レティシアの思い・アクアの思い
ハーヴェストの大通りに面した宿屋。そこに二人はいた。
ドラゴンスレイヤーが去ってから、たっぷり30分程立ってからルドラが戻ってきた。
彼が言うには『用心のためだ』ということらしい。
ドラゴンスレイヤーとの遭遇。そこでの二人のやり取り。包み隠さずアクアは全てを話した。パートナーなのだから。
それらの話に特に驚きもせずに、ルドラはただじっと聞いていた。
「それがわしの宿命」
話を聞き終えた後、ルドラはこんなことをいった。そして、
「安心しろ。お前と行動を共にしている間は、決して狩られたりはせん」
アクアにそう笑いかけると、レティシアと共に街に行って来い、そう告げた。
そして現在に至っている。
メインストリートに面した位置にあるだけあって、外の活気がそのまま部屋の中にも入り込んでくる。
すでに時刻は夜。ある男は一日の疲れを癒すために酒場へ。そしてある者は妻の待つ家へ。思い思いの行動を取っていた。
そんな外の活気とは裏腹に宿屋の一室は少しばかり湿った空気が流れている。
アクアとレティシア。二人の雰囲気のためだった。
レティシアは先ほどのドラゴンスレイヤーの恐怖恐怖が抜けきらないのか、ときおり自分の身体を抱きしめるようにしている。
そしてアクアはレティシアの今後の身の振り方について。ルドラからナックの村の事の顛末は聞いている。
悲しいことだが、アクアの想像通りだった。
恐らく両親が身を呈して逃がしたのだろう。というのがルドラとアクアの見解。
この重苦しい空気を先に破ったのはレティシア。
「お姉ちゃん。大丈夫なの?」
心配するような口ぶり。アクアはレティシアの手前、気丈を装っていたが、それはレティシアにもバレていたらしい。
「私? 私は大丈夫よ。それより……」
言いかけて止める。まさかストレートに聞くわけにもいかないだろう。どうやって切り出すか、さっきか思考がグルグルと回りっぱなしだ。
「それより…なに?」
普通の目で見るのならば笑顔。だが、アクアにはその笑顔が作られたものであるような気がしてならなかった。
(ひょっとしてこの子。自分の村や両親がどうなったか知ってるんじゃ?)
森にいた時の遠くを見つめる寂しそうな、それでいて哀しいような表情を思い出す。しかし、それもアクアの想像に過ぎない。
そして再び部屋は静寂に支配される。
……
どれだけの時間黙ったままで過ごしたのだろう。その時間の感覚が麻痺し始めたときに再びレティシアが沈黙を破った。
「あたしなら大丈夫だよ。…全部知ってる」
不意にそんなことを言った。その黒い両の瞳にうっすらと涙を溜めながら…。
(やっぱり…。それじゃあどうしたら)
どうやって切り出すか、と問題はこれで無事に解消された。次の問題はレティシアの身の振り方だ。
レティシアを思うのなら一度、オルタネイトに戻り、レイナあたりの世話好きな人に預ける。
それが一番ということはアクアはよくわかっているつもりでいた。
しかし、レティシアが自分のことを姉のように慕ってくれているということもわかっている。
もし、彼女に、これからどうしたい? そう尋ねれば迷わずに一緒にくることを望むだろう。
だが、それは同時に命の危険にさらされるということも意味している。
今日のようにまたドラゴンスレイヤーがやってきたら…?
ルドラの留守中に魔物が襲ってきたら…?
今のアクアにはそれらを回避する能力は持ち合わせていない。せいぜい、ルドラが戻ってくる間の時間稼ぎくらいしかできないだろう。
(ルーシアもこういうことを考えて私を置いていったのかな?)
ふとそんなことを考える。とすると、彼女が同行を拒否されたときの気持ちはわかる。
自分も同じことを経験したのだから…。
……。
再び沈黙。アクアは考えを巡らす。部屋に備え付けのソファに座り、頭を抱え込んでずっと悩んでいる。レティシアを大事に思うが故に。
するとベッドに腰掛けていたレティシアがスッとアクアの隣までゆっくりと歩いてきた。
その気配を感じ、アクアは伏せていた顔を上げる。
その視線の先には先程のような、作り物の笑顔ではなく、心からの笑顔があった。
「あたしはお姉ちゃんと一緒にいたい。今日みたいなことがあっても、あたしは大丈夫。お姉ちゃんを信じてる」
瞳からポロリと一粒の涙が零れ落ちた。それはまっすぐに絨毯に落ちると、そのまま吸い込まれていった。
「いいの? 私と一緒にいると魔物に襲われる可能性があるよ。それに、ドラゴンスレイヤーにだって…」
レティシアの両肩を優しく掴み、まっすぐに目を見据えて話し掛ける。
「うん」
ハッキリとした声で。そして意思の強い声で。レティシアは答えた。
しばらく目を見つめていたアクアが、ふう、とため息をつく。
「わかったわ、レティシア。そこまで言うんじゃしょうがないわね。一緒にいきましょう」
迷いが吹っ切れたのか、晴々とした笑顔でレティシアに笑いかける。
「うん! ありがとう、お姉ちゃん!」
満面の笑み。レティシアはアクアの胸の中に飛び込んできた。そしてそれを優しく抱きとめるアクア。
「そうと決まったら明日にルドに話しましょう。もう、彼は答えを知ってるかもしれないけどね」
レティシアが自分の身体から離れるとそう笑って言う。
「そうなの?」
「うん、そう。だから大丈夫。きっと受け入れてくれるわ」
「うん」
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 オリジナル小説第2章・第9話『ドラゴン乗りの少女 レティシアの思い・アクアの想い』掲載完了です。
いやぁ、レティシアが登場したあたりから妙に湿っぽい話が多くなってしまいましたね。これはこれで結構勉強になりましたが。
とりあえず、レティシア同行決定です。やっぱりルドラとアクアだけでは会話がどうも……。ってところで同行です。
今後会話に幅ができればいいと思っています。
いろいろと表現方法なんかを頑張っているつもりですが、どうでしょう? ちょっと湿っぽくなりすぎかな?
こんな展開もいいけど、基本的には明るくハッピーでいきたいと思ってます。
それでわ、次の後書きで(^_^)/~