情報収集


 カラン、カラン♪
 森の恵み亭のカウベルが優しくなり響き、店を出るアクアを見送る。
 外は快晴。道行く人々はどこかで休憩しようと手頃な店を探している。
 アクアにはそんなことをしている暇はあるはずもなく、これからルーシアの情報を探さねばならない。
「さ〜てと、どこからいこうかな? とりあえず人が集まりそうなところで公園でいいか」
 パッパとこれからの行動を決めると街の公園を目指して歩く。

「すみません、こんな人がこの街に来ませんでしたか?」
 たどり着いた公園で一人一人に聞いて歩く。だが、どの人も首を振るばかりで手掛かりは一向に見つからない。
「ふぅ〜、もう2時間かぁ。どうしよう? この街にはきてないのかな?」
 公園に備え付けの赤いペンキの塗られたベンチに腰掛け一休みする。
「まだ、旅を始めて一ヶ月だし、そんなに早く見つかるとは思ってないけどさ」
 膝に両肘をついて頬杖をする。しばらくボォォっとしていると隣に一人の男性が腰掛けてきた。
(丁度いいや。この人に聞いてみてダメだったらこの街は諦めよう)
 そう考えを決め、
「すみません、こんな人がこの街に来ませんでしたか?」
 とルーシアの絵を見せる。隣の男性はゆっくりと、そして繁々とその絵を見つめると、
「いや、知らないな。町長にでも聞いてみたらどうだい? ここの住民の出入りなんかの情報はいってるはずだから」
「そうですか。ありがとうございます。…それで町長さんのお宅は?」
 その男性から町長の家を聞くと一直線に尋ねていった。


「どうも、すみませんでした。突然お邪魔しちゃって」
 家から出るとペコリと頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそお力になれずに申し訳ありません」
「気になさらないで下さい。それでは、私はこれで失礼します」
 もう一度頭を下げると町長の家から離れる。

「はぁ〜、ダメだったかぁ。この街には来てないみたいね。しょうがない、ルドのところに戻ろう」
 うなだれながらルドラの待つハーヴェストの森へと戻っていった。


「クソ!! 見失ってしまったか! 俺としたことが不覚だな。匂いが弱いから10mも離れてしまえば分からなくなってしまう」
 アクアがハーヴェストの森へと戻る10分ほど前。
 漆黒のマントを身にまとった青年がそう一人ごちていた。


「おっ、戻ってきたな。どうだった? アクア?」
 ルドラが戻ってきた彼女を出迎える。が、その表情から結果を知ったらしく、
「そうか…、まあ気を落とすな。まだ始めたばかりだからな」
 と、アクアが結果を言う前に慰めの言葉をかける。
「うん、わかってる。落ち込んでなんかいられないよ。夜を待って次の街に移動しよ」
「うむ、わかっている」
 アクアはルドラの側までやってくるとその身体に寄りかかる。
 木々の隙間から吹いてくる風が優しくアクアを撫でていく。それにうっとりとしながら目をつぶるアクア。
 ルドラも同様のようで大きくアクビをした。
「眠いの? ルド?」
「…うむ、少しな。森の風や匂いはいい。心地よい眠気を誘ってくれる」
「眠っててもいいよ。私は森をちょっと散歩してくる」
 そう言って寄りかかっていた身体を起こす。
「大丈夫か?」
 魔物の心配をしているのだろう。ジュンケの森と同様の魔物しか生息していないが、それでも森の一人歩きは危険だ。
「うん、大丈夫だよ。一応、こんなときのために護身術も身につけているんだから」
「わかった、くれぐれも気をつけてな」
「うん!」
 笑顔で返すとアクアは森の中へと入っていく。それを見送るとルドラは眠りについた。


 森。豊かな緑の恵み。ここもジュンケの森のようにその恵みを一杯に育んでいる。
 野生動物が地を駈け回り、様々な植物が群生している。
 その中をひとりの少女が地面に降り積もった草を踏みしめながらゆっくりと歩いていた。
「街の中もいいけど、やっぱり森もいいな。緑に囲まれていると自然と気分が落ち着く」
 大きく深呼吸をして森の空気を肺一杯に吸い込む。
「ふぅぅ。…はぁ…」
 息を吐いた後に小さく溜め息をつき、地面にゆっくりと座る。
「ルーシア、今ごろどこでどうしてるのかな?」
 と、自分の探し人の事を考え始める。
 出会いはジュンケの森。オーガーに襲われて窮地に陥ったアクアを助けてくれたのがきっかけだ。
 が、その時の戦闘の際にルーシアは大切な物を失った。20年間の記憶を…。
 アクアは責任を感じ、自分の家の空いている小屋に居候させることを決める。そしてルーシアとの楽しいひとときの幕が上がった。
 ルーシアとの出会いはただ働くだけの彼女の生活を一変させた。毎日が楽しく幸せな日々。
 いつしかアクアはこの記憶喪失の青年に心惹かれていった。だが、終わりはいつも突然にやってくる。
 いつものようにルーシアを起こしにいくとそこに見なれた姿はなく、置き手紙と小箱があるだけ。
 そう、ルーシアは自分の記憶を探しに再び旅立っていってしまったのだ。
 いま、彼女が指にしている指輪と3ヶ月間の想い出をアクアに残して…。
「楽しかったなぁ、あの頃は。キーシャがいて、レイナさんがいて、そしてルーシアがいて」
 3ヶ月間の想い出を振りかえる。すると意識はしていなかったのだが、ポロリと一粒の涙がその瞳から零れ落ちた。
「あれ? やだな…もう泣かないって決めたのに…」
 だが、止めることができずにそのまま声を押し殺してひとしきり泣いてしまった。
 ………
「はぁ〜、やっと落ち着いた。泣いてちゃダメだな。私も。クヨクヨしないでまっすぐ歩かなくちゃ」
 新たにそう決意すると下ろしていた腰を上げる。
「そろそろルドのところに戻ったほうがいいかな? 暗くなってきちゃったし」
 空はすでに日が落ち始めて薄暗くなり始めている。この時間帯は魔物の時間。そのことは十分アクアも承知している。
 急いで戻ろうとしたとき、アクアの視界にひとりの女の子が映った。
 地面に倒れていて、服もところどころ破けているようだ。当然ほおっておけるはずもなく、アクアはその女の子に近寄る。
 年は12.3歳くらいだろうか? 少し癖毛の金髪は背中の中程まで伸びている。
 どこからか走ってきたのか顔や服にほこりがついている。
 また、その服も木の枝でこすったのか、ところどころ破けたり、ほつれたりしている。
「ねぇ、大丈夫?」
 女の子の頭を軽く持ち上げると声をかけてみる。
「……」
 だが、反応がない。一瞬心配になるが、胸がゆっくりと上下運動をしているのが確認できる。
「よかった、息はあるみたい」
 ホッと胸をなでおろす。が、問題はこの子をどうするかである。
「こんなところにほおっておくことなんてできないし、やっぱり一緒にルドのところまで連れていったほうがいいだろうな」
 当然の結論を導き出し、その子を、ひょい、と抱き上げるとルドの待つところへと小走りに戻っていった。



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章『ドラゴン乗りの少女 情報収集』掲載完了です。
 う〜ん、これほどタイトルと内容があってないのは珍しいかもしれない。情報収集なんてほんの、25.6行足らずで終わってるし。
 どっちかというとメインはアクアの回想? になっているような気がする。これはこれでよくできたと思ってますが、どうでしょう?
 んで、また新キャラ登場ですね。次回の話で少しだけ詳しく書くつもりです。
 これ以上はキャラが増える予定はないですね。なんせ流れる話ですから、キャラの固定ができない…。
 それでは、また次の後書きで。(^_^)/~


2000年 7/30 ぱんどら

『講座終わって…』 『レティシア』
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