講座終わって…
さらに30数秒を費やすとハッキリと形が現れてきた。
テニスボールほどの大きさの赤い火球がその両の手の前に出現する。
「はい! それを放って!」
その形を確認するとセレスが後ろから叫ぶ。
それに対して軽くうなずくと気合の声とともにその火球を的のかかしに向かって投げつけた。
火球は狙い通りにまっすぐに的へ向かって一直線に向かう。
そして……着弾!!
ボン!!!
「……」
「……」
アクア、セレスの二人が直撃したかかしを見る。
が、上半身部が燃えてなくなっただけで、他の部分はどこにも燃えた後は確認することができない。
「はぁ〜、やっぱりなぁ」
緑のショートの髪をポリポリと掻きながらセレスがアクアの元に歩み寄る。
「やっぱりって…どういうこと?」
魔法を放った両手をゆっくりと下ろすと隣までやってきたセレスに尋ねる。
「うん、意識しちゃまずいと思って、あえて言わなかったけどね」
と言って説明を始める。
「物理魔法にのみいえたことなんだけどね。魔法ってその才能はもちろんだけど、使い手の性格もある程度反映されるの。
精神的な部分もあるからね。優しすぎるとどこかで無意識に力をセーブしちゃうのよ。今のアクアみたいに」
初歩的な基本物理魔法とはいえ、あれくらいの的を余裕で吹き飛ばすくらいの破壊力はあるはずだ。
まして、アクアの集めた元素の量は常人の1.5倍はあった。
それでも、あの威力では、原因はそれしかないと思ったのだろう。
「え? そうなの?」
「うん、戦闘慣れもしてないしね。なにかを倒すっていうことに罪悪感を感じちゃうんじゃない?」
「……」
「ま、そんなに落ち込まないで。才能は凄いものがあるわよ。あんなに短時間で元素を練れるなんて大したものよ」
「うん。でもこれだと、弓を覚えても意味ないのかな?」
どちらかというと、魔法を使えないという点より、弓を覚えても魔物相手に射れる自信を無くしたようだ。
「否定はできないけどね、それに関しては、あたしも。でも、覚えないよりはマシでしょ。
そんな風に後ろ向きばっかりじゃダ〜メ。護身術程度に考えとけばいいんだからさ」
正直アクアがここまで落胆すると思っていなかったのでなんとか元気づけようとあの手この手を考える。
「…そうだね。うん、わかった。ありがとう、セレス。それにまったく使えないってわけじゃないものね。
それじゃあ、弓のほうも教えてくれる?」
「オッケー」
「ご苦労様。とりあえずこんなものでいいでしょ」
そういって自分の弓矢をバッグに仕舞うと、変わりにタオルを取り出し汗をふく。
「ありがとう。やっぱり教えてくれる人がいると違うね」
アクアも自分のタオルで汗をふき取っている。
「アクアの筋も思いのほかよかったしね。あたしも教えがいがあったわよ」
とニコリと笑う。
「そんなこと…。セレスが上手なのよ、教えるのが」
「相変わらず謙遜するね。もっと自分の自信を持ってもいいのに」
本心からそう思う。
魔法、弓とそれなりの才能を持っているのに自分の自信を持てないせいか、今一歩というところで止まっている。
なにかをきっかけにして自信を持つことができれば、劇的に変わるかもしれない。
セレスはそう思った。
「あっと…あたしはそろそろいくね。仲間との集合時間があるからずっと行動してるわけにもいかないし」
ふと思い出したかのようにそう告げた。
「あっ、そうだよね。……また会えるよね」
「お互いに生きてたらね。そのときは上達を見せてもらうわ」
言うとアクアの前に右手を差し出す。
「?」
しばらくそれの意味を考えてしまったが、察すると左手で軽く叩く。
そして今度はセレスがアクアの左手を軽くたたいた。
ハーヴェストの街。
トリスタン国のやや南側に位置する街だ。
近隣には緑豊かな森があり、水源も豊富ということあってか、農業が盛んでありそれらの売買なども行われている。
「はぁ〜、なんだか街の空気って久しぶりだなぁ」
食事をするところを求めて繁華街をうろつくアクア。もちろん情報収集という目的も忘れてはいない。
「やっぱり街っていいなぁ。活気があって」
回りをキョロキョロしながらウキウキしている。その活気を分け与えてもらったかのように。
ちなみにいつも身につけている皮製のマントはつけていない。
いたって普通のYシャツにスカートといった出で立ちだ。さすがにあの服装で街を歩くのは抵抗があるのだろう。
ひょっとしたら気分が高揚しているわけは服装のせいもあるのかもしれない。
いまのアクアは旅人ではなく、普通の女の子として街を歩いている。
「あっ、ここ、大衆食堂かな? ここにしようかな?」
他には見当たらないのでとりあえずここで遅い昼食を取ることにした。
店の名前は『森の恵み亭』
「ふぅ、ここにもいないのか」
一番奥のカウンタ席に座っている青年が、目の前に飲み物を一口飲むとそう呟く。
年齢は24ほど。黒い髪の毛が店内の小窓から差し込んでくる太陽を浴びて軽く反射している。
鋭い目つきをしており、その眼光で人をすくませることはたやすいだろう。
「しかし、かすかに気配はする。もう少しこの街に逗留し探すべきか。あの忌まわしき存在を」
そう言うとコップの中身を飲み干す。そして、勘定を払い店を出ようとしたとき。
「!?」
匂いがした。
自分が忌み嫌う存在の匂いを。立ちあがりかけた身体を再び椅子に沈めるともう一杯注文する。
そして入ってきた者を気づかれないように観察し始めた。
「お腹空いたぁ〜。すみません、なにかお薦めできて安いものお願いできますか?」
入り口側のカウンタ席に腰掛けると注文する。
「はいよ」
主人がそんなぶっきらぼうな返事をすると厨房に引っ込む。
「やっと食べられるなぁ。訓練中になにも食べなかったし。なんか嬉しいな」
無邪気に顔をほころばせながら料理が来るのを待ち焦がれる。
店内は広く、カウンタに椅子が12。丸テーブル15にそれぞれ椅子が6脚ついている。
内装としては『水晶の森亭』とさほど変わらないだろう。
(大衆食堂ってどこも変わらないのかな?)
グルリと店内を見渡すとそんなことを思う。
「お待ちどう」
相変わらずの無愛想で料理をアクアの前に置く。
内容は定食。しかし、さすがに土地がいいのか、野菜は瑞々しく、オルタネイトのものよりおいしそうだ。
「ありがとう。…それとちょっと尋ねますけど?」
「なんだい?」
そこから離れかけていた足が再びにアクアの方に戻る。
「この街にこんな人が来ませんでしたか?」
そういって小さめのバッグから自分の探し人の似顔絵を見せる。
数秒その絵を見ていた主人は、ふぅ、と溜め息をつくと、
「いや、こなかったよ。来ていたとしても顔までは覚えていられん」
そう言ってアクアの前から姿を消す。
「はぁ〜、ここもスカなのかなぁ? 食べてからもうちょっと情報収集してみようかな?」
今後の行動を決定し早速食事にありつく。
………
ゆっくりと1時間ほどの時をかけて食べる。最後に水を一杯飲むと、
「ご馳走様でした」
お礼の言葉を主人に述べ、勘定を払って店を出て行く。
そして…、
その後を追うようにして出ていった影にアクアは気づくはずもなかった。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 オリジナル小説第2章・5話『ドラゴン乗りの少女 講座終わって…』掲載完了です。
バックアップしておいたおかげで無事に更新することができました。
今回は魔法の続きとあとは新キャラですね。こんな風に予感めいた書き方で読んでる方を引っ張れたらいいと思ってます。
以前はこんなことやってなかったし。これからはいろいろと試していきたいと思ってます。
アクアもやっと旅人から普通の女の子に戻すこともできました。どっちのほうがいいのかな?
俺はどっちでもいいと思ってますけどね。
それと魔法についてちょっと補足。
まず、物理魔法は使い手の心がある程度反映されます。神聖魔法は使い手の信仰心。
精霊魔法は使い手と精霊との相性。召還魔法は使い手の戦闘能力と支配力。といったところですね。