ルーシア


 ガサガサガサ!!
 うっそうと生い茂る茂みの中を剣を携えた青年がかき分けながら進んでいく。
 目は厳しく、なにかに注意しながら進んでいるという感じだ。
 青年の名はハッサン。ラキアの村の守り手を担っている男だ。
 背は高く、少し長めの髪を首のあたりで結んでいる。わずかに褐色を帯びた肌で太陽光がさらにそれを目立たせる。
「最近はイヤに魔物の類が多いな。帝国がさらに激しく遺跡を荒らしてんのかな?」
 帝国はちょっと前あたりから、なにかを探し求めるように大規模な遺跡の発掘に力を注いでいた。
 地理的に遺跡に囲まれ、そして帝国と隣接している「ラキア」は過去幾度となく帝国と衝突していた。
 ただ、向こうの事情もあるのか、本格的な兵力で攻めてくることはなく、小競り合いといった感じなのだが。
「!?」
 なにかの気配を感じ取ったのか、草をかき分ける作業を中断し、腰からスラリと剣を抜く。
 ハッサンの視線の先には……。一匹の魔物がいた。
 赤黒い身体に、2足歩行。腕はついていなく、頭部に巨大な角が生えている。
「アシュティか…」
 呟くと、ゆっくりと魔物に近づいてゆく。足音を立てないようにゆっくりと……。
 が、人間よりも知覚が発達している魔物に気づかれずの接近は失敗し、距離、5mというところでアシュティが目覚めた。
「ちっ、さすがにムリだったか! くるなら来やがれ!!」
 剣をまっすぐに突きつけると戦闘態勢に入る。
 アシュティ。角が生えていないタイプと生えているタイプの2種類がいる。
 基本的な戦闘能力は両者共に大差はないが、ひとつだけ違いがある…それは特殊能力だ。
 魔物な中には、殴る、蹴る、以外にも特殊な能力を持ったものもいる。
 この角が生えているタイプのアシュティがそうで、口から、強烈な酸を吐き出す。
 鉄ならモノの数分で分解するだろう。
 ハッサンはヤツの吐き出す酸に注意しながら、ゆっくりと円をかくように接近する。
(長引かせると仲間を呼ぶ恐れがおるかもしれないな。速攻でカタをつけたほうがいい)
 そう決めた一瞬!! 一足飛びでアシュティに切りかかった! 一撃目の横なぎで角を断つ。
 続けざまに剣を振るい、足を切り落とし、身体をふたつに裂いた。
 勝敗はあっさりとついてしまった。アシュティに油断があったのか、それともハッサンが強かったのか…。
 剣にこびりついた血を拭うと、その場を去るために村の方向へと進行方向を変える。
「?」
 身体が回れ右をする途中。魔物が徘徊している森の中に不釣合いなものが視界に入り、その回転運動をストップする。
「なんだ?」
 右手は剣に。警戒した状態のまま、ゆっくりと近づく。が、すぐに警戒は解かれた。
「人だ! 行き倒れか? それとも魔物にやられたか?」
 小走りにその『倒れているモノ』に近寄る。距離が狭まるにつれて、性別がわかる。男だ。ハッサンとさほど年齢のかわらない男子が横たわっていた。
「おい、大丈夫か? しっかりしろ!」
 青年の身体を揺するが反応はない。腰に剣をぶら下げ、脇には中くらいのバッグが置かれている。旅人だろうか?
 しばらく揺すり続けると、ゆっくりと薄目を開けたようになる。
「気がついたか? お前は誰だ?」
「……っ………た…」
 聞き取れないほどの小さな声でボソボソと何事かを呟いている。
 ハッサンはさらに近づき、なにを言っているのか聞き分ける。
「腹…減った……」


「というわけだ」
 話を区切ると、コーヒーを一口飲む。ちなみにアクアもコーヒー。レティシアはオレンジジュースだ。
「それは出会いでしょ。肝心な部分を聞いていないわよ」
「そういわれてもな。ここから後はオレと一緒になって、村の守り手をやってたくらいさ」
 コーヒーをソーサーに戻すと、昔を思い出すかのように続けた。
「でも、あいつの強さは一介の冒険者って感じじゃないな。帝国の一個小隊くらいはラクに全滅させられるだろうぜ」
「そんなに強かったの?」
 アクアはルーシアが闘っているのを一度しか見たことがない。しかも、木の影に隠れていたせいかはっきりと覚えていない。
「ああ。別に過去とかは気にしなかったな。今思えば、時々思いつめたような顔をしていたような気もするが…」
 額に手を当て、さらに記憶の引き出しから探し物をするが出てこない。
「ようするに手がかりはないってこと?」
 あせりがあるのだろう。彼女らしくなく、結論を急ぐ。
「まっ、そうなるかな? オレは人の過去を詮索しないもんでね。向こうから話すんなら別だったんだが」
「そう、ならここにこれ以上いるのは無意味だわ」
 そういって席を立つ。出ることを察したレティシアが残っていたジュースを飲み干した。
「〜〜〜!!」
 果汁がキツかったのだろう。すっぱそうな顔をしながらアクアに続いた。
「おいおい、今から出ると夜になっちまうぜ。ここで一泊したほうがいい。夜は危険だ。この辺りをなめないほうがいいぜ」
 椅子に座った状態でアクアを引き止めようとする。
「いえ、大丈夫よ。人は見た目で判断しないほうがいいんじゃない?」
「……そうだな…」
 コーヒーを再び飲み、小さく言う。
 カラン、カラン♪
「ありがとうございました」
 レジの店員がお決まりの挨拶を交わす。
「対した度胸だねぇ。戦闘も未経験ではないにしろ、多くはなさそうなのにな。…恋心は強いってか」
 気取った風にガラス窓の外のアクアを見る。
「あいつも随分と芯の強い娘さんに惚れられたな。尻にしかれなきゃいいが……ああ!!」
 言葉の初めは真面目口調だったのに、最後の最後ですっとんきょうな声がでる。
「あの女…自分の勘定、払ってねぇ…」
 ハッサンの視線の先に、コーヒー2、オレンジ1、と書かれた伝票が置かれていた…。


後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第31話『ドラゴン乗りの少女 ルーシア』掲載完了です。
 ルーシアのセリフがでると思った方、ごめんなさい。2行だけでした。しかもセリフかどうか妖しい…(^-^;;
 結局、詳しい過去も書かなかったし、謎が謎を呼ぶ、というところか?(違うと思うけど…)
 過去話は前にも結構書いたと思うけど、割とうまくいったかな? 描写もそこそこ入ったと思うし。
 アクアもアクアらしかぬ行動取ってます。勘定くらいなら払うと思うのに…。
 性格が変わってきてないか? ルーシアと会ったらどうなるんだろう?
 レティシアは出番なし。ちょっとだけの愛嬌? ある場面で勘弁。それが限界でした……(^-^;;;
 それでは、また次の後書きで(^-^)/~


2001年 2/18 ぱんどら

ラキア 出会い・再び
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