下準備はしっかりと
ジリリリリリリリ!!
物音ひとつしなかった部屋の中にけたたましい音が静寂の空間を支配する。
音の主は枕元に置かれているひとつの目覚し時計。時刻が朝の7時になったと同時に命が吹き込まれたようだ。
鳴り響くこと数分。布団の中からゆっくりと人の手が伸び、時計のてっぺんを押す。と同時に再び部屋は静寂が支配する。
「う…う〜〜〜ん」
布団から出ると大きく伸びをする。ひとしきり伸びが終わると隣のベッドで寝ているレティシアを起こしにかかる。
「レティシア? 朝だよ」
優しい、それでいて安らげるような声。その声に導かれるようにレティシアが現実世界へと舞い戻る。
「……お母さん?」
寝ぼけ眼でアクアをそう呼ぶ。親の夢を見ていたのか、それとも声を聞き錯覚したのか。
「え? …ううん、私。アクアよ」
一瞬戸惑ってしまうが、落ち着いて母ではないことを告げる。
「あ…、うん。おはよう、アクアお姉ちゃん」
寂しげな顔での挨拶。普段は気丈に振舞っていてもまだ10歳。まだ忘れることもできないだろう。
「さ、顔を洗って。そしたら朝食にするから」
レティシアの身体をゆっくりと持ち上げ、布団から出してあげる。
「緑のお姉ちゃんは?」
セレスのことだ。緑とは髪の毛のことだろう。
「セレスなら大丈夫よ。起こして起きるような人じゃないから」
ニッコリと笑ってそういうとレティシアを伴い宿の食堂へと向かっていった。
二人が朝食を取っているであろう時刻。隣室に残されたセレスはというと……。
「スゥ…スゥ……」
幸せそうな顔をして寝息を立てていた。一体どんな夢を見ているのであろうか…。
朝のトリスタン国。すでに大半の人たちは起きだし、女は朝食の後片付け。男は仕事にいってしまっている。
いつもと変わらない朝の風景。その繁華街の雑貨屋にアクアとレティシアはいた。
品物を手にとっていろいろと見定めている。手に取っているものは、『薬草』『傷薬』『毒気し草』などなど。冒険に必要なものだ。
「う〜ん、遺跡に冒険の場合はどんなものを揃えればいいのかな?」
ひとりブツブツと呟きながら物色を続ける。明日、向かうであろう冒険に向けての下準備のようだ。
店に入ってから30分あまり。物色が続くばかりで肝心の品物は買うことはない。
一方のレティシアはアクアから少し離れたところで別の品物を見ている。
それは…お菓子だ。欲しいのだが、アクアに悪いと思っているのか見るだけで我慢している。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか何を買うかいまだに迷っているアクアがいた。
「よし、決めた。これと、これと…これにしよう」
さらに費やすこと30分。結局、傷薬や薬草など。基本的なものを1束ずつ購入することにした。
「あ…っとこれも」
そういってさきほどからレティシアが気にしていたお菓子も手に取る。それを見た途端にレティシアの顔が明るくなる。
「お願いしま〜す」
それらの商品の入った買い物カゴをレジの上に置くと会計を済ませた。
「さて、用事も済んだし、これからどうようか?」
左手に買い物袋を下げ、隣を歩いている金髪の少女に問う。
「う〜ん、どうしよう? あたしはなんでもいいよ」
お菓子を片手に無邪気な笑顔。もちろん持っているのはアクアからもらったものだ。
(なんでもいいが一番困るんだけどな)
「それじゃあ、公園にでも行こうか? 天気もいいし」
「うん」
「ふああぁぁぁ。よく寝た」
時刻は当に昼過ぎ。太陽が真上になってからセレスが目を覚ました。
「ふぅ。さ〜てとそろそろ出かけようかな?」
布団に入ったままの状態で自分のバッグから携帯食を取り出し食べ始める。
どうやら朝食、兼昼食のようだ。それを食べ終えるとゆっくりと緩慢に布団から文字通り這い出る。
布団から出た後、もう一度伸びをすると私服の上に普段は着ていないようなものを着始める。
いつもの無地のTシャツの上にレザージャケット。機能性を重視しているようで袖はないようだ。
そしてハーフパンツ。こちらも普段と変わらないが、腰の後ろ側に一本のナイフ。そしてサイドパックを装着してある。
それらすべてを身につけるとバッグの隣にほおってあった鞘を手に取り、それを左側の腰に身につけた。
セレスが愛用しているロングソードだ。
準備がすべて整うとさらにバッグから携帯食や薬草。毒気し草などの救急道具を適当にサイドパックに詰め込む。
まるでこれから旅に出る、といわんばかりの服装で自室をあとにしていった。
その日、セレスが戻ってきたのは夜の9時過ぎだった……。
セレスがそんなことをしているとは露知らず、レティシアと公園でのんびりと日向ぼっこをしているアクア。
自分のことをまだあまり詳しく話していなかったので、身の上話をしているようだ。
ルーシアとオルタネイトで過ごした3ヶ月間。ルドラとの出会い。自分の旅の理由。
それらを順を追って、わかりやすいようにゆっくりと説明する。
「……ルーシアさんが見つかったらあたしはどうなるの?」
頭の中で説明を噛み締めながら、そして理解した第一声。
孤児となってしまい、頼れる人間はアクアだけ。そしてアクアの目的が達せられたらどうなるの? そんな思いからだろう。
「…どうもしないわ。もちろんずっと一緒よ。あなたが私と一緒にいることを望むのなら」
晴天の青空を眺めながら、ゆっくりと姉のような、それでいて母のような口調で。
「……うん、もちろん!!」
アクアの腕に抱きつき、そして晴天の青空に負けないくらいの明るい声でハッキリと自分の思いを告げた。
その日の夜。トリスタン国に程近い丘。
一頭のドラゴンと二人の少女。
「……そうか…わかった。ではわしはレティシアと一緒に待っていればいいのだな?」
アクアとから明日、セレスと一緒に遺跡にいくという説明を受けた上での答え。
「うん、ゴメンね。寄り道みたいなことしちゃって…」
「なに。気にすることはない。お前がある程度の戦闘慣れをしてくれればわしも少しは安心できる」
「うん、ありがとう。そういってもらえると少しは助かるかな?」
「しかし、ムリはするな。レティシアにとってお前がどんな存在かは忘れぬようにな」
最後の言葉。レティシアには聞こえないような小さな声でアクアに語りかけた。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 オリジナル小説第2章・第13話『ドラゴン乗りの少女 下準備はしっかりと』掲載完了です。
一週間、遅れてしまいましたが、なんとかけ掲載できました。
今回は序盤あたりにちょっと表現方法を凝ってみたつもりです。擬人法っていうんだっけ? それをやってみました。
あんまりしつこいとイヤミになりそうなんで、程々みにしてみたつもりですけどね。今後もこんな表現をしてみたいです。
中盤ではまあ、いつも通り? アクアがさらに輪をかけて母親じみているような……(^_^;
この際、このまま親代わりになってもらおうか? とか考えてみちゃったりして(^_^;;
次回は当然のことながら遺跡探査のお話です。
閉鎖空間という緊張感が出せればいいな、と思ってます。
それでわ、次の後書きで(^_^)/~