プロローグ


 晴れ渡る青空。これでもかといわんばかりに太陽の恵みが地上に降り注ぐ。
 地上の動物たちがその恵みを全身に浴びながら生活をしている。
 だが、その光から逃れながら移動しているものがいた。
「凄いなぁ、ここの森は」
 回りの景色を眺めながら一人の少女が呟く。
 年は19ほど。ブルーの長髪を邪魔にならないようにポニーテールにまとめている。
 皮製のフード付きのコートを身にまとい、旅人風の出で立ちをしている。そして右手にはブルーの指輪。
「それはそうだろう。この時期は雨と太陽の恵みが降り注ぐときだからな」
 少女の下からくぐもったような低い声が返ってくる。

 少女の名はアクア。たったひとりの青年を探すために旅に出ることを決めた、行動力のある少女だ。
 そしてそのアクアの旅に同行しているもの。これがまた信じられないことにドラゴンである。
 名はルドラ。人の強さを知り、自分の力を人のために使おうというドラゴンとしては変わり者の部類に入るだろう。
 そして今はその力をアクアのために使っているというわけだ。
「うん、そうだね。でも、できれば太陽の光を浴びながら飛びたいな」
 ルドラの首のあたりにまたがっているアクアが言う。
「仕方ないだろう。真っ昼間から空を飛んでいたら人目について大騒ぎになってしまう。
そうなればいらない戦いを強いられる事になるぞ」
 回りの木々に翼をぶつけないよう気をつけながらルドラが答える。
「うん、…わかってるけどさ」
 それでも少し不満そうな声を出す。
 いまでこそ普通にルドラに乗っているものの旅をはじめた当初は、なかなか上手に乗れなくて苦労したものである。
 少しでも大きく揺れようものなら必死で落ちないようにルドラにしがみついていたのだ。
 旅をはじめてから、早一ヶ月。多少スピードを上げても落ち着いて乗っていられるくらいの腕にまで上達した。
「ところで、目的地まではまだ遠いの?」
 顔をルドラのほうに向けて問う。
「うむ、そうだな。あと一日もあればつくだろう。なにせこの辺りには街などがまったくといっていいほどないからな」
 相変わらず地面にこすりそうなくらいの低空飛行を続けながらルドラが答える。
 それきり両者ともに口を開かず森のなかを人知れず突き進んでいく。
 周囲にうっそうと茂る森の木々がアクアたちの姿を十分なほどに隠してくれる。
 それにここが獣道ということも手伝って人の気配もない。昼間に移動するにはもってこいなのだ。
 普段は夜に移動するのだが、休憩できそうな手頃な場所が見つからなかったので仕方なく今は昼に移動している。

 飛びつづけること数時間。
 ドォォン! ドォン!
 突然の振動が森の木々を揺らし、その衝撃がアクアとルドラにも伝わる。
「なに!? これ?」
「どうやら魔法だな。誰かが戦っているのかもしれない」
 少しパニックになっているアクアに冷静に説明する。
「いってみよう。ひょっとしたら助けになれるかも」
 必死の表情でルドラに詰め寄る。
「わかっている。なんとなくそう言う気がしていたがな」
 口元を歪めると少し笑ったような顔になる。
「ありがとう」
 少女を乗せたドラゴンが爆発音のあったところへと急スピードで飛び立っていった。


「まったく、しつこいなぁ」
 馬にまたがり、かなりのペースで走らせている女性が悪態をつく。
 短くショートにした髪。動きやすそうにシャツとショートパンツという格好だ。
 どう見ても森の中を移動するような服装には見えない。
 その女性の背後からは巨大な魔物が木々をなぎ倒しながら向かってくる。
「え〜い! これでもくらえ!」
 片手をかかげて、意識を集中させる。するとそこにサッカーボールほどの赤い球体が発生しはじめる。
「いっけぇ〜!」
 その声と同時にその火球を投げつける。
 それは魔物の急所にヒットすると軽い小爆発を起こした。が、それに怯んだ様子もなく依然として突き進んでくる。
「あ〜ん、こんな初歩的な魔法じゃだめだぁ。もっと強力なのじゃないと…。でも使用までの時間がなぁ…」
 馬の手綱を握り締めながら次の作戦を考えるが、なにも思う浮かぶことがない。
 仕方なくそのままペースアップして逃げようとすると、魔物の口から触手のようなものが伸びてきて馬の脚を払ってきた。
 たまらず馬は地面に転げ、女性は地面に投げ出される。
「イタタタ…」
 あちこちをすりむくが、そんなことを気にしてはいられない。とにかく逃げようと走り出す。
 しかし、馬をなくしたいま、到底逃げ切れるとは思えなかった。
 覚悟を決めたその瞬間!
 ズドォォォン!!!
 さきほどの魔法の衝撃とは比べ物にならないほどの衝撃が森に襲い掛かる。
 その衝撃で森中の鳥たちが一斉に空に飛び立ちはじめる。
 一方の女性はその衝撃波によってさらに数メートル地面を転げまわる。
「なんなのよう、もう」
 痛む体で自分を追っていた魔物のほう見る。が、そこにすでに魔物の姿はなかった。
「あれ? 魔物がいなくなってる。それにさっきの衝撃は?」
 キョロキョロと自分の周囲を見渡す。
「っっっっ!!」
 自分の目前にいるその姿を見て彼女は息を飲む。そう、ドラゴンが悠然とはばたいていたのだ。
(ああ、今度こそ終わりね。みんなゴメン)
 あきらめ地面にペタリとしりもちをつく。目をつぶってその瞬間を待ちつづけるが一向にその気配がない。
 恐る恐る目を開けるとそこには自分と近い年頃の女の子が顔を覗き込んでいた。
「キャァァ!!」
「!!」
 突然の悲鳴に女の子も思わずたじろんでしまう。
 それでも、その女の子はゆっくりと彼女の肩に手を置く。
「あの、もう大丈夫ですよ。魔物は倒しましたから」
 ゆっくりと相手を脅えさせないように諭すような口調で語りかける。
「…え?」
 悲鳴と同時にまたつむってしまった目を開ける。
 そこには変わらずの女の子とドラゴンがいた。
「えっと…どうなってるの?」
 状況が飲みこめずに女の子とドラゴンの間を視線がいったりきたりする。
「うん、それじゃあ、その辺りで説明しますね」



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・プロローグ『ドラゴン乗りの少女 プロローグ』掲載完了です。
 なんかしょっぱなから急展開ですね。自分でもビックリです。
 もっとスローペースではじめようとも思っていたんですが、結局こうなってしまいました。
 これからゆっくりと自分のペースでチョロチョロと書いていきたいと思っています。
 前作を読んでくれた方も、これからの方もよろしくお願いします。



2000年 6/25 ぱんどら

『セレス』
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