機械兵



「ここがラストか…」
 あの休憩のあと、相変わらずガーディアンたちとの戦いを繰り返しながらもアタシたちは無事に結界の間にたどり着く事に成功した。
 部屋の構造は前の時とそっくり。大きな円筒形の部屋の中心に青白い光を放つ巨大な球体。これが結界の中心。これを破壊すれば目的に一歩近づく事が出来る。
「ガーディアンの存在を確認。結界の背後に一体います」
 敵の察知能力に優れたセリカが警告を発した。彼女の言葉を引き金に、後ろからゆっくりと最後のガーディアンが姿を現した。
 今までに見た事の無いような、それでいて人のような姿。なんなんだろう? 身体が金属で出来ている人のように見える。右手には指がなく、大きい水晶球のようなものがはめ込まれているのが印象的だ。
「機械兵、ケイオス…」
 セリカが言った。機械兵? 聞いたことがあるな、完全なる戦闘用マシン。その能力は恐ろしく高いと言われている。アタシも文献で見た程度だから、詳しい事はわからない。
「機械兵?」
 アレフがセリカに聞く。そして彼女から返ってきた言葉はアタシ考えたことと似たようなものだった。
「気をつけて下さい。機械兵のボディは滅多な魔法は受け付けません。また、装甲が硬いので武器が折れる可能性もあります」
 マナの剣を作りだし、セリカが言う。アタシたちも習って自分の獲物を構えた。
「ギ…ギギギ……シンニュウシャハ…マッサツ」
 途切れ途切れの言葉を発すると、ケイオスと呼ばれた機械兵はまっすぐに突進してきた。機械なのに恐ろしく速い!!
 アタシとセリカは右へ。ザッパはアレフを抱えて左に攻撃をかわした。
 ケイオスの繰り出した拳は、床を叩き割っていた。恐ろしい破壊力ね。無防備状態でくらったらひとたまりもないわ。
 ザッパと目で合図を交わすと、アタシたちは両サイドからの同時攻撃を仕掛けた。
 アタシの剣とザッパの爪がケイオスに襲い掛かる。
 ガキィィン!!
 激しい金属音。手応えからダメージを与えている気配はない。それもそのはずで、ケイオスは片手でアタシの剣。そして片手でザッパの爪を受け止めていた。
 アタシたちはケイオスの反撃から逃れるため、素早く地を蹴りそこをから離れた。
「マナよ、その姿を鋼鉄と化し、彼のものに力を!!」
 アレフが魔法を唱え、アタシたちの防具をマナでコーティングする。彼女の使う防御魔法だ。これで、物理攻撃に対する防御力が飛躍的に上昇したはずだ。
「多分こいつにダメージを与えられるのはセリカだけよ。この身体の硬さは異常よ。手もとの武器じゃ太刀打ちできない。セリカの援護に回って!」
 アタシとケイオスを挟んだ奥にいるザッパに言う。
 セリカの持つマナの剣であれば、どんなに硬いものでも切る事ができるはず。
「解った? アタシたちはあなたの援護に回る。トドメは任せるわ。…弱点も知っているんでしょう?」
 隣にいるセリカに言う。そう、彼女なら機械兵の弱点を知っていても不思議ではない。
「はい。弱点はコアです。人間と同じ心臓の位置にあります。そこを破壊すれば機能を停止すると思われます」
 その部分を見てみると、確かに他の場所よりも強固に守られている。そこの装甲をセリカが破壊してくれればアタシたちでも倒せるかもしれない。
「良し、分かった。アタシとザッパでかく乱するから、あなたはチャンスがあれば飛び込んで」
「はい。わかりました、マスター」
 アタシの命令に従うと、セリカは構えた。
 もしかしたらアタシは残酷な命令をしたのかもしれない。セリカにしてみたら、形は違えど、同じ旧時代の生き残りなのだ。それの命を奪う命令をアタシは下した。今まで戦ってきたガーディアンのトドメは決してセリカにはやらせなかった。しかし、このケイオスはセリカの攻撃しか受け付けない。
 そんなアタシの気持ちを知ってか知らずか、セリカは無表情にそして無感情。この娘がわからない。彼女の仲間のはずなのに、倒す事にためらいはないのだろうか?
「何をしている! セレス!!」
 ザッパの声にアタシは我に返る。見ると、ザッパはケイオス相手に奮戦している。何度も爪を叩きこんでいるが、傷一つついていない。やはり、セリカでないとダメなんだろうか…。
 いや、ここでこいつを倒さないと森に充満しているマナの解放は夢のまた夢。アタシは迷いを吹っ切りケイオスに立ち向かっていく。
「はっ!!」
 剣に魔力を込めて打ち放つ。しかし、これもケイオスにはまったく通じる様子はない。やはりマナを込めた剣でなく、マナ自体を打ち込まないと無理なようね。
 かといってマナ自体を撃ち込む魔法では効かないだろう。機械兵の身体には魔法は通じないのだから。
 結局のところはアタシとザッパでケイオスを抑えこみ、隙を作ってセリカに一撃をぶち込んでもらうしかないのだ。
「ギギ…」
 錆びた扉を開いた時のような音――いや、声なのだろうか――を立てると、ケイオスの機械仕掛けの豪腕が唸る。
「くっ!」
 交わせないと判断すると、アタシは両足を踏ん張り、剣を立てて拳を受け止める準備をした。
 ガッキキィィン!!!!
 激突の刹那、凄まじいまでの衝撃が剣を伝わり、アタシの身体に千切れんばかりの力が伝わってくる。。気を抜いたら剣を落としてしまいそう…。
「んんんん………はぁっ!!」
 なんとかケイオスの力に沿って拳を受け流すことに成功した。しかし、衝撃によってアタシの身体は痺れてしまい、そこから動けそうにない。そしてケイオスの拳がもう一発、無情にもアタシに向かって振り下ろされる。
「アレフ!!」
 ザッパの声と同時にアレフのスパークの魔法が襲い掛かった。
「いかに魔法が効かないとはいえ、相手は機械。電撃は少なからず効くはず!!」
 旧時代について、セリカやアタシに次いで詳しいアレフは機械兵のそういった特色を知っていたようだ。
 凄まじい電撃がケイオスに流れ込んでいくのをアタシは見ていた。確かにケイオスの機能を止めるほどではないが、わずかながら動きが鈍ったかのように思える。しかし、アタシの身体は動かない。
「よっと!」
 その一瞬の動きの減少の隙をついて、ザッパがアタシを抱きかかえるようにしてその場から救い出してくれた。
 ズガァン!!
 そして、ケイオスの拳がアタシのいた場所に打ち込まれた。その場の石畳がめくれあがり、小さなクレーターが出来あがる。
「無茶するな、あの攻撃をさばくのは無理だ」
 助けられるや否や、アタシはザッパからお叱りの言葉を貰った。
「ええ、わかってるわ、そんなことは。でも、怒るのは後にして。アレフが狙われてしまう」
 アタシは衝撃の抜けきっていない身体を引きずりケイオスに立ち向かおうとする。が、それはザッパに止められた。
「無理するな。私がなんとかするから、お前はその身体を癒していろ」
 アタシの肩を掴んでそう言うと、ザッパはケイオスに向かっていく。
 なんて、無力なんだろうな、アタシ。いつものアタシなら怪我をおして戦うだろう。しかし、ザッパに言われるとなぜか従ってしまう。
「マスター」
 床に座り込んでいるアタシの元にセリカが小走りで駆け寄ってきた。
「いま治療します。少々お待ち下さい」
 そう言ってアタシの身体を優しく包み込む。セリカの身体からマナが発せられ、次第に身体の痺れが治っていく。
「…セリカ、こんなこともできたの?」
 すっかりアタシの身体は元のコンディションに戻っていた。まさか神聖魔法まで使えるとは思わなかった。いえ、セリカに信仰心なんてあるのかしら?
「これは神聖魔法ではありません。マナにより、身体の新陳代謝を高めるのです」
 アタシの考えを読み取ったのか、聞かれる前に答えてくれる。
「ふ〜ん、そんな魔法もあったんだ。でも、ありがと。これでまた戦えるわ」
 セリカの頭を撫でてあげる。普通なら嬉しそうな顔をするものだけど、やはりセリカはセリカだった。
「お気をつけて。マスターがいなくなってしまったら私の存在意義も薄れてしまいます」
「大丈夫よ、アタシはそう簡単に死んだりしないから」
 セリカを安心させようと笑顔で――といっても彼女は無表情だから安心してるかわからない――言って、アタシはザッパの援護に向かった。
「…マスター、どうかご無事で」

「くっ、なんて硬い奴だ」
 ザッパの鋭い爪を持ってしても、そしてアレフの強大な魔法にかかってもケイオスに傷をつけることはかなわない。
「諦めないでよ、アタシたちがチャンスを作らないとセリカが攻撃を仕掛けられないんだからね」
 ザッパの隣に立つと、さっきの彼と同じように肩に手を置いて言った。
「もう…大丈夫なのか?」
「ええ、セリカが回復させてくれたわ」
「そうか…よし、いくぞっ!」
 二人で波状攻撃を仕掛ける。しかし、どれだけのスピードで打ちこんでもケイオスのボディに傷をつけることはかなわない。
 一通りの攻撃を仕掛け終わったあと、アタシたちは間を外し、仕切りなおそうとする。
「ギギ」
 それを待っていたのか、ケイオスが右手を上げる。そして水晶球が発光し始めた。
 何かヤバイ!!
 直感的に危機を感じたアタシは狙いをつけられているザッパのすぐ目の前に一本のダガーを投げつけた。
 その瞬間! ケイオスの右手から一直線上の緑色の棒状のものが発射される。
「なに!?」
 予想の出来ないケイオスの攻撃にザッパは激しく動揺した。しかし、その攻撃はアタシのダガーにぶつかる。それと激突したダガーは飴のようにぐにゃりとひしゃげてしまった。
「ぐっ!」
 しかし、その攻撃は若干威力を弱めたものの、ダガーを溶かし、ザッパに命中した。
「ザッパ!!」
 アタシはザッパに駆け寄る。そして、傷の具合を確かめるが、ダガーに命中したおかげと、アレフの防御魔法によってそれほど重傷ではなかった。軽い火傷を負った程度だ。
「ザッパ、ひとつ思いついた事があるわ。アタシが合図したらあなたはケイオスから離れて」
「…わかった」
 軽く胸をさするようにして立ちあがると彼が言う。
 そして、ザッパが再びケイオスに立ち向かう。アタシは精神を集中させて、水の魔法をケイオスに向かって撃ち込む。
 鞠球ほどの水球が10発。ケイオスにヒットする。しかし、それはケイオスの身体を濡らしただけだ。
「ザッパ!! 離れて」
 攻撃を加えているザッパに言う。そして、アタシの意図を読み取ったアレフが魔法を放つ。
「氷結の吹雪よ吹き荒れよ!!」
 ザッパの退避行動と同時にアレフの魔法が完成し、ケイオスを中心にして凄まじい氷の竜巻が発生した。
 この氷の魔法単体であれば、通じることはないだろう。しかし、今は奴の身体には水が付着している。これが凍ればわずかならスピードが落ちるはずだ。
 ビキ…ビキビキビキ!!
 ひび割れのような音と共に、ケイオスの身体が凍りついてきた。しかし、ケイオスは凍る速度よりも早く、体の氷を砕こうと動く。
 このチャンスは逃せない。アタシは声の限り叫んだ!
「セリカ!! 今がチャンスよ!!」
 アタシの命令を待っていたセリカが一瞬にして、ケイオスとの間合いを詰めると、自らのマナで作り出した剣を心臓部に深深と突き刺した。
「ギ…ギギギ……ギ…ギ」
 軋んだような音と共にケイオスはその身体機能を停止させた。
「皆さん、離れてください」
 セリカは素早く剣を抜き放ち、その場から退避する。アタシたちもそれに習った。
 ジ…ジジジ……。
 ケイオスの身体から放電しているような音が聞こえてくると、やがて彼の身体は大爆発と共に粉々に砕け散った。

「さて、あとはこれを破るだけね」
 アタシは剣を携えてゆっくりと結界の前に立つ。
「またあんな風に破るのか?」
 一度結界破りを見て、事の次第を知っているザッパが心配そうに言ってきた。まぁ、身体に思いきり負担をかけるからねぇ、アレ。しかし、今回はそんな心配はいらない。アレフがいるからね。
「大丈夫よ、今回はね。…アレフ」
「あっ、はい。なんでしょうか」
 突然に声をかけられ、驚いたようにアレフがアタシの方を見る。
「スパークをかけて。アタシの剣に」
 そう言って剣を最上段に構えると、マナを吸収する準備を整えた。
「しかし、スパークの威力を受け止められるのですか?」
 心配そうにアレフが言う。魔法の威力は使い手であるアレフが誰よりも知っているのだから、当然の心配と思える。しかし、アタシは言った。
「平気よ。アタシを信じなさいって」
 にっこりと笑って言った。それでアレフも覚悟がついてようで、魔法を唱える準備を整えた。
「いきます」
「どんときなさい」
 アタシは心構えを新たにアレフの魔法を受け止める準備をする。
「ハアアァァ!! スパーク!!」
 カァッ!! バリバリバリ!!
 アタシの頭上に青い雷が振り注ぐと、それは剣に命中した。凄まじい衝撃――ケイオスに比べれば楽だけどね――が剣を伝わりアタシの身体に伝わる。
 そのままの状態でアタシは自身のマナを活性化させ、さらに力を溜める。
「ハァァッ! 砕け散れ!!!」
 気合一閃!! 雷を身にまとった剣が結界を一刀両断する。行き場を失った雷が部屋中を駆け巡る。不意に仲間たちが心配になったが、アレフが防御魔法によって瓦礫や、雷から身を守っていた。
 光が収まると、アタシの目の前には無残に砕け散った結界の残骸が転がっていた。
「よしっ、残りはあと4つね」



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第七話「機械兵」掲載完了です。
 お約束のボス戦ですね。結構、苦労しました。相手の強さもそうだけど、やはりセリカです。
 今後もいろいろと出るだろうけど、こやつには苦労させられてます。いかに冷たい感じを出すかというのが課題。こういう感じのキャラは初めてだからどうにも掴みづらい。
 一応、その辺を意識して頑張ってみたのですが、如何なモンでしたか?
 では、次の後書きで。



2002年 2/10 ぱんどら

第二の遺跡へ セリカの心
書庫に戻る トップページに戻る