もう一つの森の民



「合わせたい人?」
 ジュンケの森の中、太陽の光がわずかに差し込むかのような場所にアタシとセリカはいる。ザッパから呼び出しを受けたためだ。別にセリカは来る必要はなかったのだけれど、一人にしておくにはまだ不安だし、それに彼女がアタシに付いて行くと言い張ったしね。
「うむ、そうだ。私と同じ森の部族。森を守る上で必ず力になってくれるはずだ」
「ふ〜ん」
 アタシたちはザッパの後ろを歩く。もうひとつの森の民ねぇ。だとしたらあれしかないかなぁ? とアタシは心当たりをひとつ思い浮かべる。そういえば、エルフも森の民なのよね、それも代表格の。なんで、この人たちは人間社会に出てこないのかな? と思ったけど理由はすぐにわかった。ザッパが最初に言ってたっけ…。
「どれくらいでつくの?」
 もうかなりの距離を歩いているけど、まだそれらしいところにはつかない。いつのまにか、太陽の光の届かない領域へと入っている。
「もう少しだ。……そら、ついたぞ」
 そう言ってザッパは森の奥を指差した。アタシは目を凝らしそちらに集中する。しかし、いかんせん光がない。さすがのアタシにも良く見ることが出来ない。見えるのは灯火くらいだ。
「火が焚かれています。そして、家がたくさん。何人かの獣人族とおぼしき人も確認できます。恐らく、ウルフリングとフォックスリングでしょう」
 アタシの隣のセリカがいつもの抑揚のない声で言った。そっか、彼女は物を見るのに光を必要としないんだ。
「その通りだ。あれが私達の国だ。我ら一族とフォックスリング族が共同で暮らしている」
「へぇ〜、ということはザッパは両族の王なんだ」
「いや、私はあくまでウルフリング族の王だ。フォックスリング族はまた別の者が指揮している。彼女と君らを合わせたいのだ」
「彼女? ということは女性?」
「ああ、そうだが…。何か不都合でも?」
 先を歩いていたザッパがこちらを振り向いて言う。何か不味いことをいったかしら。目がちょっと怖い。
「いえ、特にはないけど…」
 なぜか縮こまってしまいながら、アタシは言った。
「人間社会はどうだが知らないが、我らの一族に男も女もない。能力のあるものが一族の長となる権利を持つことが出来る」


「おお、ザッパが帰ってきたぞ」
 入り口に立っていたウルフリングが国中に大声でザッパの帰還を伝える。王に対して呼び捨てか。まっ、アタシたちの常識を当ててもしょうがないよね。
「アレフはいるか?」
 ザッパが門番に聞く。
 アレフ? さっき言ってたフォックスリングの族長のことかな?
「ええ、自室に。ザッパの帰りを待ってますよ。そちらは客人ですか?」
 そういってアタシたちを見る。ザッパのおかげかな? あまり不審な目では見られていないわね。
「そうだ。前に話したセレス殿とセリカ殿だ」
 アタシたちを簡素に説明してくれる。なんだ、一応話は通ってたわけね。
「そうですか、あなた方がザッパと共に共闘してくれているという。話は聞いています。さっ、中へどうぞ」
 そう言うと、彼は道を開けてくれる。そしてザッパを先頭にして、アタシたちは獣人の国へと足を踏み入れた。


 特にアタシたちの住むような街と対した違いはないように思える。決定的に違うのは住居かな。アタシたちはレンガ等を使用した家だけど、ここは木を使用した家になってる。中央の泉を中心にして、家が立ち並んでいる。ところどころに火が灯されていて、そのおかげで太陽の光の届かないこの場所に置いても、十分な明かりを得ることができてる。
 ウルフリングとフォックスリングの数は半々といったところかしら。同じような割合で彼らを見ることが出来る。異種族には違いないけど、仲良くやっているみたい。
 ちなみにフォックスリングというのは狐の獣人の事。ウルフリングは狼だけど、フォックスリングはその名の通り。ウルフリングが肉弾戦に秀でているのに対し、フォックスリングは魔法に秀でていると言われてる。アタシも実物は見たことがないから、なんともいえないところなんだけどね。
「ここだ」
 アタシが周囲の観察をしている間に、そのアレフという人の家に着いた見たい。
「へぇ〜、割と普通なのね」
 と、アタシは感想を漏らした。
 族長というくらいだから、もっと贅沢な家に住んでるのかと思ったけど、なんてことはなかった。他の家と同じような外見。違うところといえば、入り口になにか不思議な、見たことのない飾りがあるくらいかな? 恐らくは長の証なのだろう。
「当たり前だ。我らは質素な暮らしを一番とする。それに、家を作るのに木がいる。贅沢のために家を建てるならば、大量の木がいるだろう」
「なるほど」
 言われてアタシは納得する。そっか、彼らは森と一体化して暮らしているんだ。だから、必要以上の木は取らない。自然の恩恵を受けて生き、そして恩返しとしてザッパは森のために戦っているんだ。
「さっ、遠慮せずに入ってくれ」
 ザッパがとっとと中にいってしまいそうになるので、アタシも慌てて後を追う。その後ろをセリカが追ってくる。

「よぉ、アレフ」
 中に入ると、ザッパがそう言う。彼の視線の先に一人のフォックスリングが正座して座っている。恐らくこの人がアレフ。
 黄色の裾の長い魔道士の服を身にまとい、藍色の帯を締め、その帯と同じ色のマントを身につけている。肩には大きめの魔鉱石。きっと、己の魔力を増幅するためのものだろう。
 アタシたちをアレフが見ている。優しい、どこか落ち着けるような瞳で。しばらくすると、ふっと笑い、
「ようこそ、いらっしゃいました。私がフォックスリングの族長、アレフです。どうぞ、お座りください」
 と見た目よりもちょっと高めの声でアタシたちに言う。それに素直に従うと、アタシとセリカは床に座る。ザッパはアレフの隣だ。
「あなた方がセレス様とセリカ様ですね。ザッパから話は伺っております」
 様? う〜ん、そんな風に言われたことないから、どうにも構えちゃうなぁ。
「ちょっといい? 様付けなんてしないでいいわ。呼び捨てで構わない。そんな風に呼ばれたことないからさ」
 初対面で敬語を使わなかったのはまずかったかしら。でも、性分なのよねぇ、こういうところ。我ながら厄介な性分だわ…。
「…そうですか…。では、セレスさん、セリカさんと呼ばせていただきます」
 特に気にした様子もなく、アレフはそう言った。
 さん付けか…。まぁ、様付けよりはいいわね。そう思い、アタシは話の先を促す。
「とりあえず、事の発端から今までのことを整理してみたいと思います」
 アレフはすっと立ち上がると、ゆっくりと窓際へと歩いていく。
「まず最初。森の異変が起こり始めたのが5.6ヶ月くらい前から。この時期に普段は見ることのない強力な魔物。中には魔獣クラスの魔物まで現れるようになりました。ザッパはそれらの退治。私はその原因調査という形で、この森を今まで守ってきました」
 窓を背にして立つとそこまで言う。なんか、凄いわ、この人たち。魔獣クラスの魔物さえウルフリングには勝てないなんて…。正直、アタシはこの部族の戦闘能力が恐ろしくなった。怖いと思うのは初めてかもしれない。
「そして、2週間ほどまえにセレスさんとザッパが遭遇。互いの利害が一致しているという理由で共闘体制を取りました。この選択は間違っていなかったと、今日あなたを見て私は確信しました」
 穏やかな笑みを浮かべながら、アレフがアタシを見る。
「買い被りじゃない?」
 大きく伸びをしながらアタシは言った。実力以上の評価はされたくないし。
「いえ、買い被りではないです。あなたの戦闘能力や魔法能力は素晴らしいものがあります。しかし、それよりも素晴らしいものをあなたは持っています」
「へっ?」
 思わぬ声をかけられ、アタシは間の抜けた声を出してしまった。戦闘能力のことじゃなかったの? じゃ、なんなんだろう?
 アタシは首を捻り、考えてみる。自分の戦闘能力以外の取り柄を。
 ………ダメだわ、なんも浮かばない。
 そんなアタシの様子を見、アレフはくすりと笑う。
「あなたは自分で気がついていないようですね。誰とでも平等に、そして先入観なく人を見ることのできる心です」
「……」
「隣に座っているセリカさん。彼女は人間ではありません。それでも、あなたは一緒にいる。きっとマスターとして一緒にいるのではないでしょう?」
 セリカとアタシを交互に見やると質問をしてきた。そんなの当たり前じゃないの。
「ええ、そうよ。アタシはこの娘の友達として一緒にいるわ。この娘がアタシをマスターと見てても、アタシの気持ちは変わらない」
「そして私たち、獣人族を見ても、迫害や、恐怖を感じることなく接してくれている。これは私達に取ってなにより嬉しいことです」
 ザッパと視線を合わせると、二人で互いに頷きあった。
 …これも当たり前なんじゃないの? とアタシは思う。
「だって、これも当然じゃない。あなたたちは何も悪さはしていない。確かに姿形は人と異なるけど、心は人間と一緒じゃないの?」
「それができない人間は大勢いるのです。人は自分と姿が大きく異なるものは異端視し、迫害する傾向があります」
 ……そういえばザッパも同じ事をいってたわね。最初に合った時のことを思い出した。そっか、この人たちはこういうことで苦労してたんだ。
「話が逸れてしまいましたね、戻しましょう。私が調べたところでは、5.6ヶ月前はこの森に一頭のドラゴンが棲み付いていたらしいことが分かっています。私の予想ですが、このドラゴンの存在が森の平穏を保っていたと考えています」
 驚いた。こんなとこまで調査しているなんて。この人、切れ者ねぇ。
「それじゃ、どうするの? まさかルドラの変わりでも連れてくるとか?」
「ルドラ?」
 言ってしまってからアタシはハッとする。そうだった、ルドラの事はザッパに話していない。しまったぁ、うかつだったなぁ。アタシは頭を掻きながら、苦笑した。
「ルドラ、二頭いる知恵あるドラゴンの一頭です。彼は守護を司っていました」
 口を挟んだのはセリカだった。いつものように感情のない声で淡々と喋っている。
「セリカ?」
 アタシはセリカを見てみる。相変わらず表情はない。そっか、彼女なら旧時代のこと知ってても不思議じゃないか。
「もう一頭の役目は破壊。その竜の名はシューティングスター。この二頭が互いに協力しあい、世界のバランスの天秤を均衡に保っていました。しかし、ある日を境にシューティングスターが変貌しました。己の破壊の欲望に飲み込まれたのです。理性を失ってしまった彼は、世界を破壊し続けました。その力は凄まじく、もはや人間では太刀打ちできないほどです。そこで、人は私たち魔導人形を創造し、ルドラと共に戦いました。残念ながら私は参加できませんでしたが…」
 そこで一旦区切るともた語り始める。
 参加できなかったってなんだろう? というか、なんで急にこんな事を話し出したんだろう? まさかアタシを庇ってくれたのかな? 疑問に思うが、アタシはセリカの話に興味津々なので、おとなしく聞く態勢を取る。
「何年にも及ぶ激闘のすえ、シューティングスターを封じる事に成功したと言われています。その戦いでかつての力を失った人類はしばらくの間は魔物たちに蹂躙されたらしいです。そして、ルドラも以前ほどの力をなくし、自分のできる範囲内で人助けを始めたと、私の記録にあります」
 彼女の話し方はいつのまにか過去形に変わっていた。その戦いに参加していないせいであろう。それでも、概要を知っているのはすごいなぁ、とアタシは素直に感心した。
 ザッパやアレフもセリカの話に聞き入っていた。派手な脚色もなく、淡々と語る話は真実味がある。
「…参加できなかったってどういうことですか?」
 まだ驚きを隠しきれていない感じでアレフが聞いている。そう、アタシもそれが知りたい。
「申し訳ありません。そこのところの記録が現在破損してしまっていて、呼び出せません。修復にはもうしばらくかかると思われます」
「そう……」
 アレフが残念そうに言った。そこで、アタシの失言はごまかされたと思ったけど、世の中はそんなに甘くはなかったみたいね。
「なるほどね。その辺りの話はわかった。今度はセレスの番だな」
 にやりとしながらザッパがアタシを見てる。ううっ…ダメだったか…。アタシは観念して話し始めた。アクアとの出会い。そして、一緒に戦った日々。最後のシューティングスターの封印。
「……なぜ黙ってた?」
 静かにザッパが言う。怒気はそんなに感じられないけど、感情が昂ぶっているのが肌で感じられる。アタシが悪いのは確かなんだけどぉ。
「ごめんなさい、隠す気はなかったのよ。ただ、アクアが…アタシの友達がこの森の異変の原因系にされてしまうんじゃないかって、そう…思ったから」
 今回ばかりはさすがにふんぞり返って話すことなど出来ない。自分でも信じられないくらいにアタシは素直に謝ってしまった。なんでだろう、こういう雰囲気になるとアタシはザッパに呑まれてしまう。これが王としての威厳ってやつなのかしら。今までいろんな王族に会ってきたけど、こんな雰囲気は味わったことがない。
「怒るつもりはないさ。ただ、私を信じてくれていなかったのかと、そう思ったのさ」
「私も怒るつもりなどありません。アクアさんの取った行動は当然と思えます。私たち一族の者は皆そのような行動を取るに違いありませんから」
「ごめんなさい」
 もう一度アタシは謝った。こんなに素直な気持ちになれたのは久しぶりな気がする。
「もういいですよ、頭を上げてください」
「…うん」
 言われてアタシは頭を上げた。さっきまであったザッパの昂ぶりは消えていた。
「さて、続きですが………、この森のある限られた遺跡を解放するのが良いと私は思います」
「限られた遺跡を解放?」
 アタシは聞き返す。そんなことで大丈夫なのだろうか?
「はい、私が調べたところこの森には無数の遺跡があります」
 そういって地図を取り出した。それを覗き込んでみると、広大な森の中にいくつもの赤い印がたくさんあった。
 うわっ、こんなに遺跡があるの? 尋常じゃないわ、この数は。
 この遺跡をすべて解放するんじゃなくて良かったわ…。というか、なんで限られたって分かるのかしら?
「なんで、この無数にある遺跡の中から、限られたものって分かったの?」
「遺跡の配置をよく見てみてください。中には無関係の遺跡もありますが、ある部分にひとつの共通点があります」
 そう言って左端の遺跡、アタシがセリカを見つけた遺跡にペンを置いた。そしてそのまま、右端の遺跡、真下の遺跡を線で繋ぐ。すると、下向きの三角形ができあがる。
「次はここです」
 言って地図の真上の遺跡にペンを置くとさっきと同じようにペンを走らせた。
「!? これは!」
 それを見て、アタシは驚愕を感じずにいられなかった。こんなことって…。
 地図には六つの遺跡を繋いで、巨大な六芒星が浮かび上がってきた。
「この遺跡の結界を絶てば、恐らくは森に充満しているマナが少しづつなくなっていくと私は思っています」
 アタシの驚きを余所に、淡々とアレフは語っている。でも、原因がわかっているのなら、なぜ…。そのままアタシは疑問をぶつけてみた。
「どうして、原因がわかっていたのに手を出さなかったの?」
「何度か行って見たさ、オレがな。しかし、この遺跡に巣食っている魔物は半端じゃない。部族の腕利きを引き連れてもダメだったのさ」
 答えたのはザッパだった。その時を思い出しているのか、目をつぶり、腕を組んでいる。
 そこまで聞いて、アタシは理解した。二人が何をさせたいのかを。
「オッケー、アタシに手伝えってのね。遺跡の解放を」
「その通りです。……手伝ってくれますか?」
 懇願するようにアレフが言ってきた。ふふっ、アタシの答えは決まってるわ。
「もっちろんよ、こんな楽しそうな事に参加しないわけにいきますか。お宝も手に入るかもしれないしね」
「マスターが行くとおっしゃるのであれば、私も参ります」



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。今回の話は珍しく(そうでもない?)最初から目的を設定しました。おかげで書きやすい。
 どう足掻いても、メインは遺跡での戦闘になるから中々これはこれで苦労してます。すべての遺跡にそれぞれの特徴を設けなくちゃいけないし。ちょっと失敗だったかな? と思っている。実際にそれで今は苦労してるし……。
 とりあえず、新キャラ登場といままでのあらすじ的な展開の話です。まぁ、割とうまくいけたのではないかと。シューティングスターなどに関してはもう少し詳しく書きたかった気もしますけどね。
 さって、これからのバトルメインの話に乞うご期待。頑張りますよ。 
 では、次の後書きで。



2002年 1/20 ぱんどら

セリカ・ST185 進むべき道
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