束の間の休息



 千里鏡を入手してから一週間。
 ルドが全速飛行すればものの一日でたどり着ける距離なんだけど、やっぱりそれはムリみたいね。
 ゆっくりと飛んで、途中で野営したりと、のんびりと旅をしてます。
 急ぎたいのは山々だけど、レティシアのことが心配だし。
 それにこの子、私に気を使ってか、あんまり野営とかしたがらないみたい。
 ルーシアにはもちろん会いたいけど、この子も心配だな。もっと甘えてくれてもいいのに…。

 時刻はすでに日が沈む時間。夕日が森をオレンジに染め上げる。その幻想的な世界を一匹のドラゴン。
 真っ白な身体を木漏れ日で赤く染め、悠々と森の中を飛行している。もちろん人目をさけるためだ。
 そのドラゴンの背にはふたりの少女。
 印象的な青い髪をポニーテールでまとめている女性。その後ろにあざやかな金髪の少女。
 ドラゴンの名はルドラ。二人の少女は、アクアとレティシアという。
「次の街はどれくらいかな? ルド」
 ドラゴンにつかまりながら、アクアが尋ねる。もう慣れたもので身体はしっかりと安定状態にある。
「そうじゃな。夜になれば明かりが見えるだろう。あと1時間ほどか」
 前方の障害物をひらりひらりとかわしながらルドラが答える。
「街で休むの?」
 アクアの腰に両手をしっかりと回したレティシアが聞いてくる。
「そうよ。そろそろ疲れてきたし、暖かいベッドで寝たいでしょ?」
「ううん、大丈夫だよ、あたし。それよりも急いだほうがいいじゃないのかな?」
 アクアを思っての発言なのだろう。急がなければ千里鏡で見た場所にルーシアがいなくなってしまう可能性があるからだ。
 ことあるごとにレティシアはアクアの、休む? という提案をこのような言い分で断ってきた。
 しかし、彼女の年はまだ10歳。長旅はもちろんのこと、体力的に不安があるはずである。
「そんなこといわないで。いいから休みましょ。私のことを思うのならまず休むこと、いい?」
 母親が子供に諭すような口調でやんわりという。
「…うん、わかった」

 そして夜の刻。ルドラが言った通り日が沈みきる頃には街の明かりが見え始めた。
「あそこね?」
「うむ、そうじゃな。ゆっくりしてくるといい」
 街から2.3キロ離れた位置に二人を下ろす。
「どれくらい滞在するつもりかの?」
「そうね…」
 レティシアのほうをチラリと見る。気丈にふるまってはいるが、やはり疲れは溜まっているのだろう、言葉でいわずとも様子でわかる。
「一週間くらいかな?」
 彼女の様子を見てそう決断する。一週間ゆっくりと休めば体調も随分と回復するだろう。
「そんな、そんなに休んで大丈夫なの?」
 それを聞くと地面にしゃがみこみ、目線をレティシアに合わせる。
「いいの、大丈夫よ。その場所にいなかったらまた探せばいいの。今私達にできることは体を休めること、いい?」
「……」
 コクリと無言で頷く。
「うん、いい子ね」
 頭を軽く撫でてあげるとルドラに向き直る。
「そういうことだから、ルドもゆっくりと休んでて」
「うむ、ならば甘えさせてもらおう」

 街を歩くこと数十分で無事に宿を見つけた二人は迷うことなくそこに入っていく。
「いらっしゃい、2名様かい?」
 三角巾に割烹着、きっぷの良さそうな母親という感じの女将が出迎える。
「ええ、一週間お願いできますか?」
「はいよ、ちょうど部屋は空いてるよ。今日はもう遅いからやすむといい。疲れてるんだろ? お嬢ちゃん」
 そういってにっこりと笑いながらレティシアを見る。やはり誰の目から見ても彼女が疲れているのは明らからしい。
「はい、そうさせてもらいます」
「ほら、部屋の鍵。二階に上がってすぐのとこだよ。食事はあとで持っていってあげるよ」
「ありがとうございます。…料金のほうは?」
 部屋の鍵を手渡しで受け取ると一週間の宿泊費用を聞く。
「そうさね。3食付で500Gでいいよ」
「え!? そんなに安くていいんですか?」
「いいの、いいの。気にしなさんな」
 一瞬、悪徳かとも疑ったが女将の目は人をだますような目をしていない。
 恐らくレイナと似たような感じでお人好しなのだろう。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
 ぺこりと深くお辞儀をすると、レティシアの手を引いて二階に上がっていった。

 部屋にはベッドがふたつ。テーブルひとつに対して椅子が4脚。大きめの窓からは街の景色が一望できる。
 テーブルの上には先ほど運ばれてきた食事の皿が乗っている。
 もちろんふたつとも綺麗さっぱりになくなっている。
「そろそろ寝る?」
 同じ大きさの皿をひとつにまとめ終わると正面のレティシアに聞く。
「…うん」
 食事をして眠くなったのだろう、まぶたをこすりながら眠たそうな声で答えた。
 レティシアの手をとってベッドに誘導すると、そっと布団をかけてあげる。
「お姉ちゃん」
 どこなく寂しそうな声でアクアに呼びかける。
「なに?」
「手、握ってて」
「ええ、いいわよ」
 布団の間から出ている手をそっと両手で包み込むように握ってあげると、レティシアも握り返してくる。
「どこにも…いかないでね」
「当たり前じゃない。さ、ずっとこうしててあげるから、安心して眠りなさい」
 ゆっくりと髪を撫でてあげながら言う。その一言で安心したのか、しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
(ふぅ、眠ってくれたかな? 私、いい姉でいられているのかな)
 いい姉、と思ったが、心のどこかで、いい母親でも構わないかな? と思っている自分に少し驚きを覚えた。


 アクアとレティシアの滞在している街より、南へさらに下ったところ、そこにひとりの女と男。
 回りはうっそうと茂る森の中。時刻はすでに日が沈み、暗闇と静寂の支配している空間だ。
「そう、ここもやられたの?」
 森の奥を指差しながら女が喋る。
「ああ、ここのところやけにこっちにちょっかいを出してくる。力で劣る分、こっちが不利だ」
「そうね。恐らく向こうよりもこっちのほうが情報を持っているんでしょ。…だからよ」
「確かに…そうともいえるな」
 両者とも背格好は同じくらい。いや、男のほうが若干ではあるが高い。冒険者風の服を着込み、腰には剣を差している。
「他のところは?」
「いや、わからない。見つけにくいのは確かだが…。」
「そう。でも、油断はできないわ。あなたは里に戻ってこのことを伝えて。そして出入りする際には重要資料はすべて持っていくこと」
「わかった、お前はどうするんだ?」
「アタシ? アタシはもう一度彼等にあってくるわ」
「ちょっと前にいってた奴らか。大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。そこらの人間よりずっと信頼できる。それに切り札になりそうな感じだしね。本音を言えば無関係でいてもらいたいけど」
「そうだな。その辺りはなんとかしといてくれ。こっちのほうでも奴等の動きを探りながらさらに調べてみる」
「オッケー、頼んだわよ。それじゃ」
「ああ」
 ひとしきりの会話が終わると、馬にまたがり別々の方向へと駆け出していった。
 男は東。女は北。
「さってと、ちゃんとやってんのかしらね」



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第27話『ドラゴン乗りの少女 束の間の休息』掲載完了です。
 さてと、ようやっと本題に入りそうな感じです。すなわちルーシア探索ね。いろいろと寄り道もあるだろうけど。
 今回はちょっと伏線っぽいのを張って見ました。予感めいたものになっていればいいんですけどね。こういうのは苦手…。
 それ以前にこういうのが活かされなかったらすっごくマヌケだなー。頑張らないとなー。
 でわでわ、次の後書きで(^_^)/~

2001年 1/21 ぱんどら

千里鏡 動き出した帝国
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