出会い・再び


「どうするの?」
 ラキアから出ると、開口一番レティシアが尋ねる。
 村では情報を得られなかった。つまりここでルーシアの軌跡は途絶えたことになる。
 が、アクアは落胆した様子もなく、しっかりと両の足で地を踏み、歩く。
「心配することはないわ。これを見てみて」
 地面にかがみ、目線を彼女に合わせると、その先に一枚の鏡を持ってくる。千里鏡だ。
「……どこなの? ここ」
 鏡には森。レティシアは気がつかなかったが、この映像はここの森に違いない。つまり…。
「私の勘が当たっていればこの森はここよ。きっとルーシアがこの森に来ているのよ」
 嬉々とした顔。いつかのレティシアの顔によく似ている。人は嬉しいことがあると誰でもこのような笑顔を浮かべるのだろう。
「さっ、暗くなる前に探しましょ」
 レティシアの手をしっかりと握ると、森の中を突き進む。

 時刻は昼を少しまわったあたり。まだ森が闇に包まれるまでには時間がある。
 だが夜になれば森は魔物の徘徊する危険地帯へと姿を変える。ここは遺跡が多く、ジュンケの森とは比べ物にならない魔物もいるだろう。
 現在地を見失わないように矢じりで木に目印をつけながら、コンパスで方角を確認し進む。
 いくら森の中が太陽の加護を受けているとはいえ不安なのだろう。レティシアはぴったりとアクアに寄り添い言葉を発しない。
 そしてアクアも無理に喋らせることはせず、いつもより強く手を握る。
 静かな森。ここだけならこの地域一体が帝国が動き回り、魔物がいるとはにわかに信じがたいだろう。
 アクアもいまだにそれが信じられないでいる。
(もうだいぶ歩いたけど、全然魔物の気配もしないわね。ホントに危険地帯なのかしら?)
 隣のレティシアを上から覗き込む。わずかながらに息が乱れているようだ。
 ふたりは冒険用の服ではなくて、私服に近い格好をしている。さすがに森を歩く必要があったのでスカートではないが…。
 それでも、冒険服よりは身体にかかる負担も大きいだろう。いまのところアクアに疲れはないが、レティシアの事を考えると。
「少し休憩しましょうか? 無理せずにゆっくりやりましょ」
 そう優しく語り掛けるようにいうと、近くの木陰に身を沈める。レティシアもそれに習い、隣に腰掛ける。
「静かだね、ここ」
 はるか頭上の風に揺られ踊っている木の葉を見ながらレティシアが呟く。
「ええ、そうね。この旅が終われば毎日こうやって暮らせるわ。もちろんレティシアも一緒にね」
 すぐ脇にいる金髪の少女を自分の側に抱き寄せる。レティシアはアクアの肩に頭を乗せ、うつらうつらとしている。
 ヒュウウウウ…
 遥か彼方よりやってきた風が森に、ふたりに、平等に安らぎを与える。風で金髪が舞い上がり、森の陽光と重なり幻想的な風景を作る。
「…スウ……スゥ…」
 しばらくするとアクアの肩から静かな寝息が聞こえてくる。どうやら眠ってしまったようだ。
 優しく妹のように思っている女の子の髪をすいてやりながら、自分もまぶたを閉じる。
 浮かんでくる映像は街での想い出。
 ふたりの出会い。キーシャ、レイナとの出会い。いつ瞳を閉じてもこの映像が生まれ出る。
(きっとここで彼に会える。なんとなくそんな気がする)
 そのまま意識がまどろみの中に消えようとする寸前。……遮られた。
「今の音は?」
 かすかに聞こえた金属音。剣の音だ。注意深くあたりの様子を伺う。
 キン! カィン!!
「!!」
 さっきよりもはっきりと聞こえた。距離は数十メートル。森の奥のようだ。
「誰かが闘っている? ルーシアかしら? いかなくちゃ」
 腰を浮かしかけたとき、隣で寝ているレティシアを思い出す。
「そっか、寝てるんだっけ。どうしよう…」
 数秒間の思案のあと、当然の答えを導き出す。

「大丈夫?」
 手を引かれ走っているレティシアを見ながら問い掛ける。速度は抑え目にしているが、それでも10歳の彼女には答えるだろう。
「…うん…大丈夫、だよ。早く、い、こ」
 かなり疲れているのか、ところどころを詰まらせながら言う。できることなら歩きたいがそうもいかない。
 仮に闘っているのがルーシアではないとしても、加勢に入らないわけには行かないからだ。
(あれ? そういえばこんな感じで歩くのをどこかで見たような気がする…)
 目的地へ向かっている途中でそんなデジャヴを感じる。
 思い出そうとしても思い出せない。もどかしさもあったが、今はそれよりも救出が先だと決め、余計な考えを振り払う。
「!」
 アクアが立ち止まる。レティシアもゆっくりと止まると、アクアの後ろのピッタリとくっつく。
「いたわ。男性ね。多勢に無勢ってところかしら」
 矢をつがえながらゆっくりと接近する。もちろんレティシアはここで行き止まりだ。
(あれは…。まさか……)
 森の光に照らされた横顔。剣を構える姿。短く切りそろえられた髪。なにより身間違うはずのない顔。
「…ルーシア……」
 涙があふれそうになる。いますぐにでも、走りより抱きつきたい。しかしいまの状況がそれを許してくれない。
 湧き上がる様々な感情を押さえこみ、魔物にも、彼にも気がつかれないように接近する。
 ルーシアは5匹の魔物を相手にしている。どれも見たことのないタイプだ。
(一匹…二匹。同時に射ると同じに魔法攻撃かしらね。あとは任せるしかないかな?)
 頭の中で作戦を作り、そして実行に移す。
 刹那の瞬間に矢が2本。宙を舞い、そして火炎がうなりながら飛ぶ。
 矢は2匹の魔物に。魔法も寸分たがわずヒットする。そして…!
「いまよ!!」
 アクアが叫ぶ。それを合図に怯んだ魔物3匹を斬る。残りの2匹も怯んだ状態にあるらしく、難なくルーシアの剣の前に倒れた…。
「今の声は…まさか……」
 剣を鞘におさめ、ゆっくりを声のしたほうを向く。
 風がふたりの間を通りぬけ、そして目が合う。
「ルーシア」
「アクア」


後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第32話『ドラゴン乗りの少女 出会い・再び』掲載完了です。
 はぁ、いきなりだけどやっと再会です。長かったぁ、実に長かった。
 急展開っぽいけどいい加減にしないとズルズルいっちゃいますからね、とっとと再会してくれ、ということでやっちまいました。
 今回は一生懸命に状況描写をやってみたつもりです。場面がどれも似てるから難しいですけどね。もっとうまくなりたい。
 もうちょっとこう…いろんな言葉が使えればいいんですけどね。勉強不足か……(^-^;
 それでは、また次の後書きで(^-^)/~


2001年 2/25 ぱんどら

ルーシア 森の雑談……そして急変
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