夏風




じりじり照りつける太陽の日差しは容赦なく体力を消耗させる。
今年の夏も熱くなりそうだ。
生ぬるくなったミネラルウォータを一息に飲み干すと、シゲこと佐藤茂樹はグランドへと立つ。
高校1年生になって初めての夏は、まだ新人だからと練習以外の雑用が多い。
だが1年生ながらもレギュラー入りが近いシゲは、まだ他の1年生よりは練習らしい練習をさせてもらえている。
それでもシゲは自分に割り当てられている仕事をさっさと終わらせると、自分の練習メニューを開始する。
これぐらいやらなければ、上を目指せない。アイツとの約束。
けれども、今はアイツだけはない。今は、別なヤツとも勝手に約束した。
勝手に、だ。
初夏とはいえ暑い日差しの中、目を細めて、そこにいるであろうヤツの姿を確認しようと振り返る。
東校舎4階の右から3番目の窓。いつも、ヤツがいる定位置。
せっかく同じ高校に進学したというのに、都内でも有数のサッカーの名門高校に進学したというのに、ヤツは何を考えたのか あっさりとサッカーを辞めてしまった。
そうして、ヤツはサッカー以外の目標とやらを目指しているらしい。

――――― 医者になるから...

それがヤツの台詞。
それを聞いた時の、自分の気持ちは...

――――― ふざけんのもたいがいにせいやぁ!不破!!

そう叫んだ自分の台詞など、ヤツの耳には届かなかった。

誰もが才能に恵まれているワケではない。
サッカーが好きなだけでは、才能も機会もないというのに。
ヤツは...不破には、それがあった。
才能も、機会も。何もかも。
それらを捨ててまで、医者になるというヤツは...

シゲはくるりと視線をグランドに戻すと、またボールを蹴り始める。

「シゲさ〜ん!!」

遠くから風祭の呼ぶ声が聞こえる。
両手を振る風祭に、シゲは「おう!」と答えると、ボールを蹴る。
風祭の近くには、タオルで汗を拭う水野の姿も見える。
こうして4人が同じ高校に進学できたというのに、この中に不破はいない。

サッカーの名門校だけではなく、学力も必要とされるこの高校には、不破や水野ならともかく、 風祭とシゲには絶対ムリだと周囲に言われていた。
それでも、サッカーをやりたいなら、ここしかない!と風祭に背中をおされて、仕方なく風祭と一緒に、 慣れない受験勉強を始めたシゲ。
その時、面倒をみてくれたのが、不破だった。
水野も二人にはかなり協力してくれたのだが、それでも不破に教えて貰うことの方が多かった。
週末の午後は、必ず図書館に行って出来の悪い二人の生徒に勉強を教えてくれた不破。
同じ高校に進学すれば、3年間はまた一緒にいられる。
シゲの密かな想いは、シゲだけではなく風祭にも同じようにあった。
時折、この時間に水野も訪れて、不破と同じように二人に勉強を教えてくれていたが、
彼にもシゲと同じ思いがあることを、シゲは知っていた。
けれど、誰も不破には話さなかった、この思いを。
また4人で一緒にサッカーできる、また一緒にいられる。
誰も一言も言わなかった。まるで不可侵条約が結ばれているような...。
だけど、1つ年上のシゲは、他の二人よりほんの少しだけ...狡賢いというのだろうか?
偶然にも不破と二人だけになった、あの日、シゲはちょっとだけ拗ねてみせた。不破の気を惹きつけた。
不破は「何故やる気がでないのだ?」と首を傾げて、シゲの顔を覗き込んでくる。

「どーせ受からんから」
「何故?おまえの学力はかなり上がってきているぞ」
「けど、ここが限界や。これ以上はムリやろ?」
「だから何故そう考える?何故これが限界だと思えるのだ?」
「せやからぁ...」

机の上に突っ伏したシゲの顔を、さらに深く覗き込んでくる不破。
黙り込んだシゲを不破はまじまじと見つめてくる。

「...ご褒美くれる?」
「ん?」
「勉強頑張るから、ご褒美くれる?」
「佐藤?」

何を言い出すのか...シゲの言いたいことがわからない。
不破は眉をかすかにひそめると、それでも聞き返してきた。

「何が欲しいのだ?」

かかった...
いつもシゲらしくにっと笑うと、すかさず答えた。

「不破からキスして欲しいんやけど」
「なっ!?」

思いっきり仰け反る不破を逃がすまいと、シゲは不破の首の後ろに手を回した。
至近距離に固定されて、不破の頬が微かに赤くなるのがわかる。
端から見れば、この二人の体勢はかなり不審なものがあるが、シゲは周りに誰もいないことを 確認してからの行動だった。
そして、不破も誰もいないことに気がつく。

やられた...

不破の頬がますます赤くなる。
すでに、何度となくシゲとはキスしている不破である。
だがそれは、いつも突発的にシゲからされることだった。
まるで事故にでもあったような出来事だった。

それを...今度は不破の方からキスしろと要求するシゲ。

シゲと視線が絡み合って、不破は離れることが出来ない。
ますます強く引きつけられて、不破の吐く呼吸が微かに乱れてくる。
そう、不破は気付いている。自覚している。
自分がシゲとキスすることに何も嫌悪感も感じていないことを。
そして、そのことをシゲも知っていることを。
だからこうして、シゲは要求してくるのだということを。
だが...この行為にどういった意味があるのか?
不破にとって、まだ解析できない行為だった。
その意味も...そして自分の気持ちも。

図書館の天窓から微かに初夏の日差しと風が入り込んでくる。
赤く蒸気した頬を心地よく風が撫でていく。

ふっと軽く息を吐くと不破は、押さえつけてくるシゲの腕の中にするりと自分から入り込んできた。
ぱちくりと目を見開くシゲ。
逃がすまいを押さえつけていたシゲの手が、行き場をなくして空を舞う。

初夏の風よりも微かに...微かに触れてくる不破の口唇。
彼の閉じた瞳にかかる長い睫毛が揺れている。
...震えている?

初めての不破からのキスの感触は、あまりにも一瞬すぎて...。
身体をひるがえして離れる不破。
シゲに捕まえる隙を与えずに、不破はまるで何事もなかったように元に戻る。

「.....」
「おい、続けるぞ?」
「.....」
「佐藤?」

はっとするシゲ。
ようやく呪縛から解けたが、目の前に座る不破は全くいつも変わりない表情で...

「佐藤??」

首を傾げる不破の顔を、今度はシゲがまじまじを見つめる。
一瞬の出来事。何もなかったかのようで...夢だった??
ぼんやりするシゲに、不破が溜息を吐く。

「おまえ、ホントにやる気がないのだな。せっかく人が...」

不破の頬がまた少しだけ赤くなる。
夢ではなかった。

「不破!!」
「なんだ?」
「短すぎてようわからんかった!」
「???」
「せやからぁ!!」
「佐藤...いい加減にしろ」

不破が額に手を当てる。
やや呆れたような口調になる。

「おまえ...何を考えているのだ?」
「何って、ご褒美」
「...やったではないか?だったら...」
「だから、短すぎるって!」

特大の溜息を吐く不破。
シゲがだんだん調子付いてくる。

「いい加減、勉強を始めるぞ。そろそろ風祭達も来る頃だ。」
「ん〜、だったら、合格したらまたご褒美くれる?」
「おまえは...犬か?」
「オレはポチやない!」
「佐藤...」
「なぁ、ホンマに合格したら...ちゃんとしたの...くれる?」
「.....」

今度は顎に手を当てて考え込む不破。
そんな不破の顔を、シゲは覗き込む。
すると...そこには珍しい不破の笑顔。

「合格できたら、な」
「ホンマか?」
「できたら、だぞ?」
「よっしゃ!...って、オレが落ちること分かってて、そーいうこと言うワケやな!?」
「ふん、このままでは、多分な」

思いっきりこけるシゲ。
不破は何時になく機嫌が良さそうな表情だ。

「よっしゃ!やったろーやないの!!」
「できたら...だぞ?」
「せやから、絶対合格したる!」
「.....」

何を無謀なことを...不破の表情はそう言っている。
だが、シゲはそんなこと気にしない。
にやりと笑うと、びっと右手の親指をたてる。
そして...不破の背筋を硬直させる一言。

「...覚悟せぇよ!」


あれから、1年。
今年の春に、周囲の期待(?)を見事に裏切って合格したシゲ。
風祭も同じく合格した。
手を取り合って喜ぶ二人に、水野は呆れながらも笑っていた。
だが、不破は複雑な表情をしていた。
頭の良い不破。記憶力だって良いハズだ。
あの約束は、決して忘れていないだろう。

(不破!ホンマに覚悟せぇよ!!)


流れる汗を拭うと、シゲはまた練習を始める。
風祭を相手にただひたすらボールを蹴る。追いかける。

――――― サッカーを辞める

不破の爆弾発言で、あの日の約束はどこかへ吹き飛んでしまった。
約束どころではなくなったのだ。
懸命に説得するシゲ。
シゲだけではない。水野も、風祭も、不破を懸命に引き止めた。
だが、不破の決意は固かった。
何をそんなに頑なに守ろうとしているのか?
誰にも分からなかった。話してはくれなかった。
そうして、高校に入学してから初めての夏休みが近づいてきた。
入学してすでに3ヶ月が過ぎてしまった。


練習終了の合図が鳴る。
皆が引き上げてくる。
まだ1年生のシゲは、風祭と一緒にグランドの整備を始める。
日曜日の午後の練習は、明日からの授業に差し支えるので、いつもより早く終わるから少しだけウレシイ。
とっと部室に戻っていく上級生達を見過ごしながら、シゲは不破のいる図書室をちらりと見上げる。

(日曜日まで学校にきて勉強すんなよ...おい)

不破のいる定位置の近くには大きな樹が遮っていて、こちらから不破の姿がよく見えない。
けれども多分、不破からこちらがよく見えるハズだ。

(誰を見ている?)

誰も...何も見てないだろうな...それとも?

「オレは上を目指す。不破はどうすんのや?」

一緒に目指さないか...そんな台詞は決して言えなかったけど。
それでも、そう言ったつもりだった。
一緒に目指さないか?そう言ったつもりだった。
けれども、不破の答えは無かった。

「医者になる」

それだけだった。
だから。
今度は勝手に約束した。

自分は上を目指すのだと。
そして、必ず...


上級生達がシャワー室を使い終わり帰ろうとしている頃、ようやく1年生の順番になる。
まだ同級生達が賑やかに雑談している中、シゲはさっさとシャワーを浴びると着替えて出ていこうとした。

「シゲ!」

水野に呼び止められた。
シゲが振り返ると、どこからか貰った差し入れのジュースを、水野がぽいと投げてきた。

「お疲れ」
「ほいな、お疲れさん!」

シゲは受け取ると、今度こそ部室を後にした。
シゲの後ろ姿を見送りながら、水野は少しだけ表情を曇らせた。
そんな水野のことを、風祭が気が付いた。

「どうしたの?水野くん?」
「えっ...あ、いや何でもない」
「?????」

歯切れの悪い水野の返事に、風祭が首を傾げる。
風祭はカンが鋭い方なのだ。
水野の様子に、風祭がまた声をかける。
水野ははっとして振り返る。

「実はさ、今日はシゲの...」


日曜日の校舎の中には、さすがに誰もいない。
たまに、シゲのように部活で来ている連中にすれ違うが、それでも滅多に会うことはない。
グラウンドや部室棟以外の校舎の中では、忘れ物した生徒ぐらいだろう、すれ違うのは。
だからシゲは誰も目も気にせずに、真っ直ぐと目的の場所へと向かっている。
シゲの目指す場所。それは...


がらりと開けたドアの向こう側。
今日はさすがに日曜日だから、いつもなら冷房が入っていて涼しいはずのこの場所も、初夏の日差しが
窓から入り込んできて、かなり蒸し暑い。
それでも、部屋の一角の窓が開け放たれていて、そこから夏の風がさわやかに吹き込んでいる。
風が白いカーテンを揺らしている。揺れるカーテンの影に隠れるように佇む人影。

「不破」

シゲが呼びかける。
反応がない。彼は動かない。

「不破?」

もう一度呼びかけて近づくと...不破は頬杖をついて居眠りをしていた。
不破の目の前に広げられた本が、ぱらぱらとめくれている。

シゲはそっと不破の前のイスに座り込む。
だが、不破は気付く気配がない。
そのままシゲは、こっそりと不破の寝顔を見つめ続ける。

あの時もこうだった。
不破に初めて出会ったのも。
あれは、中学1年の冬の頃。
やはり図書室で。
不破は本を読んだまま眠りこけていて。
冬の日差しの中、不破がまるで別な生き物のように感じられたあの瞬間。

綺麗で無垢で純真で...

今、シゲの目の前にいる不破は、あの瞬間と同じだった。
心地よい初夏の風に吹かれながら、不破はあの瞬間と全く同じだった。

そう、あの瞬間に...自分は恋をした。

口に出したら恥ずかしくなりそうな台詞だが、確かにあの瞬間だった。
こいつに...不破に恋をしたのは。
そして今も...。

不破の瞼が微かに動いた。
カーテンがふわりと揺らいで、不破の頬を撫でた。

「...ん...」

不破の瞳がゆっくりと開いた。覚醒したようだ。
寝ぼけ眼でぼんやりとしていが、自分の目の前にいるシゲに気が付くと、不破の瞳にいつも鋭さが戻ってきた。

「佐藤?」

何故ここにいる?
そう問いかけようとした不破の口唇を、シゲは人差し指で押さえた。

「?????」

不破は首を傾げながらシゲを見つめる。
だが、その視線はどちらかというと睨み付けているようなカンジで...

(なぁんでこんな目つきの悪い、しかも男なんかに惚れたんやろか?)

シゲがくくっと喉を鳴らして笑う。
そんなシゲの様子に不破はますます首を傾げている。
だが、シゲが笑うだけで何も言わないので、不破はゆっくりとシゲの指を掴んで自分の口唇から離した。

「何故ここにいる?それに...何故笑っている?」

ようやく口を開けた不破。
シゲに指を離そうとして、逆に手首を掴まれた。

細くて白い手首。

サッカーを止めてまだ間もないというのに、不破の手首はスポーツなんかまるで知らないようだった。
手首だけではない。服から見えている部分が...腕が、首が、顔が、全て白くて華奢で...自分とは正反対だった。

「細うなったなぁ」
「ん?」
「サッカー止めて、なんや変わってしもうたわ」
「.....」
「戻る気あらへんのか?」

不破の眉がひくりと動く。
シゲがゆっくりと不破の手を引っ張る。
少しだけ不破の顔がシゲに近づく。

「...医者になるっと言ったはずだが?」

不破の答えにシゲの方も首を傾げる。

「なぁんか素直じゃないなぁ」
「素直じゃないだと?」
「このクソ暑いのに真面目に制服着て、日曜なのに学校に来て勉強する...フリして居眠りか?」
「佐藤?」

掴まれた手首を振り払おうと不破が動くが、さらにシゲに引き込まれる。
ますます近づいてしまったシゲの顔を、不破は直視できなくなった。

何かに背中を押されたような気がした。
多分、これは...チャンス。

俯いた不破に、シゲが耳元で囁いた。

「約束」
「ん?」
「忘れてないやろ?」
「何?何のことだ?」
「あらら?とぼけましたね?...1年前の約束や」
「1年前...約束...」

あっ...不破の口が動いた。
思い出したようだった。
微かに、白い頬が赤く染まる。

「...今、此処でせぇへんか?」
「此処で?」
「そうや」

今すぐ此処で...

――――― がたん!

シゲを振り払おうとして不破が立ち上がった。だが、掴まれた腕は容易に振り解けなかった。
それでも無理に振り解こうとしたので、机の上に広げられた本やノート、ペンケースが床の上に落ちてしまった。

「佐藤!!」

捕まれた手首が痛い。
シゲの指が深く食い込んでくる。

「佐藤...」

情けないほど声が掠れてくる。
不破の瞳から、いつもの鋭い眼光は完全に消えていた。

「そないにイヤかいな?」

佐藤がくすりと笑う。

「オレのもんになるのは?」
「なにっ!?」
「せっかくシャワー浴びてさっぱりしてきたんに...」
「ち、違うぞ!!そんな約束はしていない!約束は...キスだけだ!!」
「そっ!せやから、ちゃんとしたの、しよ?不破から、な?」

しまった!!
不破が悔しげに顔を歪める。
こういったことには不破は無知に等しい。
シゲに敵うハズがない。

「不破」

耳元でシゲに囁かれる。
ぴくりと身体が震える。
すると...不破の腕が急に軽くなった。

「えっ?」

驚いて不破がシゲを見る。
今まで捕まえていた不破の腕を、シゲは簡単に離したのだ。
そしてまた、どっかりとイスに腰を下ろした。

「佐藤?」

シゲがにやりと笑う。
不破を下から見上げてくる。
挑発的なシゲの瞳。
途端に不破の顔が真っ赤になる。

――――― 不破から...

それがシゲの要求だった。
不破からキスしてもらう。
だから、不破の拘束を解いたのだ。
つまり、シゲは待っている。
不破から動くことを。

シゲの考えが解った不破は、俯いたまま立ちつくしてしまった。
自分が約束したことはいえ、こんなことはやはり出来ない。
握りしめた拳が震えてくる。
そう...「ふざけるな!」その一言でシゲを殴り倒せば良いものを...
だが、不破には出来なかった。
遠い日のこと。昼休みの屋上でキスされた日のこと。
あの日から、シゲと不破の、常識では説明し難い関係が始まった。
今でもそれは続いている。
誰にも言えない、不安定で中途半端な二人の関係。

黙り込んでしまった不破に、シゲは仕方なさそうに軽く溜息を吐く。
がしがしと頭を掻くと、

「なんや、オレって『悪徳代官』みたいやなぁ」

けらけら笑い出した。

「なに?」

不破が反応した。
何を急に言い出す??
シゲは「せやからぁ」とまた笑いながら話し出す。

「よくある、テレビのしょーもない時代劇もんみたいやんか。」
「?????」
「何や弱味握って、それをネタに生娘ヤっちゃう悪徳代官」
「は?」
「『お許しください〜!お代官様〜!!』ってヤツ」
「お、おまえは!何を言っているのだ!!」

とうとう不破の拳がシゲに向かって振り下ろされた。
だが、シゲはひょいと避けて立ち上がった。

「このっ!」
「今日が良かったんやけどな...」
「えっ?」

もう一度殴りかかろうとした不破だったが、シゲの独り言にも似た呟きに、一瞬拳を止めた。

床に落ちたノートが、ふいに風でぱらぱらとめくれた。
休日の図書室を利用するのに、生徒が名前を書くノートだった。
あるページで風が止む。見開かれたページは丁度、今日の日付のページだった。
今日は日曜日だったが、不破以外にも利用した生徒は数人いた。
すでに帰宅した生徒達と不破の名前が記されたページ。
そのページの日付に、不破の目が釘付けになった。

「あっ...」

――――― そうか、今日は...

1年前の今日。
不破は、この日が何の日か知らなかった。
あの後、遅れて来た水野に言われて、ほんの少しだけ驚いたことを思い出した。
そう、今日、この日はシゲの...

「不破?」

不破がまた黙り込んだので、シゲもまた不破の顔を覗き込む。
すると突然、不破がぱっと顔をあげる。
そして、シゲが座っていたイスを指さして言った。

「座れ」
「はぁ?」
「そこに座れ」
「座れって...オレは犬かいな?」
「いいから!!」
「へいへい」

もう一度イスに座り込んだシゲは、軽く腕組みすると「何や?」と不破に聞き返した。
すると...

「えっ!?不破ぁ!?」
「じっとしてろっ!!」

シゲは腕を組んだまま微動だに出来ない。
それもそのはず。
シゲの膝の上に、不破が座ってきたからだ。
座ると言っても腰掛けてきたのではない。
シゲに向かって...つまりシゲの膝を跨ぐような格好でシゲの膝に座ってきた。
そして不破の両腕はシゲの首の後ろに回されていて...
この格好はつまり...その...かなりやばいんですけど...

瞠目するシゲに、不破はぶっきらぼうに、それでも真っ赤になりながら「目を閉じろ!」と命令してきた。
慌てて目を閉じるシゲ。シゲの顔に微かに乱れた不破の甘い吐息がかかる。

(うわぁ...)

シゲはぎゅっと目を瞑る。
固くなったシゲの身体を抱きかかえるように不破がしがみついてくる。
そして...触れ合う口唇。

電光石火とはまさにこのこと。

触れ合った口唇から弾け飛ぶ火花、そして熱。
一瞬、目眩にも似た感覚にシゲは捕らわれる。

深く、深く重ねられる口唇。
そして、辿々しく腔内に進入してくる不破の舌先。
それがシゲの舌に遠慮がちに絡んでくる。シゲの理性は限界に来ていた。
誰に教わったのか、こんなことを?
シゲはそんなことを考えながら、不破の勝手にさせていた。

「...ん...はぁ...」

微かに漏れる不破の声に、シゲが煽られる。
こんな格好で自分の上に乗っかられて、ましてや艶めかしい声まで聞こえてきて...!!
辿々しく重ねてくる不破の口唇に、シゲは酔いしれていた。
そして、不破の細くなった腰を抱きかかえた。

「あっ...!」

不破の口唇が離れる。微かに仰け反る。

「あ...あぁ!いやだ!佐藤!!」

シゲが不破の首筋をきつく吸うと、不破はシゲの身体から離れようと藻掻き始める。
だが、シゲは離す気などない。
左腕で不破の腰を抱えて、右手で制服のネクタイを、シャツのボタンをはずす。

「佐藤!やめろ!!」

両腕でシゲの身体を突っぱねるが、シゲの身体は動かない。離れない。
いつの間に、これ程の体格の差が生じたのか?
サッカーを始めた頃は、不破の方がシゲよりも勝っていた。
不破の方がシゲをわずかながらも見下ろすカンジだった。それが今では...。

「佐藤!!よせ!離せ!!」

不破の制止の声は、シゲの耳には届かない。
シャツのボタンを全てはずすと、掌を、口唇を、不破の白い胸に這わせてきた。
胸の飾りを口に含むと、舌先で転がして弄ぶ。もう片方の胸の飾りを指先で摘むと、甘い吐息が漏れ始める。
不破が、この部分が弱いことは、シゲはすでに知っている。何度か、此処だけは触れたことがある。
だが、いつも此処までだった。これ以上は進ませてもらえなかった。
けれども、今日は...
摘んでいた指先をゆっくりと下の方へと滑らせていく。
服の上から不破の中心部分を撫で上げる。

「!!!」

不破が声にならない叫び声を上げる。
恐怖からか?暴れ出そうとする不破を、シゲはさらにきつく抱える。
離さない。止める気など毛頭ない。
ベルトを外して、わずかに出来た服の隙間から掌を進入させる。
直接、中心部分に触れる。

「佐藤!!いやぁ!!」

シゲの右手を引き離そうとする。だが、容易に離れない。
不破の瞳が潤んできた。いつもの鋭い眼光は影も形もない。
そこにあるのは怯えた瞳。今にも泣き出しそうな瞳。
シゲの胸が一瞬だけちくりと傷んだ。
不破を傷つける気はない。だが、ここで手を引いては今までと同じ。
何もなかったことになる。

「不破」

宥めるように不破の耳元で囁く。
不破の身体がぴくりと動く。

「めっちゃ好きや...好きで、好きで...もうあかん..」
「.....」
「もう限界や...なぁもう...」

――――― こんな中途半端な関係は止めよぅ...

窓から入り込んでくる風が、白いカーテンを揺らす。
頬を、露わになった白い胸を、優しく撫でていく。

不破の瞳に、ようやくシゲが映し出された。
恐怖のあまり何も見えなくなっていた不破。
シゲの瞳が優しく微笑む。
瞳の中の蒼い空。夏風に揺れる金色の髪。

高校に入学する時だけ、黒い髪に戻したシゲ。
その髪の色が、かえって不思議だったことを覚えている。
見慣れなかったせいか?やたらと触っていた記憶がある。
感触は同じなのに...しつこく触っていたので、何故か?風祭に怒られた。
だがそのあと、すぐに以前のシゲに戻った。
前よりもいっそう明るく輝く金色の髪に。
まるで太陽のように...。

「不破?」

シゲが優しく声を掛けてくる。

――――― 中途半端な関係。

不破自身もそう思っていた。
けれどもこれ以上進んでしまっては...もう引き返せない。
後戻りは出来ない。

一瞬の躊躇い。
どうすればいい?

シゲがくすりと笑う。不破が得意の考察モードに入ったことに気が付いたから。
この状況にも関わらず、全くこいつは...
シゲが喉を鳴らして笑う。
不破は...きょとんとしている。

「ええやんか...もう?」
「???」
「頭で考えてるとややこしくなるばっかりで...もうええやんか?」
「...」
「こーいうことはなぁ...身体が先に動いてもかまへんのや。そりゃ、身体だけじゃイヤになることもあるけど」
「佐藤...?」
「身体も心も...なぁんもかも全部欲しいんや、オレ。不破が欲しい。不破のこと全部知りたい。それだけじゃあかんか?」
「...」
「めちゃ好きや、不破」

――――― 愛してる...

シゲが優しく口唇を重ねてくる。
啄むように...そして次第に深く重ね合う。

もう...怯えない。怖がらない。だから...

不破は自分の気持ちが決まった事に気が付いた。
本当はとっくに分かっていたことなのかもしれない。
風祭の瞳の中にある、蒼い空を掴み損ねた時から。
あの時から、不破の気持ちは決まっていたのだろう。
それに...自分から逃げていたのだ。

シゲが不破の身体を、ゆっくりと机の上に横たわらせる。
不破が瞠目する。本当に、此処で?こんな所で?
シゲがくすりと笑う。

「今すぐ此処で...って言うたやろ?」

ベルトを外して出来た服の隙間にまた手を進入させると、今度は一気に服を引き剥がした。
不破が恥ずかしさのあまり声を上げる。シゲから顔を背ける。
初夏の日差しの中にさらけ出された不破自身。それを、シゲは目を細めて見つめる。
そっとシゲの掌が不破自身を包み込むと、ぴくりと不破の全身が震えた。
愛おしくて仕方ない。
優しく口に含んでやると、不破が微かに声を上げる。
不破にとって初めてだろう、こんな経験は。
含んだそれを、シゲが舌を絡めて愛撫する。
不破の呼吸が激しく乱れてくる。
次第に形を変えてくるそれは、限界が近づいているようで...

「佐藤...駄目だ...もう!」

不破は両腕でシゲを引き剥がそうとする。
だが、シゲは決して離れない。より一層深く愛撫してくる。

「駄目だ!佐藤!あっ...あぁ!!」

深く口で扱いてやると、不破はあっという間に絶頂まで達してしまった。
微かな夏風のそよぐ音に混じって、不破の激しい乱れた呼吸が聞こえてくる。
ぐったりした不破を見下ろすと、シゲは不破の両足を広げた。
不破の身体は全く抵抗がなかった。
だが...

「佐藤!?」

不破の思ってもみない部分にシゲが口付けてきた。
ぐったりしていた身体は、突然の出来事に硬直してしまった。
生ぬるい感触に全身の肌が泡立つ。
多分、不破から出されたそれを、シゲが舌先で塗り込めているのだ。
不破の身体が小刻みに震え出す。
シゲは左手で震え出す腰を抱えると、右手の人差し指をそこに進入させてきた。

「!!!!!」

身体中に走る激痛。
異物の進入に不破の身体が暴れ出す。
だが、シゲに抱えられた身体は自由がきかない。
そうしているうちに2本目の指が進入してきた。

「い、痛い!!」

再び与えられた激痛に、不破が叫び声を上げる。
そこから逃れようと必死に不破は藻掻き続ける。
藻掻いて...しかし抵抗は全て封じ込められている。
とうとう不破の瞳から涙こぼれ落ちた。

「...泣かすつもりはないんやけどなぁ...」

シゲがぼそりと呟く。

「けど、もう止められへんのや...もう覚悟してくれや...」
「.....」

涙があふれてくる瞳で、シゲを睨み付ける。
覚悟などとっくにしている。
だが、生理的にこの激痛には耐えられそうにない。
シゲが苦笑いする。
けれども、この始められた行為を止めることなどできはしない。

「身体、少しは力抜けへんか?こないにがちがちやと、かなり辛いんやけど...お互いに」

シゲはふっと笑うと、3本目の指を進入させた。
不破の身体は力が抜けるところか、ますます硬直してしまった。
首を左右に激しく振る不破を見つめながら、シゲは困惑してきた。
泣かすつもりも、傷つけるつもりもない。
だがこのままでは、自分達は中途半端なままだ。
いつかは踏み出さなければならない。これが大切な一歩なのだから。

乱れた不破の呼吸が、誰もいない図書室に響く。
時折、吹き込んでくる初夏の風以外には...何も聞こえてこない。

不破が暴れるのを少しだけ止めた。
痛みに慣れてきたのか?
荒々しい呼吸はまだ部屋中に響いているが、それでも最初ほどではない。

今だ...

突然、自分の中から異物感が消えたので、不破ははっとして目を開ける。
シゲの瞳とぶつかる。なにを...そう思った瞬間だった。

「あっ!あぁ!!あ−−−−!」

不破の口唇から絶叫が漏れる。
シゲの身体を押し返そうと、両腕を激しく突っ張る。
不破の爪がシゲの肩に食い込んだ。
今までにない激痛が不破の身体中を走る。
シゲに貫かれた瞬間。
あまりの痛さに声が出ない。
息をすることも出来ない。
苦しくて痛くて、それ以外にもう何も考えられない。

「不破..!力抜けや!!」

不破の視界にシゲの顔が入ってくる。
見下ろしてくるシゲの表情は...かなり辛そうだった。
そうか...
苦しいのは、不破だけではない。
この苦しい状態は不破だけではなく、そこに侵入してきたシゲ自身も苦しいワケで...
不破のそこはキツク締め上げられて、強引に侵入してきたシゲ自身をも締め上げている。

「...不破!力抜けへんか!?」

シゲの瞳がうっすらと涙で滲んでいるようだった。
互いに生理的に苦しいのだ。
シゲの呼吸が荒々しく乱れている。

壊してしまう...

中学校の3年間。
クラッシャーと呼ばれて、ある意味嫌われていた不破。
自分の意志ではなかった、壊してしまうのは。
ただ、気が付けば、他人の心を壊していた。
他人を傷つけていた。

風祭と出会って、サッカーと出会って、不破は変わった。
他人の気持ちを考えるということを。
自分以外の人を認めるということを。
不破は覚えたのだ。
そうして自分自身をも変えていったのだ。

不破の呼吸よりもシゲの呼吸の方が痛々しい。
激しく乱れている。シゲを...壊したくない。失いたくない。

不破はようやく自分の身体から力を抜いた。
シゲのために。苦しむシゲをこれ以上見たくなかったから。

「不破?」

突然、緩くなった不破を見下ろして、シゲの表情が少しだけ和らぐ。
シゲの呼吸が整えられてくる。不破も同じように乱れた呼吸を整える。

生理的に流されている不破の涙を、シゲそっと口唇で拭う。

「...動くでぇ...」


――――― 痛い!!


だが、不破は叫ばなかった。声を出さなかった。
口唇を噛みしめ、シゲから与えられる苦痛に黙って耐えた。
耐えて...噛みしめた口唇から微かに血が滲む程、不破は耐えた。
ただひたすら...耐えて耐えて耐え抜いて。
シゲだって分かっている。
不破がどれほど苦しいのか、耐えていてくれているのか。
だが、もはや退くことなどできはしない。
もう、後戻りは出来ないのだ。

「不破!...不破ぁ!!」

自分の名前を呼ぶシゲに、不破は必死にしがみつく。
シゲが少しでも苦痛にならないように、シゲに揺さぶられるままその動きにあわせる。
激しく突き動かされていた、その時。
一際、シゲの動きが不破の身体を貫いたその瞬間。
シゲは不破の中で...果てた。
不破を突き上げていた動きが止まった。
部屋中に二人の荒々しい呼吸音が響いている。

「不破...」

肩で息をしているシゲが、不破の顔を覗き込んでくる。
シゲの瞳にうっすらと涙が滲んでいる。
額には、サッカーの練習が終わった時のような汗が滴り落ちている。
金色の髪が、その額に、頬に、張り付いている。
不破は、その髪をそっと引き剥がす。撫でてやる。
微かに微笑みあう。
苦しかった。痛かった。
だが、その痛みを分かち合うことで、二人は本当に一つになれたのだ。
もう、中途半端じゃない。けれど引き返せない...決して離れない。

繋がったまま、シゲが不破の唇を優しく啄む。
繰り返し繰り返し...

「不破、めっちゃ好きや...大好きや」

囁かれる睦言。
不破の瞳は、窓の外を見ている。
夕闇が迫った初夏の蒼い空。
風祭の中にあるあの蒼い空は捕まえられなかったけど、シゲの中にある蒼い空は、
こうして自分の中にしっかりと捕まえた。

もう...離さない

シゲの首に両腕を回し、不破は今まで見たこともないような笑顔をシゲに見せる。
満足感。これ以上の不破の笑顔はないかもしれない。
ようやく手に入れた安堵感。不破はシゲに笑ってみせる。そして。

「シゲ...好きだ...」

初めて名前で呼ばれた。
初めて不破から好きだと言われた。

シゲが笑う。声にならない声で笑う。
そして...涙が出てくる。
さっきまでの生理的に苦しい時の涙ではない。
これは、そう、嬉し泣き?

不破と気持ちがひとつになれたから。
身体だけではない。心がひとつになれたから。

ようやく手に入れた不破の心。
風祭に惹かれながらも、不破はシゲを選んだのだ。

もう、離さない。決して離さない。
不破の心も身体も、何もかも全ては...自分のもの。

シゲがゆっくりと、自身を不破から抜き出す。
不破が大きく息を吐く。しかし...

「あっ...や...」

不破が急に声を出すので、シゲが驚いて不破の顔を覗き込む。
不破は真っ赤になりながら、震えている。

「不破?どないしたん?」

シゲが不思議そうに見ていると、不破は口を押さえて何かに必死に耐えているようで...

「?????」

シゲは不破の様子を伺いながらも、ゆっくりと身体を離そうとして...ようやく気が付いた。
不破の内股に滴り落ちる、シゲのものと...不破の血液を。

激しい動きは、当然、不破の身体を酷使するもので。
不破はそれに必死に耐えていてくれたのだ。
痛々しいほどの不破の想いに、シゲは言葉を無くした。

シゲはスポーツバックからタオルを取り出すと、流れ出すものをそっと拭ってやる。
これぐらいしか、してあげられないから...
シゲは念入りに不破を綺麗にしてやる。
不破は黙ってシゲにされるがままになっている。

ようやく綺麗になった不破は、ゆっくりと身体を起こす。
制服の白いシャツを1枚、軽く羽織っただけの不破の姿は、艶めかしくて...

――――― いかん!

シゲはフルフルと頭を振る。
たった今、終わったばかりだというのに、自分ってヤツは...!!
これ以上、節操なしだと思われては...不破に嫌われる!?

「シゲ?」

今度は不破が心配そうに顔を覗き込んでくるので、シゲが口を押さえて少しだけ仰け反る。
不破は思いっきり「???」顔だが、とりあえずシゲに脱がされた服を身体につける。
露わになっていた不破の素肌が、服の下に隠されたのを確認すると、シゲは軽く溜息を吐いて自分も身支度をした。
身支度が終わって、シゲが不破の方に振り向くと、不破は窓の外をじっと見ていた。
そこには、サッカー部のグランドがあった。

シゲは不破に声をかけるのを躊躇った。
不破はまだ忘れていない。忘れているフリをしているだけだ。
そう、不破にそのことを強要すれば、必ず歪みが生じてくるわけで...。

今はそっとしておく方が良い。
今は...自分との関係についてじっくり考察してもらう。

「シゲ?」

不破がシゲの視線に気が付いて振り返る。
シゲは不破の視線に戸惑いながらも、微笑み返す。

「帰ろか?」
「あ、あぁ」

荷物を肩にさげるシゲ。
不破は窓を閉める。
夏の風が途切れる。

図書室を閉めて、二人は職員室へと向かった。
日誌を担当の教師に届けるためだ。
不破は日誌を届ける。そのまま二人して学校からでていこうとした、その時。
不破がふいにシゲに振り返った。
どきりとするシゲ。
いつもの不破に戻っていたが、瞳はどことなく穏やかな印象があった。
自分が不破を変えたのだという優越感。ようやく手に入れた愛しい彼。
こんな関係になっても、不破はやはり綺麗なままだった。
そんな不破のことを見つめながらシゲは照れくさそうに笑うと、「なんや?」と不破に聞いた。

「ふむ...」

このクセだけは変わらないようだ。
首を傾げて考え込む不破のクセ。
何を考察し始めたのか?

「どないしたん?」

シゲが不破の顔を覗き込む。
不破の瞳がじっとシゲの瞳を見つめ返す。
睨み合いのようなカンジもするが...
不破がようやくぽつりと囁いた。

「...誕生日おめでとう」
「へっ!?」

校舎を出て、校門までの道のりをゆっくりと歩いてた二人。
突然の不破の台詞に、シゲが驚いて目を丸くする。

夏の風が優しく頬を撫でていく。

「今日はおまえの誕生日なのだろう?だから...今日にこだわった、違うか?」

ふいをつかれたので、シゲは目を見張るだけだった。何も言い返せない。
不破は知っていたのか...今日のこの日を。
他人の誕生日どころか、自分の誕生日さえこれといった感情を持ち合わせていないように思っていたのに。

「おまえがそれほど...Anniversary 好きとは知らなかったぞ?」
「...うっさいわ」

シゲはふいっと前を向いて歩き出そうとした。
夕方になったとはいえ、まだ初夏の日差しが残っている。
木漏れ日が眩しい。

不破の瞳が少しだけ細められた。
シゲの背中を見つめる。微かな微笑み。

「...まぁ、覚えやすいといえば覚えやすいが...」
「ん?何を?」

不破の独り言のような呟きに、シゲが振り返る。
「なんでもない」と、不破は言い返す。


優しく吹き抜ける夏の風。


忘れない 今日というこの日を 
愛しさも切なさも...永遠に


Fin(ぐったり...)




あとがき

シゲの誕生日記念にUPしたかったのですが、結局、間に合わなかった!?
でもって、これは表ページ(?)にリンクしつつも、ちょっと方向が違っています。
初エッチの二人ですが、何だかなぁ...もう!すみません!!ってカンジです。
途中、何度も捨てようかと散々迷った挙げ句、どうにか書きあげてしまいました。
最後まで読んで頂いて本当に有り難うございました。m(_ _)m

でもってタイトルは、ゴスペラーズから拝借しました。
7月の季節に聞くにはぴったりの良い曲ですよね。
(でも、これって恋人と別れる曲だったような...う〜ん...)



圭大のトップページへ戻ります