「不破くん」
「何だ?」

振り向いた不破の動作を、風祭はじっと見つめた。

「何の用だ?」

むすっとしている不破に対して、風祭は急に笑い出した。そして、

「もしかして、寝違えた?」
「!?」

不破の動きが可笑しいので、そう訊ねてみると、

「そうではない」

と、不破は素っ気無い。しかし、明らかにその動きはぎくしゃくしていて、まるで首にコルセットでも巻いているような動きだった。つまり、首を少しも動かさないように気遣っているような仕草だった。

「痛いの?」

風祭はさらに、そう問いかける。すると、不破は軽い溜息を漏らした。

「そうだな、かなり痛いのだ。しかし寝違えたワケではないぞ。ただ...」
「ただ?」
「ムリな体勢を強いられただけだ」

「ええっ!?、誰にやぁ!」

これに反応したのはシゲだった。全ての思考が、あっち方向に飛んでいきやすいシゲである。そのシゲの背中を、しっかりと、水野が足蹴りしていた。

「いったぁ〜っ!、だって、不破がムリな体勢やなんて...」
「おまえなぁ」

水野は呆れ顔だ。だが、そんな二人に構うことなく、不破は無表情に言葉を続けた。

「昨晩、乙女と一緒に、家の中の物置部屋を整理したのだが、その時、左半身をひねったようだ」
「左半身?」
「あぁ、左肩がもっともひどいのだが、左足も実は痛いのだ」

「じゃあ、今日の練習は休んでおいた方がいいな」

水野が口を挟んできた。シゲは、水野に蹴られた背中をさすりながら、

「不破がおらんとつまらんけど、しゃーないなぁ」

と深い溜息を漏らしていると、

「やっぱ、不破だったんだ」

と、突然、小島が話しかけてきた。不破が「?」顔でいると、小島は苦笑いをして、

「今朝から、やけに教室の中がシップ臭いって思っていたのよね」
「...やはり、わかるか?」
「そりゃ、わかるわよ!、なんてーいうか、痛々しいカンジの匂いよねぇ、それって」

と、腰に手を当てて、不破を見据えた。

「そんなに痛いの?」
「あぁ、左半身が自分の意思とは違った動きを要求する」
「それって、つまり、無意識のうちに庇ってるってことでしょ」
「あぁ、そうだ」
「もう!、まだるっこしい表現しないでよ!、ところで、まだ痛むんだったら、シップ張り替えたら?」
「そうだな...」

不破が考える間もなく、小島は大きな声をあげた。

「琴美!、不破のシップ、張り替えてやってよ!」
「!?」

不破だけではなく、風祭やシゲ、水野も目をぱちくりさせた。

「どうしたの?、不破くん?」

藤ヶ瀬琴美は、小島からの当然の呼び出しに、驚きながら近づいてきた。

「不破、なんていうか...そうね、筋肉痛ってヤツね!」
「否、そうでは...」

不破が否定しようとするが、小島は黙っていろと言わんばかりに、不破に睨みをきかす。

「サッカーで?、だったら、マネージャの有希が...」

藤ヶ瀬は、少し頬を赤らめながら言葉を濁した。すると、

「琴美は、保健係でしょ?、だったら、保健室に連れてってやってよ」

小島は、にやっと笑うと、二人を後押しして廊下へと出て行った。取り残された連中は...この上なく、非常に面白くないといった表情だった。それもそのはず。藤ヶ瀬琴美は、不破に好意を寄せている女子生徒の一人。それに不破自身も、彼女のことが、かなり気になる存在らしいのだ。

「小島さんにハメられたってカンジだね」

ぽつりと風祭が呟いた。

小島は藤ヶ瀬とは幼なじみ。友人の恋路を邪魔する不埒者達を近づけまいとしているのが、あからさまに分かる。

「やられてもうたか...ちっ!」

思わず舌打ちするシゲ。さすがのシゲでも、手の出しようがない素早さであった。

「小島には勝てないよ、おまえでもな」

水野もふぅっと溜息を漏らした。

せっかくのチャンスだったかもしれないが、藤ヶ瀬を後押ししている守護神(?)小島の前では、三人は全く無力だった。




おしまい


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とりとめのない話で、すみません。

実はこれ、自分のことです。ですが、筋肉痛ではありません。どうやら、精神的に、左半身が麻痺したらしく、それが時間とともに和らいできたら、滅茶苦茶ひどい肩こりのような状態になりまして...事務所中、シップ臭かったのです。

「痛々しい匂い」とは、同僚の一人に言われた台詞でして、事情を知らない人は、寝違えたと思ったようです。確かに、首が回らなかった(爆笑)。車を運転中の左右確認は、非常に辛かったです(涙)。まだ、痛みが癒えずに、一苦労。けれども、精神的な問題が少し緩和してきたので、かなり良くなったきました。

自分の場合、まず身体が悲鳴をあげるようです。

心の叫びが、こういった形で出てくるのです。


そろそろ、限界かなぁ...


date:2004.03.08


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