ロビンソン




7月の夕暮れは、まだ日中の蒸し暑さを残している。
今日はこの夏一番の暑さだったと、テレビの天気予報で聞いたばかり。
明日も暑いと付け加えられた。これからしばらくは、こんな毎日が続くのだ。
サッカーをやるには、かなり体力が必要になる季節。
幼い頃から慣れ親しんできたから、自分にとってはそれほど辛くない。
だが、今年初めての夏を迎える彼にとっては、かなりしんどいものだろう。
そんなことを考えながら、水野竜也は珍しく一人で歩いている。図書館からの帰り道。
今日は日曜日で、部活も午前中だけだったから、午後はのんびりと図書館で過ごした。
いつもなら彼と一緒にいるはずの風祭も、同居している兄とどこかへ出掛けたらしい。
だが、これは好都合...これなら多分来ているはずだ。
そう思って出掛けた図書館には、お目当ての相手は来ていなかった。
閉館近くまでいたが、結局、彼は来なかった。
珍しい。そう思っていた時だった。

自宅への近道。通り抜けようとした神社の境内。
東京には珍しく、この一角にはまだ木々がうっそうと茂っている。
これを右へ大きく迂回すれば、水野の自宅へと続く道へ出る。
だが左へ迂回すれば、すぐそこに彼の家。
宇宙基地を思わせるような彼の自宅には、何回か風祭達と行ったことがある。
両親と父方の祖父と四人暮らしの彼だが、家人は仕事でほとんど家にはいないらしい。
母と祖母、それに母の二人の姉妹、計四名の女性に囲まれている水野の家とは大違いだ。

彼に逢いたい。そう思った。
1ヶ月前の出来事。
それは練習が始まる前の部室での出来事だった。
他愛もない出来事だった。
けれども、水野が彼のことを、不破大地のことを、今までと違った視線で追うようになった出来事だった。
話はとても簡単。練習が始まる前、一人で皆より先に来ていた不破は、部室の中で本を読んでいた。
正確に言えば読んでいたらしい。何故なら、彼の読んでいた本は床の上に落ちていたから。そう、居眠りしてたのだ。
いつもなら、サッカーゴールの前に座り込んで読んでいるはずの彼が、その日に限って部室のイスに座っていた。
そのせいだろうか、いつの間にか彼は眠ってしまったらしい。
床に落ちた本は、開けられた部室の窓から入り込んでいる風に煽られてページがめくれている。
不破はイスに片膝を立てて、頭を軽く後ろの壁にもたれている。両腕を組んでいるような格好だが、力は入っていない。
全身がゆったりとしている。吹き抜ける風の心地よさに身を任せている。
どうしようかと水野は一瞬躊躇った。
部室のドアを開けたまま、水野は立ちつくしてしまった。
だが、このままではかえって不審者に思われてしまう。
水野はそっと部室の中に入ると、ドアを閉めた。
音を立てないようにカバンを床の上に置く。
不破はまだ気付かない。
さて、どうしたものか...いきなり起こすのも...
あまりにも気持ちよく眠っている不破だから、少しだけ可哀相な気がした。
疲れているのだろう。サッカーは、いや部活というものは、彼にとっては全く初めての経験。
慣れない練習に、クラッシャーと異名をとる彼だって、さすがに...。
しかし、どうしよう?水野は困った。
そのうち皆がくるから、それまで待つか?
水野はとりあえず、床に落ちている本を拾い上げようとした。
その瞬間。
今まで太陽を隠していた雲が、吹かれている風に流されたらしい。
柔らかい春の日差しが部室の窓から差し込んできた。

――――― えっ...

水野は目を疑った。
(誰だ?此処にいるのは?)
日差しの中にいるのは....
不破のはずだ。それなのに...彼は誰だ?
瞠目する水野。
(不破なのか...?)
思わず近づいてよく顔を見てみる。
春の日差しの中、目を閉じて眠りこける彼は、全くの別人だった。
水野が知っている不破ではなかった。
日差しに透ける髪は、意外と色素が薄いのか、薄茶色だった。
部活を初めて2ヶ月の彼の肌はまだ日焼けなどしていなかった。透けるように白い肌。
その頬にかかる前髪は風に揺れている。同じように睫毛も微かに揺れている。
意外と長くて、髪と同じ色をしている睫毛。いつもの、あの鋭い瞳を覆い隠している。
規則正しく繰り返される寝息を吐く口唇は、微かに開いていて艶やかだった。
本を拾い上げたまま、水野は身体を硬直させてしまった。
知らなかった。不破がこれほど綺麗だったとは。
あの鋭い眼光さえなければ、これほど印象の変わるヤツは珍しい。
水野は迂闊にも不破の寝顔に見とれてしまったのだ。惹かれてしまったのだ。
高鳴る心臓。水野の頬が紅潮してくる。自分は何を考えて...!
そこまで思いついて、ふと思い出す金色の髪の彼。
(シゲ...だから、か!)
水野はますます顔を赤くする。
(あいつ!!)
1年生の3学期。昼休みに図書室へ来ていたシゲ。
居眠り場所には最適!などと言っていたシゲだったが、シゲは何故か必ず不破の前に座っていた。
不破は図書室の常連だった。水野は図書委員だったから、当番の時はいつも不破に会っていた。
その不破に何かとつきまとっていたシゲ。不思議な取り合わせだと思っていた。
だがシゲは気が付いていたのだ。不破のこの素顔に。綺麗で、何もかも綺麗すぎて...。

「んっ...」

風に吹かれていた不破の睫毛が微かに揺れる。覚醒したようだった。
ゆっくりを瞳が開かれる。覚醒したばかりの不破の瞳には、いつも鋭さはまだ戻ってきていなかった。
だが、水野の姿に気が付くと「?」と思いっきり首を傾げた。
そして、水野が自分の読んでいたはずの本を手にしていることに気が付くと、
「すまん、眠っていたようだ」
そう言って、水野から本を受け取った。
水野は暫く身動きができなかったが、不破が背伸びをして立ち上がり、いつもの鋭い眼光で
「どうした?」
と聞いてきたので、ようやく呪縛から醒めた。
「いや、別に」
ほんの少しだけ、水野の頬がまだ赤い。
そんな水野に、またしても「?」顔の不破だったが、本をカバンに詰め込むと練習着に着替えはじめた。
脱いだ制服の下から露わになった不破の白い背中に、水野は目のやり場に困る。
昨日まではこんなことなかった。こんな風に感じたことはなかった。
部室に1年生の部員達が入ってきた。水野に挨拶した彼らは同じように不破にも挨拶をする。
水野とは違って不破に対して、彼らはオドオドしている。多分、不破の目つきは下級生にしてみれば、睨まれているように感じるのだろう。
確かに...水野もそう思っていた。苦手だと感じていた。
何を考えているのか、分かるような分からないような...自分とは異質な印象を受けていた。交わることなどないのだと。
けれども、今は違った。水野の中に不破に対して今までとは違う何かが生まれていた。
水野が不破を今までとは違う視線で追いかけるようになった出来事だった。


初夏の日差しがまだ残る中、水野はふと気がついた。
誰かが、うっそうと茂る木陰の中にいることに。
夕涼みにしてはまだ早いし、どちらかというと風が入り込まないので暑苦しいカンジがした。
こんな場所に誰がいるのだろうか?多分、知らないヤツだと思うが...
視界に入ってきた一人の少年は、木陰に座り込んでぼんやりと上を見上げている。
頭には派手なバンダナを巻き付け、耳元にはピアスでもしているのだろう、遠目からでも光って見える。
黒を基調に、これまた派手な色のタンクトップを重ね着して、ベージュのカーゴパンツ履いている。
ハードタイプのサンダルを足からぶらぶらさせている。
(ド派手なヤツだな)
今流行であろうその少年の格好は、街ではよく見かけるが、桜上水の生徒にはいないタイプだ。
何しろ、桜上水で派手なヤツはシゲくらいだから。
そこまで観察していた水野だが、所詮は知り合いではないと判断した。
水野は家へと向かい歩きだそうとした。その時。
彼が前髪をかきあげた。その仕草と彼の横顔が、水野の目の中に飛び込んできた。
はっとする水野。思いっきり振り返ると、咄嗟に大声を上げていた。

「不破!!」

呼びかけられた彼も、こちらに振り返る。
そして、がばっと立ち上がった。

「おまえ...水野か!?」

お互いに呆然として見つめ合う。
そして、

「なんて格好してんだ、おまえは!?」

互いのことを指さしながら、同じ台詞を叫ぶ。
はっとする不破。だが、すぐにくすくすと笑い出す。
こんな不破の顔を見たことがない。
夢でも見ているのか?
顔だけじゃない。こんな服を着ている不破も。
それとも、家に帰ればこうなるのか??
水野は、呆然として声が出ない。
目の前の不破は、そんな水野に気が付いてさらに笑い声を上げる。
不破の笑い声を聞いたことがない水野は、驚いて身動きさえも出来なかった。
ようやく笑うことを止めた不破は、水野に近づいてきた。
思わず後退さる水野。不破はまた、くくっと喉を鳴らして笑う。
これは...絶対、夢だ。
会いたいと思っていたから不破が見えるのだ。
しかし、それにしても全然違うぞ。いくら何でもこれは違いすぎる!?
不破に描いていた綺麗なイメージ...1ヶ月前の出来事を思い出して、
その余韻に浸っていただけに、このギャップのでかさに水野は唖然としている。
黙り込んでいる水野の顔を不破が覗き込んできた。しかも、水野の顎に手を当てて!?

「こっちの世界でもおまえは綺麗な顔をしているのだな」

目と鼻の先まで顔を近づけられて水野は焦りまくる。
何を言っているのだ!不破は!?
咄嗟に手を払い除ける。
水野は一歩後ろへ退くと、叫び声を上げた。

「おまえ...不破なのか!?一体...どうしたんだよ!その格好はぁ!?」

真っ赤になっている水野を見て、また不破が笑い出す。

「おい!何なんだよ!!」

水野はとうとう怒りだした。
不破は目に涙を浮かべながら笑っている。
だが水野があまり真剣に怒っているから、今度こそ笑うことを止めた。

「すまんな。写真を勝手に見せて貰ったが、実物を見てオレの水野とここまで違うとは...オレも驚いたのだ。」
「はぁ?」
「こっちの世界とオレがいる世界は同じようで随分と違う。」
「何を言って...」
「オレはこちらの世界のヤツと入れ違ったらしい。」
「へっ?」
「まったく余計なものを作ってくれたもんだ、あのじーさんは!」
「おい、不破」
「ん?」
「話が全然見えないぞ」
「何がだ?」
「だから!何、一人で喋ってんだよ!オレに分かるように説明しろよ!!」

さらに真っ赤になりながら問いつめてくる水野を見ながら、不破はいつものように首を傾げると
「そうか」
と一人で納得した。
「だからぁ!」
拳を震わせてくる水野。
不破はいきなり水野の手を掴んだ。
水野がどきっとしていると、不破はそのまま水野を不破の家へと連行していった。
「おい!不破!?何なんだよぉ!」
「来れば分かる」
そう言って引っ張られて、とうとう不破の家に連れ込まれてしまった。

宇宙基地のような家は、内部もかなり異質な間取りだった。
近未来社会の家みたいだ。水野は来る度にそう思っていた。
リビングらしい部屋に通されると、そこには珍しく不破の祖父が居た。
部屋の真ん中には...

「不破」
「ん?」
「何だよ、これ」
「何だよ、とは?」
「だから...何で部屋のど真ん中に『車』があるんだよ!!」

確かに車だった。見たこともない車種だけど。
水野は呆然としながら、居間のど真ん中に置かれている車をじっと見る。

「どこから部屋に入れたんだよ、この車!」
「一応、そこからだが?」

不破の指さす方は、居間の大きな窓だった。だがそこは、しっかりと閉まっている。
すると、不破のじーさんが床に放り出されていたリモコンみたいなヤツを手にしてスイッチを入れた。

「はぁっ!?」

顎が外れそうに大きな口を開ける水野。
それもそのはず。居間の壁は左右に全開して、さらに庭先の塀まで開いた。
そうして広がった空間は、外の道路へと真っ直ぐ繋がっていて、あたかも滑走路のような格好になって...。
いや、これは滑走路だ、絶対。冷や汗をだらだら垂らす水野。何なんだ、不破の家って!?
不破のじーさんがまたリコモンのスイッチを押して広げられた空間を閉じた。

「どーやら、あっちの世界でも同じようなことを研究しているらしい。」
「へっ?」

不破のじーさんが何やらぶつぶつ言い出したので、水野は不破のじーさんの方を見た。
じーさんは白くなった髪の毛をがしがしと掻くと、「タイムマシーンを作ったつもりだったんだがな」と呟いた。

「タイムマシーン?????」

水野が思いっきりこけそうになる。
じーさんはそんなこと気にせずに「どこで間違ったのだ??」と首を傾げている。
すると、不破がじーさんに「何でもいいから早く直せよ」と言い捨てた。
じーさんは納得しない表情だったが、何やら工具を取り出して車の修理を始めた。
不破はその様子を腕組みしながら見ている。

「あの...」

水野が恐る恐る声を掛けてくる。
この状況はわかるようで、全く理解できない。
不破のじーさんはいつものじーさんだったが、この状況について詳しく聞けるような雰囲気ではない。
仕方なく、もう一度、不破に話しかけようとして...

「修理にはあとどれくらいかかる?」と不破がじーさんに話しかける。
「あと1時間くらいかのぉ?」と答えるじーさん。
「さっきもそう言ったぞ」と不破が切り返す。
「あれは調査に1時間だった。今度は修理に1時間じゃ」言い訳するじーさん。
「では、今度は1時間で修理してもらって、その後すぐに出発させてもらう。これでいいか?」

不破に問いつめられてじーさんは、むっとする。
多分、1時間では修理できないようだった。
じーさんは素直に「2時間待て。そうすれば、元に世界に戻してやる」と答えた。
不破は「了解した」と答えると、水野の腕を引っ張って、不破の部屋へと入っていった。
不破に引っ張られるまま、部屋へと入っていった水野。
(おい!頼むから、この状況をもう少し詳しく説明してくれ...)
水野は不破の顔を覗き込む。
しかし、不破は部屋のドアを後ろ手で閉めると...

――――― えっ...

水野は瞠目した。
何が起こったのか?
水野には状況がさっぱり理解できなかった。
だが身体中にゆっくりと広がる温もりに、はっとした。

後ろから...不破に抱きしめられている?

背中の、シャツ越しに感じられる温もりは、確かに不破のものだった。
不破が水野を抱きしめている。愛おしそうに。
水野の肩に不破が顔を押しつけている。
まるで水野の匂いを嗅いでいるかのように。
目眩に似た感覚に、水野が一瞬だけ意識を手放しかける。
だが水野は直ぐに意識を取り戻して、不破の身体を引き離す。
不破は「?」顔をしている。
水野の頬は紅潮している。これまでにないくらい、だ。
呼吸も激しく乱れている。まるで...性的行為を行ったかのように!?

「水野?」

不破の問いかけに、水野は即答する。

「教えてくれ、オレにはこの状況はよく分からない。だから...ちゃんと教えてくれ!!」

水野の哀願にも似た声に、不破は少しだけ自分のお遊びが過ぎたことに気が付く。

「そうだったな。こちらの世界では、皆...真面目だったのだな?」

不破が微笑む。この笑顔だって、水野の知っている不破ではない。
水野は思わず顔を背ける。
不破の笑顔を、不破の全てが知りたいと思っていた。全てが欲しいと...。
だが、目の前にいる不破は、違う。水野が欲している不破ではない!!

水野の真っ赤になった頬を見ながら、不破は軽く息を吐くとベットに、部屋のベットにどかりと腰掛けた。
ベットの上には、数枚の写真が散らばっていた。そのうちの一枚を手にとると、不破はまた軽く溜息を吐く。

「同じ世界なのに、ここまで違うと、結構笑えるな」

写真は、先日の大会で撮った記念写真だった。桜上水全員が写っている。
また、もう一枚手にとる。今度は、練習中の風景。その中には、主に不破と水野が写っている。
さらに、もう一枚。不破を真ん中に、水野と風祭それにシゲも写っている。
散らばっていた写真を次々とトランプのように手にする不破は、最後にくすりと笑うと、
今度は自分のポケットに入っている写真を取り出した。
その写真を手渡された水野は、一瞬息を呑んだ。声が出ない。身動きも出来ない。
写真の中には、二人の少年が仲良さそうに肩を組んでいる。
今、目の前にいる不破とそして...紛れもない自分だった。
だが、写真の中の自分は、目の前にいる不破と同じような格好をしていた。
派手な服装。髪の色は、一瞬シゲと見間違えるほどの金髪で、耳には不破とお揃いのピアスが光っている。
こんな写真、撮ったことない。それに、こんな格好した記憶はないぞ!!
写真から目をあげると、不破がにやにや笑いながら水野のことを見ていた。
水野はむっとしながら、その写真を不破に返した。

「どういうことだよ!」
「見たままだが?」
「何だと?」
「それがオレの知っている水野。オレの世界の水野だ。」
「えっ!?」

不破はその写真をポケットに戻すと、他の写真は机の上にぽいっと放り投げた。

「じーさんがヘンなものを作って、試運転させられたのだ。」
「試運転?」
「いつもくだらん発明ばかりしているじーさんだ。学校から帰ってきたら、いきなりタイムマシーンだとか何だとかが  完成したから試運転してみろと言われた。オレは出掛ける用事があったのだが、どうせ今回も失敗作だと思って軽く  引き受けてしまったのだ。だが...今回も失敗だったが、余計な事が起きてしまった。」
「余計な事?」

大地は頷くと、ごろんとベットに横たわった。

「同じ時間軸を移動するのではなく、別な時間軸に飛ばされてしまった」
「えっ!?」
「ある意味、じーさんの発明は成功したように見えるが、結果は少し違っていた。  つまり、別な時間軸でも同じようなことやっていたので、単純に...入れ替わっただけらしい。」
「はぁ!?」
「移動したには違いないが、別な時間軸でしかも平行して流れている別な世界に移動したようだ。」
「....」
「日付も時間も全く同じだったが、全く別な世界に移動してしまったのだ。」

不破は軽く欠伸をして、水野を見上げてきた。

「こっちの世界は、全く地味だな。面白くない。」
「....」
「移動に使った車はオンボロだから簡単に壊れてしまった。こっちのじーさんが修理するのに時間がかかると言うから、  外へでてみたのだが全く面白くない。オレのことをじろじろ見るし...」
「...それは当然だろーが」

水野がようやく口を開いた。なんとなく状況が理解できた。
つまり水野の目の前にいる不破は、不破であって不破ではない。
別世界に住んでいる別な不破。そいつが、こちらに紛れ込んできた。
別な世界にも関わらず同じようなことをしていたから、単純にこちらと入れ替わっただけなのだ。
しかし....

「なんかヘンだ」
「何がだ?」
「こんな三流SF小説みたいなことが本当に起きるハズない!!」
「水野??」
「不破!おまえ、オレのことからかっているんじゃないのか!?」
「からかう?何故、おまえをからかう必要がある?」
「それは...そうだけど」

不破は起きあがると、水野をじっと見つめてきた。

「オレとしは早く元に戻りたい。多分、むこうでも同じようなことが起きているのだろう。  だとしたら...おまえ、今日オレと会う約束をしていなかったか?」
「えっ?」
「オレは今日の午後、水野を遊びに行く約束をしていたのだ。こっちではどうなのだ?」
「どうって...」

会う約束はしなかったが、図書館で待っていた。
だがそれは、水野が一方的に、勝手に待っていただけだ。

「こっちでは、どこまで進んでいるのだ?」
「へっ?」
「どうやら、完全ではないようだな。多少ずれているのだな。では、こっちの世界では、オレとおまえはどこまでいったのだ?」
「???」
「つまり...」

不破がさらに顔を近づけてくるので、水野は思わず後ろに退く。

「セックスしたのか?」
「はぁっ!?」
「なんだ、まだしていないのか?」
「な、な、な、何、言ってるんだよっ!!」
「???付き合っていないのか?」
「んなワケないだろぅ!!」

真っ赤になって否定する水野。

「なんだ、やっぱりつまらん」

不破はまたごろりとベットに寝転んだ。

「怒っているだろうな...」
「えっ?」
「オレは今日、水野と会う約束してたのだ。練習が忙しかったから、久しぶりだった。楽しみにしていたのに...」
「.....」

不破が右手で額を押さえた。その横顔は少し寂しそうだった。
そんな不破の様子を見ながら、ふと水野は気が付く。

「こっちの不破はどうしたんだ?」
「ん?」

不破が寝転がったまま、水野を見上げてくる。

「この話が本当なら、こっちの不破は何処へ行ったんだ?」
「何処って...オレの世界だろ?」
「おまえの?」
「そうだ」

そこまで話して、今度は不破がはっとする。

「...まずいな」
「えっ?」
「一週間...やってないから」
「はぁ?」
「今頃、やられているかも」
「???」
「水野はあーみえても『攻』だからな」
「『攻』?」
「ん?違うのか?おまえは?」
「何、言って...」

水野がはっとする。そして真っ赤になる。

「まさか!?」
「そ、そのまさか」

不破はまた欠伸をする。瞳にうっすらと涙が滲んでくる。

「事情が理解できても、水野だったらそんなことお構いなしだ。」
「...っておい!それでいいのかよ!」
「ん?」
「いくら不破でも別なヤツだろう!?そんなヤツのこと...」
「オレの世界ではあまり気にしないのだ。」
「なに!?」
「オレは水野と付き合う前はシゲと付き合ってた。」
「!!」
「その前は渋沢で、三上や藤代とも付き合った。風祭とはそこまでいかなかったが。」
「....」
「水野が今までで一番長い。付き合い始めて4ヶ月たったところだ」
「....」
「どうした?」

黙り込んでしまった水野。頬を紅潮させ、拳をわなわなと震わせている。
自分の中にあった不破のイメージが音をたてて崩れていくような気がした。
いや、目の前にいる不破は、自分の知っている不破ではない。
だから、こんな話を聞いても動揺することない。気にする必要などない。
しかし!自分の知っている不破は、どうなってしまうのだ!?
この話は多分本当だ。信じたくないが本当の話だ。
ならば、不破は?自分が大切に想っている不破はどうなるんだ!?

水野の瞳が潤んできた。自分でも止められない。
こみ上げてくる感情に押し潰されそうだ。

――――― クスッ...

微かな笑い声が聞こえた。
水野が顔を上げた。
そこには、水野があの時見つけた不破がいた。
瞠目する水野。
不破はゆっくりと立ち上がると、水野の傍までやってきた。

「おまえはオレが好きなのだな?」
「....」
「オレの知っている水野と同じだな。さっきの軽い冗談だ。」
「....」
「オレの水野は厭がる相手には絶対しない。だから、心配するな。」
「不破..」
「よく似ているな」

そう言うと、不破は優しく水野を抱きしめた。
水野の肩口に顔を埋めると、不破が呟いた。

「同じ匂いだ」

水野も咄嗟に不破の身体を抱きしめ返した。
この腕の中の不破は、水野の知っている不破ではない。
だが抱きしめられて、水野が知っている不破と同じ匂いがすることに気が付いた。
彼が別な世界から来たとしてもやはり不破なのだ。
学校で、練習で、時折感じ取っていた不破の匂いと同じ匂いがした。
今はただ、早く返してほしいと願うだけで...それは、腕の中にいる不破も同じ思いだろう。
早く...早く元に戻りたいと...抱きしめる力を互いにより一層強くしながら。



(中略)





不破のじーさんがようやく修理が終わったのは、結局夜の9時を少し回った時間になっていた。
近所迷惑な轟音を響かせて、アイツが戻っていた。走り去る瞬間の光の中、間髪入れずに、同じ車が戻ってきた。
ここから出てきたのは、当然、水野が知っている不破だった。じーさんも嬉しそうにしていた。
だが、不破はそんなじーさんに一言。

「もう二度とオレを実験台にするな!」

じーさんは少しがっかりしているようだったが、そそくさと今回の研究レポートやらを整理しに何処かへ行ってしまった。
不破は疲れているのか、足下がふらついている。咄嗟に水野は手をだして抱えてやる。

「水野?」

不破が水野を見上げる。その瞳は疲れのせいか、いつもの鋭さはない。少し弱々しくも感じられる。

「おかえり。不破。」
「あぁ、すまんな、水野。」

戻ってきた。不破だ。自分がよく知っている不破だ。
泣きそうになる自分をどうにか押さえる。

「大丈夫か?大変な目に遭ったな?」
「えっ!?」
「不破?」

一瞬、ぴくりとした不破の身体。
水野は途端に嫌なことを思い出す。
まさか...

「不破...おまえ...」
「水野...まさか...」

互いに顔を見合わすと、ほぼ同時に叫んでいた。

「あいつとやったのか!?」

不破が、がばっと水野から離れる。

「信じられん!オレに似ているからって!!」
「な、何、言ってるんだぁ!!そう言うおまえこそ、どうなんだよ!まさか、やられたんじゃないだろうな!?」
「何を言って...やられそうになったが、間一髪助かったぞ!」
「...って、おい!どーいうことだよ!?」
「?そのままだが?」
「つ、つまり...」
「ふむ。かなりやばかったが、とりあえず無事だ。」
「そんな...」
「無事だと言っているだろう!そう言うおまえこそ、どうなのだ!?」
「オレだって...オレだって間一髪だったよっ!!」

そこまで言い合って、二人は、はっとした。

「いつから付き合い始めたのだ?オレ達は?」

真っ赤になる水野。首を傾げる不破。
まるで恋人同士のような言い争い。

不破は腕を組むとまた首を傾げながらも、水野に言った。

「これから付き合ってみるか?」
「えっ!?」
「いやか?ならば止めておくが」
「えぇっ!違う!止めなくていい!!」
「水野?」
「えっと...あの...」
「なんだ?」
「その前にちゃんと言わなきゃいけないことがある」
「???」
「不破。オレは不破のことが...」
「待て、水野」
「えっ?」
「オレも水野に言わなければならないことがある」
「それって...」

しばしの沈黙。
二人同時に息を吸い込む。
そして、互いに告げられる同じ言葉。


――――― ずっと前から好きだった


Fin(力尽きた...)




あとがき

本当に力尽きました、しかも途中から。そうです!不破のじーさんが出てきたあたりから。(苦笑)
設定がよく出来ていないのに書き出してしまったので...これが敗因ですね。
1日で書き上げようなんて言うのが無謀だったのか?結局、1週間以上かかったし...。
間一髪のこぼれ話は、このページの(中略)付近にあります。水野モード、不破モード、計2ページです。
こちらのページは18禁がかなり入っているので、ご注意を!?

タイトルと全然関係なくなっちゃたなぁ...スピッツの名曲を...ファンの方すみません。m(_ _)m


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