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gold
夏の夕暮れは、まだ日中の蒸し暑さを残している。
夕立でも来れば、少しは涼しくなるだろうが、空には雨を降らせるような雲は見あたらない。
湿気を含んだ風が吹いてきて、かえって気分が悪くなる。
足取りが重くなる。
目の前を歩く後ろ姿が離れていくような気がする。
このまま立ち止まってしまったら...多分、彼は自分を置いて行く。
そう確信できた。
しかし。
彼が怒っている理由が今ひとつ理解できない。
今日のことは事前に伝えたはずだが。もっとも、練習中だろうから、メールで簡潔に伝えただけだ。
正直に言えば、伝える必要もないことだと思ったが、前回のように彼が気を悪くしてはいけないと考慮してメールで連絡したのだ。
それが、かえって気を悪くしたのだろうか?
腕組みをして首を捻る。得意の考察ポーズ。
歩きながら、不破大地は佐藤茂樹の後ろ姿をぼんやり見ていた。
振り向く気配のないシゲ。
何故だろう?何故、シゲは...
「おい。」
不破がシゲに声をかける。
シゲの肩がぴくりと揺れたが、やはり振り向かない。
「佐藤。」
もう一度、声をかける。
今度はシゲが振り向いた。
だが、その表情は...
不破が盛大な溜息を吐いた。
「その態度、自分が他人にされたら不愉快になるぞ。」
不破がシゲを指してそう言うと、シゲの形良い眉がぴくりと上がる。
大きな瞳が細められて、意地悪というよりは険悪なカンジだ。
日頃、目つきが悪いと言われている不破よりも、今のシゲの目つきはかなり悪い。
口唇はぎゅっと結んで、不機嫌さがありありと分かる。
不破はまた溜息を吐くと、一言。
「何をひねくれている?」
シゲがムッとした顔をする。
「では...何をいじけている?」
ますますムッとするシゲ。
だが、何も言わない。
黙ってじっと不破を...睨み付けている。
不破がまた溜息を吐く。これで何回めか...。
「要するに、怒っているのだな?」
「...」
「渋沢と会ったことが?」
シゲが口唇の端をつり上げる。
『渋沢』の名前を耳にして、さらにシゲの表情は険悪になる。
「いい加減にしろ、佐藤。」
「...」
「メールだったが、おまえには渋沢と会うことを伝えておいたハズだ。」
「...」
「会った理由は、渋沢の誕生日に...約束したわけではないが、渋沢をすっぽかした形になってしまったから、詫びのつもりで、今日、会っただけだ。」
「...」
「会って、互いの近況を話しただけだゾ。おまえが考えているような...疚しいことなど何もない!」
「!!」
今度はこちらが睨み付ける。そうだ、疚しいことはしていない。こちらが謝るようなことはしていない。
渋沢とは、同じGKというポジションだった、都選抜で一緒だった、他に彼との接点は無い。
それだけで、彼は面倒見の良い性格ゆえに、今もこうして気にかけてくれることがある。
何故? 其処まで? そう思うこともあるが、最初の出会いが、突然、武蔵野森へ渋沢を訊ねていって「GKは楽しいか?」などと質問したのだ。
それだけで、十分、渋沢にとって自分を今まで見たこともない危なっかしいヤツだと思ったのだろう。記憶に残ったのだろう。
気にかけてくれるのは有り難いと思うこともあるが、こうして、目の前で仏頂面しているヤツがいると...
「もう会わない...これで良いのだな、佐藤?」
盛大に溜息を吐くと、不破はゆっくりとシゲに向かって歩き出した。
シゲは黙って立っている。その横を不破は無言で通り過ぎた。シゲは動かない。
今度は不破が振り返らずに歩いていく。シゲはまだ動かない。不破は歩き続けて...
追いかけてくる気配がない。
不破は胸が締め付けられる感覚に、一瞬立ち止まる。
無意識のうちに地面に落としていた視線をふと前方へとあげると、視界の中に黄金色に輝く夕陽が飛び込んできた。
眩しさに目を細めて、その光を遮ろうと、ふと手をかざす。
何故、追いかけてこない?
このまま離れていっても良いと言うのか?
落日の太陽は、じりじりと不破の身体を焦げ付かせる。
火傷しそうな想いに、不破は自分へ問いかける。
追いかけて欲しいのか?
違う、そうではない。
ただ離れたくないだけ。
たったこれくらいのことで。
これほど悩まなければならない自分が悔しいだけ。
目を閉じると、太陽の残像が目の裏に焼き付いて離れない。
残り火のように、自分の体の中に燻る炎のように。
咄嗟に不破は振り向いた。
みっともなくてもいい。
笑われてもいい。
自分の思うとおりにしたい。
だが、不破の足は踏み出すことを許されなかった。
不破は身体ごと、その場に受け止められたから。
「ごめん...」
振り返った不破の身体は、シゲの腕の中にすっぽりと抱きしめられていた。
シゲの胸に深く顔を埋めるような格好になって、不破からはシゲの顔が見えない。
ただ背中に回されたシゲの腕の力が強くなるから、その強さでシゲの想いが伝わってくるから。
不破はくすりと笑った。
耳元で囁かれたシゲからの謝罪の言葉を聞きながら、吹きかけられる微かな吐息の熱さを感じながら。
不破もシゲの背中に両手を回した。
いつもの二人に戻った瞬間。
「本当に手のかかるガキだな?」
「うっさいわ!」
誰より一番、あなたの心の平和を祈ろう
何も心配しないでいいから...
不安に...絶対、押し潰されない
FIN(これも強制終了)
あとがき
「夜はふたりで」同様、数ヶ月、放置しておいたものです。
一応、続きものっぽく書いてたのですが、ネタが上手く活用出来なかったことと、これまた家人の邪魔が入って中断したことが敗因です。
まぁ、文才の無さが一番の原因なんですけどね...(^^;
年末大掃除は大変です。自分の部屋もさることながら、FDやらPCの中を整理するのも一苦労!?
まだまだ、ごろごろ転がってるようです。早いトコ、すっきりさせて、2002年を迎えたいものです。
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