「じゃあ、また明日ね!」

口々に挨拶を交す。夕べから降り続いた雨上がってようやく夏の陽射しが戻るころだった。試合の道具を置きに一旦学校に戻ってきた桜上水のメンバーは、荷物を片付けると皆それぞれの帰路に着いた。

「不破くん!一緒に帰ろ!!」

風祭が笑顔で不破に近付いてきた。

「今日の試合、面白かったでしょ?」
「ふむ、まぁな...」

PKで勝利した桜上水。もちろん、皆の頑張りも凄かったが、最後にPKを止めた不破が今日のMVPを持っていったと高井が騒いでいた。そんな不破は、頭で考えるよりも身体が先に動いたことに驚いてた。第六感ってヤツが不思議で仕方ない不破は、皆の騒ぎも気にとめず、しっかり考察中だったのだ。

「不破くん、家に帰ってから考えた方がいいよ」
「何故?」
「だって...あっ!あぶない!!」

風祭の制止の声に、不破が反応するのが遅かった。不破はしっかり水溜まりに足を突っ込んでしまっていた。

「あ〜ぁ、だから『考察』は家に帰ってからゆっくりね!」

不破の面倒を何かとみている風祭は、自分達に向けられている視線に全く気付く気配がない。じっと見つめられている、痛いほどの視線に、だ。

水野は軽く溜息を吐く。

ようやく風祭と仲直りできたのに、風祭は相変わらず不破のことばかり気にしている。今日ぐらいは一緒に帰りたかったのに、できれば自分の家に呼んで一緒に夕飯でも食べたかったのに...。なのに、風祭は不破のことしか見ていない。一緒に帰ろうと、不破を誘っている。面倒を見ている。

――――― なんか...すごく面白くない...

「キレイな顔が台無しやでぇ?」

目の前にぬっとシゲが顔を覗いてきた。咄嗟に後ろに退く水野。

「なっ!?なんだよ!シゲ!!」
「せやから、眉間に皺寄せて...って自分の親父にそっくりやなぁ」
「なに!?」

むっとする水野に、シゲはけらけら笑っている。いつの間にか、そんな顔してたのか...水野はますます嫌そうな顔をした。そんな水野の耳元に、シゲはそっと口を近付けて囁いた。

「気持ちは、なぁんとなく分かるでぇ?」

驚いて目を見開く水野に、シゲがさらに言う。

「ってことで、条約成立!」
「なに?」

訳がわからない水野にシゲは軽く片目を閉じると、不破と風祭に近付いていった。

「あっ!シゲさん!!今日はお疲れ!また明日ね!!」

風祭はひらひらと手を振ると、不破の手を引っ張って行こうとした。その時だった。

「ちょい待ち!ポチ!!」

急にシゲに呼びとめられた。それも不破の片方の腕をしっかり抱えて。

「??????」

きょとんとする不破。それもそのはず。不破の右手は風祭にしっかり引かれていた。そして、左腕はシゲにしっかり抱えられてたからだ。

「シゲさん?」

風祭も不破以上にきょとんとする。不破のことをシゲと取り合いしているみたいで...。シゲはそんな二人をじっと見ながら、

「今日は不破、わいと一緒に帰るんやから!」
「へっ?」

シゲの一言にびっくりする風祭。不破も驚いている。

「『おごりでチャラ』って言うたやろ?せやから、今日行こかぁ!」

不破は「そうか...」と言って何か思い出したようだった。そう、今日の試合で、あわや入ったかと思ったボールを、シゲがオーバーヘッドでクリアしてくれたのだ。その時、

「借りができたな」
「おごりでチャラや!」

互いの手を叩き合ったことを、不破は思い出したのだ。

「シゲさん?」

風祭が何だか納得できない顔をした。確かにそうかもしれないけど...なんか、ヤダ。そんな顔する風祭に、シゲはにやりと笑うと、

「ええやろ?たまには!...ってことで、ポチはこっちの保護者と一緒に帰んなさい!!」

そう言って、シゲは水野のことを指差した。水野は、事の成り行きをじっと見ていたが、シゲに指差されて驚いた。 そしてシゲが何故急にこんなことを言い出したのか、自分の気持ちがしっかりシゲにバレていることに気が付いて、真っ赤になってしまった。

「水野くん??」

風祭が首を傾げる。

「シゲ...保護者って、俺はなぁ...」

真っ赤になりながらもシゲの好意に甘えそうになる水野。シゲはけらけら笑いながら、

「ってことでぇ!!」

不破の右手を風祭から引き離すと、シゲは不破を抱えて足早に去っていった。残されたのは、風祭と水野の二人だけ。 風祭がぽけっとしているので、水野は軽く息を吐くと、

「帰ろうか?風祭?」

風祭に話し掛けた。風祭もはっとして水野の方に振り返ると、

「うん!そうだね!!」

元気良く答えてくれた。水野は何だか凄く嬉しくなって、内心、シゲに感謝していた。


雨上がりの日曜日は、こうして終わっていった。


次の日。

相変わらず、不破の面倒をみている風祭。
やっぱ面白くない、と腕組みしながら二人を見つめている水野。

そんな昼休みの屋上に、シゲがふらりと現れた。

「シゲさん!休みかと思ったぁ!」

風祭がシゲに声をかける。どうやら、シゲは思いっきり遅刻してきたようだった。

「おい、シゲ!あんまり目立つ事するなよ!」

水野もしっかりシゲのことを怒るが、昨日の一件があるので、それほど強くは言わなかった。シゲはけろっとして、いつも定位置に寝転んだ。そして

「昨日はごっそさん!」

シゲが不破に話かけると、不破は「あぁ?」と生返事をした。その様子に風祭が気が付く。

「シゲさんに何おごってあげたの?」

何気なく聞いたのだが、不破は「???」顔だった。

「不破くん?」
「よくわからん」
「へっ?」
「あれが『おごり』というものなのか?違うような気がするのだが...」
「違うって...どうしたの?」
「ふむ」

不破は腕組みをすると、首を傾げながら話した。

「佐藤の手に目を塞がれて、60秒そのままでいろ、と言われた。 じっとしていたら、何か...口唇を柔らかいもので塞がれて、目も塞がれていたから、状況が全く理解できなかった。あれは何だったのだ、佐藤?」

不破が佐藤を見上げる。佐藤は屋根の庇の上で軽く欠伸をしながら、

「さぁねぇ?けど、なかなか美味しかったでぇ!」
「ふむ???」

シゲの答えに、ますます首を傾げる不破。
その様子を見ながら...真っ赤になっているのは水野と風祭。

「シゲ...おまえってヤツは...」

だが次の瞬間、呆れて喋ることができない水野の耳に聞こえてきたのは、風祭の叫び声。

「不破くんは絶対ダメ!!」

あまりの大声にびっくりする不破。
水野も驚いて、手に持っていた本を落とす。

「風祭...?」

皆一斉に風祭の方をみる。風祭はそんな周囲の様子に臆せず再び叫んだ。

「シゲさん、ずるい!!不破くんが何も知らないからって...僕が...僕が...」


――――― 最初に☆☆したかったのにぃ!!


雨上がりの次の日は...予想はずれの大荒れ模様になった。





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あとがき

締まりの無い話になってしまいましたが、本編にあるシゲの「おごりでチャラや」ってセリフが 妙に引っかかってまして...それに、オーバヘッドでクリアするシーンの、不破とシゲのツーショットは 結構いいですよね。惹かれますよね。互いの手をぱしっと叩き合うシーンもなかなか...。
う〜ん、圭大にとって、シゲ×不破の原点ってここのシーンだったのかも...
水野、結局告白せずに失恋か?
まぁ、仕方ありませんね。将は最初から不破くんしか見ていませんから。
でも、水野もこれに懲りずに巻き返しを計っていただきたいものです。(^^;

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