第三の遺跡へ



 あれから数週間後、アタシたちは再び遺跡へと突入する準備を整えた。
 今度の目的地は前回の遺跡の下側。逆三角形の頂点の位置だ。ここの攻略が成功すれば、遺跡解放は半分まで終わった事になる。でも、前の遺跡の難度からすると、すんなりいけるとは思えないけどね。でも、頼りになる仲間もいることだし、頑張っていきますか。
 ここも例によって、地下に潜っていくタイプね。マナの流れがあるといいんだけど…。
 それ+明かりの心配をしながら、先頭となって階段を降りていく。
 硬い石階段にアタシたちの足音が響き、地下に木霊していく。
「さて、陣形は前と同じでいいわね。気を引き締めていきましょ」
 後ろにいる仲間を振り返り、アタシは言った。面子は当然前と一緒。
「ああ、任せておけ」
「頑張りましょう」
「ご命令とあれば」
 と、それぞれからそれぞれの答えが返ってくる。アタシは前に向き直り、前方に注意しながら歩き出す。
 索敵はセリカが最も得意としてるらしいから、アタシがそれをやる必要はない。アタシに必要なのはトラップを見つけること。前の遺跡では大したトラップはなかったけど、ここにはないとは言い切れないからね。
 …分かれ道はない、一本道の遺跡か……。イヤだなぁ、こういう遺跡。前の遺跡はまだ、分かれ道が多少なりともあったから、挟撃をそんなに警戒する必要がなかったけど、ここまで見事な一本道だと、そっちにも注意を配る必要があるかもね。最後尾はザッパが抑えてくれてるけど。
 カツーン…カツーン……。
 石畳の床にアタシたちの足音が冷たく響いてる。音が奥に吸い込まれてるわ。なんだか、アタシまで一緒に吸い込まれてしまいそうな錯覚を覚えてしまう。
 カチリ……。
 何かのスイッチが入ったような音。アタシの足元じゃない。後ろから!?
 アタシは驚いて後ろを振り返った。そこには、驚きの表情のアレフがいた。どうやら誤ってアレフがスイッチを踏んでしまったらしい。
「落ち着いてね。何が起こるか見極めてから…」
 努めて冷静にアタシは言った。アレフも頷いて答える。やがて……。
 ガガガガガガガッッ!!
 もの凄い轟音が天井から聞こえてきた。いけない、ひょっとして釣り天井!?
 すぐさまアレフを抱えて後方に飛びのく。結果としてザッパとセリカとの距離が開く。そして…、
 ズズズズゥゥゥン!!!
 巨大な壁がアタシとアレフ。そして、セリカとザッパを分断してしまった。
「はっ!」
 アタシは壁を破壊しようと、渾身の力を込めて剣を振る。しかし、壁を破壊するどころか傷をつけることすらかなわない。
「ハァァァッ! スパーク!!」
 アレフのスパークの魔法が炸裂する。凄まじい雷撃が壁に襲い掛かった。
 バシュゥゥゥ…。
 しかし、そのスパークも壁に吸収されてしまった。どうやら、魔法を吸い取ってしまうようね。アレフも無駄と悟ったのか、魔法を使うのを止めた。
「ザッパ! セリカ! 聞こえる!!」
 壁を破壊することを諦め、アタシは声の限りを叫んだ。壁の向こう側の仲間とコンタクトを取るために。
「……無事か! セレス!!」
 奥から小さくザッパの声が聞こえてくる。どうやら、この壁はとんでもなく分厚いみたいね。向こうも必死に叫んでるだろうに、声が小さくなってしまってる。
「ええ! なんとかね! 悪いけど、そっちはなんとかして別ルートを探して頂戴。一本道だったけど、何かがあるかもしれないわ!」
「分かった! そっちも気をつけてな!!」
「お互いにね!! セリカ!! ザッパをサポートしてあげて!」
 最後にそう言うと、アタシたちはそこから離れた。

「申し訳ありません」
 うな垂れたアレフがアタシにそう謝る。きっとトラップの一件だろう。きっとしなくても、それしか謝る理由は見つからないし。
「いいのよ、気にしないで。謝ってもらっても自体が好転するわけじゃないし。今は前に進みましょう」
 アタシはアレフの肩を優しく叩くと、そんな風に慰めの言葉をかけた。
「はい…ありがとうございます」
 下げていた頭を上げると、ハッキリとした声でそう言った。良し、こっちは大丈夫ね。問題は向こうだけど…。ちゃんと、ザッパとセリカ、意思疎通ができるかしら?
 そんな不安を抱きながら遺跡を奥へと進んでいく。今のところ魔物やガーディアンの気配は感じない。いないのだろうか? まったくそう言った者の流れを感じない。いないのなら、それはそれで好都合だけどね。戦力が分断されているわけだし。
 薄暗い通路を歩き、いくつもの階段を降りていく。
「魔の気配がありませんね…」
 アレフもアタシと同じことを感じているのだろう。前回の遺跡ではうじゃうじゃといたガーディアンの類が、ここではまったく姿を現さないのだから。
「いいじゃない、力を温存できるのだから、今はこの状況をありがたみましょう」
「……ええ、そうですね」
 アタシたちはトラップやガーディアンに注意しながら、闇の通路をひたすらに歩く。
 地下に降りるたびに最初の一本道が嘘だったかのように、複雑さを増してきた。分かれ道の度に目印を置かなければ道に迷ってしまいそう。
「ここはまだ調べてないわね」
 扉の前に目印が置かれていないことを確認し、アタシはゆっくりと扉を開く。
 軋むような、神経に障る音と共に扉が開かれた。すぐに突入することはせず、とりあえず部屋の前の中の様子を窺う。
「……」
 特にガーディアンとかの気配はなしか。ありがたいことはありがたいけど、ここまで遭遇しないとなんか不気味。
 部屋の中へ一歩を踏み出そうとした。
「…?」
 が、アタシは一歩目を踏まず、空中に止めたまま止まる。なんか違和感するわねぇ。
「あの? どうかしましたか?」
 部屋に入らないアタシを不思議に思ったのか、アレフが聞いてきた。
 アタシは浮かせていた足を元に戻すと、アレフに答えることなく手近な小石を部屋の床に軽く投げ入れる。アレフもアタシの行動をじっと見守ることに決めたようだ。
 カツン…カラカラ……。
 小石が落ちる音と、転がる音が部屋に響く。そして次の瞬間!!
 バグンッ!!
 床が大きく開き、アタシの投げた石は奈落の闇の中へと落ちていった。やっぱり落とし穴があったか。
「これは……」
 大きく開いた床をアレフが見つめている。驚きは隠せないようだ。
「落とし穴」
 平然とアタシは言う。この手のトラップはお約束だし、それほど驚くほどのもんじゃないと思うけど。
「それはわかります。なぜ、こういうものがわかるのですか?」
「なぜ、と言われると困るわ。しいていえば違和感を感じたのよ。風の流れとかがね。若干わずかに下から吹き上がる風を感じるの」
 ぴょん、と落とし穴を飛び越える。この先に落とし穴はないから大丈夫。意地の悪い場合はこの着地点にもある事があるけどね。
 次にアレフの手を引いて、落とし穴を飛び越えさせた。
「プロはやはり違うんですね」
 尊敬するような眼差しと声とで言ってきた。そんな風な目で見られると困る。アタシは尊敬されるような人間じゃない。
「誉められた能力じゃないわよ。盗掘のための技術なんだから。それ言ったらアタシはアレフの魔法能力のが凄いと思うけど?」
 部屋の中をじっくりと調べながらアタシは話し掛ける。
「いえ、魔法の力も誉められたようなものでないかもしれません。使い方を一歩間違えれば、恐ろしい殺戮の力となるのですから。いえ、魔法は元々は殺戮のための力なんです」
「……」
「この力を知った時私は自分を呪いました。私はごく普通に生きていくことが望みだったんです」
「ふ〜ん、それじゃあ、今はどうなの?」
「今ですか? 今は誇りに思っているかもしれませんね。この力で救える事のできる人もいるのですから。現に今だってセレスさんのお手伝いが出来ていますし」
「偉いね。そう、物事は前向きに考えたほうがいいよ。その方が気が楽になれる。それに、アタシが言えたことじゃないかもしれないけど、強大な力も正しい心を持った者が使えば、決して悪にはならないと思う。アタシはアレフは、正しい力の使い方を心得てる思うわよ」
 アタシの言葉にアレフはにこりと笑う。うんうん、やっぱり誰でも笑ったほうが可愛いわ。セリカもいつかはこんな風に笑ってくれるかな?
「…ん? あそこに何かありませんか?」
 アタシとは反対の方向の壁の上を指差してアレフが言ってきた。
 どれどれ? アタシはその指し示された壁に魔法によって光を照らす。
「……壁画?」
 そこにあったのは一つの巨大な壁画だった。人間数十人と一匹の獣の絵。見た感じでは何か争っているように見せる。
「なんなのでしょうか?」
 アレフの問いに答えることはアタシにはできない。だってアタシも分からないし。
「さぁ、わからないわ。何かここで大きな戦いでもあったのかしらね。絵から推測するとそんな感じに見えるけど…」
 さらに見てみるとかなりの苦戦を強いられているようにも見える。強大な何かとの戦いか。イヤな予感…。
 ここでこの壁画について考え込んでも埒があかない。アタシたちは先を急ぐことにした。

 再び迷路のように入り組んだ迷宮を進み、アタシたちは敵と遭遇することなく、遺跡を下へ下へと潜っていく。
 まだ、ザッパたちとの合流はない。このままはぐれたままになってしまったらどうしよう、とイヤな考えが頭をよぎる。それはアレフも同じようで、時折不安そうな表情をすることがあった。
 ヒュン……
 遠くのほうで空気を切り裂くような音がアタシの鼓膜に響く。
「!!?? 危ない!!」
 咄嗟に危機を感じたアタシは、アレフを抱きかかえ横に飛ぶ。彼女を上にし、アタシはクッションの役目を自ら買って出る。
 ドスッ!
 壁に刺さったのは一本の矢。これもトラップか。起動したような気配はなかったのに…。
「怪我はない? アレフ」
 アタシは下になっているアレフに問う。結構な衝撃だったしね。
「いえ、大丈夫です。それよりセレスさんは?」
 言われてアタシは身体を見る。腕を軽く擦りむいたくらいで他に傷はない。
「うん、アタシも平気。さっ、先を急ぎましょ」
 いくつもの部屋を調べ、いくつものトラップを乗り越えながら、アタシたちは進む。
 だんだんと迷宮も複雑さがなくなり、一本道化してきている。それに魔の気配も感じるようになってきた。この分なら戦闘に入りそう。
「アレフ、敵の気配がするわ。念のため戦闘準備はしておいて」
 小声で囁きかけるようにして、アタシは言った。アレフはそれに頷いて答える。
 ヒュン……ドンッ!!
 警告を発したと同時にご丁寧にガーディアンの登場か。天井に張り付いて待ってたとはご苦労さん。
「アタシが前衛。アレフは後衛をお願いね」
 剣を抜き放ちアタシは構える。剣の切っ先が壁に灯されている明かりに照らされ、鈍い光を放つ。
「ハアァッ!」
 一体のガーディアンに向かい、アタシは飛ぶ。相手はリビングアーマー。いわゆる動く鎧っていうヤツね。この手のタイプはさしたる特殊能力は持っていない。純粋な力と力の戦いとなる。
 アタシの一刀を受け止め、受け流しそして反撃。アタシはその反撃を身を翻して避けると、再び鋭い一撃を相手の胴を狙い切る。
 ガキィンッ!
 金属音と同時にアタシの手にも衝撃が走る。しかし、この程度の衝撃は剣を持っていれば当然のこと。怯むことなくアタシは容赦なく連撃を加える。
 右水平、左水平。そして右上段、左上段。右下段、左下段。身体を四方八方に動かし、そのスピードで相手を翻弄しつつ、アタシは様々な方向から切りつける。相手もよく頑張って防いでいるが、それでも防ぎきれない箇所もあるらしく、ところどころに傷を負っている。
 ズガンッ!
 リビングアーマーが、アタシの攻撃の間を縫って一撃を見舞ってきた。それを跳躍し交わす。そしてそのまま兜めがけて、アタシの剣に重力を加えた一撃を見舞う。
 ガンッ!!
 硬い音と共にリビングアーマーの兜が砕けた。しかし、こいつらは粉々に粉砕しない限り、なんどでも蘇ってくるはずだ。
「裁きの雷よ! 落ちろ!!」
 リビングアーマーがわずかに怯んだ隙に、アレフのスパークの魔法が落ちる。
 相変わらずの破壊力に、リビングアーマーは粉々になり消し飛んだ。ここまで粉砕すれば復活の心配もないわね。
 剣を鞘に収め、アタシは戦闘態勢を解除する。アレフの方を見てみると、彼女も同様のようで、浮遊させていた杖は手の中に戻っていた。
「さて、これから戦闘も激化するわ。急ぎましょ」
「はいっ」
 アタシたちは遺跡の最下層を目指し、闇の中を走り出した。



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第九話「第三の遺跡へ」掲載完了です。
 苦労します。遺跡探査の話を書くのは。なんとかして、似たような感じにならないように描いているつもりです。
 結果として、仲間全員と探査ではなく、戦力を分断されるという形になりました。
 セレス・アレフ。セリカ・ザッパという人選に特に意味はありません。ただ、なんとなくです。
 敢えて理由を言うならば、ザッパは割と描いてきたので、まだ登場して間のないアレフをメインに据えようと思ったから。
 それと少しトラップ色を濃くしてみました。こういうのもパターン化してしまいそうなので、ちと怖いものがありますね。
 アイディアを搾り出すのは大変ということを実感してます。
  では、次の後書きで。



2002年 2/24 ぱんどら

セリカの心 軍勢
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