封印の間へ


「身体の方は大丈夫?」
 セレスを瓦礫の中から救出し、アクアの彼女に対する第一声。
「ん…、う〜ん、ちょっとツライ…かな?」
 痛々しい笑顔でアクアに答える。
 だが、アクアの目から見ればちょっとどころの騒ぎではなかった。
 鎧で覆われている部分の怪我は心配ないが、腕や足など露出しているところに、たくさんの切り傷が刻まれてしまっている。
 中には相当深い傷があるのか、まだ血が止まっていない傷もあった。
 それに加え火傷。ドラゴンの炎を防いでいたときだろう。身体への直撃は避けていたが、熱気はもろに受けていたのだ。無事で済むはずがない。
「大丈夫?」
 再度尋ねる。その顔は今にもセレスが死んでしまうのではないか、というくらい悲壮感が漂っている。
「もう、そんな顔をしなさんな。ちょっと手当てしちゃうから待っててね」
 笑顔を絶やさずに言う。だが、アクアから見てもわかるようにそれはどう見ても作り笑いだ。
 サイドパックから消毒薬を取り出すと、それを腕や足の傷に優しく塗る。
「っ!!」
 かなりしみたのか、顔をしかめる。その度にアクアが心配そうな顔を浮かべる。
 こういったことはやはり商売柄手馴れているのだろう、ものの数分ですべての治療を終えると立ちあがる。多少は傷が痛むがそんなことは気にしていられないのだろう。
「あ…」
 立ちあがると同時にセレスの瞳が沈む。アクアはセレスが見た方向を見てみる。
 そこにはセレスが愛用していた魔法のロングソードが床に転がっていた。
 しかし、その刀身はない。最後に放った魔法剣の衝撃に耐えられなかったのか、消滅してしまっていた。刀身を収めていた柄だけが、寂しく横たわっている。
 セレスが小走りにそこに近寄ると、その剣のなれの果てを拾い上げる。
「ありがとう、守ってくれたんだね」
 柄を抱きしめると、そう呟くのをアクアは聞いた。その言葉の意味まではわかるはずもないが…。
「……セレス…」
 そのセレスの後姿。いままでに見たことのないセレスだった。
 いつも強気でアクアを引っ張り、そして時には冗談を交え場をなごます。
 しかし、今のセレスにはそういった覇気や、元気がまったく見受けられなかった。
 アクアはその背中になんと話しかければいいのかわからず、しばらく寂しげに剣を胸に抱きしめているセレスを見続けていた……。

 やがて、落ちつきを取り戻したセレスは、その剣の柄を鞘に収めると後ろを振り返る。
「あら、やだ。ずっと見てたの?」
 バツが悪そうに頬をぽりぽりとかきながら、照れ笑いを浮かべる。
 アクアはその剣についてを聞こうとも思ったが踏みとどまる。
 誰にでも聞かれたくない過去はあるだろう。きっとセレスにとっては、ハンターになった訳。そしてその剣がそうに違いない。
「さて、いきましょうか。最上階に」
 それに頷いて答えると、二人の人間と一匹のドラゴンが封印の間への扉を開け放った。

 カツーン…カツーン。
 ズン! ドスン!
 階段を登って行く乾いた音と、重たくのしかかるような音が最上階へと続く螺旋階段に響く。
 この階段の広さは相当なもので、ルドラが通っていても横に十分な余裕がある。
 誰も言葉を発しようとしない。本来なら旅の目的が達成されるのだから、もう少し表情に嬉しさがあっていいのだがそれがない。
 理由は明白であろう。この冒険の終了はすなわちルドラとの別れを意味しているのだ。
 ここまで冒険の手伝いをしてもらい、もう親友となっているドラゴンとの別れ。それはアクアにとってルーシアと別れたときと同じくらいに悲しいことなのだろう。
 階段を一歩あがるたびに、アクアの顔を浮かなくなる。このまま、帰りたい、といっても不思議はないくらいだ。
 実際のところ、何度もその言葉を吐き出そうとした。
 しかし、言うことはできるはずがない。セレスの目的でもあるし、ルドラ自身がすでに覚悟しているからだろう。
 二人の思いはアクアにも痛いほど伝わってきている。それを自分の私的な感情で妨げるわけにもいかない。
 セレスがそんな彼女の葛藤に気がついたのか、歩くペースを落とすことなく話しかけてきた。
「どうしたの? 浮かない顔ね」
 まだ、傷が痛むのだろう、汗をかくはずのないペースなのだが、額にはうっすらと汗がにじんでいる。
「え? …あ、うん……」
 黙りこくってしまう。その先、自分の考えをいっていいものか。
 なにも喋らないアクアを見て、セレスが彼女の心情を代弁した。
「別れがつらいのね」
「!? ………うん」
 セレスの真っ直ぐな言葉に身体をすくめるが、すぐに平静を取り戻し短くそれだけいった。
 アクアはあくまで平静を装ったのだろうが、それは自分で思いこんでいるだけでセレスには無理をしているのがすぐにわかる。
「あなたの気持ちはよくわかるわ。親しい者との別れなんて経験したくないものね」
「セレス…」
 アクアがセレスの顔を見る。
 その顔は晴れやかでないが、目的が達成できるという喜びが同居している複雑な表情をしている。
 セレスもつらいのだろう。ルドラとの別れが。
 彼女がルドラに対してどういう感情を持っているかは、ハンターの里ですでにアクアも知っていた。
 晴れやかでない表情の理由は恐らくそれであろう。だが、喜びのほうはアクアに知る由はなかった。
「アクア…」
 背後で黙って二人の後ろを歩いていたルドラが口を開く。
「…ルド」
「わしのことなら気遣わないで大丈夫じゃ。お前の気持ちもわかるが、わしの気持ちもわかってくれ」
 そういうと、ルドラが自分の思いをアクアとセレスに打ち明ける。
 彼にとってもう一匹のドラゴンは敵ではなく、親友だったらしい。そのもう一匹のドラゴンはシューティングスターというらしかった。
 いつも二人で世界のバランスを担う役割を果たしてきたのだ。
 しかし、ある日を境にシューティングスターが変貌した。今までは必要ない限り殺戮を行わなかったのだが、突然に破壊のかぎりを尽くすようになったのだ。ルドラにはその理由は知ることはできなかった。
 やむを得なくルドラは人間に味方し、シューティングスターを激闘の末に封じ込めることに成功した。
 その封印の地がここ。塔はのちに人が造ったものらしかった。
 シューティングスターとの戦いでかつての力を失ったルドラは洞窟に隠れ住み、自分の役目を少しづつではあるが果たしてきたのだという。
「……」
 二人は押し黙る。セレスの驚きを隠せない様子だった。自分の調べた以上のことであるからだろう。
 アクアは顔面蒼白となってしまっている。
「…そう、わかったわ」
 血の気が失せてしまっているアクアがなんとか声を絞り出す。
「あなたにも理由があるのね。そういうのを聞かされたら私にはどうすることもできない」
 涙ながらにアクアがルドラに言った。それが封印の間につくまでの間、一行の最後の言葉となった。




後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。  オリジナル小説第2章・第49話『ドラゴン乗りの少女 封印の間へ』掲載完了です。
 いろいろと頑張りましたぁ。どの辺がそうなのか自分でわからない時点でダメダメかも……。
 とりあえずは、状況描写は心理描写。少しづつではありますが、加えていっているつもりです。
 最初の頃と比べるといくぶんはマシになってきたような気がするような…しないような……。
 マシになっていると信じたいですね。毎週書いている以上は。
 では、次の後書きで会いましょう(^-^)/~


2001年 7/1 ぱんどら

ガーディアンドラゴン(3) 旅の終わり…
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