ヴォイス
〜 ACT4 : KAZAMATURI SIDE 〜




「おつかれさん!」
「功兄!」

自宅近くの駅に降り立った風祭将は、迎えにきていた兄、風祭功の姿をみつけて走り寄った。

「どうしたの? 迎えに来てくれるなんて...」
「ん? 丁度、帰る時間だったからさ、ついで、おまえを乗せて行こうかな?って思い付いたんだよ。」
「へぇ〜、それにしても、グットタイミングだったね!」

風祭はけらけら笑うと、ロータリーに停めてあった兄の車に飛び乗った。

「う〜、寒かったぁ!」

兄も車に乗り込むと、「雪が降るかもか?」そう言って、アクセルを踏み込んだ。

「えっ!? 雪!? ホント!!」
「今朝の天気予報では、そう言ってたからな。」
「ふ〜ん...」
「ところで、今日の試合はどうだった?」
「うん! 2−0で快勝だよ!」
「おまえは?」
「えっ...へへへ...今日は出番がありませんでした。」
「そうか...やっぱり、全国レベルの人達が大勢集まってるからな...」
「うん、それでも、藤代くんは凄かったよ。ボクも早く試合に出られるように頑張らないと!!」

助手席で楽しそうに語る弟の嬉しそうな顔を見るたびに、兄は自分の気持ちも明るくなるようで楽しかった。
日ごと、逞しく成長していく弟をみながら、兄はそんな弟を誇らしいと思う。
けれど、自分から離れていくのが寂しくて、少しだけ複雑な心境だった。

「今日だっけ? 水野くんが帰ってくるのは?」

何気なく別な話題に変えると、風祭はさらに嬉しそうな顔をした。

「うん! 水野くんのお母さんがわざわざ電話で教えてくれたからね! 明日にでも...連絡してみるよ!」

車が繁華街を通り抜け住宅街に差し掛かると、途端に辺りは華々しいネオンが影を顰めて、家の灯りだけになる。
寂しいげな感じもするが、それでもどこかほっとする灯りだ。
風祭が、移り変わる窓の景色をぼんやり見つめていると、

「今日は、XXX予備校の全国模試だったんだって?」
「へっ?」

突然、功兄に話しかけられて、風祭は驚いて慌てふためく。
それほど、びっくりするほどでもないだろうに...何を考えていたのか? 誰を...思い出していたのか?
功兄はくすくす笑いながら、「台所のデーブルの上に申し込み用紙があったからさ。」と言った。

「あっ! そうか! どうせ、試合があるから、必要ないと思って、置きっぱなしにしちゃったんだよね!」

風祭が笑いながら答えると、功兄がふと呟いた。

「今朝、偶然、小島さんと...不破くんを見かけたからさ...」
「えっ!?」

また驚いている弟の顔を横目でみながら、功兄はハンドルを右へと回し、さらに喋り続ける。

「二人で駅に向かって歩いているのが見えたから、おやおや、受験生でも息抜きが必要かな?...つまりデートかな?
 なぁんて、考えてたら、あとから高井くんや森長くんが歩いてくるのも見えたんで、あっそうか!って気がついたんだよ、」
「...」
「大変だな、皆...って、おまえはどうなんだ? 将?」
「へっ!? ボクは...ぼちぼちってトコかな?」
「...まぁ、頑張れよ...」
「うん...」

車がマンションの前の駐車場に着くと、功兄は手際良くバックして車を止めた。
エンジンを切ると同時に、風祭が「ありがと!功兄!!」と元気良く挨拶して、車を降りた。
功兄も車から降りてロックをかけてると、風祭はあっという間にマンションの一室へと走っていった。

「将?」

弟の様子に、少し怪訝そうな顔をする。

不破くんの...話をしたのが、まずかったかな?

功兄は、微かに眉間に皺を寄せる。
大切な弟が、誰を想っているのか、気付かない功兄ではない。
出来れば、その想いを叶えさせてやりたいと思うが...相手が悪すぎる。
功兄は軽く溜息を吐くと、自分も将の後を追いかけるように、部屋へと歩き出した。

ばたん!

玄関を勢い良く閉めると、風祭は自室へと入り込む。
留守だった部屋は寒々としていて、風祭は慌ててエアコンのスイッチを入れた。
程なく、暖かい風が吹いてきて、凍えていた部屋を暖めはじめる。

ふぅ...

風祭が大きな溜息を吐く。
肩に下げていた大きなカバンを床に降ろすと、その中から携帯電話を取りだした。


声が聞きたい、と思った。


不破が有希と付き合うことに、賛成したのは風祭だ。
その方が、不破にとって良い事だ、自然な事なのだ、と自分に言い聞かせながら、不破と有希の仲を取り持つようなことをしたのだった。

なのに...いざ、二人の仲が上手くいってしまうと、途端に、寂しくなった。苦しくなった。
仲良く二人でいるところを、見たくなかった。不破が有希に微笑みかける顔を見たくなかった。

矛盾していると思う。
けれども、それが本当に自分の気持ちだった。

自分だって、不破のことが...


「あっ...」

ふと、風祭は窓の外に目を移して、小さな驚きの声を上げた。

雪が降っている。
今年最初の雪だ。

真っ白い粉雪が、静かに舞い降りている。

風祭は携帯を手にしたまま、窓際に歩み寄ると、そっと窓を開けた。
外は寒かったが、暗闇の、家々の明かりに照らされた、粉雪がこぼれ落ちてくるのをじっと見ていた。


逢いたい...


声だけじゃない。
直接、君に逢いたい。
逢って...君に触れたい。


風祭の笑顔の真相が知りたくて、サッカーを始めた不破。

その真相は、不破は知ることが出来たのだろうか?

出来れば、知って欲しくない。
だって、そうすれば...君はいつまでもボクのそばにいてくれるだろう?

粉雪は、次第に、辺り一面を白く覆い始めている。

風祭は不破へと電話をかける。
軽快な着信音が耳朶をうつ。

目を閉じそっと、それを数える。1回、2回、3回.......音が途絶えた。

彼が電話を受け取った瞬間。

風祭の心臓が一気に跳ね上がる。


「もしもし、不破ですが....」


声が聞こえる。

彼の声だ。


「もしもし、不破くん? 風祭だけど...」
「風祭か?」

彼の名を呼んだ。
彼の声が、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。


ねぇ、ボク達は、きっと元は一つだったんだよ。
そうでなければ、キミはボクに気づかなかったし、ボクはキミのことを...こんなに好きにならなかった。

だから、平気なハズないじゃないか?

キミに触れる以上に大切な事を、ボクは思いつかないよ
だから....キミに逢いたい、逢いたくて逢いたくて...


ねぇ、そうだろ? キミだって...そうだよね?


ボクはそう信じたい。信じたいんだよ...。

どうか...信じさせて下さい...

キミに、この声が届きますように...



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