動き出した帝国



「ここは?」
 自分のいる現在の場所をグルリと見渡す。
 一見すると森のようだが、ところどころの景色が歪んでいるように見える。
「ジュンケの森? ううん、違うみたい。どこなんだろう」
 とりあえず歩く。地面に落ちている枯葉を踏みしめながら一歩一歩ゆっくりと歩いていく。
 カン! チュイン!!
 少し歩くとなにかの金属音のようなものが響いてきた。
 足を止め、その方向を見やる。
「? あの音は剣撃の音?」
 音からそう判断すると自分でも気がつかないうちに足はその方向に向いていた。
 歩く。いや、小走りか。その方向へと。
 しばらく進むと魔物と戦っているように見える、ひとりの戦士がいた。

「…ん……?」
 薄く目が開く。窓の外はすでに明るく太陽は真上よりも少し東側といったところだ。
「…夢?」
 窓の外をぼんやりと眺めながらつぶやく。
 どうやら何かの夢を見ていたようだ。だが、あまりにも曖昧だったもので良くは覚えていない。
「んー、なんだったのかなぁ? どこかの森だったような感じもするんだけど…」
 寝ぼけ眼でしきりに考えるが結論が出ようはずがない。そこで初めて自分の手の感触に気がついた。
「レティシア?」
 自分のすぐ横で眠っているレティシアが手を握っていたのだ。さらにアクアはベッドではなくその脇で眠っていたようだった。
「いけない。あのまま横にいた状態で眠っちゃったのね。ムリな体勢だったからかな。腰がちょっと痛い」
 トントンと自分の腰を軽くたたく。本来ならば思いっきり伸びをしたいところだがレティシアが手を握っているでそれはできない。
「レティシア? 朝だよ」
 もう片方の手で軽く身体を揺すりながら語り掛ける。
 しばらくするとレティシアの目が薄く開けられた。
「……おはよう、お姉ちゃん」
「ふふ、おはよう」
 そのままレティシアの背中に手を回すとゆっくりとベッドに立たせる。
「どう? 気分は」
「うん、よく眠れたから大丈夫だよ」
 目をこすりながら眠たそうにいう。油断するとまたすぐにでも寝入ってしまいそうだ。
「さ、とりあえず顔を洗ってきなさい。それから朝食にしましょ。もう来てるみたいだしね」
 そういって部屋の中央のテーブルを指差す。
 そこには朝の定番ともいえる、目玉焼きとトーストが乗せられていた。
「うん」

「今日はどうするの?」
 朝食後のコーヒー――レティシアはホットミルクだ――を飲みながら金髪の少女が尋ねる。
「うん、そうね。もともと情報収集ではなくて、休憩で立ち寄ったんだし、のんびりと街を歩くわ。ついでに道具を補充したいしね」
「そうなんだ。…あたしも一緒にいってもいいかな?」
 少しばかり遠慮気味に聞いてみる。なにせこの街にきたのはレティシアの体調回復が主だった目的なのだ。そのレティシアが出歩くとなるとアクアがどう出るかわからないのだろう。
「そんな遠慮がちに聞かなくていいのよ。もちろん構わないわ。一日中部屋にこもりっぱなしっていうのもダメだしね」
「うん! ありがとう」
 ホットミルクをテーブルの上に置くと、その少女は満面の笑みでその答えに返した。

 街は活気に溢れ、そのせいか通りを歩く二人の顔もどこかしら緩んでいるように見える。
 長旅の緊張から開放され、一時の休暇といったところか。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。…いいところだね、ここ」
 昨日とは打って変わって明るい表情で話し掛けてくる。境遇が境遇なのか、普段はおとなしく、自分の感情をあまり表に出さないのだが、やはり楽しいものは楽しいらしく、年相応の笑顔をアクアに向けてくる。
 そしてアクアもそんな彼女を見ていると安心するのだ。
「ええ、そうね。活気に溢れているし、なんだか思わず衝動買いをしちゃいそうね」
 そういって軽く笑う。
「アハハ、同じ買うならあたしにもお菓子とか買ってよね」
「ハイハイ、わかってるわよ。それじゃ適当にその辺を散歩しましょうか」
「うん!」
 仲の良い姉妹といった感じで手を繋ぎながら二人はにぎやかな街の大通りへと姿を消した。


 広い部屋。
 その周囲には見たことのないような機材がところ狭しと置かれている。
 長机が置いてあり、それらは共同で使われているようだ。
 部屋の中では十数人の人がなにかの資料とにらめっこをしていたり、その妖しげな機材の操作をしている。
 ガチャ。
 部屋の扉が開けられるとひとり男性が入ってきた。その男性は手近な者に声をかける。
「どうだ? 進み具合は?」
 聞かれた男は見ていた資料から視線を外し、その入ってきた男性に敬礼して答える。
「ハッ、残念ながらあれ以降進展がない状態です。なにせ情報が少ないもので…」
「そうか。やむを得ないな。設備ではこちらのほうが勝っているのにな。…ヤツラの動きはどうだ?」
「ハッ、相変わらずですね。こちらに情報が回ってこないようにしているのでしょうか?」
「恐らくな。この間に襲撃したアジトからは?」
「これといって特にめぼしいものは…」
「そうか…わかった。引き続き研究を続けてくれ。私は閣下に今一度報告をせねばならないのでな」
 立ち去りぎわ、その者の机にあった一枚の写真を手に取る。
 それにはなにかの生き物のような形をかたどったレリーフのようなものが写し出されていた。
「一千年もの昔、わずか一月足らずの間に世界を火の海に沈めたという伝説の生物か…。その力、帝国にこそふさわしい」


後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第28話『ドラゴン乗りの少女 動き出した帝国』掲載完了です。
 今回はちょっと短め。書く時間が一日しかなかった…。さらに校正の前にゲーム買っちゃったからロクにやってないし…。
 この辺は自分の責任だからしょうがないなー。来週はもっと余裕を持たないと…。
 話のほうもかーなり前と書き方が変わってると思います。いろいろと予感めいたモノを増やしてますしね。
 読んでいるかたとオレのラストの構想が一致しないことを祈ってます。
 予想通りだとやっぱりおもしろくないだろうし。いい意味で裏切れればいいと思ってますね。
 とりあえず頑張るのでよろしくです。

2001年 1/8 ぱんどら

束の間の休息 旅立ち・そして遭遇
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