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「これ、なんだ?」 遊びに来た京弥は、大地の客間に飾られた人形たちに驚いて指差した。大地は腕組をして深い溜息を吐き、ぽつりと呟いた。 「乙女の雛人形だ」 「おとめのものなのか?」 「あぁ、乙女の実家で物置を整理していたら出てきたそうだ。処分は乙女に任せるを言って、送りつけてきたのだ」 客間を半分以上占領している雛壇飾り。三人官女に五人囃子と、年代ものであるが、豪華絢爛さは失っていない。 豪華...否、この真っ赤な被布に覆われた段飾り自体が、けばけばしいと言えば、そうなのであるが。 「なぜ、かざるのだ?」 「早く、おヨメさんになれますように、ってお願いのためなのよ」 いつの間にか、乙女が二人の後ろに立っていた。手には、飲み物とお菓子をのせたお盆を持っている。 「はい、京弥くん、どうぞ」 そう言って、乙女はそれを京弥の目の前に差し出した。 「これ、なんだ?」 出されたものを、指差して、京弥は目をぱちくりさせた。見たこともない、飲み物とお菓子であったからだ。 「京弥くんには珍しいものよねぇ、だって、男の子には縁がないものだもの」 「ん?」 「これはねぇ」 乙女は白濁した飲み物が入っているグラスを指差しながら、 「白酒っていうのよ」 「しろざけ??、さけなのか!?」 驚く京弥に、乙女はにっこり笑うと、 「お酒とは言っても、アルコールは入ってないのよ。そうねぇ、甘酒みたいなものかしら」 と説明した。さらに、お菓子を指差して、 「こっちは、雛あられっていうのよ。お米のお菓子ってところかしら」 けど、キレイでしょ?と言いながら、京弥の目の前にそれを差し出した。京弥は、ちょっと首を傾げながらも、それを一粒だけ口に入れると、さらに目をぱちくりさせた。 「あまいのだ」 「そう、甘いでしょ」 「合成着色料だらけで、とても身体に良いとは思えん」 いつの間にか、大地は自分でキッチンからミネラルウォーターを持ってきて、それを飲んでいた。 「あら、これは使っていないものを選んできたから大丈夫よ。でも、合成着色料って様々な食品に使われているけど、アレルギー性や発ガンの原因になる突然変異性を疑われているから、近頃、そういった食品は市場からかなり減ってきているわ」 さすが、NASAで宇宙食を開発しているチームに所属しているだけあって、食品の成分には詳しい故に、神経を尖らせているようだ。愛息がサッカーを始めてから、余計、栄養面には気をつけているらしい。 その時だった。 がたがたと音がして、雛壇の一角が崩れ落ちた。というよりは、京弥が興味津々で手を伸ばし、転んで、飾り物たちが畳の上に落ちてきた音だった。 「あら、大丈夫?、京弥くん」 乙女は雛壇の前にぺたりと座り込んでしまった京弥を心配した。京弥の周りには、落ちてきた人形やらお道具の類が散乱している。 「おとめ、おこらないのか?」 「あら、どうして?、京弥くんの方が心配よ」 乙女はほんわか微笑んで、京弥を立たせた。そして、散乱した物達手際よく元通りにし始めた。 「ひな祭りって、桃の節句とも言うのよ」 片付けながら、乙女が喋りだした。 「正式には上巳(じょうし)の節句と言うんだけど、それは、古来中国から伝わった三月の初めの巳(み)の日という意味からきているの。そしてね、平安時代の御人形(ひいな)遊びと、紙やワラで作った簡素な人形(ひとがた)に自分のやくや災いを移して海や川へ流した流し雛の行事が結びついたのが現在の「ひな祭り」。だから...」 乙女はふっと息を吐いた。 「雛人形を飾ることは、生まれた子供が健康で優しい女性に無事に育つようにとの家族の願いがこめられているの。つまり、雛人形が身代わりになってくれてその子供に災いがふりかかりませんように、結婚など人生の幸福が得られますように、という家族の温かい思いが込められているのよ」 乙女は片付け終わると、くるりと大地に向き直った。 「女の子のお祭りだけど、家族の思いはそうなのよ」 自分達の子供が幸せになれますように...。 「けど、大ちゃんが、本当におヨメさんに行っちゃたら、ちょっと悲しいわねぇ」 「おい」 乙女は、ほぇほぇと笑っている。 春の足音が聞こえてくる季節であった。 おしまい ☆ ―――――――――― ☆ 今年のお雛様飾り担当は、ウチのばぁちゃんが頑張ってくれました(自分は、左半身が麻痺していて出来なかったもので...原因は精神的なものらしく、つまり、また病状が悪化したようです)。 しかし、飾ったからといって、これが何の意味があるというのか...マジに邪魔でしたが、それでも、見ていると何故か和やかな気持ちになれるのは不思議ですね。 date:2004.03.01 ☆ ―――――――――― ☆
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