ドラゴンの遺跡
(1)


 カツーン…カツーン……
 ドス!…ドス!!……
 ふたりの人間と一匹の魔物の足跡のみが静寂な空間にこだましている。
 この面子以外にここには生き物の気配がまったく感じられなかった。アクアもそれを見取ったのか、
「ねえ、セレス。ここにはガーディアンは……?」
 と質問をする。
 彼女はここで否定の答えが欲しかった。自分たちの行動が遅くなればなるほど外で戦っているメンバーの負担が増すからだろう。
 だが、アクアのその想いはあっさりと打ち切られる。
「残念ながらいるわよ。最重要遺跡なんだしね。いままでのとはケタが違うと思う」
 後ろを振り返ることなく、無感情な声で言い放つ。
 その言葉と連動するように、明かりに照らされたセレス愛用の魔力を帯びたロングソードが鈍い輝きを放っている。
「……」
 アクアは押し黙る。いつもの彼女ならば、ここで冗談のひとつくらいは言ってくるかもしれないからだ。
 それがないということは……。この遺跡の危険性を再認識すると、若干ルドラ寄り添うような形で歩き始める。
「どうした?」
 アクアの様子を察したのか、軽い地響きを立て歩いていたルドラが尋ねてくる。
「…うん、セレスの様子がいつもと違うし、やっぱり危ないのかなって思って」
 ドラゴンの方を見上げながら言う。やはりいくら小さい部類に入るドラゴンといえども、アクアよりは大きい。
 この遺跡がドラゴンを封じるようにできているためか、進行には支障はないが、戦闘は無理だろう。
「それはしょうがないじゃろう。このような遺跡が無防備でさらされているわけはないからな」
「そう……」
 うなだれて答えながら、体をさらにルドラに近づける。
 もうすぐ別れてしまうこの心優しいドラゴンにわずかでも長いときを共有したいのだろう。
 ルドラもそれを察したのか、それとも守ろうと思ったのか、自分からもわずかに寄るようにして歩き始めた。

 なんの遭遇もないまま、左に曲がり、右に曲がり。セレスの歩く通りの進路をなぞってゆく。
 アクアとしても好都合だった。
 ガーディアンがいるとしても、やはり自分は好んで戦闘はしたくはない。避けられるのならば避けるべきだ、と考えているからだ。
 明らかに回避不能の場合はやむを得ないので、自衛のために戦う覚悟はもちろんできているつもりだ。
 この階層だけで、4本ほどの明かりが無くなったころに、セレスが足を止めた。
「? どうしたの?」
 怪訝な表情を浮かべながら、トレジャーハンターの背中に語り掛ける。
「うん、エレベーターね。…多分、動力は通っていると思うからスイッチを探してみてくれる?」
 バッグのなかからもうひとつの明かりを取り出すと、それをアクアに渡し、セレスはスイッチとやらを探し始める。
「??? よくわからないけど、それらしいのを探せばいいんだよね?」
 明かりに火を灯しながら、すぐ隣のルドラに聞く。
 彼はなにもいわずにうなずくと、それを肯定した。
 そのスイッチを探すこと数十分ほど。アクアが声をあげる。
「? これかな? セレス、それらしいものがあったけど……?」
 確信が持てないためか、ためらいがちにまだ探しつづけているセレスを呼ぶ。
 その呼び声にハッと反応すると、トテトテとアクア側に小走りで駆け寄ってきた。
「ほら、これ…」
 そういって、明かりで照らしながら、もう片方の手で、その『でっぱり』を指差した。
 そこには彼女の言う通り、長方形の膨らみ。形や構造からして、押すことには間違い無いようだった。
「ん、間違い無いようね。これがエレベーターのスイッチだわ」
 言うと同時になんの迷いもなくそのスイッチを押す。
 カチリ……フィィィィン…。
 押してから程なくして、軽い振動音が床、そして壁に伝わってきた。
「!? なに? どうしたの!?」
 トラップが作動したと思ったのか、これしきのことでアクアがパニック状態になる。前科があるから仕方が無いといえば仕方のないことなのだが。
「落ち着きなさいって。エレベーターが作動しただけよ。ほら、いきましょ」
 動揺している彼女の手を優しく取ると、再び小走りでエレベーターというものにかけて行く。
 そんなふたりの様子を見、
「ベテランと初心者か…。凸凹なわりにはいいコンビかもしれんな」
 誰にも聞こえないような小さな声でつぶやくと、ルドラもふたりのあとを追う。
「ねえ、セレス?」
 スイッチを押したことで開いたと思われる入り口からエレベーターに乗り込むとアクアが口を開く。
 エレベーターは大きく、ルドラも余裕で収容できるほどだった。
「なに? どうしたのよ」
 アクアのほうに向き直り聞く。表情は以前として厳しいものだったが、乗る前と後では、わずかながら後者のほうが緩んでいるように見える。
「うん…エレベーターってなに?」
 聞くのが恥ずかしかったのか、ポリポリと頬を指で掻きながらテレたように笑っている。
 そんなアクアの様子に苦笑しながらも、答える。
「エレベーターっていうのは…、ようするに巨大な昇降機のようなものよ。何人もの人や、荷物を一辺に運べるの。物によっては一気に3階とか4階をまたげるものもあるけど、基本的に1階ずつしか動かないようになってるの」
 と、身振り手振りを交え、丁寧に解説をしてあげる。
「ふ〜ん、なるほどねー。すごいんだ」
 エレベーター内の壁をさすりながら、感嘆の声を漏らす。
「さっ、そろそろ上の階に移動するわよ。数分かかるだろうから、リラックスしましょ」
 エレベーターの起動スイッチらしきものを押すと、低い唸る音と共に出入り口が閉まる。
 セレスは扉が閉まるのを確認すると、ゆっくりを床に腰を落ち着ける。アクアもそれに習う。
 ほどなくして身体が不意に浮くような感覚がアクアを襲う。
「なに? これ?」
 この浮く感覚をなんといって表現していいのか戸惑っている。
「気にしないでいいわよ。エレベーターが動いているだけだから」
 完全にリラックスモードに入っているようで、バッグの中から取り出した干し肉を食べているセレスがからかい口調で言う。
「…でも……」
「いいから、これでも食べて落ち着きなさいな」
 ポンと干し肉をアクアに投げて渡す。突然のことだったので、受け取るときに何回か手の中で弄んでしまうが、落とすことも無く無事にキャッチすると、アクアも食べ始める。
「ルドも食べる?」
 ルドラのほうに干し肉を見せるようにして、問い掛ける。
「いや、わしは大丈夫だ。貴重な食料、お前たちで分けたほうがいい」
「……そう…」



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第37話『ドラゴン乗りの少女 ドラゴンの遺跡』掲載完了です。
 ここのとこをいっつもギリギリです。今回も土曜日に頑張って仕上げました。
 緊迫感は今回はあまりないかもしれないですね。自分ではそう思っているけど。
 書き方をいろいろと考えてみました。その結果かな? 今回のは。
 部分部分でアクアの心情みたいなものを書いてみたんだけど、いかがなもんでしょう? もうちょいだったかな?
 では、次の後書きで会いましょう(^-^)/~


2001年 4/1 ぱんどら

ドラゴンスレイヤー三度 ドラゴンの遺跡(2)
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