新天地 前編


新天地
前編


「どこから案内しようか?」
部屋を出たところでアクアがクルリと振り返りルーシアに問う。
「そうだなぁ。とりあえず必要最小限のところでいいよ」
「そう。・・・・・あっ、そうだ」
何かを思い出しようで手をポンと叩く。
「ルーシアの武器、登録しておいたほうがいいかもね」
「登録?」
なんのことだろうと彼女に聞き返す。
「うん、この街で武器を携帯するのに許可が必要なの。
 自警団にいけば大丈夫だからとりあず自警団にいこ」
そう言うとルーシアから視線をはずし前に向き直り歩き始めた。
あわててルーシアも小走りにアクアの隣に向かう。
アクアの家は住宅街の外れにあり――住宅街は街中心から西に位置している――自警団は南にあるので 以外と距離がある。
自警団に到着するまでの間彼女はこの街の名称や――オルタネイトというらしい――数十年前に王国から独立し、
今では自治をおこなっていること、
海に面した港町で交易が盛んなことなど詳しく教えてくれた。
いろいろと、この街について教えてもらっていると、ほどなくして自警団に到着する。
目の前の建物は石造りでいかにもという雰囲気を放っていた。
しばらく自警団事務所を眺めていたが、隣のアクアが促すので中にはいる。
中に入るとすぐ正面に住人からの意見などを聞くと思われるカウンタがあった。
そのカウンタには二人の受付嬢が座っている。
左側には通路。ここからでは奥がどうなっているのかわからない。
右側には階段。ここも当然、どうなっているのかはわからない。
「どうしたの?登録するんでしょ?」
ルーシアが中を観察していると隣に立っていたアクアが、中々動かない彼に尋ねる。
「ん、そうだったな。ゴメン」
一言謝るとカウンタに向かって歩き出す。
歩き出したのを確認するとアクアは近くにあった長椅子に腰掛ける。
カウンタの受付嬢は一人の青年がこっちに向かってくるのにきづくと
「どうなさいましたか?」
と丁寧な言葉で話し掛ける。
「武器の登録をしたいのですが」
ルーシアが自分の用件を告げる。
「はい、わかりました。申し訳ありませんが武器を一時的にお預かりさせていただきます」
仕方なく腰から鞘ごと取り外すとカウンタの上にゴトリと置く。
受付嬢はそれを受け取ると
「はい、確かにお預かりいたしました。
 明日、お返しにあがりますので失礼ですがお名前とご住所をお教えください」
あまりにも丁寧な言葉遣いなので多少たじろくが、こういう方針なんだろうと自分を納得させる。
「名前はルーシア。住所は・・・・・・」
名前までいったところで言葉に詰まる。
そういえば、俺って住所どこなんだろう?
まだ、この街にきたばかりでさらに記憶喪失とあってはわからないのは当然である。
後ろで長椅子に腰掛けているアクアに救いのまなざしを向ける。
困った表情をしている彼と目が合うと軽く笑ってからこっちに来てくれた。
カウンタまでやってくると答えられない彼の代わりに受付嬢に答える。
名前と住所を記入すると受付嬢は
「確かに承りました。明日の昼にお返しにあがります」
「よろしくお願いします」
ルーシアとアクアはペコッと軽くおじぎをするとカウンタから離れる。

「ふぅ、言葉遣いが丁寧なんでなんか疲れちゃったよ」
自警団事務所から出るやいなや、がっくり肩を落とすと大きく息を吐く。
「ふふふ」
彼の疲れた様子がが可笑しかったのかクスクスと口をおさえて笑う。
「次はどこを案内しようか?」
笑っているところをルーシアに軽く睨まれてしまったので笑いを止めて話題を変える。
「う〜ん、そうだなぁ」
空を見上げ考える。空には雲ひとつ無く太陽の恵みがこれでもかといわんばかりに地上にふりそそいでいる。
視点を空からアクアにかえると
「食事をするところってある?」
「食事?もちろんあるわよ。でも、食事くらい私がつくってあげるのに」
自分の料理の腕を疑われたと思ったのかすこしだけうなだれる。
「別にそんなつもりで聞いたわけじゃないけど」
うなだれている彼女の心境を悟ったのかあわてて弁解する。
「ううん、いいよ。こっちよ」
顔を上げると歩き出す。ルーシアもその隣を歩き出す。
どうやら来た道を戻っているらしい。
(戻るということは住宅街のほうなのかな?)
彼のその考え通りに住宅街へと戻ってくるとアクアはそのまま住宅街を東に抜ける。
住宅街を抜けるとそこは繁華街らしくいろいろな店が軒を連ね活気に溢れていた。
いたるところから料理のいい匂いがルーシアの鼻を刺激する。
その度に彼は匂いの元を捜すが案内人がどんどん先に進んでしまうので仕方なくあとをついていく。
どっちにしろ手持ちがないので食べようにも食べられないのだが匂いにつられてしまうのは仕方のないことだろう。
ルーシアの希望である食事をするところは何軒か通りすぎているが一向にアクアは足の速度を緩めない。
4・5軒くらい通りすぎただろうか、ある店の前でアクアが足を止め振り返る。
「ここが、大衆食堂、水晶の森亭よ」
店の看板を指差して言う。
確かにそこには水晶の森亭と書かれている。
ルーシアが、なぜ何軒も通りすぎていたのかを聞くと
「ああ、それね。ここってね、安くておいしいの。私もここの常連なの」
店の前で立ち止まったせいか、いままでにもまして、いい匂いが鼻を刺激してくる。
そんな彼の表情の変化にきづいたのか
「寄ってくの?」
「いや、いいよ。手持ちもないしね」
「そう?それじゃあ、次はどこにいこうか?」
「う〜ん・・・・・」
繁華街を眺めていると活気があっていいのだが、たまには静かなところでのんびりするのもいいだろう。
そんな考えが浮かんできて
「公園とかってある?」
「公園?あるよ。ふたつあるんだけど、どっちにいく?」
「アクアの好きなほうで構わないよ」
「わかった。こっちよ」

そのまま繁華街をさらに東へと歩いていく。
歩きなれていないルーシアはちょっとでも油断するとすぐに案内人であるアクアを見失ってしまいそうになる。
一方のアクアは当然、歩きなれていて人と人の間を縫うようにして歩いていく。
やっとの思いで繁華街を抜けるとそこは高級住宅街らしく豪華絢爛な建物が立ち並んでいた。
ルーシアはしばしその建物に魅入っていたが彼女はスタスタと歩いていってしまう。
さらに東に歩いていくと道が開け海が見えてきた。そこから気持ちのいい潮風がルーシアの頬をなでる。
入り口に差し掛かると前を歩いていたアクアが振り返り
「到着〜。ここがこの街の公園のひとつ。海の見える丘公園よ」
その名にふさわしくここから広い海が一望できる。
公園のベンチに座りのんびりする人。
ここの絵を描いている人。
芝生に寝っ転がっている人。
いろいろな人がいろいろな方法で心と身体の静養をはかっている。
そんな人々を観察しているとひとつの事に気がついた。
「なあ、アクア」
手すりに捕まって潮風を気持ちよさそうに感じている彼女に話し掛ける。
「なに?」
手すりから手を離してルーシアのほうに向き直る。
「この街ってさ、俺達みたいな人間以外の種族もいるんだな」
気づいたこととはそのことで、確かに人間に混じって耳の長い者を何人か見つけることができる。
「うん、そうだね。この街じゃ、私達みたいな人間と耳の長いのが特徴のエルフが多いかな?」
 王国の方じゃ騎士として下半身が馬のケンタウロスっていう種族もいるよ」
そのあとにこの街にはいないけどね、と付け足した。
「ふ〜ん、みんな仲良さそうだな」
「当たり前じゃない。みんな同じ街の仲間なんだからさ。  この街じゃ差別なんてないわよ」
「なるほどね、いいことだ」
簡単そうでなかなかできないことを実行しているこの街の人柄に素直に感心する。
そしてこの街で一生を過ごすのも悪くないかな?、と考え始めた。
「で、次はどうする?」
考え事はアクアの屈託のない笑顔と明るい声にさえぎられる。
「今度は、アクアの案内したいところでいいよ」



後書き
ども、筆者のパンドラです。実はこれ書いたの2回目です。ひとつめはちょっとしたアクシデントで消してしまいました。
でも一回目よりよく書けたような気がしないでもないんですが
善い悪いを決めるは僕ではなくて読者のみなさんですから、自分で思っててもダメか。
これから登場人物なども増えていくだろうから簡単なキャラ紹介でも作ろうかなと思ってます。
あと、種族なんかもいろいろと出るけど某ゲームをプレイした人ならピンと来ると思います。


1999年 10/17  パンドラ

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