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今晩、貰うぜ... 三上から宣告されても、答えることが出来なかった。 けれど...それに答える必要はないだろう? 第一、三上がオレに気を遣う必要など、最初からないのだから。 彼がそう望んでいるのならば、それが彼の願いならば、自分に何が言える? 何が出来る? 自分と彼の間には、最初から『友人』以外のものは存在していなかったのだから。 だからこそ、オレに何が言えるのだ? 三上... 刃を突きつけられても、自分はそれに応える事など出来はしない。出来るワケない。 それでも、それがおまえから差し出されたの救いの手だということを、自分だって気づいている。 分かっているんだ。でも...それに、応える事は出来ない。出来ないんだ。 恐くて 自分の、この胸の中にある洞窟に住みついている魔物。 それと対峙するだけの勇気が、まだ無い。 自分の今の生活を、おまえとの関係を、叩き潰してまで、オレは出来ない。 小心者だよ、オレは。見た目は大人びて見えるから誤解されやすいが、オレは三上と同じ歳相応なガキだよ。 三上が出ていった後、思わず、手にした教科書を床に叩き付けてしまった。 物に八つ当たりなんて、みっともない。でも、高ぶった感情は、これだけでは収まらなかった。 壁に掛けられた鏡に向かって、拳を振り上げる。 自分の顔に向かって、振り下ろした自分の拳。 どす黒い邪まな感情。 それを三上に見透かされたようで、恥ずかしくて。 どうして、これほどまでに....彼を好きになってしまったのだろうか? 深い溜め息を漏らして、渋沢はようやく顔を上げた。 目の前には、鏡の中に映った自分の顔。 泣くこともわめくことも出来ない、みっともない顔。 渋沢は力無く笑った。そして、もう一度深い大きな溜め息を吐いた。 のろのろと動き出すと、カバンを背負って、部屋を出た。 廊下では、起き出した寮生達が行き来していた。 食堂へ向かう者、洗面所へ行く者、静かだった寮内が賑やかになっていく。 いつもどおりの朝だ。 すれ違う後輩達や同級生と、軽く朝の挨拶を交わす。 渋沢は洗面所に行くと、勢い良く顔を洗った。 さっぱりした。少しだけ気分が落ち着いた。 目が覚めたような気がする。 「おっはようございま〜っす!!」 「あぁ、おはよう。今日も元気だな、藤代。」 「はい!だって、雪ですよ!雪!!」 入ってきたのは、後輩の藤代。そして、「やっぱ、犬だよ、おまえ。」と笠井。 「練習中止かな? 今日は!!」 「なんだよ、急に。」 「せっかくだから、雪合戦したいなぁ〜! それから、かまくら作ってさっ!!」 「おまえって、天然お子様だよな。おれ、寒いのキライだから、そーいうのパス。」 「なんだよ〜!笠井!! こーんなに雪降るの、すっげぇ久しぶりじゃん! せっかくだから、遊ばなきゃ!!」 「一人で遊んでろよ、おれは、とにかくパス。」 「それだから、笠井は『猫』なんだよぉ。こたつで丸くなるのが好き♪」 「おまえだって、よく談話室のこたつで寝てるじゃん! この惰犬!!」 「あっ、ひっでぇ〜!!」 藤代と笠井の五月蝿いほど賑やかな会話を聞きながら、渋沢は、この場を後にした。 廊下に出ても、彼らの元気な話し声はよく聞こえてくる。 ふと、藤代と笠井の姿に、三上と自分が重なって見えた。 入学したばかりの頃は、互いの性格に慣れるのに苦労した。 何しろ、正反対と言ってもいいくらいだったから。 それでも、いつしか、気が合って、頼り合って、『親友』と言えるまでになった。 だからこそ、おまえとの修羅場を演じたくなくて、オレは自分から、『舞台』を降りたんだ。 でも それでも、諦めきれない。みっともない自分。 廊下を歩いていくと、すぐに辰巳に挨拶された。 そのまま二人連れだって、食堂へと階段を降りていくと、辰巳が「おやっ?」と小さな声を上げた。 渋沢も辰巳と同じように窓の外を覗き込むが、何も見えない。誰もいない。 「どうした?辰巳。」 「あ? あぁ、今、誰かが其処にいたような気がしたからさ。」 「?」 「う〜ん、一瞬ちらっと...そう言えば、三上はどうしたんだ?」 「...」 いつもなら、渋沢と一緒にいる三上が、今朝はいない。 「さぼりか?」 「いや、先に部屋を出ていった。」 「へぇ〜、あの三上が? 渋沢より早いなんて珍しいな。」 「まぁね。」 玄関脇を通りぬけようとして、辰巳がまた声をあげた。 「おい、あいつは...この寒い中、何してんだ?」 辰巳が指差す方向には、黒いコートを来た、一人の少年の後ろ姿があった。 真っ白い銀世界に、彼のコートは一際目立つ。 ほわほわと動く、薄茶色の髪。 ふと、その頭が揺れて、こちらに振り返った。 彼の顔がよく見えた。 「あれっ? あいつ...」 辰巳も気がついた。 時間があれば、三上を訊ねてくるあいつ。 三上の前は、確か渋沢だったが...二人とも同じ部屋だから、まぁ、一緒か? などと、辰巳が考えていると、横にいるはずの渋沢の姿がないことに気がついた。 「不破くん!!」 渋沢は玄関を飛び出していた。 外は雪は止んでいたが、気温はかなり寒い。冷え込んでいる。 不破の吐く息が白く煙っている。 「渋沢?」 不破が愕いて、渋沢を見つめる。 「不破くん、どうしたんだい?こんな所で?」 「...」 不破が黙り込んでしまった。じっと、渋沢を見上げてくる。 渋沢は軽く深呼吸をして、そっと囁いた。 「三上かな?」 「!?」 図星だったらしい。 「呼んできてあげようか?」 「いや!いい!呼ばなくても良い!!」 「不破くん?」 「あっ...」 不破が大きな声を上げるのは珍しい。 そのせいだろうか、不破の頬が少し赤くなっているように見える。 寒さのせいだけではないだろう、きっと。 「昨夜、この近くにあるはとこの家に泊まったのだ。今、其処から自宅へ帰る途中だ。通りすがりなだけだ。わざわざ呼ばなくても良い。」 「そう? ホントにいいの?」 「...」 三上に会えないだろうか...そう思って、此処の前に立ってたんだろう? 通りすぎるふりをして。 メールだけじゃ物足りなくて、本当に会えないかと、何度なく、此処を行き来していたんだろう? この寒い中、キミって子は。不思議だね、出会った頃のキミとは、全然変わってしまった。 「渋沢、そろそろ、失礼する。」 「不破くん?」 「これから家に戻って、学校に行かねばならない。遅くなってしまうから。」 「そう...そうだね、じゃあ、三上に言っておこうか?」 「何を?」 「不破くんが来たってこと。」 「そ、それはいい!!やめてくれっ!」 「不破くん?」 「...怒られるから、話さないでくれ。」 「どうして...」 渋沢は言いかけて、言葉を飲み込んだ。 (もしかして、三上に、オレと会ったことが知られると、怒られるのか?) 渋沢の心が、ちくりと痛んだ。三上がどれほど、不破を大切に想っているのか、それは先程の、三上からの宣告でもわかる。 サッカー以外、何にも執着しない三上が、これほど強く心惹かれている相手だ。だとしたら、その独占欲は凄まじいものがある。 尤も、自分だって他人のことは言えないのだが。 渋沢が黙り込んでしまうと、急に不破は、落ち着かないような表情をする。困ったような顔をする。 「わかった。三上には、話さないよ。」 「!?....すまない。」 「いや...」 珍しく東京に降り積もった雪。 この、限りなく白い世界で、限りなく純白なキミに逢えたことは、誰にも内緒にしておこう。 秘密にしておこう。三上には教えてやらない。そうだ、教えてやるもんか。 キミとこうして、二人だけの時間が持てたことは、誰にも知られたくない。 「渋沢。」 「えっ?」 いつの間にか微笑んでいたのだろう。渋沢の零れる笑みに、不破が不思議そうに見上げていた。 「ところで、足の具合はどうなのだ?」 「えっ...あぁ、ケガしたトコ? もう大分、良くなってきたよ。」 「そうか、それは良かったな。風祭も心配していた。」 「そう...」 「それに、三上もだ。」 「えっ?」 瞠目する渋沢に、不破は小首を傾げながら喋り続けた。 「渋沢のケガは、本当に自分の不注意からだろうか、と心配していた。渋沢は、我慢強くて、チームの為なら自分を犠牲にするのだと言っていた。」 「...」 「あまり三上が心配するので、風祭や水野に聞いてみたが、特に心配はなさそうだと言っていた。それでも、三上は渋沢の事をとても心配している。いつもいつも、渋沢の事を気にかけている。とても大切にしていると分かる。」 「渋沢を...羨ましいと思うゾ。」 「不破くん?」 不破の瞳が微かに揺れた。その瞳は静かな輝きだったが、渋沢の心臓を射抜くには十分な威力があった。 「三上にそれほど想われている渋沢を羨ましいと思う。渋沢だって三上をとても大切にしている。大切な友達だと...」 「...」 「おまえ達と一緒にいることが、おれはとても好きだ。おまえ達がいる、あの部屋は、とても好きだ。」 「...不破くん...」 不破は、突然はっとして、腕時計を見る。 「しまった...すまない、もう時間だ。」 「うん...」 「では、またな、渋沢。」 「うん、またね、不破くん。」 軽く手をあげ、不破が駅に向かって走り出す。 路上の雪に、もうすでに人や車が通った跡がついている。 不破は、まだ誰も跡をつけていない場所ばかり、選んで歩いていく。走っていく。 その後ろ姿を見送って、渋沢は大きくて深い溜息を吐いた。 不破は綺麗すぎる。 純粋で無垢で、邪な想いなど、彼には無縁だ。 そんな彼を、守ってやりたいと思ったのではないか? 騎士が姫を襲うなど、本末転倒である。 そうだ、守らなければ... 渋沢はようやく気がついた。 狂おしいほど大切なものを。 寮の中へ戻ろうと、くるりと踵を返す。 すると、渋沢は、自分から数mほど離れた玄関先に、立って此方を見ている人影に気がついた。 「三上...」 不破と自分の事を見ていたらしい。二人だけの秘密にはならなかったようだ。 渋沢は口元をきゅっと結ぶと、黙ったまま三上の立つところまで歩いてきた。 「はとこの家からの帰りだそうだ。通りすがりだと言っていたよ。」 「...」 「三上を呼んでこようかと言ったら、断られた。三上に怒られるからいいって。」 「...」 「言いたかっただろうね、きっと...」 「何をだ?」 ようやく、三上が口を開いた。渋沢は、やれやれと言った表情で言葉を続けた。 「誕生日おめでとう、と言いたかったんじゃないのか?」 「なっ!?」 「メールじゃ、味気ないからな?違うか?」 「おめぇ...からかってんのか?」 「実際のところ、からかうほどの余裕はないんだけど。」 「??」 「みてのとおり。」 「あん?」 「オレには、もう余裕がない。」 「渋沢?」 渋沢は大きく深呼吸した。 「不破くんに逢って、決心がついた。」 「!?」 「譲らないし、諦めない。みっともなくてもいいさ。」 「...」 「だから...彼を傷つけたら承知しない。」 「渋沢...」 彼が望むことであれば、それを見守ろう。 けれど、傷つけたら、承知しない。 何があろうとも、それだけは許せない。 もし、彼が傷ついたら、それこそ彼が望まなくても...。 おまえから奪い返す。 そして、絶対、渡さない。 「ようやく本性、出してきやがったな。」 三上がにやりと口唇の端を吊り上げる。 「おかげさまでね、ようやく元に戻らせてもらうよ。」 渋沢も不敵な笑顔で応える。 「オレは守護神だから、な。徹底的に守らせてもらうよ。」 「はん?どこが? ひつじの皮を被った狼のくせしてよぉ。」 「それは三上のことだろう?」 「おれは、そーいうもん被んねぇんだよ。」 「率直なヤツだな。嫌われるぞ?」 「なっ!?」 「せいぜい、今晩、追い返されない様に気をつけた方が良さそうだな。」 「てめぇっ!」 思わず三上が、玄関の軒下から一歩踏み出して、渋沢に近づこうとした時。 どさっ! 屋根の雪が三上の頭上に落ちてきた。 「つっめてぇ〜! んだよぉ! ちくしょう!!」 「ははははは...」 空を仰いで、不機嫌な声を上げる三上。 雪まみれになった三上を見て、渋沢は思わず笑ってしまった。 すると。 どさっ! もう一度、雪が滑り落ちるような音がした。 玄関脇の楓の木から、重さに耐えかねたらしく、枝に積っていた雪が落ちたのだった。 その真下にいた渋沢が、三上同様、雪まみれになってしまった。 「へへ〜んだっ! ざまーみろっ!!」 自分の身体についた雪を振り払っていた三上は、今度は、自分を笑った渋沢を笑い返した。 渋沢は、頭を左右に振って雪を振り落とす。そして、近くの植え込みに積っていた雪を一握り掴むと、ぎゅっとそれを丸めた。 「えっ?」 三上が声をあげるより早く、それは三上の画面を直撃した。 「てめぇ〜! 何しやがる!!」 「何故だろう? こうしたくなった。」 「んなろーっ!!」 三上も負けじと、足元の雪を手にして固めると、渋沢の顔面に投げつける。 しかし、渋沢がそれをかわしたので、投げつけられた其れは、渋沢の後ろの木にぶち当たった。 どさっ! 三度目の雪が落ちる音。またしても木の枝から、雪が落ちてきた。 投げつけられた衝撃で枝が揺れたせいだ。そして、渋沢は二度目の雪を被ることになる。 三上が指差して笑っていると、 「あっ! 先輩達、ずりーのっ!! オレもまぜてぇ!!」 「げっ...藤代...」 藤代が元気よく玄関から飛び出してきた。 「オレ、キャプテンの方ね! 笠井は、三上先輩!!」 「なっ! なんで、おれまで...っ!!」 藤代の後から出てきた笠井は、突然藤代に『命令』されて、むっとする。 しかし、間髪入れずに、藤代は、三上と笠井に雪を投げつける。 「「ふっじしろ〜っ!!」」 二人揃って、藤代に雪を投げつけると、藤代は楽しそうに笑いながら、それに応戦し始める。 渋沢も自然とそれに加わって、いつの間にか、雪合戦になってしまった。 「この、むっつりスケベがぁ!!」 「本能のみの三上に言われたくないぞ!!」 「わ〜いっ!! 何だかわかんないけど、楽しー!!」 「いー加減にしろよっ! 藤代!!」 寮の外。玄関先で繰り広げられる奇妙なバトルに、寮生達は皆、窓からそれをじっと見ていた。 辰巳も同じく、その不思議な光景を見ていたのだが、お子様二人と違って、渋沢と三上は、結構マジっぽいことに気がついた。 (原因はまさか...なっ?) ちらりと、あいつが走り去った方向を見る。 もう其処には、彼の姿は見えないのだけど。 (まぁ、いいか? っつーか、あんまり関わりたくねぇからな...) そそくさと朝食を終えると、辰巳は学校へと向かった。 その後、玄関先を雪でぐしゃぐしゃにしてしまった若干4名は、寮母さんに当然怒られた。 しっかり、掃除を仰せつかってしまった故、1時限目に遅刻するという羽目になる。 三上、誕生日の朝からついていない。 おまけに。 「今晩、後輩達が、三上の誕生日パーティを開いてくれるそうだ。従って、外泊はなしだな?」 「なにっ! オレは、今夜は...っ!」 「不破くん、呼んだから。」 「へっ?」 「一人なんだろ? だから、此処においでと誘ったら、「ではお邪魔する」と簡潔な返事が返ってきたよ。」 「...」 「寮母さんにも許可はもらった。布団も借りたし。そうそう、不破くんは、オレ達の部屋に泊まるから。」 「!?」 「オレ達のベットの間に布団敷いて、寝てもらうことにした。不破くんにも了解済みだからな。」 「...渋沢...てめぇ...」 「ってことで、オレは準備があるから、またな、三上?」 授業が終わって、大急ぎで帰寮すれば、同室者の満面の笑顔に出迎えらた。 そして、この、とんでもない勧告を受けたのだった。 (計られた...) 三上の率直な感想。あの笑顔は、底意地の悪さを隠すためのもの。 忘れてた、あの男は、そーいうヤツだった。 優しくて暖かい、えの笑顔の持ち主には、しっかりと、真っ黒くて尖がったシッポが生えていたのだから。 それでも 今朝までのあいつに比べれば、ずっとマシか? 眉間に深い皺を寄せて、黙り込んでいるあいつより、はるかにマシだろう。 心の奥底にある暗い洞窟に入り込んでいたあいつ。 其処からようやく出てきてくれたのだから。 「しゃーねぇな...ったく!!」 手のかかる友人だ。 違った意味で、恋人より、世話がやける。 部屋の外。廊下を賑やかに走っていく足音が聞こえる。 あれは、藤代と笠井だろう、多分。 床にしゃがみこんで、見上げた窓の外、夕闇が迫ってきている。 昼間の温かさで、降り積もった雪は、大分溶けていた。 三上は、「ふん」と鼻息を荒くしたが、それでも口唇の端を吊り上げて、笑った。 その時、部屋のドアが勢いよく開いた。笠井がひょっこり顔を覗かせた。 「三上先輩!不破が来ましたよ!!」 「あ、あぁ...今、行く...」 のろのろと立ち上がって、部屋を出て行く。 (しゃーねぇな、茶番に付き合ってやっかっ!!) それでも、今日、恋人に逢えることは、やはり嬉しくて。 HAPPY BIRTHDAY!! MIKAMI!! FIN ☆ ―――――――――― ☆ あとがき(言い逃れ?) あわわっ...支離滅裂。コメントのつけようもないです。 雪の中、不破が三上に「おめでとう」と言いに来る場面だけを描きたかったのに... でも、どこにもそんなのないゾ。(滝汗) 「おめでとう、三上。」 「おまえ、それだけ言うために、わざわざ来たのか!? この雪の中!?」 こくりと頷く。 その仕草が可愛くて、つい三上は... って、カンジの場面だけで良かったんですよ。ていうか、此処だけ描けばいいっていうのにぃ! 何故、こうなるのでしょうか? 自分でも目茶苦茶で、意味不明です...。 すみません、最後まで読んで頂いて、本当にありがとうございました。 次回こそは、頑張りますデス!! |