そして最上階…


 カチャ…カチャ……
 さきほどまで激戦が繰り広げられていた空間は静まり返り、かわりになにかをいじるような音が響いている。
 他になにも音がないせいか、その小さな音がやけに大きく感じられる。
 音の発生源は宝箱からだった。セレスが罠がないかどうか調べているのだ。
「……」
 セレスは無言で宝箱を調べている。アクアはその後ろ。彼女がこういった作業をしているときは、声をかけないように努めていた。
 カチャ…カキン…。
 音がかわる。そしてセレスが、ふぅ、と息を吐くと、肩の力を抜く。
「オーケー、大丈夫よ。かなり難解だったけど罠は解除したわ。…開けるわね」
 後ろを振り返り、アクアに同意を求める。彼女は黙って頷いた。
 ガチャリ。
 宝箱が開く。
「…ん、これは…?」
 呟き、中身を取り出す。宝箱の中には弓矢の一式が納められていた。
「武器ね…」
 それを両手に持って、アクアに見せる。
「うん…、私が持つの?」
 弓と矢をしげしげを見つめながら、恐る恐るセレスに尋ねる。自分で開けたわけではないのに、貰ってしまっていいのか戸惑っているのだろう。
「あったりまえじゃない。弓矢はアクア、使えるんだしさ。…その前にちょっと調べるわね、コレ」
 そういって、弓と矢を調べ始めた。
「…ふーん…なるほどねー」
 弓矢の細かい部分を観察しながら、ひとりごちている。
 弓と矢には同じような、奇妙な文字が彫られている。それは魔力を帯びていることを物語っている。
 さらにセレスは調べる。それがどんな魔力を持っているのか。それを知らずに使用するのは危険なのだ。
 ………。
 一通り調べ終わったのか、セレスが顔を上げ先ほどと同じように息を吐く。
「この弓矢。大体はアタシが持っている剣と同じね。自身が大気中のマナを自然と集めるようにできているわ」
 弓矢をアクアに渡しながら説明を始める。
「武器のマナの開放の仕方は魔法を使うのと同じよ。火なら火。風なら風を浮かべ、矢を放てば魔力を付加させることが可能ね」
「そう……」
 さして嬉しくもないような感じで弓矢を受け取る。
「…まあ、アクアの気持ちもわかるけどさ」
 頬をポリポリと掻きながらセレスが言う。アクアの考えがわかっているのだろう。
「もうすぐよ、この戦いも。そうすればアクアも普通の生活に戻れるんだし。それまでの辛抱だから」
 アクアの肩を軽く掴んで、諭すように話しかける。
「…うん…わかってる」
 肩に乗せられた手を外し、小声でそれだけいった。
「……」
 セレスもそれ以上なにもいわず、黙ってその部屋を後にする。アクアもそれに続いた。


 あの宝箱を開けてから、数時間。ガーディアンの攻撃も熾烈を極め、ふたりとも無傷というわけにもいかなくなってきた。
「あーー! もう!! しつこいなぁ!」
 ガーディアンを退治し、セレスが悪態をつく。あれからどれくらい戦っているのか当に忘れてしまっている。
 確実なのは一歩歩くたびに、最上階へと近づいているということだけだ。
「ふぅ…はぁ……」
 セレスの後ろでアクアが荒い息を吐く。戦闘慣れしてきているとはいえ、スタミナはあるほうではない。連戦の疲れが出てきていた。
「大丈夫? 休もうか?」
 アクアに向かって、優しく声をかける。だが、その問いかけにアクアはかぶりを振る。
「ううん、最上階は……もうすぐなんでしょ。なら早く…い、いかなきゃ。地上で…頑張っているみ、みんなのため…にも」
 喉の奥から搾り出すように声を吐く。
 疲れているようでも、その目は死んでいない。生きた目をしている。セレスはその目を見、
「わかったわ。じっとしていると、また第二派がくる。走るよ」
 バン! とアクアの肩を叩く。アクアは首を縦に振り、それに答える。
 二人の冒険者。そして、命運を握るドラゴンが狭い回廊を走る。
(アクア、あなた最高のパートナーよ。あなたと出会えて本当に良かったと思えてる。旅が終わっても、友達でいられたらいいね)
(もう少しでこの戦いも終わる。私がここまで来られたのもセレスのおかげ。ありがとう、感謝してるよ)
 二人、それぞれの思惑を抱きながら、ドラゴンの塔をひたすらに走る。
 目前に現れるガーディアンに目もくれず、ひたすらに最上階を目指して。
 階段を駆け登る。
 エレベータに飛び乗る。
 回避不能な戦闘以外、すべて振りきり、残る力を最上階へと登ることだけに費やす。
「は! は! ハァ!!」
「ふぅ、はぁ、はぁ」
 息が荒くなる。肺が破裂しそうになる。それでも足を止めることはしない。はやく最上階につけば、それだけ地上の犠牲者も減るのだから。
 どれだけ走ったのだろう。その感覚が麻痺してきたときにセレスが足を止めた。
「!? どうしたの?」
 思わずぶつかりそうになってしまうが、かろうじてアクアも足を止めることができた。
「ここ、最後の部屋のようね」
 縦横5メートル四方の扉を軽く叩きながらセレスがいう。
「ついに…きたのね」
 息を整えながらアクアが言った。
「ええ、恐らくガーディアンもいるわ。最後の戦いよ、気合いを入れてね」
 自分の武器の手入れをしながらアクアに発破をかける。
「ええ、わかってる。うまく援護できるようにね」
 アクアも矢筒と弓をチェックしている。
 そんな二人を見ながら、ルドラがいった。
「すまぬな。わしが戦闘に参加できるのならば、お前達にこんな苦労をかけなくていいものを」
 目を小さくし、心底申し訳無さそうにルドラがいった。
「なにいってんのよ。この遺跡がそういうふうに作られているからしょうがないわ。ここでは知恵あるドラゴンは力をふるえないんだし」
 セレスが言う。
「ルドは気に病む必要はないの。私達がその分頑張ればいいんだから」
 笑いながらアクアが言う。
「ありがとう」
 目にうっすらと涙を浮かべ、ふたりに礼を言う。
 ドラゴンが涙を流す。いまだかつてない光景であろう。
「開けるよ、準備はいいね?」
「ええ!」
 ガチャ! ギィィィィ!
 きしむ音を立て、最後の部屋の扉が開かれた。




後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第45話『ドラゴン乗りの少女 そして最上階』掲載完了です。
 ちょっと急ピッチで事を進めてみました。そこそこ良い感じなのではないとか、自分自身では思ってます。どんなもんでしょ。
 武器は適当に考えた結果、アクアの新武器となりました。セレスはいっぱい持ってるしね。
 後半部分。うまく緊迫感というか、突っ走る感じ。そしてふたりの心情なんかをうまく書いてみたつもりです。
 こういった展開を書くのは初めてだったような感じだけど、うまくいったかな? もうちょっとルドラを絡ませれば良かったような気も…。
 では、次の後書きで会いましょう(^-^)/~


2001年 6/3 ぱんどら

VSゴーレム ガーディアンドラゴン(1)
書庫に戻る トップページに戻る