ドラゴンスレイヤー
ルドラがナック方面に向かうとアクアは自分のバッグから弓矢を取り出す。以前までは手製のものを使っていたが、
先の訓練中にセレスから使わなくなったという弓と矢を貰っている。それの具合を確かめるように弦を引き絞る。
そして矢筒に弓がしっかりと入っていることを確認するとそれを傍らに置き、回りに注意を配る。
そしてレティシアはそんな彼女の様子に気づかずに回りを元気に走り回っている。もうすっかり具合はいいらしい。
「あっ、レティシア。遠くへいってダメよ。なるべく私の側にいるようにして」
自分の視界からレティシアが消えそうになってしまったので注意を呼びかける。
それに対して少し不満げな顔をするが、素直にアクアの近くまでトコトコとやってきた。
「ねぇ、お姉ちゃんはなにやってるの?」
さっきからアクアがジッとしている訳がわからずに、無邪気な笑顔でそう聞いてくる。
「私? 私は近くに魔物がいないか見張ってるの。ルドもいないし、あなたを守れるのは私だけだから。
だから、なるべく私から離れないようにしてね」
回りに注意を怠ることを忘れずにそうレティシアに微笑みかける。
それを了承したのか、レティシアはおとなしくアクアのの隣に腰を下ろした。
「いい子ね」
レティシアの頭をそっと撫でてあげる。それが気持ちいいのか、うっとりと目を細める。
しばらくの間、そんな平和な時間が流れる。ルドラが村に向かってそろそろ1時間。日が暮れ始めた。
「ルド、遅いなぁ」
「うん…」
何気ない呟きにレティシアが相槌を打つ。あれから魔物の襲撃もなく平穏無事に時間が過ぎ去っていく。
このまま何事もなく時間が過ぎ去ることを願うが、それはあっさりと裏切られた。
「ドラゴンはどこだ?」
突然どこからかそんな声が聞こえてくる。それは冷たく、そして威圧感のある声だった。
アクアはすぐさまレティシアを自分の背後に立たせると声のしたほうに矢をつがえる。
「誰!!」
いままでに出したことのない声。精一杯の力で叫ぶ。
ゆっくりと、その影は森の中から姿を現す。
漆黒のマント。冷たく射ぬくようなするどい目。そして腰に携えた巨大な剣。戦士だった。
「お前に俺が射ぬけるのか? 見たところ人に狙いをつけるのは初めてだろう。手が震えているぞ」
その男の言う通り、アクアの両手は震え、狙いが定まらない。それでも、狙いはつけたままだ。
「あなたは何者なの!?」
気丈な態度を崩さずに問い掛ける。しかし、どのように強く叫んでもその声には男のような威圧感を込めることができない。
「それにドラゴンって」
男は答えずにアクアの数メートル手前で止まる。剣に手をかけてはいない。いまのところ戦うつもりはないのだろう。
「俺の名か? 人の名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀じゃないのか?」
女と思い、馬鹿にしているのか、ふざけたような口調で言ってくる。
「………」
挑発に乗ることもなく、ただジッと弓を構えつづける。その様子を見て、ふぅ、と溜め息をつくと、
「まあ、いい。答えてやる。俺の名はアルフレッド。ドラゴンスレイヤーさ」
ドラゴンスレイヤー。その名を聞いてアクアの身が震える。セレスからその名を聞いていたからだ。
その名の通り竜を狩ることを生業としているものたち。アクアはその名を聞いてから出会いたくないと本心から思っていた。
「表情が変わったな。やはりか。お前からもわずかに匂いがする。お前はドラゴン乗りだな?」
わずかに抱いていた疑問が氷解すると、いままで以上に冷たい視線でアクアを貫く。
「もう一度問う。ドラゴンはどこだ?」
ゆっくりと、そして脅迫のような口調で問い掛けてくる。
その言いも知れぬ雰囲気にすっかりと飲まれてしまったのか、レティシアはアクアの背後でガタガタと震えている。
そのアクアも心底この男に恐怖していたが、レティシアのその姿を見るたびに勇気を奮い起こす。
「ここにはいないわ」
ごまかしてもムダと思ったのか、正直に話す。
「………」
無言。冷たい視線のままアクアを真っ直ぐに見る。
しばらくの間。二人の間を夜の風が吹き抜ける。
「どうやら本当らしいな。それにドラゴンは俺に気がついているらしい」
「え?」
分からずに思わずキョトンとしてしまう。
「ここから300メートル程先のところでさっきから止まったままだ。俺の存在に気がついているのだろう」
そう言ってアクアの背後に茂る森を指差す。その方向を見そうになるが、堪えて男のほうに弓を構えたままにする。
「あなたはなぜドラゴンを倒すの?」
震える声で、それでもしっかりと通った声でアルフレッドに話しかける。
「そんなことはお前には関係ない。逆に聞きたい。お前はなぜドラゴンとともに行動する?」
「あなたと同じよ。答える必要はないわ」
アルフレッドの迫力に腰を抜かしてしまいそうになるが、なんとか平静を、そして強気を保ち続ける。
弓をつがえる手には汗がじっとりとにじんでいる。
「たいした度胸だ。戦闘経験もなし、旅にも不慣れというのにな」
すでにアクアの経験値を見抜いていたらしくそう言ってくる。だが、その声には最初のような感じは見受けられない。
「どのみち、俺がここにいてはドラゴンは姿を現さないだろう。今日のところは引き上げてやる。
だが、これだけは覚えておけ。お前がドラゴンと共にいる限り俺はまたお前の前に姿を現す」
それだけ言い残すとマントを翻し、すでに日が沈み暗くなった森の中へと消えていく。
が、姿が闇に消える寸前にクルリとアクアのほうに向き直った。
「そうそう、まだ名前を教えてもらっていなかったな。いい加減に教えてくれてもいいだろう?」
最初の頃の威圧感がまったく感じられる様子もなく聞いてくる。
「……アクア」
弓は狙いをつけたまま、短くそれだけ答える。
「アクアか。覚えておこう」
それだけ言うと今度こそ、森の闇にその姿を消した。
その後ろ姿が見えなくなったと同時にアクアは地面にペッタリと尻餅をつく。さながら糸の切られたマリオネットのように。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 オリジナル小説第2章・8話『ドラゴン乗りの少女 ドラゴンスレイヤー』掲載完了です。
やっと謎だった青年の正体が明かされました。薄々わかっていた人もいると思いますけどね。
今回はか〜なり難しかったですね。余裕のドラゴンスレイヤーと緊迫のアクア。その感じがどうにも出ないです。
この辺の表現方法なんかは今後の課題かな? もっと緊迫感のある状況描写がしたい……。
これからも登場するだろうし、その時にはもっとうまくなっていたいですね。
それでわ、次の後書きで(^_^)/~