不穏な影


オルタネイトの街の北に位置するジュンケの森。
この森の隙間から覗く赤い2つの目。
その観察者はひとしきり街並みを眺めるとふたたび森の奥へと消えていった。

「おはようこざいま〜す」
挨拶の声と同時に第2部隊室の扉を開けてルーシアが入室する。
中にはハンスを除く全員が椅子に座って待機している状態だ。
「おはよう」
中のメンバーが皆、同じような挨拶をルーシアに返してくる。
すぐに自分のロッカーを開け自警団支給品のアーマーを身につける。
もう幾度となく装備しているのですでに手馴れた手つきだ。
装備を終えると自分も皆に習い椅子に腰掛ける。
いつも通りに待つこと数分で会議を終えハンスが部隊室に戻ってきた。
「あ〜、みんな揃っているな。んじゃ業務連絡でもしておく」
自分の椅子に腰掛けそして話し出す。
「つい最近、猟師から森に妖魔がいるという通報が入ったらしい。
 目撃証言から照合した結果、ゴブリンと判明した。これから俺と他数名で討伐に向かう」
「数名って全員じゃないんですか?」
質問をしたのはラッツだ。
「ああ、他のメンバーも街道沿いの魔物退治などでちょっと手が離せない状態だからな。
 相手はゴブリンだ。5.6人。多くても10人いれば大丈夫だろう」
「相手の数は?」
これはカイル。
「確証は持てないがおそらく数十。20匹ほどだろう。ゴブリンは徒党を組む種族だからな」
「20匹を相手に5.6人ですか?ちょっとつらいんじゃ・・」
と、ルーシア。
「大丈夫。レムリアがいるからな」
チラリとレムリアのほうを見る。
最初、ルーシアはこの意味はわからなかったがのちにそれを理解することになる。
「それで討伐隊はどうします?」
弓の具合を確かめながらジャロムが尋ねる。
「ああ、俺とカイル、ラッツにジャロム、レムリア、ルーシアで前線に立つ。
 他数名は後方待機。逃げたゴブリンを追う役目だ」
「はい!」
討伐隊に任命された団員が声をあげる。
「そういえば、ルーシアはこれが初陣だな?怪我だけはするなよ」
とハンスが一言付け加える。
「ええ、わかってますよ」
「ああ、それからもうひとつ」
ふと思い出したかのようにハンスがまた話し出した。
「これも確証が持てないがひょっとしたらゴブリンはハングドマンと共同している可能性が高い。
 この2種族は比較的、友好らしいからな」
「ハングドマン・・・・吊るされた男ですか」
ルーシアが呟く。
「おお、よく知ってるな?ルーシア」
「ええ、ここ数日、図書館で本を借りて勉強してましたから」
「うん、感心感心」
ハングドマンというのはその名の通り、常に逆さ吊りの状態で移動してくる。
武器となるのは長い爪と腕だ。
単体ではどうということはないのだが、ゴブリンと組まれると多少やっかいな存在となる。
ゴブリンに注意を払えば頭上が死角になり、逆にハングドマンに注意を払えば正面が死角になるからだ。
「何か質問は?」
一通りの説明を終えたハンスが団員達を見渡す。
が、誰からの質問もない。
「よーし、質問もないようなのでこれから任務に移る。
 解散!」
それを合図に団員達が各自の場所に散っていく。
討伐隊は先ほども述べたように、ハンス、カイル、ラッツ、ジャロム、ルーシア、レムリアを主とする部隊で編成されている。
彼らは武器の点検を済ませるとジュンケの森、ゴブリンの巣窟へと出動していった。


「いらっしゃいませ」
今はちょうど昼真っ盛り。アクアが1番から15番テーブル、カウンタの間を忙しく走り回る。
「ああ、今日はうどんがいいな。よろしく」
入ってきたは客は注文を伝えるとカウンタ席にどっかりと腰を下ろす。
一方のアクアは受けた注文を伝えに厨房へと走る。
それが終わるとまた注文をとりにフロアへと戻っていく。
「やっほ〜、アクア」
ふいに後ろから軽い調子で話しかけられた。
クルリと振り向くと肩にかかるくらいの真紅の髪の女性が立っていた。
「あっ、レイナさん。ご注文は?」
「うんとね、コーヒー頂戴」
「コーヒーね。ちょっと待ってて」
また厨房へと戻る、アクア。
(はぁ、ホントに忙しそうね。時間、間違えたな?)
椅子に座り、ちょっと時間帯を失敗したと後悔する。
本来ならもう少し立ってからくる予定だったのだが、はやく自分の中にある計画を実行したくて早めにきてしまったのだ。
(コーヒー飲んだら出なおそうかなぁ?)
そんなことを考えているとコーヒー片手にアクアがやってきた。
「はい、コーヒー。どうしたの?考え込んでるみたいだけど」
少し心配げな顔でレイナを覗き込む。
「え?・・ううん、なんでもないの。ただ、忙しそうだなぁって」
「うん、時間が時間だしね。もうちょっとですくんだけど」
「お〜い!注文まだか〜!」
軽くレイナと話している最中に後ろのほうから怒鳴り声が聞こえてきた。
「はい、ただいま、うかがいます」
一言、また後でね、とレイナに言い残すと客のほうへと小走りに向かう。
(はぁ〜。ホントに忙しそうねぇ)
注文を取っているアクアの後ろ姿を見ながらそんなことを思う。


「やつらの巣はどこなんです?」
移動中にルーシアがハンスに聞く。
「ん、ああ。ここをもうちょっといった先に洞窟がある。そこに巣食っているらしい」
生い茂る木や茂みをかきわけながら答える。
ハンスを始め他のメンバーも、うっとおしそうにかきわけながら進んでいる。
「しかし、ホントにすごいなぁ。この木は」
半ば呆れ気味でラッツがもらす。
「そりゃそうだ。森の中なんだからな」
ハンスが冗談とも本気ともいえる口調で返してくる。
「あのですね、隊長。そんな冗談ばかり言うのやめてくださいよ」
「ん?俺は本気だったんだが」
それを聞くと呆れ顔の3乗になる。
「ほらほら、ボヤいてないで進みなさいよ」
隣のレムリアが優しい口調でいう。
「はいはい」


「ふ〜、忙しかった」
昼のラッシュが終わりアクアが一息つく。
「ご苦労様」
コーヒー一杯で昼のラッシュを粘っていたレイナが彼女の労をねぎらう。
「もう、レイナさんてばコーヒー一杯でずっといるんだもん」
少しばかりほおを膨らませ講義の声をあげる。
「ゴメンゴメン。アクアに大事な話があったからさ」
「え?なに?」
興味をかられた感じの表情で聞いてくる。
「うん、実はね・・・・・・・」

ちょうど自分の計画を話し終えたと同時にキーシャがやってきた。
「こんにちわ〜。シチューお願いします」
来ると同時にアクアに注文をいう。
「シチューね。ちょっと待ってて」
注文を確認すると厨房に消えていく。
(ふ〜、よかったぁ。この娘が来る前で)
キーシャがきてしまうと計画が話しづらくなってしまうのでホッと胸をなでおろす。
「レイナさんもきてたんだ」
レイナの隣にチョコンと座り話しかける。
「まあね、暇だったしね。キーシャは昼休み?」
「ううん、今日は半日なんだ。購買でもよかったんだけど、こっちのほうがおいしいし」
「あら、嬉しいこといってくれるわね」
シチューをキーシャの前に置くと自分も椅子に腰掛ける。
その後は3人でゆっくりと談笑を楽しむ。
その一方でジュンケの森へと出発した討伐隊はゴブリンの巣窟へとたどり着こうとしていた。



後書き
オリジナル小説第14話『不穏な影』掲載完了〜。
今回はちょっと書き方を変えてみました。
読んで分かる通り2つの場面を交互に出してみましたが、どうだったでしょうか?
この方法は書いてて楽しかったけど容量がすごく気になりましたね。
以前にも後書きで書きましたけど7Kから8Kに収めるようにしてるもんですからダラダラと書くとあっというのにオーバーします。
かといってあんまり書かないと中途半端になっちゃいますし。そのあたりが難しかったですね。
でわでわ、また次回の後書きで。

2000年 1/31 パンドラ

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