ドラゴンの塔


「ゴメン、ちょっと包帯と薬出してくれない?」
 セレスが自分の腕を止血しながらアクアに言う。
 さすがのセレスも度重なる戦闘で無傷の状態ではない。ところどころに切り傷を負っている。今はその治療中というところだ。
「うん……はい」
 バッグの救急箱の中から治療するための道具を取り出し、それをセレスに手渡す。
「ありがと」
 にこりと笑いながら、彼女の手からそれを受け取ると器用に治療を始める。手つきからしてこんなことは日常茶飯事なのだろう。
「…ごめん」
 なにを思ったか唐突にアクアがセレスに対して謝る。
 セレスは治療の手を止め、キョトンとアクアの顔を見る。その顔をさきほどの口調同様に申し訳なさそうな顔だった。
「なに? どうしたの?」
「うん、私がもっとしっかりしてればセレスの怪我も減るのかなって…思って」
 視線を地面に倒し、聞き取れないような小さな言葉で言った。
「なーんだ、そんなこと? 気にしなくていいって。こんなことは慣れっこなんだからさ」
 そう言って傷の手当てを再開する。答えた口調のアクアとは正反対そのものだ。
「でも!」
 顔を上げてセレスを見る。彼女は本当に気にしていないかのように笑顔で治療しながらアクアを見ていた。
「ホントに大丈夫だってば。援護がいるからこそ、これだけの怪我でここにいるの。もっと自分に自信を持ちなさいな」
 薬を塗り終えると包帯をクルクルと腕に巻き、丁度良い具合になったら先端を切ってテープで止める。
「……うん」
 セレスの笑顔のせいでなにも言えなくなってしまったアクアは再び視線を落とす。
「アクアがいて助かってるよ。アタシだけだったらとてもここまではこれないんじゃない」
 両手を組み、頭の後ろに持ってくるとそのまま壁に寄りかかる。
 これはセレスの本心だった。アクアはセレスには信じられないペースで成長していた。
 強力な援護がいるという安心感は、前衛で戦う者の強い支えとなる。
「ありがと。そういってもらえると嬉しい」
「そうそう、笑顔でいなさい。…さってしばらく休憩しましょうかね」

 休憩の間、セレスは自分の剣について簡単に説明してくれた。それによるとこうらしい。
 セレスの持っている剣。これは旧時代の一刀で、剣に施された呪文により剣自身が大気中のマナを集めることができるらしい。
 剣が集めたマナ。そして使い手自身のマナ。このふたつを同時使用することによって結界などといった高等魔法の使用が可能となるのだ。
 彼女は他にもいくつか魔力を持つ武器を所有しているが、この剣が一番のお気に入りということらしかった。
「さってそろそろいきましょうか」
 簡素な食事を終え、セレスが自分の荷物を片付け始める。慌ててアクアもそれに習った。

 そして再び探索へ。
 現在は30階ほど。さすがにここまでくるとガーディアンも強力になり、塔内も複雑さを極めてくる。
「最上階はまだなのかな?」
 一歩一歩慎重にセレスのあとをくっついてくるアクアが背中に向かって話し掛ける。
「う〜ん、そうね。もう少しだとは思うんだけど……ん?」
 不意にセレスの足が止まる。急なことだったので、その背中に思わず追突してしまいそうになる。
「わ! …どうしたの?」
「あれ」
 そういって脇道の先にある部屋を指差す。
 そこにはふたつの石像に挟まれてひとつの宝箱と思われる箱が置いてある。
「…宝箱…よね?」
 目を凝らし、先にあるものを凝視しながらアクアが問う。
「ええ、間違いは無いわ。ただ…石像がね」
「石像?」
 言われて注意深く石像を観察する。
 大きさは2メートルほど。人型で頭に角を。背中には大きな翼がついている。顔は禍禍しく、今にも飛び掛かってきそうな勢いが感じられる。
「ガーゴイル…ね」
「ガーゴイル?」
「ガーディアンの一種よ。普段は石像なんだけど、侵入者が近づけば動き出すわ。
 答えながら、セレスは頭の中で計算を始める。
 ガーゴイル。強いことは強いが勝てない相手ではない。剣では分が悪いが、幸いにも彼女は対空武器も所持している。
 それに一番の問題は箱の中身だ。彼女のハンターとしての性質が、箱を取れ、と命令してくる。しかし、いまは一分一秒を争う状況だ。そんなことをしているヒマがないのも承知している。
 しばしの間、セレスの中で葛藤が始まる。宝箱を取るか、素通りするか。
「………。ゴメン。取りに行ってもいいかな?」
 どうやらハンターの性質が勝ったらしい。手を合わせアクアに頭を下げる。
「…。うん、いいよ。実を言うと私も中身は気になってるしね」
 快くその申し出を承諾する。とたんにセレスの顔は明るくなり、宝箱のある部屋を目指して歩き始めた。
「あ、待って…」
 慌ててあとを追う。

「さて、多分この部屋に入ったらヤツは動き出すわね」
 部屋の入り口から中の様子を伺う。ガーディアンはガーゴイル以外にはいないらしく、なんの気配も感じられない。
「でも、どうするの? 剣じゃ分が悪いんじゃない?」
「大丈夫。ちゃんと対空武器も持ってるわ」
 そう言ってゴソゴソとバッグの中をあさるとひとつの武器を取り出した。
 それは輪っかとなっており、大きさは腕に収まって少したれる程度。輪の外側は鋭いエッジになっている。
「なに? それ?」
 興味津々といった感じでセレスに聞く。いろいろな武器を店で見てきたがこのような武器は初めてらしかった。
「これはチャクラムっていう武器よ。最近じゃ見なくなったけどね。使うのにある程度熟練が必要だし」
 ふたつで1セットらしい、そのチャクラムを両腕に通すと軽く腕を回す。
 その腕の動きに合わせてチャクラムも円運動をする。
「まっ、これは今でも売っているその辺のチャクラムとは一味違うわ。ガーゴイル相手なら十分通じる。…いくよ!」
 軽くアクアの背中を叩くと部屋の中に入った。アクアも矢を番えた状態でそのあとに続く。
 ふたりが部屋に入ると同時に、石像であったはずのガーゴイルの目が赤く光り、音を立て動き始めた。
 さっきまで石だったとは思えないような感じで翼を羽ばたかせると、ふたりの若き冒険者に襲い掛かる。
「さて、いくわよ! アクア!!」
「うん!!」




後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第42話『ドラゴン乗りの少女 ドラゴンの塔』掲載完了です。
 戦いの中での休息って感じですかね? 今回は。
 説明文を長々と書くのもなんなので、語り口調っぽく要点だけまとめてみました(剣の下り)
 書くほうもラクだしね、ああなってると。
 もうちょっと良くアクアの葛藤部分なんかを書けるとおもしろくなるんだろうけど……。まだまだかな?
 では、次の後書きで会いましょう(^-^)/~


2001年 5/6 ぱんどら

ドラゴンの遺跡攻防戦(2) VSガーゴイル
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