|
「おつかれさん!」 「功兄!」 自宅近くの駅に降り立った風祭将は、迎えにきていた兄、風祭功の姿をみつけて走り寄った。 「どうしたの? 迎えに来てくれるなんて...」 「ん? 丁度、帰る時間だったからさ、ついで、おまえを乗せて行こうかな?って思い付いたんだよ。」 「へぇ〜、それにしても、グットタイミングだったね!」 風祭はけらけら笑うと、ロータリーに停めてあった兄の車に飛び乗った。 「う〜、寒かったぁ!」 兄も車に乗り込むと、「雪が降るかもか?」そう言って、アクセルを踏み込んだ。 「えっ!? 雪!? ホント!!」 「今朝の天気予報では、そう言ってたからな。」 「ふ〜ん...」 「ところで、今日の試合はどうだった?」 「うん! 2−0で快勝だよ!」 「おまえは?」 「えっ...へへへ...今日は出番がありませんでした。」 「そうか...やっぱり、全国レベルの人達が大勢集まってるからな...」 「うん、それでも、藤代くんは凄かったよ。ボクも早く試合に出られるように頑張らないと!!」 助手席で楽しそうに語る弟の嬉しそうな顔を見るたびに、兄は自分の気持ちも明るくなるようで楽しかった。 日ごと、逞しく成長していく弟をみながら、兄はそんな弟を誇らしいと思う。 けれど、自分から離れていくのが寂しくて、少しだけ複雑な心境だった。 「今日だっけ? 水野くんが帰ってくるのは?」 何気なく別な話題に変えると、風祭はさらに嬉しそうな顔をした。 「うん! 水野くんのお母さんがわざわざ電話で教えてくれたからね! 明日にでも...連絡してみるよ!」 車が繁華街を通り抜け住宅街に差し掛かると、途端に辺りは華々しいネオンが影を顰めて、家の灯りだけになる。 寂しいげな感じもするが、それでもどこかほっとする灯りだ。 風祭が、移り変わる窓の景色をぼんやり見つめていると、 「今日は、XXX予備校の全国模試だったんだって?」 「へっ?」 突然、功兄に話しかけられて、風祭は驚いて慌てふためく。 それほど、びっくりするほどでもないだろうに...何を考えていたのか? 誰を...思い出していたのか? 功兄はくすくす笑いながら、「台所のデーブルの上に申し込み用紙があったからさ。」と言った。 「あっ! そうか! どうせ、試合があるから、必要ないと思って、置きっぱなしにしちゃったんだよね!」 風祭が笑いながら答えると、功兄がふと呟いた。 「今朝、偶然、小島さんと...不破くんを見かけたからさ...」 「えっ!?」 また驚いている弟の顔を横目でみながら、功兄はハンドルを右へと回し、さらに喋り続ける。 「二人で駅に向かって歩いているのが見えたから、おやおや、受験生でも息抜きが必要かな?...つまりデートかな? なぁんて、考えてたら、あとから高井くんや森長くんが歩いてくるのも見えたんで、あっそうか!って気がついたんだよ、」 「...」 「大変だな、皆...って、おまえはどうなんだ? 将?」 「へっ!? ボクは...ぼちぼちってトコかな?」 「...まぁ、頑張れよ...」 「うん...」 車がマンションの前の駐車場に着くと、功兄は手際良くバックして車を止めた。 エンジンを切ると同時に、風祭が「ありがと!功兄!!」と元気良く挨拶して、車を降りた。 功兄も車から降りてロックをかけてると、風祭はあっという間にマンションの一室へと走っていった。 「将?」 弟の様子に、少し怪訝そうな顔をする。 不破くんの...話をしたのが、まずかったかな? 功兄は、微かに眉間に皺を寄せる。 大切な弟が、誰を想っているのか、気付かない功兄ではない。 出来れば、その想いを叶えさせてやりたいと思うが...相手が悪すぎる。 功兄は軽く溜息を吐くと、自分も将の後を追いかけるように、部屋へと歩き出した。 ばたん! 玄関を勢い良く閉めると、風祭は自室へと入り込む。 留守だった部屋は寒々としていて、風祭は慌ててエアコンのスイッチを入れた。 程なく、暖かい風が吹いてきて、凍えていた部屋を暖めはじめる。 ふぅ... 風祭が大きな溜息を吐く。 肩に下げていた大きなカバンを床に降ろすと、その中から携帯電話を取りだした。 声が聞きたい、と思った。 不破が有希と付き合うことに、賛成したのは風祭だ。 その方が、不破にとって良い事だ、自然な事なのだ、と自分に言い聞かせながら、不破と有希の仲を取り持つようなことをしたのだった。 なのに...いざ、二人の仲が上手くいってしまうと、途端に、寂しくなった。苦しくなった。 仲良く二人でいるところを、見たくなかった。不破が有希に微笑みかける顔を見たくなかった。 矛盾していると思う。 けれども、それが本当に自分の気持ちだった。 自分だって、不破のことが... 「あっ...」 ふと、風祭は窓の外に目を移して、小さな驚きの声を上げた。 雪が降っている。 今年最初の雪だ。 真っ白い粉雪が、静かに舞い降りている。 風祭は携帯を手にしたまま、窓際に歩み寄ると、そっと窓を開けた。 外は寒かったが、暗闇の、家々の明かりに照らされた、粉雪がこぼれ落ちてくるのをじっと見ていた。 逢いたい... 声だけじゃない。 直接、君に逢いたい。 逢って...君に触れたい。 風祭の笑顔の真相が知りたくて、サッカーを始めた不破。 その真相は、不破は知ることが出来たのだろうか? 出来れば、知って欲しくない。 だって、そうすれば...君はいつまでもボクのそばにいてくれるだろう? 粉雪は、次第に、辺り一面を白く覆い始めている。 風祭は不破へと電話をかける。 軽快な着信音が耳朶をうつ。 目を閉じそっと、それを数える。1回、2回、3回.......音が途絶えた。 彼が電話を受け取った瞬間。 風祭の心臓が一気に跳ね上がる。 「もしもし、不破ですが....」 声が聞こえる。 彼の声だ。 「もしもし、不破くん? 風祭だけど...」 「風祭か?」 彼の名を呼んだ。 彼の声が、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。 ねぇ、ボク達は、きっと元は一つだったんだよ。 そうでなければ、キミはボクに気づかなかったし、ボクはキミのことを...こんなに好きにならなかった。 だから、平気なハズないじゃないか? キミに触れる以上に大切な事を、ボクは思いつかないよ だから....キミに逢いたい、逢いたくて逢いたくて... ねぇ、そうだろ? キミだって...そうだよね? ボクはそう信じたい。信じたいんだよ...。 どうか...信じさせて下さい... キミに、この声が届きますように... ☆ ―――――――――― ☆ |