どきどきでえと
後編


「ありがとうございましたぁ」
レジにてコーヒーとパフェの料金を払うと二人はジュリエットから出る。
ちなみにルーシアは渋ったのだが、アクアに無理矢理に奢らされてしまった。
「ああ〜、おいしかった。それじゃあどこにいこうか?」
ひとつ伸びをすると笑顔でルーシアに聞く。
「う〜ん、俺に言われてもなぁ。とりあえずその辺でもブラブラしようか?」
「うん」
ルーシアのとなりにつくと、なぜか嬉しそうにしてトコトコと歩いていく。

海の見える丘公園を西に進み繁華街へと入っていく。
休日の午後。公園ほどではないにしろ家族連れと思わしき人達の姿がチラホラと確認できる。
時間は昼を少し回ったところ。外食の帰りだろう。
公園ほど人は多くないので多少は余裕を持って歩くことが出来た。
ときおり、アクアがショーウィンドを覗きこんでは、これ、結構いいかな?、と呟く。
が、本人にはあまり買う気がないらしく一度二度見ただけでそこから離れてしまう。
「買わないの?」
そんな彼女を見ながら問う。
「うん、いいとは思うけど、どうしても欲しいとまではいかないな」
「そっか」
それだけいうと、また彼女の物色に付き合う。
ルーシアも彼女同様ショーウィンドを覗きこんだりしているが自分の欲しいようなものは何一つ売っていなかった。
当のアクアはなにを買うわけでもなくウィンドを覗きこんでいるだけでそれなりに楽しんでいるようだった。
あれもこれも、といった感じで覗きこんでいる。
ときおり、これなんてどうかな?、とルーシアの袖を引っ張る。
それに対して、うん、いいんじゃないかな、と適当に相槌を打っておく。
(買うわけでもないのに見るだけで楽しいのかな?)
ふとそんなことを思うが、アクアが非常に楽しそうな顔をしているのでそれは今後一切考えないことにした。

繁華街の店を回りつづけること一時間あまり。
突然アクアがひとつのショーウィンドの前に惹きつけられるように魅入っていた。
どうしたんだろう?、と思いルーシアも覗き見る。
そこにはアクアの髪と同じ色、ブルーの宝石が取りつけられた指輪が展示してあった。
なぜだかはよくわからないが、それはなにか惹きつけられるような不思議な魅力を放っていた。
それに魅入られたのか数分間、二人は指輪をじっと見つめつづけていた。
「欲しいの?」
ルーシアに声をかけられ、ハッと我に帰るアクア。
「う〜ん、素敵なんだけど・・・・ちょっと高いしね」
と値札を指差す。
確かにちょっと高い。ルーシアの一月分の給料でギリギリ買えるといったところだろうか。
「う・・・・確かにちょっと高いな」
「でしょ。いいよ、今回は諦める」
後ろ髪をひかれる思いでそこから離れる。
ルーシアは、しばらくそれを眺めていたがすぐに彼女のあとを追う。

「結局何も買わなかったね」
繁華街を一通り見終わるとそうアクアにいう。
「うん、でも手持ちも少なかったからね。しょうがないよ。これからどうしようか?」
相変わらずの笑顔でルーシアに次の行動を聞く。
「うん、そうだな。・・・・・・中央公園にでもいこうか?」
「え?でもなんにもないよ」
「だからさ。のんびりできていいじゃないか」
「う〜ん・・・・・。そうだね、いこ」
そして今まで通り二人寄り添い中央公園へと向かう。

予想通りというかなんというか、そこには人の姿がほとんど見えなかった。
ルーシアたちと同様、人ゴミから逃げてきたような人達が数人、芝生に寝転がって休憩している。
その様子を公園の木々たちが優しく見守っていた。
小鳥のさえずり、木々のざわめき、海の見える丘公園とはまた違った情緒がそこにはあった。
「静かだね」
アクアがそよ風を浴びながらポツリとそんなことを呟く。
「ああ」
こうまで静かだとすこしばかり眠くなってしまう。
ただでさえいい天気なのだからなおさらだ。
口元を押さえあくびをすると、アクアが服の袖を引っ張る。
「ねぇ、あそこに画家がいるよ。似顔絵とか描いてもらえるかな?」
指差した方向には真剣な面持ちでキャンパスと格闘している初老の男性の姿が確認できる。
てっきりあくびのことで怒られると思っていたルーシアは安堵のため息をもらす。
「う〜ん、どうだろう?なんか真剣な顔してるしさ。描き終わってからのほうがいいんじゃないか?」
「そうかな?・・・・・・そうだね」
アクアも画家の表情を見て、そう結論付けた。
待つこと数十分。描き終わったのか、それとも休憩なのか画家が筆を置いた。
待ってましたとばかりにアクアが小走りに向かう。
その後ろをルーシア。
「あの〜、すいません」
少し遠慮がちにに声をかけてみる。
「ん、なんだい」
声をかけられた画家は穏やかな表情をアクアに返す。
「えっと・・・、初対面であつかましいとは思うんですがよかったら似顔絵を描いてもらおうかな、と思いまして」
「似顔絵?そっちの彼と一緒にかい?」
とルーシアに視線を向ける。
目があったルーシアはペコリと会釈をする。
「ええ、そうです。できれば私と彼と、あとは二人一緒なのを描いてもらえると嬉しいんですが」
「ハッハッハッ、ずいぶんと欲張りなお嬢さんだね。
 丁度いま描き終わったところだから構わないよ」
どちらから描こうか?、と尋ねられたので最初はアクアからとなった。
言われたアクアは芝生の上にチョコンと腰を下ろす。
キャンパスとアクアの顔を交互に見ながら筆を走らせる。
筆を一振りするたびに生命を与えられるかのようにキャンパスに絵が出来あがっていく。
描き始めて小一時間くらいだろうか?一枚の絵が完成した。
「できたよ」
一言そう告げるとアクアは大きく伸びをする。
ずっと同じ体勢で疲れたんだろう。
伸びが終わると興味津々といった感じでキャンパスを覗きこむ。
そこにはここに立っているアクアと変わりのない一人の少女が座っていた。
「うわぁ、すご〜い」
絵を見ると同時に感嘆の声をあげる。
「そんなに喜んでもらえると私も嬉しいよ」
そういってアクアの絵を手渡す。
「それじゃあ、次は彼氏のほうだな」
そういって今度はルーシアを座らせる。

「とくしちゃったね」
もらった絵を大事そうに抱えながらニコニコして言う。
3枚の予定だったのだが、二人セットの絵をもう一枚描いてくれることになり、二人が2枚ずつ貰えることになった。
「ああ、そうだね。いいものがもらえたよ」
こちらも嬉しそうだ。
あまり感情は表に出さないが、新しい想い出が出来たからだろう。
「もうちょっとこの辺を歩いてから食事にいこうよ」
見ると辺りはすでに薄暗くなり始めている。
時間にして5時をちょっと過ぎたあたりだろうか?
絵を描いてもらっている間にかなりの時間が経過したらしい。
「ああ、そうしようか」

カラン、カラン。
おなじみとなった水晶の森亭のカウベルがふたりの来店を告げた。
まだ夜のラッシュ時間ではないのでそんなに人は入っていない。
軽く店内を見渡してからカウンタ席に腰を落ち着かせた。
「おっ、アクアじゃないか。なんにする?」
夜の仕込みをしていた店長が奥から姿を現す。
「えっと、そうですね。あんまりお腹空いてないし。軽いものお願いできますか?」
「オッケー。任しといてくれ」
そういってまた奥に消えていく。
「あんなんで注文伝わるの?」
?な表情のルーシアが聞く。
「う〜ん、どうだろう。でも、大丈夫だよ」
やたら自信たっぷりの顔で答える。
「それより、今日はありがと」
急に改まった感じでそう言ってきた。
「どうしたの?改まっちゃって」
「うん、一日私に付き合ってくれてさ」
少しばかり顔を赤らめている。
ちょっと恥ずかしいのだろう。
「そんなこというなって。俺も楽しかったしさ」
「ホント!」
パッと花が咲くかのように明るい表情になる。
「当たり前じゃないか。嘘いってもどうしようもないだろ?」
「うん、ありがとう」



後書き
オリジナル小説第20話『どきどきでえと 後編』掲載完了〜。
っことでどうも、筆者のぱんどらです。
ふぅ、苦手な感じのこの話も今回でようやっとラストです。
前回の後書きでもあるようにデートの雰囲気が出ているかどうかは保証できません。
レイナも軽く絡ませようかな?なんて考えたりもしましたが、ややこしくなりそうなんで却下。
だいたいは構想通りに書けたと思います。
後少しでこの小説も終わりになります。
最後までお付き合いしてくれると嬉しいです。
でわでわ〜。


2000年 4/9 ぱんどら

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