、オレの部屋に行って、二人だけで話しせぇへんか?」 どかっ! シゲの背中に、風祭と水野のケリがヒットした。 「何じゃこらっ!?」 「そーいうことは、いい加減やめてもらえませんかっ!!」 風祭がむっとして言い返す。シゲも睨み返すと、肩を抱かれたまま不破がクスリと笑った。 「これから、皆でメシを喰いに行くのではないのか?、シゲの驕りで」 「へっ?」 「オレの頼みなら、何でも聞いてやると、言った事を覚えているか?」 「...覚えとるで...せやったら、オレの言うことも聞いてもらわへんとなっ!」 「おまえの...?」 どかっ! 再び、シゲの腹に、風祭と水野のケリが決まった。 「不破くんっ!」 「なんだ?」 「シゲさんの言うこときいちゃだめ〜っ!!」 「ん?」 「そうだ、不破っ!!」 「水野?」 「シゲの言うことなんか聞いてたら、身体がいくつあっても足りないぞ!」 「???」 腹を抑えて痛がるシゲ。不破はシゲの横で、腕組みしながら首を傾げている。 「とにかくっ! 今日はねぇ...っ!!」 風祭が拳を握りしめながら、大きな声で叫んだ。 彼らの騒ぎを、桜の木々達は枝をざわめかせながら、じっと聞いていた。 あの時と同じ...桜上水で過ごした、あの日々と同じように、其れらは静かに静かに、彼らを見守っていた。 吹き渡る風の心地よさが、頬を撫でていく、あの日々と同じように。 数日後、日本代表チームで練習試合が行われた。対戦相手はコスタリカ。日本よりレベレは上だが、やり方次第では勝てない相手ではない。選手だけでなく応援する側も、自然と熱が入る。まるで本番のような騒ぎだった。 不破は一人、応援席から、彼らを見つめた。風祭、水野、シゲ...そして、渋沢。彼の横にいるのは、須釜か? トレセンで出会った彼らは、こうして、共に代表選手としてフィールドに立っている。 不破が軽く息を吐いていると、ふと、視線が渋沢とかち合った。その途端、渋沢が満面の笑顔で、不破に微笑みかけてきた。 困ったような顔をすると、さらに、渋沢が軽く手を上げて、不破に挨拶をする。 どうしたものか、思案していると、 「手、振りかえしてやれば?」 「ん?」 いつの間にか、不破の横には、小堤が座っていた。彼も選考から漏れた一人だった。 「不破が、手、振らないと、渋沢のヤツ、気がついて貰おうとして、こっちまで突っ込んでくるぜ、きっと」 「ふむ?」 あの男ならやりかねないな...そう思った不破は、仕方なく、手を振ってやった。渋沢が嬉しそうに、さらに手を振る。すると、その後ろで、須釜がほぇほぇ笑いながら、同じく、手を振ってきた。不破はこれにも、手を振りかえしてやると、渋沢が気がついて、思いっきり、須釜に対して不機嫌な顔をして睨み付けている。 彼らの様子に、軽く溜め息を漏らしていると、今度は小さな背中が、不破の視界の中に飛び込んできた。 そして、振り向いて、不破に笑った。 不破の大好きな笑顔だった。 「おい?」 「ん?」 小堤が座っている場所とは反対の方向から、低い声が聞こえてきた。不破が徐に顔を上げると、其処にいたのは、 「何だ、鳴海か?」 「何だとは何だよ!!」 賑やかなスタジアムとはいえ、鳴海のバカでかい身体と声は、人目を引く。不破は、関係ないゾと言わんばかりに、そっぽを向いた。この態度に、ますます鳴海はアタマにきたらしい。不破の腕をぐいっと引っぱると、 「おい...てめぇ...」 不破に絡もうとした、だが、次の瞬間、鳴海は急に動かなくなった。怪訝そうな顔をして、不破は鳴海を見上げていると、ふと、凍り付くような視線が、此方に向けられていることに気がついた。 風祭だった。 「あんのやろ...チビのくせに...」 これ程、離れていても感じ取れる、風祭の凄まじいオーラに、鳴海はびくびくしている。不破がクスリと笑った。 「チビ故に、おまえにとって鬼門であろう?」 勝ち誇ったように言って、鳴海の拘束をほどくと、鳴海は振り払われた手で、がりがりと頭を引っ掻いた。 「ちっ! あんなチビじゃ...満足しねーんじゃねのかぁ? あん?」 「只、でかければ、良いというものでもない」 鳴海の言葉に聞く耳もたぬ、といった不破の態度に、とうとう鳴海も黙り込んだ。所詮、チビには勝てないのだと。 「始まるよ」 小堤がぽつりと呟いた。不破も視線を、鳴海からフィールドへと向けた。 鳴り響くホイッスル。 此処から、また、新たな物語が始まるのだ。 君がいたから、始まる、僕らの... ☆ ―――――――――― ☆ 勢いで書いた駄文、まさに駄文っ!!(激恥) 赤丸ジャンプに掲載された、桜上水ドリームの書き下ろしポスターと、コミック21巻の表紙を見て... 妄想が暴走しましたっ!? (おいおい) だって、あのポスターでは、不破が微かに笑っているんですよっ!、もう、激可愛いっ!!(ちょっと危ないかも...)。 やっぱ、不破は良いっ! 文句なしっ! でもって、キャプ、かっこよかったなぁ、あっ、須釜も(でれでれ)。 一人、暴走しまくる圭大でした(反省)。 でもって、タイトルの『君がいたから』は、某サイト様で語られていた、FILED OF VIEW の歌から同じく引用させて頂きました。 あぁ、懐かしい。けど、あのシーンは、明らかに水カザでしたよ、うんうん。確かにこのCPも王道ですっ!! ところで、この駄文のCPは一体、誰とでしょうか?、風祭っぽいけど、まだ其処までいってないような...(其処って何処?) 自分で書いていても、よく分からない(殴)。そろそろ、皆の気持ちに気がつきかけた不破、ってトコロでしょうか? つまり、まだまだ未知ってことで、皆、それなりに頑張っている最中なのでしょう!? (いー加減だな...滝汗)。 date:2002.05.12(Sun) ☆ ―――――――――― ☆ |