千里鏡

 すでにトリスタンを出てから6時間が経過しようとしている。
 真上にあった太陽もすでに沈もうとしており、その夕日が周囲の森の木々を真っ赤に染め上げる。
 それがなんとも、幻想的な雰囲気を醸し出し、まるでここが現実世界ではないような錯覚を覚えさせる。
「首尾はどうじゃった?」
 ルドラが二人に尋ねる。遺跡での成果だろう。
「ん、バッチリよ。お宝はちゃんと持ってきたわ」
 答えたのはセレス。サイドポケットからその戦利品を取り出す。
 それは手鏡サイズで、ぱっと見は市販の鏡となんら変わりがないように思える。
 ただ、さすがに古代の品らしく、回りの淵にはきらびやかな装飾がなされていた。
「それが……」
 アクアが鏡を覗き込む。しかし、映ったのは探し人ではなく、自分の顔だ。
「そ、愛しいルーシアクンが見つかる可能性を持っているアイテムよ」
「だから、愛しいは余計だってば」
 自分の足にしがみついているレティシアの頭を撫でながら言う。
 さっきまでアクアの身体にしがみついて離れようともしなかったが、少し落ち着いたのだろう。
「これは、あとで使用するとして、ルドラ」
 セレスが少しばかり険しい表情でドラゴンのほうを見る。
「わかっている」


「なるほどね。…きたんだ」
 彼女らが遺跡に潜っていたときの経緯をルドラが話す。
「そんな…どうやってこの場所が?」
 アクアの疑問はもっともだろう。
 最初の遭遇は街で尾行されていたと考えることができるが、今回はそうもいかない。
 セレスがわざわざ飛行ルートをとって念のため巻くような感じで飛んだからだ。
「アタシにはちょっとわからないかな? 可能性は考えられるけど、あくまで可能性でしかないからね」
 頭に手を置いて考え込む。しかし、納得のできる考えも浮かばずに髪の毛をかきむしる。
「…考えたのじゃが…」
 しばしの沈黙が流れる中、ルドラの野太い声が夕日で染まった森の中に響き渡る。
 その声と同時に全員の視線という視線がすべてルドラに集まる。全員といっても3人しかいないのだが…。
「あの若造はかなりの魔法能力を持っていた。なにか特殊な能力を持つ魔物を使役していてもおかしくないと思うのだが…」
「それって召還魔法まで使えるということ?」
 召還魔法は高い魔法能力と戦闘能力、このふたつが備わっていないと扱うことのできない高等魔法だ。
 確かに可能性がないわけではないが、いまいちセレスの中でしっくりとこない。
「いや、召還魔法ではない。どこかの魔物を弱らせ、捕獲し、そして使っているのだろう」
「そんなことってできるの?」
 これはアクアの声。彼女にしてみれば想像するとこも難しいのだろう。
「うん、一応可能ね。特殊なカードを使うのよ。封呪の魔力が込められたね。
 セレスがそれに答える。
「でも、封呪といっても、それなりに魔法能力は必要よ。扱えるの?」
「うむ、あの若造、物理魔法もかなりの威力があったし、精霊さえも使役するほどの精神力だ。ほぼ扱えると思って間違いないだろう」
「で、ルドラはどんな魔物を使役していると思うの?」
「名称まではわからんが、恐らくは嗅覚が異常発達しているような魔物だろうな。匂いで区別しているのだろう」
「!! そういえば!?」
 アクアが両手を口に当てて、驚きをあらわにする。心当たりがあったのだろう。
「なに? 知っていることでもあるの?」
「ええ。私と初めて会ったときに匂いがどうのこうのっていってたような気がするの。その話がホントだとしたら…」
「そうだな。人間ではわしらの匂いはおろか、人間の嗅ぎ分けもできるハズがない。ほぼ考えた推測は間違いなかろう」
「そうね、でも向こうの判断方法が匂いじゃどうやったら身を隠せるのかしらね」
「さあな。その辺はゆっくりと考えることにすればいい。ところで…」
「わかってるわ。千里鏡ね」

「はい、アクア」
 そういって手に持っていた鏡をアクアに手渡す。自分の探している人や物を映し出すことのできる鏡『千里鏡』
「…うん」
 緊張のある顔でその鏡を受け取るとその中を覗き込む。
 が、やはり映るのは自分の顔。
「セレス。これって…」
 戸惑いながらおずおずとセレスに聞く。
「あ〜、使用法? 簡単よ。ルーシアクンの事を思い浮かべながら覗いてごらん」
 コクン。
 頷くと、自分の探し人を頭に思い描く。
(……ルーシア…)
 ヒュュゥゥ。
 夕刻の冷たい風が森、そして一行を撫でながら去っていく。
 しばらくすると鏡から白い光が発せられた。
「!? なに!」
「大丈夫よ。効果が出てきたんでしょ。慌てて鏡を落としちゃダメよ」
 そよ風でなびく髪の毛を抑えながら、のほほんとした口調で言う。
 さらに光が強くなり、そして…弾けた…。
「さっ、覗いてみたら?」
「…うん」
 ゆっくりと鏡を覗き込む。すると不思議なことにいつもの自分の顔ではなく、どこかの村のような風景が映し出されていた。
 まるでその場にカメラがあるかのように、風景は流れ、その村の様子を映し出す。
 どこかの山のふもとにある村なのだろう。農業などで生計が立てられている村のようだ。
 至る所で牛や豚、鶏などが飼育され、それを村の人たちが世話をしている。
 また農場のほうでは、数人の男たちがせっせと畑仕事に精を出していた。
 およそ、都会の喧騒とは無関係のような世界だ。皆が平和な生活を楽しんでいる。
「セレス。ここの場所、わかる?」
 そういって千里鏡の風景をセレスに見せる。
「……ん〜、これだけじゃ判断しにくいわね〜。山のふもとあたりだから、北か南ね。帝国とトリスタンの国境付近? …なのかな?」
 さすがのセレスもこれだけでは判断できないらしく、迷っている。
「とにかく、北か南のどっちかなのね?」
「…ええ、この国の東西には山はないからね。それは間違いないでしょ。帝国の国境付近だったらやっかいかもしれないけど」
「え? それってどういうこと?」
 ポツリと漏れでたセレスの言葉。
 世界の情勢や地理に疎いアクアにはなんのことかさっぱりわからずにいる。
 ルドラはなんとなく理解できたのか、目をしばたかせている。
「うん、帝国ってやっかいなのよね。その名の通り武力国家よ。旧時代の遺跡の発掘や、研究を大々的にやっているの。大丈夫だとは思うけど注意はしておいたほうがいいわ」
「わかった、ありがと。遭遇したくはないけど、注意することにする」
「うん、そうね。手かがりはこれだけしかないんだし。あとは行動あるのみよ。頑張ってらっしゃい」
「うん、ありがと、セレス。千里鏡はセレスに返すね」
「あっ、いいよ、あげる。それがあったほうが何かと便利でしょ」
 そう言って持っていた鏡をアクアに押しつけるようにして渡した。
「え? でも…」
「いいから。人の好意は素直に受け取りなさい。
「うん…ありがとう」
「お礼はいいから。頑張んなよ。決してあきらめないでね。ダメと思ったときにダメになるんだから」
「うん」




後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第26話『ドラゴン乗りの少女 千里鏡』掲載完了です。
 戦闘も終わって束の間の休息というところですかな。
 会話形式はなんとなく久しぶりだったような気がしますね。状況描写が多かったからな〜、戦闘シーンは。
 この形はラクはラクなんだけど、やっぱり単調になりやすいのがネックですね。
 上手に描写をいれつつの会話が難しいです。今後の課題かもしれないですね。
 でわでわ、次の後書きで(^_^)/~



2001年 1/14 ぱんどら

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