セリカ・ST185
「…朝だ……」
窓から差し込む朝日を顔に受けて、アタシはうっすらと目を開けて呟く。
いつも通りの日常。ひとつ、あることを除けばね…。
ベッドから起き上がると、部屋に備え付けのソファを見る。そこには無表情で座っている銀髪の少女がいた。つい1週間くらい前に遺跡で見つけたマナを原動力とする魔導人形。名前はセリカ。形式をST185というらしかった。
「あなた、寝てないの?」
寝癖がついてぼさぼさになっている髪の毛を掻きながら、アタシは目の前のセリカに言う。
「はい、私は寝ることを必要としません。食事も不要のものです」
相変わらずの抑揚のない声でそう言う。ん〜、なんか本当に『人形』って感じなのよねぇ。もっとこう…なんていうのかしら、人間っぽくできないものかしら?
そんな事を考えながら、クローゼットから洋服を取り出すと、それをのそのそを着だす。ちなみにセリカはショートパンツにシャツという格好をしてる。アタシの持っている服を見せたらそれを気に入ったみたい。理由を聞いたら動きやすそうだから、だって。
「どこかへお出かけですか?」
セリカがソファから立ち上がって、アタシに聞いてくる。
「ん〜、まぁね。今日は仕事があるから」
服を着ると、今度は装具の確認を始める。さすがにここで装具を身につけ、そのまま自警団にいくような真似はしない。向こうについてら着けるつもり。外套でアクアの家を尋ねただろう、という突っ込みは却下ね。って誰にいってんのかしら?
「仕事? なんですか、それは?」
「はぃ?」
アタシは当たり前の答えを返した。しかし、その当たり前の事に対し、疑問を投げかけられてしまう。
「ん〜、働く…。なんか違うなぁ。同意語だし。お金を稼ぐこと……かな?」
自信なくアタシは言う。そして、
「お金? なんですか、それは?」
と当たり前のことを聞き返してくる。…一般常識欠けてるみたいね。無理もないだろうけど。良し! ここはいろいろと教えてあげよう。
「セリカも来なさいよ。道すがら、いろいろと教えてあげるわ」
荷物をしょうと、アタシはセリカを自警団に連れて行く事にした。
「はい、わかりました」
「の、前に」
アタシはドアノブにかけていた手を引っ込めるともう一度、クローゼットに引き返す。
「マスター?」
「ほら、これに着替えなさい」
そういって、ジーパンとシャツ、トレーナーにジャンパー、おまけのカチューシャをセリカに渡す。
「しかし、服なら着ていますが…」
「バッカなこといってんじゃないの。こんな冬の寒い時期にそんな格好で外に出たら、変な目で見られるわよ」
アタシが住んでいる場所。リバーサイドホテルを出て、そのまま川沿いの通り、通称桜並木を通って自警団に行く。今はまだ冬だし、桜が綺麗に咲くのはもう少しあとね。その時はみんなでお花見とかしたいなぁ。
そんな取り留めのないことを思い、アタシはセリカと横並びになり歩いている。
「マスター、私が荷物をお持ちします」
と、セリカがアタシの荷物を取ろうとする。ちなみに、マスターってのはアタシのことね。何度も名前で呼んでくれ、と頼んだけどそれだけは譲れない、という感じで言う事を聞いてくれないので諦めた。慣れるしかないみたいね。
「ううん、大丈夫よ。このくらいはなんでもないわ」
そういってやんわりと断る。
「…そう…ですか」
こうだ。彼女は自分の願いをアタシに断られると、落ち込んだようになる。唯一感情らしきものが見れる瞬間。
「ねぇ?」
「はい」
アタシは問う。疑問に思っていたことを。実はここ最近はちょっと忙しかったので、いろいろと聞く暇もなければ、話す暇もなかったの。
「あなたの存在意義は?」
返って来る言葉は予想してる。
「はい、マスターに尽くすことです」
やっぱり…。予想とまったく同じ答えにアタシはげんなりとする。これじゃ、ダメなのよねぇ。もっと、こう人間っぽくしてもらわないと。それがマスターたるアタシの努めでしょう。
心の中で胸を叩く。
「いいこと。あなたがアタシに尽くそうとしてくれるのは嬉しいわ。でもね、なんていえばいいのかな、自分のことをもっと考えてもいいのよ」
「自分の事………わかりません。私はマスターに尽くすため、そして戦いを無くすためにこの世にいます。それ以外の行動は知りません」
「戦いをなくすため?」
彼女のいった言葉の一部分が気になり、アタシは聞き返した。
「はい、そうです。私の創造主。ツァスタバ様に言われました。戦いを無くすために戦ってほしいと。マスターに尽くすというのは分かるのですが、戦いをなくすためになぜ戦うのかがよくわかりません」
そうか、この娘はそういうところわからないんだ。しょうがない、人間らしい感情を持ってもらうのは後にして、その辺の回答をしてあげよう。
「悲しいことだけど、戦いをなくすにはそのツァスタバさんの言うように戦うしかないの。話し合いで解決できるような問題ならば、最初から戦争なんて起こらない訳だし」
「……なるほど。わかりました。でも、ここには戦いはありません」
「そうね、この街は平和だから。まっ、その内にあなたの力を借りる事になるでしょうけど、その時はよろしくね」
にっこりと自分なりに精一杯の笑顔を作って、アタシはセリカに言った。
「はい、もちろんです。マスターが戦えとおっしゃるのであれば、この身体尽きようとも戦います」
「……」
セリカの答えにアタシは頭を掻く。う〜ん、説明って難しい。でも、あせることはないか。ゆっくり、少しづつでいいから分かってもらおう。人の感情を。人と触れ合う楽しさを。
アタシが自警団で仕事をしている間、セリカには見学してもらった。
いろいろと聞かれたけど、とりあえずアタシの妹ということで貫き通した。似ている点などあるはずないけど、割となんとかなったのでびっくり。セリカもアタシの為なのか、うまく口裏を合わせてくれたので助かった。といっても、はい、とか、そうです、とかの相槌だけだけど。
自警団での仕事が早く終わったので、アタシは水晶の森亭で食事を取る事にした。今の時間は2時を超えた頃。この時間ならあの店はすいてる。だから、アタシはいつもこのくらいの時間にいくようにしてる。
セリカにいろいろとこの街についてや、人間の常識などを教えながらそれなりに楽しく過ごすことができた。
カラン…カロン……
聞きなれたカウベルの音がアタシの耳に入ってくる。あ〜、これを聞くとなんだか落ちくつわ。
「いらっしゃい、セレス」
奥のカウンタからアタシを出迎える声。いっつもこの時間にくるから、すぐにアタシってわかるみたいね。
「やっ、アクア。適当に軽いの見繕って」
アタシは片手を挙げ、挨拶がてらにそう注文する。ここの料理、ひいてはアクアの料理はおいしいので何を注文しても安心できる。
「マスター、ここはなんですか?」
アタシが椅子に座ると、隣に立っていたセリカが問う。
「さっき説明したでしょ。ここは食べ物屋さん。人の食事を売っているところ。…ほら、あなたも座りなさいな」
ぽんぽんと隣の椅子を手のひらで叩く。
「私はマスターの僕です。その私がどうしてあなた様の隣に座れましょう」
「いいの! これはマスター命令」
ぴっとセリカを強く指差して言う。彼女は少しためらった様子を見せたものの、やがてゆっくりとアタシの隣の椅子に腰を下ろした。
「お待たせー♪」
明るい調子の声が聞こえてきたかと思うと、アクアが料理を持ってアタシの前に現れた。メニューはハンバーグセットだった。
「あら? こちらの人は?」
アタシの前に料理を置くと、いま気がついたかのようにセリカを見る。一方のセリカは相変わらずの無表情でアクアを見てる。
「あ、うん。魔導人形のセリカ。この間に友達になったんだ」
自警団の連中には隠したけど、アクアになら話しても大丈夫。アタシは経緯をすべて、包み隠さずに語った。彼女は最初は驚いていたが、直に落ち着き最後には笑顔になり、セリカに挨拶をした。それでも、セリカは表情を変えたりしなかったけど。
「何か食べる?」
どこか人を安心させることのできる笑顔を浮かべ、アクアがセリカに言った。
「いえ、私は魔導人形です。食事は不要のものです」
「…そう」
残念そうに言うと、彼女も椅子に座る。アタシを真ん中にして、右にアクア。そして左にセリカとなった並びになってる。
「いただきまーす」
アタシはナイフとフォークを持つと、ハンバーグを一口サイズに切ると、それを口に運ぶ。
うん、中までしっかりと火が通ってる。噛むたびに肉汁があふれて凄くおいしい。やるわね、アクア。ご飯もふっくらと炊けていて申し分なし。これなら、いつ嫁に出ても平気ね。
アタシの食べるさまをアクアが嬉しそうに眺めている気配を感じる。…ちょっと恥ずかしいかも……。がっつくような食べ方を改め、アタシは少しお行儀を良くして見る。すると、アクアの失笑が聞こえた。う〜ん、アタシをからかうようになるとは、腕を上げたわね。
そんな訳のわからないことを考えながら、アタシは出された料理をおいしく平らげた。
「ご馳走さまでした」
「おそまつさまでした」
綺麗になった食器を受け取ると、アクアはそのまま厨房に入っていく。
「マスター」
食後のコーヒーを飲んでいると、不意にセリカがアタシに話し掛けてきた。
「なに? どうしたの?」
「はい、ゴハンとはおいしいものなのですか?」
「えっ?」
コーヒーカップを持ったままの状態でアタシは固まってしまった。まさか、こういうことを聞いてくるとは思わなかった。てっきりこういう人間の生理的行動には興味がないかと思ってた。今まで聞いてきたことは、この世界の常識についてのことが大半だった。冒頭にあった、『仕事』『お金』などに始まり、建造物の名称や役割など。でも、こういうことに興味を持ってくれるとは嬉しいわ。
「ええ、そうね。ここの食事はどれもおいしいわよ」
彼女の興味の対象が嬉しくて、アタシは顔をほころばせて教えてあげる。
「そうなのですか…」
相変わらずの無表情で、セリカはアクアがいるであろう厨房を眺めている。何か思うところ、あるのかな?
「食べてみたいの?」
なんとなくそんな気がした。確信はないんだけど、本当になんとなく。そう思ったからアタシは聞く。
「…いえ、私は魔導人形。人と同じ食事は必要としません。……ですが…」
「なに?」
「許されるのなら、一度は食べてみたいと…そう……思います」
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 恒例となりつつある、新キャラ中心のエピソードです。
セリカはまったく新しい感じのキャラなんで、書いていて非常に楽しい部分があります。難しい部分も同じだけありますけど…。
どこまで無表情、そして無感情を表現できているか、というとこですね、難しいのは。
でも、そういうキャラを書いたことはないので、楽しい部分もあるんです。
とりあえず、セリカをしっかりと書くことができれば、オレ的には今回の連載は成功となるんで、頑張っていきたいトコです。
しかしまぁ、書き始めはそうでもなかったんだけど、最近は書いていてセリカはセヤダタラが入っているように感じてしまう。
銀髪という部分はまったくの無意識。偶然の一致です。他にもモチーフらしき既存のキャラはいたんですけどね。
では、次の後書きで。