誘い
街の入り口のすぐにある宿屋。セレスの案内でふたりはここにやってきていた。
「アタシは先に部屋にいってるよ。部屋を早めにとっちゃいなよ」
階段に登る途中でアクアを振り返り、言ってくる。
「うん、それじゃあ、あとでね」
軽く手を振って答える。それを見届けるとセレスは目を細め、軽やかなステップで階段を登っていった。
「ねえ、お姉ちゃん」
さきほどまで人形のように口を開かなかったレティシアが久しぶりにその口を開いた。
「あの緑のお姉ちゃんってどんな人なの?」
そういえばセレスを見るレティシアの目はどこか怯えの色を見せていた。
恐らく、真面目、お気楽、ふたつの顔が交互に出てくるので戸惑っているのだろう。
「心配しなくても大丈夫よ。セレスは私の旅の先輩みたいなものだから」
軽く頭を撫でてあげながら言う。頭を撫でるとレティシアはとても気持ちよさそうに目を細める。
「さ、部屋を取っちゃいましょ」
そう言って彼女の手を取るとまっすぐに受け付けカウンタへと歩いていった。
コンコン
「開いてるよ〜」
ノックと同時に部屋の中からはけだるい声。もちろん主はセレスだ。
「入るよ」
念のためもう一度だけ確認を取るとドアノプを回す。
なんの抵抗もなく開くと、ソファにダルそうに身体を投げ出しているセレスの姿があった。
「いらっしゃ〜い♪」
緩慢に首を入り口側に向けると、出迎えの挨拶をいう。それにしても、本当にやる気のないような声、そして顔だ。
しかしそんなセレスに慣れているアクアはさして気にする風もなくセレスの向かいのソファにレティシアとともに座り、
「それで話ってなに?」
と単刀直入に話をしだす。
「う〜ん、もう…せっかちねぇ。あせんなくたって話は逃げないわよ」
『よっこいしょ』といわんばかりの動きで身体を起こしながら、そんなことをいう。
「…あのね。話は逃げなくてもルーシアは逃げちゃうの。早く話を始めて」
(なんだか、この娘、変わったわね。レティシアちゃんっていう守る存在ができたからかな? それともドラゴンスレイヤーかな?)
アクアの微妙な変化に気づきそんなことを考え出す。当のアクア本人は自覚症状はないようだ。
「確かにルーシアクンは逃げるわね。でも、アタシはルーシアクン関連の話っていった覚えはないわよ」
「え?」
その一言にすっとんきょうな声をだすアクア。その声がおかしかったのか隣でレティシアが忍び笑いをしている。
「早合点はダメよ〜。それで命を落とすことだってあるんだからね。それにこれからいくところではなおさらよ」
人差し指でアクアのほうを指すとその指をクルクル回す。さながらトンボの目をまわしているように。
「これから…いく…ところ?」
「そ。ねえねえ、アクア。一緒に遺跡にいかない?」
思いもよらないセレスの誘い。一瞬その言葉の意味がわからずに? な顔になってしまう。
隣のレティシアにしても同様なようで理解しきれていないようだ。
その二人の顔を交合に見やると、ふぅ、とため息をつく。
「遺跡よ。い・せ・き」
さきほどよりも聞こえやすいように、ハッキリとした口調で再び繰り返す。
「…あ…うん。わかった。それになんで私が?」
「う〜ん、そうね〜。今後の旅のための冒険慣れってところでどう?」
「どう? っていま考えたんじゃないでしょうね?」
「さ〜て、どうかしらねぇ。来る来ないはアクアの自由だけどね。守る人ができた以上はある程度慣れたほうがいいんじゃない?」
そういってレティシアに視線を変える。それに気づいた金髪の少女はアクアの腕にしがみつく。どうやらまだ警戒心は消えていないらしい。
腕にしがみついているレティシアの頭を撫でながら考えを巡らす。
(そうね。確かにルドのいない間は私がこの娘を守らないといけないのよね。それに慣れるだけでも、大分違うと思うし)
人差し指をあごにやり、頻繁に小首を傾げ始める。
(さ〜て、アクアはどうでるかな? 答えはわかってるけどね)
アクアに気づかれぬよう、コソコソ笑うセレス。
「セレス」
「はいはい、決まった?」
「ひとつ質問があるんだけど、いい?」
「うんうん、オーケーオーケー。なんでもドンと来て頂戴」
ホントに自分の胸を叩きながらふざけた調子でいってくる。
「もちろん、セレスも来るのよね?」
「あったりまえじゃない。初心者のアクアひとりを遺跡にほっぽりだすわけにいかないでしょ」
「そう…。いっても構わないけど、レティシアはどうすればいいの?」
そういってチラリとレティシアの方を見る。
「そりゃもちろん、一緒に……」
「セレス!!」
さすがに今のはセレスが悪いだろう。その言葉を言い終わる前にアクアの怒声が飛ぶ。
「あ〜、もう。悪かったわよ。ここでお留守番かルドラと一緒にいるのが一番ね」
そんな二人のやり取りをおとなしく見ていたレティシアがやっとその口を開いた。
「あたしも一緒にいきたいな」
ごく自然に、笑顔でそんなことを言ってきた。それを聞いてまっさきに顔色を変えたのは当然アクア。
「ダメよ! なんといってもそれだけはダメ! なにがあるかわからないのよ。いくらセレスがいるからって…」
両肩を優しく掴み、そして口調は強く、レティシアの同行を否定する。
「でも、お姉ちゃんと離れたくない。それにお姉ちゃんになにかあったら…あたし……あたし…」
わずかに身体を震わせながら必死にくいつこうとする。多少、心が痛むがこればっかりは了承するわけにはいかない。
「あなたの気持ちはわかるわ。でも、お願い。言うことを聞いて。私は大丈夫。きっと無事にもどってくるわ」
さきほどとはまったく正反対の声。親が子供を諭すように言い聞かせる。
アクアとレティシア。その二人を見てセレスは、
(あ〜あ。なんだか親子みたいね。アクアの子供って言ったのもまんざら間違いでもないのかも)
ということを考えたという。
そんなことを向かいのトレジャーハンターが考えているとも露知らず、レティシアの説得は続く。
「……わかった」
折れたのはレティシアのほう。ついに観念したのか、同行を諦めた。
「ありがとう。わかってくれて。大丈夫、無事に帰ってくるからね」
「うん。でも、その遺跡の入り口まで一緒にいきたい。それと入り口で待ってる」
それを聞いてアクアはセレスのほうを見る。
「うん、それくらいなら大丈夫じゃない。ルドラにボディガードを頼めばいいわ。地上最強のボディーガードね」
そう言って軽く笑い出した。それで場の雰囲気が和んだのか、セレスに習ってアクア、レティシアも笑い出す。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 オリジナル小説第2章・第12話『ドラゴン乗りの少女 誘い』掲載完了です。
う〜ん、唐突感は否めないかな? やっぱり。もっとスムーズに探索の話に持っていきたかったのだけど、難しいです。
セレスの性格で少しは救われたかな? この辺は。彼女ならこんなことでも大丈夫のような気がしないでもないし。
あともうひとつ。3人が同時に登場するとひとりの出番が極端に減ってしまうことに気づく。
この話だと、レティシアの会話がほとんど入ってないし。3人バランス良くできたらいいのにな。
それでわ、次の後書きで(^_^)/~