レティシア


「それで仕方なく連れてきた、というわけか」
 毛布の上で静かに眠っている少女を見ながらルドラが言う。
「うん、やっぱりまずかったかな?」
 その少女のすぐ隣に腰掛け顔色を伺いながらアクアが返す。
「いや、まずい、ということはないがな。ただ、わしを見てどう思うか…」
 と、最後のほうは少し小さめの声になる。
「うん、なんとか理解してもらうように私は頑張るよ。セレスもわかってくれたんだし。ルドもすぐに諦めないでさ」
 少女のほうから視線をルドラに変えるとニコリと微笑みながらそう言った。
「うむ、そうだな。わしも努力するかの。それと今夜はどうするつもりだ?」
 と話の路線を変えてくる。いきなりなので、少し戸惑うがすぐに察すると、
「うん、本当は今夜にでも出発しようと思ったけど、この子のこともあるしね」
 少し不安な様子が混じった表情で眠っている少女を見やる。
 少女は毛布の上に寝かされゆっくりと規則正しい寝息を立てている。
「そうだな。今日はハーヴェストで一泊するといい。わしはここにいる」
「ごめんね、ルド」
 相棒であるドラゴンに謝りながら、少女の額に当てられた濡れタオルを交換する。
「気にするな」
 短くそれだけ言うと、少女の看病を優しく見守りつづける。

「…ん……」
 どれくらい経っただろうか? 少女が小さくうめくと寝返りをうつ。
「あ、目が覚めたのかな?」
 すぐさまその表情を観察し始める。眉が少しずつではあるが動き始めている。そろそろ目が覚めるのだろう。
「う…ん」
 その声と同時に眠たそうに目が開かれる。最初に見たのはブルーの髪の女性。
「…ここは…?」
 その女性に尋ねる。
「ここは、ハーヴェストの森の中よ。あなたが倒れていたから私がここまで連れてきたの」
「森の中? ……」
 しばらく考え込む様子を見せると不意に何かを思い出したのか、顔が崩れ始める。
「どうしたの? なにかあったの?」
 その変わりように驚くが自分まで取り乱してしまってはいけないと思い、努めて平静を保つ。
「パパ…ママ……」
 うわ言のようにそう繰り返すと、アクアの胸に顔をうずめ泣きじゃくった。
 その様子からなにがあったのかを悟ると、アクアはそっと少女の髪を優しく撫でるとその両の手で抱きしめてあげた。
 ………
 ようやく落ち着きを取り戻した少女がアクアから離れる。
「落ち着いた」
 少女と視線を合わせ、優しく尋ねる。
「…うん、ありがとう。お姉ちゃん」
 腫れぼったい目をこすりながらアクアに礼いう。
「私の名前はアクアっていうの。あなたは?」
「…レティシア」
「そう、レティシアっていうの。いい名前ね」
「うん、あたしも気に入ってるの」
「そうなの。あっ、そうそう、あっちにいるのがルドラ。お姉ちゃんの友達なの」
 後からでは紹介しにくくなると思ったのだろう、互いの自己紹介が終わった勢いでルドラの名前を出す。
 その姿を見た瞬間レティシアが息を飲み、身をすくませるとアクアに抱き付いてきた。
「いや! 怖い」
 アクアの胸の中で再び震え出す。その肩に両手を添えると、どうしたものかと考え込む。
(やっぱり、ルドのことを理解してもらうのは難しいかな? セレスは結構あっさりしてたけど、子供だしね)
 それでもなんとか理解してもらおうと努力する。
「大丈夫よ、怖がらなくて。私の大切なお友達なの。あなたがそんなに彼のことを怖がっちゃうと私は悲しいな」
 胸の中にいる少女にそう優しく語り掛ける。
「……」
 反応はない。
 しかし相変わらず震えてはいるが、そのアクアの言葉からか、強張っていた表情が少しだけ緩む。
「ねっ、大丈夫。怖くないよ。ほら」
 そういってレティシアの手を取り立たせる。そしてそのまま手をつないだままルドラの側までやってくる。
 当のレティシアはアクアの腰にしがみつきながらまだ震えている。
「大丈夫、お姉ちゃんが側にいるからね」
 安心させようと必死で優しく声を掛けつづけるアクア。そしてルドラの正面までやってきた。
 ルドラはできうる限りの優しい瞳でまっすぐにレティシアを見る。
 レティシアも同様にジッとルドラの瞳を見つめ返している。
 どれくらいそうしていただろうか?
 先に表情を崩したのはレティシア。何かが分かったのか急に顔がニコリとする。
「うん、お姉ちゃんの言う通りあたし、このドラゴンさん、怖くないよ。なんていうのかな? 目が…その…」
 自分が感じ取ったことをうまく言葉にすることができずにモゴモゴとする。
「いいのよ、わかってくれただけで私は嬉しいから。ねっ、ルド」
 そう言ってルドラに微笑みかける。そしてそれをドラゴンは頷いて返した。
 レティシアは最初の恐怖はどこにいったのやら、ルドラの翼を触ったり背中に乗ろうとしたりとじゃれついている。
(目かぁ。そういえばセレスもそんなこといってたなぁ。目はすべてを語るっていうのはホントなのかな)
 そんなことを考えてながらその様子を姉が可愛がっている妹を見るような目で見ている。

 ルドラとじゃれあうのも飽きてしまったのか、すでにルドラの身体から降り地面の上に座っている。
 腰まで伸びた金髪が森からのそよ風でたなびく。その髪の毛を抑えようともせずにジッと遠くの一点を見つめている。
「どうしたの?」
 さきほどまでの元気がどこにいったのか、分からなくなってしまいアクアが尋ねる。
「ううん、何でもない。ただね……」
「ただ? なに?」
 レティシアの顔を覗き込むようにして聞き返す。
「……やっぱり…なんでも…ない」
「そう…」
 瞬間の表情のかげりを見逃さなかったアクアはなにがあったのかはおおよその想像はついている。
 しかし、分かってはいるが心ではその想像を否定したい。
「ねぇ、ルド。この辺りに村か街ってある?」
 レティシアから離れ、ルドラに聞く。
「そうだな、……ナックという村がある」
「そう。悪いんだけど、その村の様子を見てきてくれないかな? 私はレティシアの側にいないといけないし」
「見に行くだけ無駄と思うがな。アクアの想像通りだと思うぞ」
 アクアの心情を見ぬき、そう諭す。
「わかってる! …わかってるけど……否定したいの。あんな子供が孤児になっちゃうなんてことは」
「……わかった、いってみよう。お前も十分に気をつけてな」
「わかってる。あと数時間もすれば魔物の時間帯がやってくるものね」
 大丈夫、といわんばかりにガッツポーズを取る。
「ああ、それもあるがな」
「え? 他にもなにかあるの?」
「いや、わからん。確証は持てないが、なにか危険分子がいるような気がしてな…」
「そうなの? 分かった。そっちも気を付けるね」
「うむ、ではいってくる」
「いってらっしゃい」
 手を振って笑顔で見送る中、ルドラは翼をゆっくりと羽ばたかせて森の中を進んでいった。

 ルドラが出てから数十分後。漆黒のマントを羽織った青年がいま、ハーヴェストの森へと足を踏み入れた。



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章『ドラゴン乗りの少女 レティシア』掲載完了です。
 ということで恒例となりつつある、新キャラとの会話形式ですね。
 レティシアがルドラを理解する部分はちょっと強引っぽいけど、許してください。
 そこを上手に表現する方法ややり方は全然わからなかったんで、こういう形になりました。
 で、やっと漆黒のマントの青年の登場ですね。次回に。
 さあ〜て、どんな感じかな?  それでは、次の後書きでまた会いましょ〜(^_^)/~
 


2000年 8/6 ぱんどら

『情報収集』 『ドラゴンスレイヤー』
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