雨は夜更け過ぎに
雪へと変わるだろう

Silent night, Holy night

きっと君は来ない
ひとりきりのクリスマス・イブ

Silent night, Holy nigh



「おい」
「えぇっ!?」

背後から声をかけたせいだろうが、そこまで驚かなくても良かろうが...思わず、深い溜息を吐くと、

「来てきれるなんて...思ってなかったから」

彼の綺麗な顔が、今にも泣きそうな顔になったので、オレは何故か、じたばたと慌ててしまった。
そのオレの様子に、彼は満足したらしく、いつもの晴れやかな笑顔で、オレの腕を掴んできた。

「じゃあ、行こうか」
「む?」

彼の歩き出す方向には、如何にも高価そうなホテル。到底、中学生レベルで過ごすクリスマスとは思えない。

「おまえ...」
「ん?」

其れ以上、言えなかったが、自然と足が重くなる。そんなオレを引っぱりながら、彼が呟く。

「やっぱ、オレじゃ、嫌?」
「!?」

そうではない、そう言いたかった・・・オレの足は、すでに歩くことを放棄していた。彼の深い溜息が、耳を貫く。
オレも同じように、溜息を漏らして、彼の耳元に囁いた。

「分相応...知っているな?」
「えっ?」

彼が、オレを見上げる。オレよりも、まだ身長が低い彼。それでも、ムリをして、オレより身長を高く見せようとして、ヒールの高いブーツを履いていた彼。

「オレには、高価なものなど似合わん」
「...」
「むしろ、おまえが高価過ぎて、オレには似合わないのかもしれないが...」
「そんなことない!!!」

彼は即答だった。その言葉にウソはない、だから、オレは...微笑んだ。そして、

「オレの家であれば...」
「へっ?」

オレが指差す方向には、町角で、無名メーカのクリスマスケーキを特価で販売している、賑やかな連中がいる。
その前を、素通りする人、立ち止まって考えている人、クリスマスイブの夜の街は、人通りが多くて賑やかだった。
それにもまして、街角のクリスマス・トゥリーが銀色にきらめいて、イルミネーションは眩いばかりだ。

「オレの家なら、乙女があれを買ってきて、四等分にする。だが、じぃさんも親父も食わないから、結局、乙女と二人で、半分ずつ食べるのだ」
「...」
「しかも、美味しくもないサンタの形をした砂糖菓子やら、メリークリスマスと書かれたチョコレートのプレートとか、どっかりのせられて、それを全部、食べるの見届けるまで、乙女が目の前に座って、にこにこ笑っているのだ」
「ぷっ...らしいね」

彼が、くすくす笑った。

「他はいつもと変わらんのに、それだけが...違っていたな」

街頭のクリスマスケーキは、まだまだ売れ残っていた。

「じゃあ、あれ、買ってく?」
「まさか...第一、このホテルには、あのような物は必要なかろう?」
「それは、そうだけど...でも、これがなかった、オレ達も、そーなってたんじゃないのか?」

彼が苦笑いしながら、手にしたのは、ホテルの予約券。都内でも有名なこのホテルは、恋人たちがクリスマスを過ごしたいホテルとして、必ず名前があげられるホテルだ。それが、中学生がこれを手に出来たのは...ちょっと、ややこしい事情があったからだ。そう、本当に、ややこしい。

元はと言えば、彼の叔母が、自分の彼氏と予約したのだ。しかし、それを仕事でキャンセルされたと言っているが、実のところは、ふられたらしい。頭に来た彼女は、妹に其れを与えようとしたが、彼女もすでに他に予約済み。それじゃあって事で、彼の母親に、親子水入らずで行ってこい、と渡されたが、今度は、彼の母が友人達と別の食事会に誘われていた。しかも、その友人達の中に、もしかしたら、彼の母親の再婚相手が混じっているらしいとの情報もあって、彼自身は、心中複雑で、何とも耐え難い。

たった一人で、クリスマスを家で過ごすのはイヤだった。だからといって、この高級ホテルの、ディナー&スイートルームのチケットを無駄にするのも癪である。さてどうしたものか...彼はダメ元で、思い切って、今、目の前に立つ、無表情な男に声をかけたのだった。

きっと来ないだろうな...そう思っていたのに。
だから、彼はいつもよりも大きく息を弾ませながら、楽しそうに笑うのだった。

来てくれた、それだけで嬉しそうに、笑っている。

「それとも」
「ん?」
「プレゼントがわりに買っても良いが」
「へっ?」
「招待をうけたのにも関わらず、オレは手ぶらだぞ」
「そ、そんなの関係ないさっ!」
「むっ?」
「...来てくれただけでも...一緒に過ごせるだけでも嬉しいんだよ、オレは!」

いつもはヘタレ気味の彼が、今夜は自信に満ち溢れている。


多分それは、この聖なる夜のせいっであろう。


「そろそろ、行こう」
「あぁ、そうだな」

二人揃って歩き出す。不思議な光景だった。まさか今夜、彼と此処で過ごすことになるとは。



叶えられそうにない、心深く秘めた互いの想いも、今夜なら言えそうな、そんな気がした。



Silent night, Holy night....




おしまい(強制終了)

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とっくに新年を迎えているのに...年末年始に色々なことがありすぎて、中途半端にしていたものを強引に書き上げました。
まだ、クリスマスものは、あと、もう1本。新年&誕生日ものは...書き上げられるかなぁ。


date:2003.01.05


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