醜悪なる森の妖精
前編



時刻は昼を少し回ったあたり。
空からは太陽の光が容赦無くルーシアたちにふりそそぐ。
もし、このアーマーが全身を覆うタイプだったとしたらすぐにでも脱水症状を起こしてしまいそうだ。
いま、彼らはゴブリンの巣のちょっと前の茂みに息を潜めている。
「それで、作戦はどうします?」
ラッツが剣の具合を見ながら隊長であるハンスに聞く。
「ちょっと待て。いま、状況を探る」
そう言って洞窟のほうをジッと見やる。
ちょうど入り口の両脇に見張りと思われるゴブリンが2匹たっている。
アレを仕留めない限り突入はできないだろう。
「ジャロム、レムリア。ここから狙えるか?」
指でクイと見張りのゴブリンを指す。
ふたりはその方向を見、距離を測る。
「急所を狙えば一撃で仕留められる距離ですね」
ジャロムが結論を出す。一方のレムリアも同じ意見らしく、首を縦に振る。
「よし、わかった。やってくれ。
 他のメンバーは気づかれないように洞窟の周囲を包囲だ」
数名の団員達がうなずくと、茂みの中を移動していく。
「包囲が完了するまで10分くらいかかるだろう。
 完了しだい攻撃開始だ」


「ところでさ、今日、自警団って出動らしいよ」
食後のコーヒーを飲みながらキーシャが切り出す。
「へぇ、そうなんだ」
さすがにコーヒー一杯で長くはいられないらしく二杯目を頼んだレイナが相槌をうつ。
「うん、だってここに来る途中みたもん」
「じゃあ、ルーシアもいたの?」
ちょっと心配そうな声でキーシャに尋ねるアクア。
「う〜ん・・・・・。あんまりじっくり見てなかったからなぁ。
 でも闘いならやっぱり、一緒にいったんじゃないかな?」
「そうだろうねぇ。剣の腕前なんて相当なものらしいし」
「そう・・・」
少しばかり声が下がる。
「やっぱり心配なんだ?」
アクアの顔を覗き込むような感じでレイナが聞いてきた。
「それは、まあ・・・・・」
少しにごすような感じで答える。
「ふ〜ん」
そこへ意味ありげに相槌をうつレイナ。
「え?なに?そのふ〜んって?」
なんとなくそこの雰囲気が違うことに気づいたのか突っ込んでみる。
「いいえ〜、別に〜」


「よし、全員配置についたな。
 ジャロム、レムリア。やってくれ」
ハンスの合図に両者ともにうなずくと矢筒から矢を取り出し構える。
レムリアが左、ジャロムが右を狙い弦を引き絞る。
シュン!!
右手を離すと同時に空気を引き裂くような音が走る。
そして、ねらい通り、矢は2匹のゴブリンの急所を貫いた。
絶命する寸前に仲間を呼ぼうとしたのか洞窟のほうへとヨロヨロと歩み寄る。
が、それもままならずその命の火を消した。
「よし!突入しろ!」
すかさずハンスの命令が飛ぶ。
カイルを先頭にラッツ、ルーシアがなだれ込む。
しかし、ルーシアが洞窟に入ろうとした瞬間に頭上からなにかが振り下ろされてきた。
「うわ!」
反射的に身を地面におどらせそれをかわす。
上を見上げると異様に手と爪の長い逆さ吊りの魔物が牙をむいている。
ハングドマンだ。
「クソ!洞窟内の指揮は俺がとる!レムリアはここを頼むぞ!」
そうレムリアに命令すると自分は包囲にあたっている団員を連れ洞窟内に突入する。
包囲している者がいなくなったからなのか、それとも偶然なのか、
それが合図になったかのように回りの茂みからゴブリンたちが姿を現した。
その容姿は全身が緑色、目はまるで炎のように真っ赤だ。
小さい唸り声をあげている。
しばらくゴブリンと自警団とのにらみ合いが続く。
ルーシアが森の妖精に睨みを効かせていると後ろにレムリアがそっ、と近づき耳打ちする。
「ある程度の時間を稼いで頂戴。いまから召還術を使うから」
「召還術?どういうことですか?」
「いいから」
「はい、わかりました」
そう返事を返すと他の団員とともにレムリアの周りを固める。
と同時に周囲のゴブリンとハングドマンが襲いかかってきた。
その剣と爪をかわしながら攻撃を加える。
一撃斬りつけひるんだすきに止めの突きを加え、確実に仕留めていく。
一方のレムリアは両手の人差し指を頭上で交差させ、なにかを唱えている。
なにをやるつもりだろう?と不思議に思うが、いまはレムリアの周囲を守ることが先決だと思いなおし、また正面に向かう。
何人かと斬り合っている内に背中にひとすじの鋭い痛みが走った。
ふらつく足でその方向を見ると、ニタァ、と笑いながらハングドマンがぶら下がっている。
「この!!」
右足のブーツに仕込んであるナイフを投げつける。
それはハングドマンの眉間に命中しドサリと落ちる。
すかさず団員が槍で止めを刺す。
ジャロムはさすがに接近戦はできるはずもなく数名の団員に守られながら頭上から襲いかかる刺客を矢で射る。
その腕はすでに見張りを倒したときに実証されているようで一撃一撃を的確に急所に打ちこんでいる。
その矢をくらい落ちてきたところを彼を守っている団員が止めを刺している。
見事な連携といえるだろう。
また、ある程度の剣の修練も受けているようで腰には一本の剣を携えているがそれを抜こうとしない。

「みんな、ちょっと周囲から離れて!」
魔法の準備が出来たのか周りを取り囲んでいる団員達に警告を発する。
全員がその命令を聞き届けすぐにレムリアから離れまた戦闘を開始する。
「我が名はレムリア。我が名の下に命ずる。出でよ!アクアネックレス!!」
短くそう唱えると同時に彼女の背後から水柱が発生する。
そしてそれはゆっくりと次第に勢いをなくし、やがて人の姿となる。
それを見て畏怖したのかゴブリンが少し後ずさる。
チャンスとばかりに団員達が一斉に攻撃を開始する。
「あの、それは・・・・・」
背中の痛みのせいで追い討ちに遅れたルーシアがレムリアの背後にいる生物?について聞く。
「大丈夫、心配しないで。彼女は私が支配化においてる水の精霊、ウンディーネよ。
 私はアクアネックレスって呼んでるけどね」
そういって背後に立つアクアネックレスを見る。
それは意思を持っているのか、いないのか、よくわからない。
体は水でできているようでその先がゆらゆらと透けて見える。
「ウンディーネ・・・・ですか?」
初めて見たものだからいくら味方とはいっても多少の警戒心が入る。
それを察知したのかアクアネックレスがルーシアを睨む。
瞬間、あとずさるがすぐにレムリアがアクアネックレスをいさめる。
「こいつはどんなことができるんです?」
興味を持ちレムリアに尋ねる。
「そうね、例えばこんなこととか?」
ルーシアには理解できない言葉でレムリアがアクアネックレスに命令を与える。
命令を受け入れたと同時に水で創られた槍を数匹のゴブリンにめがけて発射した。
それは寸分たがわずゴブリン5匹の心臓を貫く。
この光景を目の当たりにし、出動前に言ったハンスの言葉をルーシアはいま理解した。



後書き
オリジナル小説第15話『醜悪なる森の妖精 前編』掲載完了。
なんだか、か〜なり更新の間が空いてしまったようで申し訳ない。
やる気減少+オフ会があったもんだから。って言い訳にしかならないか・・・・・・。
とりあえずこれからバトル系の話に入っていきます。
多分、状況描写がメインになるかな?苦手だけど頑張ります。
ちなみに今回の話でちょっと気に食わないところがあったんだけど修正するとこの次のも書きなおしになってしまうんで
仕方なくそのままです。その部分に気がついてもあんまり突っ込まないで。
でわでわ。


2000年 2/11  パンドラ

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