Lifetime Resepect
夏休みが近づいて、サッカー部の練習が全国大会へ向けて厳しさを増す頃、夏の太陽もぎらぎらと厳しく照りつける。
校内で唯一、冷房の入る図書室は、放課後とはいえかなり人出が多い。
その特等席とも思える場所に陣取った不破大地は、図書室の窓からサッカー部の練習をぼんやりと見ていた。
そして、無意識のうちにシゲの姿を探してしまう自分に気がつく。
真面目に練習しているかと思えば、風祭にじゃれついて水野に怒られたりしている。
ぼんやり見ているうちに、練習が終わったようだ。1年生達が片づけ始めた。
シゲはというと、先輩達の目を盗んで適当にさぼっているようだ。
あいからわず要領の良いヤツだ。
不破が微かに口唇の角をあげて、腕時計を見る。
あと30分だな。シゲがここに来るのは。
不破は手にした本に目を落とす。
最後まで読めるだろうか?シゲが来るまでに...
シゲの姿を追いかけていたせいで、すっかり本を読むことを忘れていた。
不破は軽い溜息を吐く。目で字面を追うだけで、本の内容は頭に入ってこない。
まいった...近頃、こんな日が続いている。
入り込んできた夏の風に頬を撫でられる。白いカーテンが揺れる。
冷房の効いた部屋だというのに、どこかの窓が微かに開いているようだ。
風が入り込んできた方に顔を向ける。
その時、何かが目の奥でフラッシュした。
一瞬、顔を歪める。蘇るあの日の感覚。
あれから1週間。此処で、この場所で、不破はシゲに抱かれた。
あまりの痛さに何度も意識を手放しかけた。不破の身体は、最後には最奥の部分から出血した。
同性との行為故か?とても気持ちの良い行為とは信じ難い。苦痛の方が大きかった。
だが、あの日から...シゲは不破に触れてこない。
練習が忙しいせいか、逢っても軽く話をするだけで「また明日」。一日が終わってしまう。
そうして今日も終わりを告げるのか?
不破がまた溜息を吐く。
あの行為にどんな意味があったのか? まだ考察中だ。
別に、行為をしたいワケじゃない。あれほど苦しいとは想像していなかった。できれば避けたい。
しかし...
がらりを開けられた図書室のドア。
「よっ!」軽く手を上げて、シゲが入ってくる。
どっかりと不破の前のイスに腰掛ける。
不破は結局、本が全部読めなかった。
仕方なく、机の上に置かれたノートやペンケースを片付け始める。
「えっ!?もう帰るんか?」シゲがカバンから団扇を出して、パタパタと仰ぎ出す。
「さすがに此処は涼しいなぁ。もう少しゆっくりせぇへんか?」
シゲとしては、せっかく冷房が効いているこの場所で少し休みたいようだった。
「寺に戻っても、クソ暑いだけやし...」まだ汗がひかないらしい。首から下げたタオルで流れる汗を拭く。
「ならば、もう少し本を読んでいても良いか?」不破はカバンにしまいかけた本を再び取り出す。
「んー?ええけど?」シゲは生返事だ。不破が読みかけていたページを開く。
ぱらり、ぱらり...規則正しく捲られていくページの音。しばしの沈黙。室内の人影がまばらになっていく。
そろそろ図書室も閉められるらしい。冷房が切れた。不破がぱたんと本を閉じる。
「そろそろ退出する時間だ。」本をカバンにしまい込む。机の上を片づけしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「あっそ。しゃーないなぁ!」シゲも背伸びしながら立ち上がる。
すると、
「なぁ、今日、不破んちに行ってもええか?」
シゲはカバンを肩にかけると、不破に向かってにっと笑った。
どきり...心臓が少し跳ね上がる。
何を考えた?...何を...期待した?
不破の手の動きが止まったので、シゲが意地悪そうに顔を覗き込んでくる。
「久しぶり...一週間ぶりに、どうや?」
不破の顔がみるみる赤くなる。咄嗟に退いた不破の身体を、シゲが捕らえる。
「佐藤!」
不破が慌てる。少ないが、それでもまだ室内には他の生徒がいる!
けれども、シゲは全く動じていない。いっこう平気な顔をしている。
シゲが不破の身体を引き寄せる。
不破は抵抗しようとして腕を突っ張るが、あっさりとシゲの腕の中に入り込んでしまった。
「!!!!」
大声をだしてはマズイ!不破がシゲの腕の中で激しく藻掻く。だが、シゲの身体はぴくりと動かない。
「離してくれ...頼む...」不破が小さな声で呟く。泣きそうな声だ。
不破の耳に誰かの声が聞こえてきた。だが、何を言っているのか?シゲに深く抱き込まれてよく聞こえない。
それでも、多分、抱き合っている不破とシゲのことを言っているのは分かる。
恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだ。小刻みに身体が震えてくる。
ドアの開く音がして、一瞬、また誰か入ってきたのかと不破はびくりとするが、どうやらそれは、出ていった音らしかった。
シゲの腕の拘束が少しだけ緩められる。その瞬間、不破は腕を思いっきり突っ張った。ようやく、シゲから解放された。
辺りをきょろきょろと見渡す。先程までいた人影は、やはり退出したようだ。もう、他には誰もいない。
「佐藤!!」不破がぎっと睨む。シゲは少しぎょっとするが、それでも大して驚かない。
「何故だ!何故、こんな...!!」
「オレとの関係、知られるのイヤか?」
「!?」
シゲは軽く息を吐くと、またどかりとイスに座り込んだ。
「この1週間、大変やったでぇ!」
「何?」
「数多い雑魚どもを蹴散らすのに、そりゃもう滅茶苦茶大変やった!」
「??」
「...って、不破は全然気ぃつかへんし...」
「何?何のことだ??」
「せやからぁ!不破を狙ろうとる雑魚が滅茶苦茶多かったんや!」
「は?」
「そいつら蹴散らすのにエライ時間かかってしもうた...丸々1週間や。」
「...」
「で、さっきの連中が多分、最後やな!」
「えっ?」
「さっきまでしつこく残っていた連中や!オレっつうもんがあるて言うてんのに、しつこいからな!」
「???」
「全く、スキあらばってカンジや!おい!不破!!」
「な、なんだ!?佐藤?」
「少しは周り見て気ぃつけや!おまえ狙われているんやからな!!」
「...」
「はぁ〜疲れたわぁ...けど、これでようやく...」
「佐藤」
「はいな?」
両手を揉んでへらへらしている佐藤の前に、不破が腕組みをしながら立ちふさがる。
「何の話をしているのだ!?全く理解できん!!」
不破の背後から何やらオーラのようなものが見えるのは気のせいか?
だが、シゲはそんな不破とじっと見上げると、盛大な溜息を吐いた。
「これやから自覚のないヤツは...」
「自覚?何の自覚だ!?佐藤の言っていることは全く理解できんゾ!!」
「あのなぁ...不破、此処はどこでしょう?」
「何!?何を言い出すのか?おまえというやつは...此処は図書室だろう?」
「何処の高校でしょう?」
「??黒須学院高等部だ!」
「何高校や?」
「何とは...つまり...」
「つまり?」
「男子校...だ。」
そこまで答えさせられて、不破もようやく気がついた。
シゲがにやにや笑っている。
つまりは...
「だから何だというのだ?」
不破は憮然としてシゲを睨み付ける。
思いっきりこけそうになるシゲ。
「あのなぁ..不破。」
「なんだ?」
「男子校いうたら...この手の話題は、こと欠かないねん!」
「???」
「つまり...」
「つまり?」
聞き返してきた不破に、シゲがにやっと笑う。
「おれら『公認ホモ』やねん!!」
「なっ!!」
仰け反る不破。シゲはげらげら笑い出す。
「そ!そういうことや!不破、おまえ滅茶苦茶、人気あるんやでぇ!?気付かへんやったろ!?まったく、世話のかかるやっちゃなぁ!!」
「...」
「まぁ、オレとしては人気ないのも考えもんやけど、ありすぎるのもなぁ...」
「...」
「けど、これで雑魚はようやく片づいたワケや。あとは...」
頭をがりがり掻くシゲ。(まだ『大物』が残っているけどな。)シゲは心の中でそう呟く。
そう、『大物』。それも一人二人ではない。ざっと数えただけで、五、六人はいる。
連中は今までの雑魚とは大違い。彼らに不破を奪い取られないためには...シゲなりに考察中だ。
「さぁてっと!帰ろか?」
シゲが立ち上がると、不破が俯いていた顔をあげた。どうやら不破も考察していたらしい。
「佐藤。」
「ん?」
「いいのか?」
「何が?」
「学校側にバレても良いのか?」
「へっ?」
「生徒間で知られているなら、すぐに学校側に知られてしまうゾ。」
「???」
「サッカー部に知られても良いのか?」
「不破?」
「試合に出られなくなるのでは?」
不破が何を言いたいのか、ようやくシゲが理解した。へらっと笑うと、軽く不破の額を指で弾いた。
「さっきから言うてるやろ?サッカー部も例外やないで?」
「なに?」
「そりゃもう、何でこんなにおるかな?ってカンジやな〜!」
「此処は都内でも有数の...」
「そっ!頭良い分、皆さん考え方が違うようでぇ?」
「は???」
「ある意味『巣窟』化してるかも!」
「なっ!」
「たつぼんなんか毎日大変やでぇ〜」
「...」
「やっこさん『攻』を主張してるけど、そりゃもう毎日『攻』められて...って、不破、どないしたん?」
どうやらついに不破の思考回路がショートしたらしい。腕組みをして首を捻ったまま硬直している。
擬似的な表現をすれば、不破の頭から煙が立ち上っているようにも見える。
「信じられん..」不破はますます首を捻る。シゲは苦笑いしながら、もう一度カバンを肩にかけ直した。
「ほな、帰ろか?此処閉めるの不破の当番やろ?」そう言って、シゲは不破の腕を軽く引っ張った。
まだ呆然としていた不破だが、シゲに促されてカバンを肩にかける。机の上にあった日誌とカギを手に持つと、二人は部屋を出た。
冷房の効いた部屋から出たせいで、不破は、むっとする外気に顔をしかめる。
階段を下りかけた時、シゲがぽつりと呟いた。
「オレって...ええかげんそうに見えるか?」
「???」
シゲの先を歩いていた不破が、立ち止まって振り向いた。
「本気やで、オレは。」
「佐藤?」
「本気で惚れとる。何があるか、この先わからへんけど、絶対離さへん、マジで。」
「...」
「大事にするから。オレの特別な一人になってくれんか?」
「佐藤...オレは男だぞ。」
「けど、これって運命って気がすんねん。限りある時間やから一緒にいたいねん。オレを...」
――――― 愛してほしい...一生一緒にいたい...
「オレのこと信じて...そっ!信じなさい!!」
黙って訊いていた不破だったが、いきなり命令口調になるシゲのことをじろっと見上げると何も言わずに、また歩き出した。
「ええっ!不破!!何か言ってくれや!?」
不破はすたすたと歩いていく。シゲは慌てて追いかける。
「なぁ!不破!?」シゲが不破の顔を覗き込む。
「佐藤が言うと真実味がない。」不破は無表情に答える。
「そんなぁ!!無い知恵絞って、それこそ数少ないボキャブラリーから必死こいて喋ったんに〜!!」
「やはりな。其処かで聞いたことがあると思った。」
「へっ?」
「ラジオで聞いたことがあるゾ。」
「あっ?バレてました?」
「...」
鼻の下をこすりあげるシゲ。不破は軽く溜息を吐く。
「せやったら...身体で話した方が早そうやな?」
「なに?」
「そ!愛あるSEXに精ェだしましょかぁ!?」
懲りないシゲの鳩尾に、不破の肘鉄がしっかり決まった。
声もだせずに腹を抱え込むシゲ。不破はすたすたと歩き続ける。
だが、急にぴたりと立ち止まると、涙目になっているシゲに振り返った。
「帰るゾ。早くしろ。」
「...不破ぁ、ホンマに痛かった...」
「オレの部屋に来るのだろう?だったら、早くしろ。」
「へっ?」
「其処なら...いくらでも訊いてやる!」
不破の頬が少し紅くなったように見えた。だがすぐに前をみて歩きだした。
呆然とするシゲ。(今、何て言うた?)不破の後ろ姿を見ながら、シゲはぽかんとしている。
もしかして、それって...
「よっしゃぁ!!」
腹を抑えて痛がっていたシゲは、急に元気なって不破の後を追いかけた。
走って抱きついて、また厭がられて。それでもシゲはめげなくて。
――――― ちゃんとオレに愛さして...下さい!!
Fin(力尽きた...)
あとがき
いつもそうなのですが...『書き出し』は結構調子良いんです。
つまり『起承転結』の『起』は勢いで書いちゃいます。
そして、『承』でその勢いが思いっきり減速して、『転』で苦しみ始めます。
こうなると、『結』のなんといい加減なことか!?
ここまで来て、投げ出した作品、かなり多いです。
そのうちFDが腐って、とうとう日の目を見ないうちに葬られてしまって...
今回も、いつ投げ出そうかと迷いましたが、どうにか私的時間が取れたので、
なんとか書き上げましたが...途中から力尽きているのが良く分かります。(^^;
文才と精神力と...時間が欲しいです!切実に!!
最後まで読んで頂いて、本当に有り難うございます。
圭大の中では『シゲ不破』は、結ばれながらも、どこか危なげで壊れやすいイメージがあります。
風祭や渋沢など多く人達に想われて、不破自身も彼らに心惹かれながらも、それでもシゲを選ぶ。
相思相愛なのに、何故か、不安になってしまう。
今にも、足下をすくわれそうで、いつも怯えている。そして、誰かに奪い取られて...しまうかもしれない。
取り留めないことです。どっちかが、先に信じてあげれば良いのに。それでも、この二人に安住の地はないのかもしれません。
あぁ、何書いているんでしょう...表(?)でダークに突っ走るシゲを、せめて裏(?)で明るくしたかったのに!?
何でこーなる!?反省...でも、シゲが明るくなるのは、もしかしたら不破と別れた時かもしれません。なんて...ね!?