どこでもいい 飛び出したい 鳥のように遠い空へ
Nowhere to go now
嘘でも言い聞かせてくれ チャンスはまだ残っていると...



夏の大会が終わった。武蔵野森の圧勝だった。誰もが三上の活躍を褒め称えた。だが、三上は...

表彰式の最中、三上はどこかぼんやりとしていた。試合中の気迫が全く無くなっていた。周囲は三上が疲れたのだろう、それぐらいしか思っていなかった。だから、気遣いながらも黙って見ていた。余計な口出しはしなかった。

「三上」

表彰式が終わり、帰り支度をしながら、渋沢が三上に声をかけてきた。

「お疲れさん。今日はゆっくり休もうな」
「あぁ、そうだな...お疲れ」

三上はかったるそうに答えた。渋沢は三上の肩を軽く叩くと、

「また明日から、全国大会に向けて練習が始まるんだ。頑張ろうな」

そう言って、渋沢も帰り支度を始めた。三上は、渋沢の後ろ姿を見ながら、軽く舌打ちをする。

(お見通しだな...おめぇにはよ...)

三上が何を考えていたのか。渋沢は何も言わないが分かっているのだ。

三上は誰にも聞かれないように、小さな溜息を吐く。自分の荷物を抱えると、三上は控え室から出た。廊下には武蔵野森の下級生達が片付けなら何やらで動き回っていてゴタゴタしていた。三上の姿に気付くと、下級生達はびくびくしながら廊下を開けた。ただでさえもコワイ先輩。三上の存在は、かなり下級生達には恐れられていた。おまけに、近頃では選抜から落ちて、三上の剣呑さが増したようだ。下級生達は誰一人、三上には近付かない。そんな周囲の雰囲気に、三上は全く気にせず無言で廊下を歩ていった。

「やっぱり凄いね」

聞き覚えのある声が聞こえた。小さな声だったが、三上は気が付いた。声の方に顔を向けると、そこには桜上水の風祭がいた。風祭は1年生の時に、武蔵野森の三軍に席を置いていた。その当時の仲間らしい連中と話をしていた。今日の試合を観戦にきたようだ。

そんな暇があるなら、もっと練習しろよ...

三上は心の中で悪態を吐くが、実際に吐いたのは溜息だった。らしくない、そう自分でも分かっているのだが...

三上は、競技場の出口に向かって歩き出した。すると、

「なんで、てめぇが来てんだよ!!」

またしても聞き覚えのある声が聞こえた。三上はうざったそうに声のする方を見ると、明星中の鳴海が何やら騒いでいるのが見えた。鳴海のバカでかい身体の影に誰かいるようだが、三上からは見えない。だが、

「決勝戦を観に来ただけだが?」

三上は耳を疑った。この声は...もしかして?

「てめぇは、そーいう口のききかたしか出来ないのかよ!」
「...バラされたいのか?」
「うっ!!」

口篭もる鳴海。鳴海の影に隠れて見えないが、彼は鼻で笑ったようだった。

「帰る。そこをどけ」

鳴海の身体がゆっくりと廊下の端に避ける。そこから姿を現した彼は、三上の方へと歩いてきた。鳴海は彼の後ろ姿に舌打ちすると、自分の控え室へと帰っていった。

彼は真っ直ぐ三上に向かって歩いてくる。そして、立ち尽くす三上に気が付くと、相変わらずの無表情だったが、それでも、

「優勝おめでとう、三上」

彼は一言、そう告げた。この時、三上は彼の目線が自分より高いことに気が付いた。彼がサッカーを始めてから6キロも痩せてしまったと、渋沢が心配していたことを思い出す。その華奢な身体から、自分よりも小さいイメージがあった。けれども目の前にいる彼は、実際、自分よりもいくらか背が高いようだった。その華奢な身体で、よくGKをやっているものだと思った。そして、あの鳴海の破壊的なシュートを止めた、彼の姿を思い出した。.....あなどれないヤツだ。

「不破、来てたのか」
「あぁ、決勝戦を見に行くと風祭に誘われたから、一緒に来た」
「ふ〜ん」
「これから帰るのだが、風祭が消えてしまったので探しているところだ」
「あいつならウチの控え室に来てたぜ」
「そうか、そっちに行っていたか...どうもだ」

不破が武蔵野森の控え室へと歩き出した。三上も何も言わずに出口へ向かって歩き出した。

だが、

「三上、サッカーやめるのか?」

後ろからふいにかけられた一言に、三上ははっとする。振り返ると、不破は三上を見ていた。不破は目を細めながら、

「三上?」

もう一度、問い掛けてくる。

(...なんで、こうもお節介なヤツばっかりなんだろうな...)

三上は何も答えない。不破の位置からは三上が逆光になっているらしく、よく見えないらしい。眩しそうに目を細めながら、不破が近付いてきた。

「三上?」

不破がまた問い掛けてくる。

光の中に、不破も入ってきた。今度は三上の顔がよく見えるようだった。不破は微かに口元を緩めると、静かに告げた。


「おまえのプレイは...好きだな」


三上の目が驚きで見開かれる。そして...

瞬間、不破は何が起きたのか分からなかった。だが三上の顔が、かなり接近しているのだけは分かる。すると、

「何、寝ぼけたこと言ってんだよ!このタコ!!」

三上がにやりと笑う。きょとんとする不破。そして、不破は自分の置かれている状況を認識した。三上に、廊下の壁に押さえつけられていることを。

「三上?」

不破が何事かといった表情で三上を見上げる。三上は鼻で笑うと、

「だから、おめぇは油断だらけなんだって!」
「ん?」

不破は思いっきり「?」顔だった。三上はそんな不破の額に手をあてると、

「傷...少し残ったな」

穏やかな三上の口調に、不破はますます「???」顔だった。今度は、三上は吹き出した。

「面白れーな、おめぇってヤツはよぉ」
「三上?」

三上に押さえつけられた身体を解放されたのに、不破はきょとんとしていて動かなかった。

「あーぁ、今日はさすがに疲れたから、これからゆっくり休むっていうのによぉ! 何、寝ぼけたこと言い出すんだか、おめぇは。 こっちは、明日からまた全国大会向けて練習なんだよ!まぁったく、負けちまったおめぇらは気楽でいい気なもんだなぁ!?」

いつも三上の悪態に、不破がようやくはっとする。そして、

「そうか...邪魔したな。では...」


――――― 頑張ろうな...三上...


「頑張れ」ではなく「頑張ろう」。その意味は...

不破は三上にくるりと背を向けると、武蔵野森の控え室へと歩いていった。
三上は、そんな不破の後ろ姿を見送ると、自分も出口へと歩き出した。


まだ『扉』は閉められていないのだ。


どこにも行くところはない 僕にはもうここにしかない
Nowhere to go now
....
信じるくらいいいだろう?



Fin



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あとがき

「Seventh Heaven」の続編です。
三上がさりげなく不破に迫っているような...その前に、不破の方が思わせぶりなんですよね。
ウチの不破は、そんなカンジが多いんです。だから、あちこちで誤解されまくってます。
いかんですな!(^^;

引用させて頂いたのは、B'Z の「信じるくらいいいだろう」。
B'Z ファンの圭大は、B'Z の曲を聞くと三上を連想します。
そんなカンジの曲が多いように思います。
稲葉さんと三上って、雰囲気似てるかも...(殴!...痛...ファンの方ごめんなさい...(;;) )

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