FUWA>明日の午後は練習が休みだ。三上の練習はどうなのだ?
AKIRA>オレは練習がある。5時には終わる。

レスポンスなし。しばしの沈黙。

AKIRA>おい?不破、どーしたんだ?寝たのか?
FUWA>明日、会えるか?武蔵野森へ行って良いのか?

再び、沈黙。返事がない。

AKIRA>6時におまえの家に行く。
FUWA>武蔵野森ではないのか?
AKIRA>どーせ、おまえの家に行くんだから、こっちで待ち合わせしなくたっていいだろーが。
FUWA>わかった。では、6時に待っている。
AKIRA>眠くなった。もう、寝る。
FUWA>わかった。では、明日。
AKIRA>ああ、またな。


回線切断。チャット終了。テキトーに片付けて、パソコンをシャットダウン。
そして...軽く溜息。何気なく、頭をがりがり掻く。困った事、考え事をするときの三上のクセだった。
三上は、何を困っているのか?何を考えているのか?それは...。

「あれ?三上、まだ起きていたのか?」

がちゃりと部屋のドアが開いて、同室の渋沢が入って来た。監督やコーチとの打ち合わせが終わったらしい。

「あぁ、お帰り。」

三上は面倒くさそうに返事する。だが、三上の胸中は複雑で、少しだけ動揺していた。
渋沢の留守中に、不破と連絡を取り合っていた三上。
隠れてコソコソするのは性に合わないが、さすがに今回の事は、三上でも言いづらい。
渋沢が自分の机に座って、打ち合わせに使った資料を整理している。
それを、頬杖つきながら、三上はぼんやりと見ていた。渋沢が三上の視線に気がついた。

「何だ?どうした?三上?」

渋沢にこちらを向かれて、ちょっとだけ眉をひそめた。

「べつにー?」

素っ気なく答える。三上の態度に渋沢は苦笑いしながらも、「誰かとチャットしてたのか?」と訊いてきた。
「へっ?」少し驚く三上に、渋沢が三上の目の前にあるパソコンのモニタをちらりと覗く。
モニタの画面には「電源を切断して下さい」のメッセージが表示されていたままだった。
「あぁ、まーね。」それに気がついた三上はパソコンの電源を切ると、また頭をがりがり掻く。
三上のクセを知っている渋沢が、また笑う。そして意地悪く訊いてくる。

「相手は誰?」
「....」

三上からの返事がない。というよりは、返事が出来ないだけだ。
まさか相手が渋沢の想い人、不破大地だとは、さすがの三上も即答出来ない。
そして、渋沢にしてみれば何気なく訊いただけで、よもや親友に自分の想い人を奪われたなどと知る由もない。
返事のない三上に、また笑いかける渋沢。

「何かと忙しいな、三上は。」

と、嫌みにならない程度のフォローをする。
同じ年とは思えないほど、大人びている渋沢。三上とは、ある意味正反対な性格だ。
机の上を整理している渋沢を横目に、三上はイスから立ち上がってごろりとベットの上に寝転がる。

「寝るのか?」

渋沢が三上を振り返る。三上は軽く欠伸をしながら「あぁ」と生返事をした。
すると、渋沢が思わぬ事を言いだした。

「オレ、明日の夜、外泊するから。」
「へっ?」

眠ろうとしてた三上が、ぱちくりを目を開けて渋沢を見上げた。

「明後日の土曜日、親戚の結婚式があるんだよ。家族揃って呼ばれてね。場所が静岡でちょっと遠いから、明日の金曜日、練習が終わってから実家に帰ることにしたんだ。」
「ふ〜ん...」
「ってことで、明日の夜は残念だが、諦めてくれ。」
「へっ!?」

ぎょっとする三上の顔を見て、渋沢がくすりと笑う。

「明日の晩は、悪いが抜け出せないから。」
「....」
「三上は外泊許可取ってないんだろ?」

今度はにやにや笑う渋沢。週末になると、三上はこっそり何処かへ行ってしまう。
渋沢はいつも、その手伝いをしている。だが、明日の夜は、誤魔化してくれる渋沢がいない。
そういうことか...三上は、寝ながら頭をがりがり掻く。

「残念だった。ま、たまには大人しくしてろよ。」
「....」
「相手にはちゃんと言っておいた方がいいぞ、三上。」

渋沢は軽く笑い声を上げると、くるりとまた机に向かって資料の整理を始めた。
全く気がついていない渋沢。彼は、単純に三上に外泊できないと釘をさしただけで、相手が何処の誰かだなんて気にもとめていないようだった。そりゃそうだ。まさか、三上の相手が、自分の想い人だなんて想像もつかないだろう。

(まいったね、どーも...)

三上が軽く溜息を吐く。
先週末、気まぐれに付き合ってみようとした、同級生の女子とは会わなかった。つまり、彼女との約束をすっぽかした。どうやら、それを渋沢は知っているらしい。だが、どうしてすっぽかしたのかまでは、渋沢も知らない。野暮な詮索はしないヤツだ。ほっとしたが、三上は何処か落ち着かない。かえって、言い出すきっかけが無いからだ。
偶然、不破に出会って、すったもんだの出来事に巻き込まれて、その挙げ句...やっちゃいましたから。
だからと言って、成り行き上だとか、ちょっとした悪ふざけ、ではない。
そう、互いに...好きだったということ。つまり。

相思相愛

思わず枕に突っ伏してしまう三上。
なんてこった。こんな自分が無性に照れくさい。恥ずかしがっている自分に腹が立つ。
なんでこんな事になったんだ? けど、自分が不破に惹かれていることは事実だし、不破も自分のことを好きだったのは事実だ。男同士という問題を除けば、付き合うことに何の支障もない。

しかし、だ。

一番の問題は、三上の目の前にいるヤツ。渋沢に、いつかは伝えなければいけない事実だが、渋沢はどう思うだろうか?
冷静に受け止めてくれるだろうか? 多分...無理だよな。いくら同意の上とはいえ、親友の想い人だと知っていながら、だからな。いい子ぶるワケではいが、やはり気後れする。結局、この一週間、悶々と考えて、今日に至る。

「三上?どうした具合でも悪いのか?」

はっとして顔をあげると、三上を見下ろすように渋沢がベットサイドに立っていた。

「いや、べつに...」

渋沢の顔をまともに見れなくて、目を逸らす。渋沢は不思議そうな顔をしていたが、それ以上訊いてこなかった。

(別に悪いことしてるワケじゃねーんだけどな。)

三上は寝返りをうって、渋沢に背を向ける。不破は渋沢の想いを知らない。つまり、渋沢と不破の間には何もない。
だから、三上は堂々としていれば良いのだが、それでも、渋沢からすれば横取りされた形になるだろう。

(けどよ、早く言ってやらねぇと、いくらなんでも可哀相だよな...)

心の中で渋沢に手を合わせる三上。自分でも気付かなかった、自分の意外な一面に気がつく。
自分がこれ程、一人の人間に執着できるということを。これ程...人を好きになるということを。



金曜日。PM4:45。夕立にも似た突然の大雨に、武蔵野森サッカー部の練習は定刻より早めに終了した。
渋沢は「あとはヨロシク」と一言告げると、さっさと帰り支度をして寮を出ていってしまった。

結局、渋沢に不破のことを言えなかった三上。これから不破に会うというのに、何となく気が重い。だが、それでも一週間ぶりに会えるのは、やはりウレシイような気がする。三上はそそくさとシャワーを浴びてさっぱりすると、不破の家へ行く準備を始めた。今夜は渋沢がいないから、門限までには帰寮しなければならない。三上はふと思いつく。なんなら、此処に不破を呼んでしまおうか、と。咄嗟に首を横に激しく振る。そんなヤバイこと絶対出来ない! 特大の溜息を一つ吐くと、三上はミネラルウオータを取り出そうと冷蔵庫を開けた。

(あれっ?ねーじゃん!?)

どうやら、昨晩で、買い置きは全て飲んでしまったようだった。仕方なく、三上は寮の玄関脇にある自販機まで買いに行く。まだ、時間はあるから、もう少しのんびり出来る。自販機で目的のものを買うと、何気なく外を見た。先程の雨はすっかり上がって、夏の日差しが顔を覗かせている。外気は、夕涼みどころか、かえって蒸し暑くなっているようだった。
ペットボトルの封を切り、ごくっと一口飲み込む。喉の乾きが一瞬だけ潤される。ふっと息を吐いた次の瞬間、三上は視界の片隅に見覚えのある人影が立っていることに気がついた。咄嗟にその方向に振り向くと、其処にいたのは、やはり...

「不破!?」

大きな声を出してしまった。声を出してから、はっとして辺りを伺う。幸いロビーには誰もいない。
不破は、ガラス張りの玄関外、庇の下に入って、壁に寄りかかりながら立っている。
三上からは後ろ向きだが、不破がラジオを聞きながら、そこに居るのがよく見えた。

ガラスのドアは少し重たいが、三上がそれを勢い良く開けると、不破は閉じていた目を開けて、出てきた三上を見た。
耳にしていたイヤホンをはずす。顔を三上に向けて、少しだけ...微笑んだようだった。
そして、「よく気がついたな」と一言呟いた。不破がどことなく嬉しそうに見えるのは、三上もそう思っているせいか?
だが、「なんで、此処にいるんだよ!おめーは!」と、三上の口は相変わらず素直でなない。
不破は軽く首を傾げると、一気に話し始めた。

「今日は部活の練習がなかったので、久しぶりに『はとこ』の家に遊びに行ったのだ。家は、武蔵野森のすぐ近くだったから、今まで其処にいた。そろそろ練習が終わって三上が寮を出る頃だと思ったから、此処で待っていたのだ。」

一呼吸で話し終えると、不破は軽く目を伏せた。

「迷惑だったか?」

鋭い眼光のない不破の瞳は、どことなく憂いを帯びている。三上を怒らせてしまったと思っているようだった。
三上は軽く溜息を吐くと、不破の髪をくしゃりと撫でた。ぱっと不破は顔を上げると、三上をじっと見つめてくる。
睨んでいるような、けれども、いつも不破の瞳ではない。惚れた弱味か?三上には、何となく可愛いらしいカンジがする。
くすりと笑って、三上は咄嗟に、はっとする。玄関脇の階段から数人が大声で話しながら降りてくるのに気がついたからだ。
三上は不破の腕を引っ張ると、そのまま有無を言わさず、自室へと不破を連行した。不破は不思議そうな顔をしながらも、何も喋らず三上に従う。自室へ不破を連れ込んで、三上はじっと廊下の気配を伺っている。どうやら、誰にも気付かれなかったようだった。ほっと息を吐く三上。そんな三上の顔を、不破がぐいっと覗き込んだ。

「何を慌てているのだ?」
「げっ!?」

至近距離で不破の顔があったので、三上は咄嗟に仰け反ってしまった。おかげで、後頭部を部屋のドアにぶつけてしまった。

「痛ってぇ...急に...顔、近づけんじゃねーよ!!」
「すまん、三上。ケガはないか?」

不破は真面目な顔をして、ぶつけた三上の後頭部を右手で撫でてくる。恋は盲目とはよく言ったものだ。今の三上には、不破の一挙一動が愛おしくて仕方ない。不破の背中にそっと両腕を廻して抱きしめてやると、微かに不破の身体が震えた。
そして、三上の胸に、そっと寄り添ってくる。

沈黙が部屋の中を包み込んで、廊下を誰かが喋りながら通り過ぎていくのが、まるで遠くの出来事のように聞こえてくる。
遠ざかる足音や人の気配を感じ取りながら、三上は不破の顎を指先で捕まえた。くいっと上を向かせて、その口唇に、自分の其れを、静かに重ね合わせる。互いの熱を感じ取ると、より深く、三上は不破へと侵入を開始する。

「んっ...」

不破の口唇から漏れてくる声に、三上は煽られるかの如く、右掌を不破のシャツの中へと滑り込ませて、脇腹をそっと撫で上げた。びくりと震える背中を左腕で抱きしめて、しなる腰をしっかりと自分の身体へと密着させる。其処から、互いの身体の熱が、じわりと伝わりあう。その熱に魘されるように、三上の頭の中に、真白い空間がゆっくりと広がっていく。

絡め合う互いの舌先。不破は逃げない。三上の其れに、自分も絡みついてくる。

「はぁっ...ん...!」

三上の辿り着いた右手の指先が、不破の胸の、ささやかな突起を摘んでは弾く。その刺激に、不破の身体がびくびくと震え出した。不破は、立っているのが、やっとのようだ。

「あっ...ん...はぁ...」

口唇が離れるたびに、漏れてくる不破の甘い吐息。その声が三上の耳朶に心地よく響いて、三上は抱え込んだ不破の身体を、自分のベットへと押し倒した。

「三上!」
「あん? 何だよ」

不破が三上の胸を押し返すように、両腕を突っ張ったので、三上は不機嫌そうな声を出した。
まさか...拒絶するワケではあるまい? 目をすっと細めて、三上は不破を見下ろした。

「渋沢...」
「ん?」
「渋沢が帰ってくるのではないのか?」

三上が渋沢と同室であることを、不破は知っている。渋沢に見られたら...と、不破は危惧したようだ。
頬をうっすらと紅潮させて、潤んだ瞳で、不破は三上を見上げてくる。その一つ一つが、三上には可愛いらしくて仕方ない。三上は口元を緩めると、不破の頬に軽くキスをした。

「渋沢は実家に帰った」
「えっ?」
「だから、ゆっくり出来るぜ」
「...」
「せっかく来たんだ。今夜は、此処に泊まっていけ」
「しかし...」
「部屋のカギなら、此処に入った時に閉めたぜ。これで、しばらくは、誰にも邪魔されない。違うか?」
「...」
「おい、何、こだわっているんだよ、おめーえはっ!」
「三上が...」
「あん?」
「この前、三上が『渋沢にはまだ話すな』と、言ったから、誰かに知られるのが嫌なのだと思った」
「...」
「渋沢が今夜、此処に戻ってこなくても、オレが此処にいては、三上にとって迷惑なのではないのか?」

そんな事、気にしていたのか...というよりは、気にさせてしまったのか、こいつに。
三上は、ふぅっと息を吐くと、不破の肩口に顔を埋めた。

「三上?」
「...すんなよ...」
「何? 三上、聞こえない...」
「んな事、気にすんじゃねーよ、らしくないぜ」
「...」
「オレとしちゃあ、知られた方がかえって都合がいいこともあるだけど、な」

三上が、くくっと喉を鳴らして笑った。

「三上...」

不破からは三上の顔が見えない。覗き込むようにして見るが、それでも、不破から三上の表情は伺えないのだ。不破は軽く息を漏らすと、自分の方に顔を埋める三上の髪を、そっと指で撫でるように梳いた。不破の指の動きを、三上は心地よさそうに、目を細めてじっとしている。

「渋沢は、おまえを気に入ってるんだよ」
「えっ?」

三上が顔を上げた。不破を見下ろすと、彼は目をぱちくりしながら、三上を凝視していた。くすりと、三上が笑った。
本当に気がついていないのだ、不破は。渋沢の想いなど、これっぽっちも気がついていないのだ。
渋沢を哀れだと思ったが、こればかりは仕方ない。それにもう、返してやる気など、さらさらないのだから。

「渋沢がオレを?」

不破が首を傾げて、考え込むように、視線を宙に浮かした。その不破の顎を、三上は指先で捕まえると、

「気づかなかっただろ?」
「あ、あぁ...しかし、気に入るとは、具体的にどういうことだ?」
「へっ?」
「渋沢は単純に、面倒見が良い、というだけではないのか?」

渋沢の気持ちを、ストレートに伝えることは出来ない。其処まで、三上は、でしゃばる気にはならない。
それは、他のヤツに先を越された挙げ句、自分の気持ちを、自分が伝える前に、他のヤツから告られる、などと、これが自分の立場だったら、絶対に許せないと思ったからだ。そうだ、これ以上、渋沢を惨めにさせたくない。だからこそ、早く、渋沢には、自分たちの事を知らせたい。知られた方が都合が良いのだ。その方が、キッカケが出来る。

避けて通れない争いなら、早いほうがいい。傷が早く治るから。
そして、渋沢には、諦めて欲しい。きれい、さっぱりと。不破のことを。

「三上?」

黙り込んだ三上の頬を、不破が右掌で、そっと触れてくる。三上の告げた言葉の意味を、考えあぐねている様子だ。
三上は、ふっと息を吐いた。ある意味、不破も、渋沢同様、自分のことしか見えてないのかもしれない。
自分の気持ちに手一杯で、他のことまで気が回らない。不破は、三上のことで、頭が一杯なのだ。三上は、満足げに笑った。

「自分から、べらべら喋ることじゃねーが、正直、こそこそするのも、性に合わねぇんだよ。それに、どんなに隠したって、いつかは誰かに知られることだからな」

近い時期、渋沢には、知らせなければならないことだ。その時こそが、人生最大の...決戦の日。

「それとも、おめーが、誰にも知られたくねぇのかよ?」
「違う! そうではない。三上に、迷惑をかけることが嫌なだけだ、しかし...」
「ん?」

三上の頬に触れている、不破の指先が、微かに震えだした。不破が深呼吸した。

「今日、逢えると分かっていても、少しでも早く三上に逢いたかった。だから、寮の前で、おまえが気付いてくれるのを待っていた。もし、渋沢や藤代や、他の連中に、おまえよりも先に見つかったら、どう言い訳しようかと、そればかり考えながら。それでも、三上に逢いたかった。だから、おまえが、一番先にオレに気がついてくれた時、とても...嬉しかった。」

不破の頬が紅潮した。その初々しさに、三上は思わず目を細める。愛おしくて、たまらない。三上はそっと、不破に口づけた。最初は啄むように。優しく、ゆっくりと。そして其れは、次第に、深く重ね合わせられるて、不破の両腕が三上の首に回された。

「ん...」

再び、微かに漏れてくる、甘い吐息。三上が、不破のシャツのボタンを外した。はだけたシャツの胸元から、真っ白い素肌が顔を覗かせると、三上は両掌を、其処へと滑りこませた。指先で両胸の飾りを摘んで弄べば、其れはすぐに固くなる。感じているのだ、不破は。この部分が、とても弱いらしい。さらに、つま弾いて刺激を与えると、三上の首に回された、不破の両腕が、ぎゅっと絞まってくる。それを合図に、三上は、小刻みに震える身体の中心に右手を滑り込ませて、不破の両股をゆっくりと押し開いた。服の上から自身を撫で上げられて、不破の背中が反射的に仰け反った。

「あっ...はぁ...あぁ...」

三上の口唇が離れて、不破の首筋から胸元へと降りてくる。解放された不破の口唇から喘ぎ声が漏れてきて、さらに三上の口唇が、左胸の飾りを口含んで甘噛みすると、不破の身体はびくびくと震えだした。三上は左腕を、不破のしなる腰に回して、右手で執拗に不破を追い上げる。次第に、不破の形が変わっていく。それは三上も同じだった。

「あぁ!!」

三上が不破の服を、勢い良く引きずり降ろした。羞恥ゆえか、不破は顔を背けて、その頬を真っ赤に染めた。さらけ出された不破自身に、三上は右手で容赦なく責め上げる。独占欲と征服欲と。三上は、不破を追い立てる。その刺激に、不破は口を掌で押さえて、必死に堪えているようだ。さらに、三上は先走ったぬめりを使って、左手で不破の最奥部分への侵入を開始した。不破の身体は与えられる快楽に、小刻みに震えている。しかし...三上が、ふと、不破の顔を覗き込んだ。不破は両手で口を押さえて、大粒の涙を零していた。鳴き声も、喘ぎ声も、必死に噛み殺している。三上が、意地悪く、不破の耳元で囁いた。

「声...出せよ」
「!?」

不破はさらに口を押さえ込んで、いやいやをするように、首を振る。涙が頬を、伝い落ちてくる。

「なんでだよ...なんで、声出さねぇんだよ」
「...ぇて..しまう...」
「あん?」

押さえ込まれて、声が聞き取りにくい。不破の口元に、三上が耳を近付けた。

「誰かに...聞かれて...しまう...」
「あっ?」
「駄目だ! 聞かれたら...三上が...あぁっ...」

三上は、はっと気がついた。廊下や隣の部屋から、物音がしていることに。ドア一枚、壁一つ隔てた向こう側では、多くの寮生たちが生活していることに。一瞬、三上の手の動きが止まった。

「だから駄目だ...これ以上は、とても...」

絞り出すように呟かれた不破の言葉に、三上は再び、手を動かした。より激しく、より強く。不破を責め上げる。

「!?」

不破は必死に、声を噛みしめる。懸命に耐えている不破の中へ、三上の指が強引に入り込んだ。その本数を増やしていく。

「声、だせよ」
「...」
「出せったら、出せよっ! てめーがツライだろうがぁ!」

不破は決して声を出さない。目をぎゅっと瞑って、わなわなと震えているだけだ。どうしても声を出そうとしない不破に、三上は舌打ちすると、不破の腰を高く持ちあげ、両足を思いっきり開かせた。

「!!!!」

三上が不破を貫いた。初めてではないにせよ、蕾はまだ、堅いままだった。それでも不破は、切り裂かれるような痛みに、忍び音一つ漏らさずに、只ひたすら耐えている。

「この...強情っぱりが...」

三上の息も荒々しく乱れている。これだけ締め上げられると、三上もかなり苦しい。動くことが出来ない。
深呼吸を一つして、三上の右手が、不破自身を宥め始めた。今度はゆっくりと、優しく、愛撫する。その動きに応えるかのように、不破の其れが、また形を変えてきた。三上を締め付けていた其処も、次第に緩んでくるのが分かった。それに合わせて、三上がすこしづつ動き出す。静かに、大切に、不破の身体を壊さないように。三上の動きにつられて、不破の腰も動き出した。

「あっ...駄目だ...三上...あぁ..はぁっ!」
「誰に聞かれたって、かまやしねぇーよ! 思いっきり、イイ声でなけよ!」
「だ、だめ...っ!」

ぎりっ...!

一瞬、何が起こったのか、三上が自分の目を疑った。そして、目の前で起きた出来事を、只々、息を殺して見つめるだけだった。流れ落ちる鮮血。不破が自分の指を噛んだのだ。噛みしめた指先から、血が流れ落ちている。快楽ゆえか、それとも痛みゆえか、不破はぎゅっと目を閉じたまま、全身を震わせていた。閉ざされた瞳から溢れ零れる涙が、血と一緒に、不破の頬を滑り落ちていく。

それほどまで、声を上げることを怖れているのか...誰にも気付かれてはならないと、そこまで怯えているのか? 
何故だ?...全て、オレのためか? 

三上に迷惑をかけたくない、三上のことを思って、不破は必死に耐えている。
目を瞑り、指を噛みしめ、ひたすら、耐えて忍んでいる。三上のために!!

「ばかやろ...っ!」

三上は、不破がくわえた指を、強引に引き抜いた。はっとして目を開く不破。その瞳には、止まること無い涙が、溢れ零れていた。

「噛むなら、こっちかんでろっ!」

不破の口の中に、三上は自分の人差し指を突っ込んだ。三上は、自分の指を噛ませようとしたのだ。不破は驚いて、三上の指を引き抜こうと、両手で三上の手首を掴んだ。

「!?」

その瞬間、三上の動きが一段と激しさを増した。深く、強く、不破の身体を突き動かす。不破が首を振って、三上の指を離そうとする。三上の指を噛めない、傷つけるわけにはいかない。けれども、不破の身体は、三上に高みへと追い上げられて、次第にその意識が白濁していく。何も考えられなくなる。三上に揺さぶられるまま、不破は、三上を受け入れていく。より深く...より高みへと...一際、三上が激しく、不破を貫いた瞬間だった。

「!!!」

三上は不破の中で...果てた。不破を揺さぶり続けていた、三上の動きがゆっくりと止まった。部屋の中に荒々しい呼吸音だけが響いている。とうとう、不破は声を上げなかった。それは、三上も同じだった。けれども、どれほど激しかったか、貪り合ったのかは、互いの乱れた息づかいで、それは分かる。

「不破...」

三上が喋った。額から汗が滴りおちている。不破は三上の頬に指を伸ばそうとして、はっと気がついた。
自分の指の傷跡に。では今、自分の口腔にあるのは...不破は口を大きく開けて、三上の手首を引っぱった。

「あっ...」

力一杯、噛みしめてしまった。三上の人差し指は、血で真っ赤に染まっている。不破は、其れを見て、さらに大粒の涙を溢れさせた。傷つけたくなかったのに...でも、傷つけてしまった。喉を震わせ、それでも嗚咽を堪える。それさえも、誰かにきかれてはいけない、と思ったのだ。

「三上...すまない...」

声を出さずに泣きじゃくる不破は、ようやく其れだけ喋ると、また泣き出した。三上がふっと息を漏らした。
そして、不破の髪を、ケガしていない方の手で、くしゃりと掻き上げた。

「ばーか、気にするんじゃねーよ」

それでも、不破は泣くことを止められなかった。涙は後から後から溢れてくる。なきじゃくりながら不破は、血が滴り落ちている三上の指を、もう一度、口に含んだ。傷跡を、血を、綺麗に舐めているのだ。その仕種は、三上の背筋をぞくりとさせるほど、妖艶だった。一頻り舐め終わると、不破は三上の指を口から離して、三上を物憂げに見上げてきた。不破の口唇の端に、三上の血が微かについている。

「三上...」

三上は不破の口唇を、そっと舌先で舐めてやった。

「今度は、声出せよな?」
「...此処でなければ...」
「ばーか、だから、気にするんじゃねって言ってるだろ?」
「しかし...」
「オレの指が食いちぎられちまうぜ」
「す、すまないっ!!」

三上はふっと笑った。

「なんてな、おまえだったら、かまわねーよ」
「三上...」

その時だった。

トゥルルル...

「ん?」
「携帯だ、三上のものではないのか?」

軽やかな着信音。確かに、これは三上のものだった。ハンガーに引っかかっている制服のポケットから、その音は聞こえてくる。

「誰だ?」

だるそうに、三上がベットから起き上がって、携帯を胸ポケットから取り出した。着信相手を見た途端、三上の眉間に深い皺が刻み込まれた。

「どうした? 三上?」

ベットに横たわりながら、不破が三上を見上げている。顔だけ三上に向けている、その様子からして、不破の身体にかなり無理をさせた、と三上の心が、一瞬ちくりと痛んだ。しかし、それは、三上自身もかなり無理をした、ということでもある。こうして立っているのも、かなりだるいので、三上は携帯を手に、不破が横たわるベットに、自分も腰掛けた。
その間も、携帯は鳴り続けている。不破は身体を少しだけ起き上がらせて、不思議そうに、三上が手にした携帯の画面を覗き込んだ。三上は、ふっと笑って、不破の口唇に軽くキスすると、携帯の着信ボタンを押した。

「もしもし、何の用だ、渋沢?」

相手は、渋沢だった。今晩は、実家に戻るといって、数時間前に出ていった彼である。何の用があるというのか?
不機嫌そうに、三上は喋ったつもりだったが、不破と事を起こした後である、自然と声音が穏やかになっていた。

「三上か? 今、何処に?」
「あん? 寮だけど」
「えっ、 何処にも出かけてないのか? それとも、これから出かけるのか?」
「あぁ、今日は何処にも出かけない」
「ええっ! 三上がぁっ!?」
「なんだよ! オレが大人しく寮にいたら、可笑しいっていうのかよ! 」
「いや、その...もしかして、オレがいないから、その...キャンセルしたのか?」

電話の向こうで、渋沢は、三上の相手の心配をしている。また、約束をすっぽかしたのではないか?、と。三上はそれを聞いて、口唇の端を吊り上げて笑った。すっぽかすどころか、こうして、二人っきりで、部屋にいる。おまえの留守中に、だ。

「余計な心配してんじゃねーよ」

三上の声が、心なしか弾んで聞こえる。先程からの三上の様子に、電話の向こうで、渋沢が首を捻っているようだ。

「ところで、何の用だよ」
「あぁ、すまん、実は、机の上に、今度の紅白戦のメンバー表があるんだが、それを監督に渡しておいてくれないだろうか? 」
「ちょっと、待て」

三上は、渋沢の机の上に、丁寧に畳んで置いてある用紙を確認した。

「あぁ、あった。これを渡しておけばいいんだな」
「そうだ、すまないま、三上。急いでいて、渡しそびれてしまったんだ。宜しく頼むよ」
「あぁ、用事はこれだけか?」
「そうだけど...ところで、三上、随分と機嫌が良いように感じられるんだけど、何か良い事、あったのか?」

さすがに鋭い。長年の付き合いゆえだろう。三上は一瞬、本当の事を言いかけたが、目の前で、もの憂げに見上げている不破の瞳に、その言葉を飲み込んだ。不破は知らないのだから。渋沢との決戦は、三上だけが挑むべきだ。不破を巻き込んではいけない。

「まぁな、おまえの留守も、悪くないもんだ」
「おいおい、一体、何を...」
「他に用がないなら、切るぜ。待たしているから」
「えっ! そうだったのか!? やっぱり、出かけるんだな、門限までには戻ってこいよ」

心配性の渋沢に、三上は喉を鳴らして笑った。

「じゃーな!」

そう言って、三上は携帯を切った。部屋の中が、急に静かになる。手にした携帯を、自分の机の上に置くと、三上はベットに腰掛けた。

「不破...」

手を伸ばしかけて、三上は目をぱちくりさせる。其処には、愛しい人の、安らかな寝顔があったから。三上は手を引っ込めて、そのまま、頭をがりがりと掻く。つい先程まで、起きていたのに。不破は呆気なく、眠りについてしまったようだ。
もう一度、そっと手を伸ばして、不破の髪を撫でると、一瞬だけ、ぴくりと眉を動かしたが、瞳は開かれる事はなかった。
深い深い、眠りに入ったようである。心地よい寝息が聞こえてきて、三上も、不破の横にごろりと寝転んだ。
暫く、天上を見上げていた三上も、不破の寝息に誘われてか、ゆっくりと目を閉じた。


休息を取ろう。
決戦にそなえて。

今は只、愛しい人と共に、眠りにつこう。
穏やかな時間を、一緒に過ごそう。

そして、この時を守るために闘おう。
だとえ大切な親友を、傷つけても。






FIN




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あとがき

『ナキムシ』の続編です。書いてから、また数ヶ月、放置してました(苦笑)。最近、こんなの、ばっかりです。
実は、これの続きもありまして(しつこい!?)、やはり、書いている途中で、放置されてます。
日の目を見るのは、いつになるのか。季節からお分かり頂けるように、此れは...去年の夏です、書き始めたのは(爆)。
当然、この続編も...って、そろそろ1年が経過してしまいます、マジにやばいっ!?

今回は、何も『変身(?)』しませんでしたが、次回は、しっかり、変身します(おいおい)。
さて、何でしょう? 不破を動物に例えると...ネタバレしましたね(苦笑)。
でも、書いているうちに、また内容が変わるかも!? プロットどおりに、進んだことないですから(殴)。

では、最後まで読んで頂いて、有り難うございました。

date:2003.03.08


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