ルドラの過去


その日は天気もよく村の人々は平和に暮らしていた。
だが、その平和も1つの影によって遮られる。
畑で農作業をしていたひとりの男がふいに空が暗くなりふと見上げると・・・・
「・・・ド・・ドラゴンだ!!」
その声に反応するかのように村中の人間がパニックに陥る。
必死で逃げ出そうとするが足がもつれてしまい転んでしまう。
それらの人間達をあざ笑うかのように容赦なく炎を浴びせ掛ける。
それは一瞬の出来事だった。苦しむ暇もなくその姿は真っ黒な灰に変化する。
「ふん、他愛のない」
ひとしきり村中を焼き払うとそう舌打ちする。
そのドラゴンは真紅の鱗を身にまとっていた。
進行方向を180℃変えると自分の住みかへと戻っていく。
明日はどこの村や街を焼き払うかを考えながら。

住みかに戻るとそこには自分以外のドラゴンが一頭、待ち構えていた。
「なんだ、お前か。説教なら聞かんぞ」
住みかである洞窟のまえに座り込んでいるドラゴンにそう言う。
「そういう訳にもいかん。いい加減、人間達の生きる場を襲うのはやめたらどうだ?」
「説教は聞かんといっただろう、ルドラ」
ルドラの言葉を無視して洞窟の中に入ろうとする。
その後ろ姿を見ながら
「いいか、必ずお前は後悔することになるぞ!今度は逆にお前が狩られる立場になるはずだ!」
自分の言葉を無視し洞窟の中に消えていく同族にそう叫び、自分も住みかへと帰っていった。
洞窟に戻ると少し考える。
(俺も人を襲わなくなってもう数百年か・・・。早いものだ)
彼が人を襲わなくなったのは自分の住みかをことごとく奪われたからである。
人間は一人では弱い生き物であるがそれが数百、数千と集まったときの強さをすでに何十回と経験している。
だが、彼は人間を恨もうともせずに当然の報いとしてそれらを受け入れてきた。
狩られても当然と。
そもそも、ドラゴンは人を食べなくても生きていけるのだ。それこそ人間が食べているような牛や豚でも。
それを実践しているドラゴンはこのルドラだけといっても過言はないだろう。
他のドラゴンも人を食わなくても生きて行けるというのは知っているはずだが、種としての本能なのか絶えず人を襲いつづける。
(ヤツもはやく人間の強さに気づけばいいのだかな)
そう考えるがそれはもはや無理ということにも気づいていた。

それから数日後、いつものように説教をくれてやろうと同族の住む洞窟へと翼をはばたかせる。
が、洞窟の中に広がっている光景を見てルドラは自分の力のなさに後悔を覚えた。
そこにはすでに同族の死体が横たわっていた。
当然、人間達も無傷というわけにはいかなかったようで至るところに人の形をした炭が確認できる。
「また、救えなかったか・・・・・・」
いままでにも何頭もの同族たちに人間の強さを説いていた。
だが、どのドラゴンも耳を貸さずそしてそれらのドラゴンたちは必ず数日後には死を迎えていた。


「それを最後にわしは同族にお前たち人間の強さを説くことを止めにした。
 聞く耳をもってはくれないのだからな」
ルーシアとアクアの目をまっすぐに見据え自分の過去を語っていく。
「それで、あんたはその後どうしたんだ?」
「うむ、妖魔や同族たちから人間を影から守る道を選んだ」
「へぇ、あんた変わってるな」
「なぜそう思う?」
「だってさ、あんたからしたら俺たち人間は仲間達の仇なんだろ。
 その仇を守るなんてさ」
「別に同族を殺したのはお前じゃない。それにわしらは殺されて当然の行為をしていた」
「なるほどね。で、どんな風に助けたんだ?」
「そうさな。最近ではお前たちの住むオルタネイトの独立戦争かな」
それにアクアが驚きの声をあげる。
「でも、街の記録じゃ自警団団長のアレンさんが陣頭指揮を取って独立に成功したことになっていてあなたのことは記録には・・・・」
「影ながらといったろう。独立戦争の最中、ときおり城の上空を飛びまわっては兵士達を混乱させたわい」
そのときを思い出したのか、忍び笑いを漏らす。
「それだと、お前は間接的に人を殺す手伝いをしてたんじゃないのか?」
ルドラの忍び笑いを見てそれを楽しんでいたように解釈するとそう問い詰める。
「そういうな。民が立ちあがるのならば国が圧政をしていたことになる。
 お前たち風にいうなら悪と正義だろう。わしは民のほうを正義と信じ力を貸しただけのことだ」
「ああ、そうだな。悪かった」
自分に非があるのを認め謝る。
「いやいや、気にするな」
「それで、あなたはこれからどうするんですか?」
アクアが尋ねる。
「わしはしばらく、ここに住むつもりだ。お前たちの手伝いができるかもしれんからな」
「手伝いって?」
「わしにできることは自分の戦闘能力を貸すことしかできんさ」
「そっか、やばくなったときは頼もうかな?」
ルーシアはすでに剣を鞘に収めている。
ルドラに対する警戒はすでに解いたようだった。
アクアも最初の頃の恐れるような表情は消え、いつも通りの顔になっている。
「お前の話はわかった、信じよう。それといつまでもこんな洞窟に閉じこもってないで自分からいってみたらどうだ?」
「わかっている。いつか、そのうちな」
「ルーシア、雨あがったみたい」
洞窟の中に反響していた雨音はいつのまにかなくなっていた。
「そうか、それじゃ帰るかな」
「なんだ、帰るのか。まあ、いい、いつでもここに来てくれ。歓迎する。
 それからわしのことはいましばらく街の者には伏せておいてくれ」
「ああ、わかってる。じゃあ」
ルーシアとアクアはルドラに挨拶すると洞窟を去っていった。
その後ろ姿を見つめながら、
「なんとも素直で正直な人間だ。他の人間も彼らのような心の持ち主であったならわしもここにいることはないのだがな」



後書き
オリジナル小説第12話『ルドラの過去』掲載完了しました。
今回の話を書くに至って2つ案がありました。
1つはこれのように過去をそのまま書くという方法とルドラが淡々と過去を語ってそれにルーシアが質問をはさむという形です。
ただ、後者にすると会話主体になってしまう恐れがあるので、取りやめて前者を選びました。
でも、読み返してみると両方入ってるんですよね。前半が過去で後半が会話っていう感じで。
ちなみに今回は自分で某マンガっぽいのが入ってしまったような気がしないでもないんですけど平気かな?

2000年 1/23  パンドラ

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