どきどきでえと
前編


あれからもう一週間。
大きな事件もなく(あったら困るけど)俺の仕事は相変わらず街の警備と剣の稽古。
街の人たちにもすっかり覚えられたようで時折挨拶を貰ったりもする。
それなりにこの街での生活を楽しんでいる。
先のことはまだわからないけどね。


「おはよう、ルーシア!」
午前10時、ルーシアの部屋の扉が勢いよく開かれアクアの元気な声が部屋中に響き渡る。
その時丁度、机に向かって本を読んでいたルーシアは驚きのあまり本をドサリと机から落としてしまう。
「おいおい、元気がいいなぁ。どうしたの?」
落下した本を拾い上げ彼女に尋ねる。
「どうしたの?じゃないでしょ。忘れちゃったの?」
ルーシアの反応がそっけないので途端に表情が暗くなる。
「まさか、忘れてないよ。これ、読み終わったらいこうと思ってたんだ」
そういって一冊の本を見せる。
タイトルは『剣と魔法』
その名の通り、剣技や魔法、いまでは使い手が少ないとされている魔法と剣を組み合わせた魔法剣の解説もされている本だ。
それを見て落胆の表情から怒りの表情がアクアから見て取れるようになってくる。
「ちょっと!私のデートと本とどっちが大事なのよ!!」
ルーシアらしいといえばらしいのだが、さすがのアクアも堪忍袋の尾が切れた。
当のルーシアはバツが悪そうにそんな彼女を見る。
「ああ、悪かったよ。ゴメン」
自分に非があるのは明らかなので素直に謝る。
「もう、私がどれだけ今日を楽しみにしてたかわかってるの?」
「わかってるさ。それくらいで勘弁してくれ。
 さっ、出かけようぜ」
本を棚に片付けるとアクアの肩を押すようにして部屋を出る。

舞台は変わり、アクア希望の海の見える丘公園へ。
休日の午後ということもあって公園内はカップルや親子連れで溢れかえっている。
多少の人ゴミは覚悟していた二人だが、やはりこうも多いと気が滅入ってしまう。
「どうする?ジュリエットで時間でも潰す?」
となりにいるアクアにそう言う。
「う〜ん・・・そうねぇ。そうしたいのは山々だけどお弁当作っちゃったし。
 園内でお弁当食べてからジュリエットにいこ」
そう返すとルーシアの手を取り園内に小走りに入っていく。
手を取られたルーシアは半ば引きずられるような感じでアクアについていく。

いろいろと楽しい談話を交わしながら遊歩道を歩く二人。
他の人達が見たらまず間違い無くカップルと思うだろう。
ルーシアはどうだかわからないが、アクアはそう思っているに違いない。
途中、ルーシアはなんどか後ろを振り返ったりしている。
その行動が気になるアクアは、
「どうしたの?」
と聞いてみる。
「いや、なんだかつけられてる感じがしてね」
軽く後ろの様子を伺いながら答える。
「そう?私は全然わからないけどな。
 気のせいじゃないの?。もっとおしゃべりしましょうよ」
「そうだね」
背後に不穏な気配を感じつつもまたアクアとの話に興じる、ルーシア。
その後ろ、約10mくらいの位置に赤毛の女性が彼らの様子を観察していた。
「うんうん、うまくやってるじゃないの」
その赤毛の女性――レイナ――は物陰からこっそりと二人の様子をうかがっている。
知らない人が見たらさぞ怪しく見えることだろう。
そんな回りの好奇な視線を物ともせずに二人のあとをつけていく。

海の見える丘までやってきた二人はその辺の芝生に座り込み弁当の入っているバスケットを開ける。
中身はいろいろな物がはさんであるサンドウィッチが占めていた。
タマゴからハム、その他もろもろである。
その中のひとつをパクつきながら海から流れてくる風を浴びる。アクアもまた同様のようだ。
「・・・・・ねぇ?」
ふいにアクアが話しかけてくる。
「ん?なに?」
「ルーシアがここにきてからもう一ヶ月なんだね。早いなぁ」
「そうか、もう一ヶ月立ってるんだ。ホント、早いな」
二人して思い出にふける。
「ねぇ、ここの暮らしはどう?」
「そうだなぁ・・・・・。気に入ってるよ。環境もいいし。
 こんなによくしてくれる人もいるしね」
そういってアクアのほうを見る。
まっすぐに見られて恥ずかしくなったのか少し顔を赤らめてうつむいてしまう。
そんな彼女の様子をしばらく見ていたが、また視線を海に戻す。
今日は風もなく海はおだやかな表情を見せている。
太陽光が反射し水面がキラキラと光る。
それに誘われるかのようにルーシアは遊歩道に出ると、てすりにつかまり海を眺め始めた。
「綺麗だね」
彼に続きアクアも同じようにして海を見る。
ときおり強く吹いてくる風にブルーの長髪が舞い上がる。
「ああ、まったくだ」
「この水平線の彼方のどこかにルーシアの記憶があるのかな?」
海のずっと向こうを眺めながらポツリともらす。
「ああ、そうだね。あるかもしれない」
水平線を眺めたままアクアに答える。
「少し歩こうか?」
隣の彼女のほうに向き直りそう提案する。
「うん、いいよ。それじゃお弁当持ってくるね」
そういって芝生に置いてあるバスケットを手に持つとまたルーシアのところに戻ってくる。
そのまま遊歩道をまっすぐに歩いていく。
物陰から様子をうかがっていたレイナも慌ててあとを追う。

遊歩道の両脇にはいろいろな植物が植えられていて通るものの目を楽しませると同時に癒してくれている。
立ち止まってそれらを見るものや彼女に花の解説をしている男もいる。
それ以外では絵を描いているものと様々だ。
「いい天気でよかったね」
しばらく無言のままだったがアクアが唐突にそんなことをいってきた。
そのアクアの言う通り、雲ひとつない空はこれでもかといわんばかりに晴れを主張している。
「ああ、まったくだ。雨だったら出かけられないもんな」
そういって空を見上げる。
相変わらずの空模様は気分をよくしてくれる。
ふとルーシアはそんなことを思った。
しばらく歩くと公園の出入口まで戻ってきてしまった。
「あれ?戻ってきちゃった。どうする、アクア?」
出入口に備え付けられているベンチに腰掛け彼女に問う。
「じゃあ、さっきいった通り、ジュリエットにいこうよ」

この時間、ジュリエットはさすがに混んでいたがなんとか空いている席を見つけ向かい合うように座る。
店内ではいつもと同じラブ・バラードの音楽が絶え間なく流れつづけている。
ひょっとしたらこの曲もこの店の人気と関係があるのかもしれない。
ふたりはコーヒーを注文するとまた談話に花を咲かせる。
「そういえばさ、アクアって両親どうしてんの?」
こんなに若いのに一人暮ししているのに合点がいかずに聞いてみる。
前々から気にはなっていたのだが聞けずにいた。
「両親?ちゃんと健在だよ。私はひとりでこの街までやってきたんだ」
「ふ〜ん。なんでか聞いてもいい?」
プライベートに突っ込むわけだから念のため相手に都合を聞く。
そうでなければ失礼と思ったのだろう。
「うん、いいよ。・・・・そうねぇ、一言でいうなら退屈な暮らしに飽きたっていうところかな?
 自分の力で生活してみたくなってさ」
その彼女の答えにルーシアは微妙なひっかかりを感じるのを覚えた。
それがなんなのかは思い出すことはできないが。
「へぇ、でも大変なんじゃない?」
「一人暮しが?そうでもないよ。ちゃんと収入もあるし、家事は好きだしね」
ニコニコしながら答える。ルーシアと話ができるのが嬉しいのだろう。
「そっか、それなら大丈夫だね」
コーヒーを飲み、こちらも笑顔で答える。

「それでこれからどうしようか?」
2杯目のコーヒーを飲みながらデザートを食べているアクアに尋ねる。
「う〜ん、私はルーシアと一緒ならどこでもいいけど」
甘そうなパフェを幸せそうに食べている。
その嬉しそうな表情を見ているとこっちまで気分がよくなってくる錯覚を覚える。
「そういわれてもなぁ・・・・」
コーヒーを飲み、どうするか考える。
「行く場所がないならさ、その辺をブラブラするだけでもいいと思うよ。
 見ているだけでも結構楽しいし」
「そう?それじゃあ、そうするか」



後書き
オリジナル小説第19話『どきどきでえと 前編』掲載完了〜。
う〜、今回はなかなか難しかったですね。
前回の後書きでも書いてある通りこのような話は苦手です。
デートの雰囲気が出ているかどうかちょっと、というか、かなり自信ないです。
次回はこれよりもっといい感じで書けたらいいんですけどね。それが難しい。
まあ、自分なりに頑張って書きますので最後までお付き合いください。
でわ、次回の後書きで。

2000年 4/3 パンドラ

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