伝わらぬ想い
2月の夜空は、星が綺麗だ。
空気が凍り付くほど澄み渡っているせいだろう。
冴え冴えとしたその美しさに、寒さなど忘れて思わず見とれてしまう。
そう、今の君のように...見つめてしまう...
窓の外をぼんやり見つめている不破。
夜空の星は綺麗だが、不破の横顔の方が遙かに綺麗だと、渋沢は思った。
何を考えているのだろう...?
不破の横に立ちながら、渋沢は不破の横顔を盗み見ている。
今更ながらに、あの男のした事が許せない。
やはり殴ってやりたかった。例え、今回の大会を棒に振ってでも、だ。
渋沢は、セレモニー終了後、監督やコーチとの打ち合わせに呼び出された。
せっかく不破との同室に、心躍らせている渋沢である。
早く部屋に戻りたかったが、さすが渋沢、そんな表情を見せずに打ち合わせを一通り終えた。
しかし終われば、全力疾走で部屋へと戻った。渋沢にとって、天に願いが通じたのかと思えた部屋割りだった。
愛しい彼と同じ部屋になって、渋沢は内心ガッツポーズしまくりだったのだ。
しかし。
セレモニーが行われる中、あの男の存在に気が付いてしまった。
こっそり藤代に訊ねてみれば、彼は関西選抜の藤村茂樹と名乗っていると教えてもらった。
さらに、水野が、彼の父親は京都の老舗の大旦那らしく、彼の母親はその愛人だと、教えてくれた。
藤村の姓を名乗っているところから、どうやら彼は父親の家に入り、そのまま関西選抜にも入ったようだ。
複雑な家庭事情の持ち主だ。渋沢が彼に感じていた異質な印象は、どうやらそこから来ていたようだ。
セレモニー中、あの男は欠伸をしたり居眠りをしたりと、相変わらずの不真面目ぶりだった。
それでも、どこか今までと違う印象があると渋沢は思った。何かがふっきれたような飄々とした印象。
渋沢にとって、かえって今の彼の方が厄介な印象だった。
そう、厄介な...ヤツだと思った。
時折、不破に投げかけてくる彼の視線が、全くもって厄介だった。
不破は気が付いているのか、彼の視線をわざと外すような仕草をする。
それだけ、不破が彼を意識しているのが、渋沢には分かった。
机の下で、渋沢は握り拳を握りしめる。
あの男にだけは絶対負けたくない...負けられない。
全力疾走で戻った渋沢の視界に飛び込んできたのは、あの男にキスされている愛しい彼。
部屋のドアに押さえつけられて、身動きできないようにされて、不破はあの男にキスされていたのだ。
頭に血が上った。辿り着いた途端、渋沢はあの男に殴りかかったのだ。
だが、それを不破が止めた。懸命にかむりを振って。あの時、不破が泣き出しそうに見えた。
あれは、渋沢をとめたかったのだろうか? それとも、あの男を庇ったのだろうか?
咄嗟に、渋沢は不破の身体を抱きしめていた。
こんなに愛おしいと思っているのに、不破に自分の想いは伝わらない。
不破は自分の事など見ていない。ただ、ひたすら、あの男のことだけを見ている。
自分の腕の中に抱かれながらも。
「星が綺麗だね...」
渋沢が不破に呟いた。不破は「あぁ、そうだな。」と単調に答えた。会話は呆気なく途切れてしまう。
溜息を吐く渋沢。不破の心は閉ざされたままだ。だが、その時、不破が渋沢を見上げてきた。
「さっきはありがとう、渋沢。」
「えっ?」
「すまなかった。」
不破はじっと渋沢を見つめている。その瞳に、渋沢の心臓が高鳴り出す。一瞬、返答に困っていると、また不破が口を開いた。
「どこから...見ていた?」
「えっ?どこって...」
不破が口籠もる。頬がほんの少し紅くなる。
「キス...からか?」
「!!」
渋沢が目を見開く。「キスから」とは?それより前に...さらに何かあったのか!?
「気持ち悪いと思うだろう?渋沢...」
「不破くん...?」
「オレは...」
不破が両腕で自分の身体を抱きしめる。
「アイツと、触れ合ったり、抱き合ったり...キスしてたりしている。それも...いつも、だ。」
「!!」
「軽蔑するか?渋沢...」
俯いた不破の肩が震えている。思わず抱きしめたくなる思いを、渋沢は必死に堪える。
「アイツは、オレを好きだと言った。信じてほしいと言った。その言葉に嘘はないと思う。だが...アイツは大切なことは、何一つ教えてくれない。」
「...」
「今回の選抜のことだってそうだ。いつも、アイツは一人で抱え込んで...オレには何も話してくれない。その程度の関係にも関わらず、オレはアイツと抱き合ったりキスしたりしている。」
不破が深い溜息を吐いた。
「オレには...アイツが分からない...」
「不破くん...?」
「オレは、どうかしている...何かが狂っている...オレは...渋沢!?」
それ以上は聞きたくなかった。渋沢は咄嗟に、不破の身体を後ろから抱きしめた。
抱きしめながら、渋沢は不破に必死に言い続ける。
「大丈夫だよ、もう心配しなくていいよ、俺が守ってあげるから...だから、もう悩むことない、彼のことは忘れたほうがいい。」
「渋沢?」
「彼のことで不破くんが傷つく必要はない。」
「...」
「だから、ね?もう、彼とは離れた方がいい。」
「渋沢...」
抱きしめる腕の力を少しだけ強くすると、不破の華奢な身体がより小さくなったように感じられて、渋沢はこのまま時間が止まれば良いと思った。
こうして手を伸ばせば届く相手なのに、この想いは届かない。彼には...伝わらない。
不破がふっと息を吐いた。
「渋沢の腕はさすがに大きいな。」
「うん、『象』だからね。」
藤代によくからかわれて言われる呼び名。GKをしている渋沢は、『象』そのものだと言われている。
それに、不破がようやく笑った。微かだったが、微笑んでくれた。
「渋沢の腕の中は...心地よくて暖かい。とても気持ちいいな...」
「不破くん...」
「渋沢、すまない...ありがとう。」
「うん、どういたしまして。」
渋沢も笑った。不破に礼を言われて、渋沢はほんの少しだけ嬉しかった。
このまま、不破が自分のそばにいてくれたらと思った。
けれど、渋沢は気が付いている。不破は決して自分のそばにいてくれないことに。
そう、不破は...あの男を忘れないだろうから。
でも、いつか、必ず、忘れさせてみせる。いつか、きっと...
この想いはまだ...伝わらない
FIN
あとがき
途中、裏に行きそうになりましたが、やっぱり止めちゃいました(なんで?)
単純に、体力が限界に来たからです。(殴)
さすがに4作品(「....想い」シリーズってところでしょうか?)を一晩で書き上げようとするのは至難の技でした。
でも、結局、書いちゃった。でもって、しばらくすると恥ずかしくなるんですよね、しかも更新した後に...滅茶苦茶、反省します。
書かなきゃ良かった、とか、ここの表現がヘンだった、とか、このストーリの流れはこっちの方が良かった...等々。
何事もじっくりやり直す時間が欲しいです。書く時間とか、本を読む時間とか、勉強する時間とか...駄文の領域を出られず四苦八苦してます。
裏になりそうだったネタは、少し「充電」したら、これの枝分かれ作品ってことで書いちゃおうかな?なんて計画してます。
渋沢、不破と初のXXX!!とか...なぁんて、無謀な計画かもしれません(汗)
でも、いい加減、幸せにしてあげたい渋沢です。近頃、シゲしか幸せになってないし...