軍勢



 ガチャンッ! ギギギギィィ!!
 鍵の外れる音の次に軋んだ音がアタシの耳に入る。あれからさらに時間を費やし、アタシとアレフは最下層に来ることが出来た。しかし、まだザッパたちと合流できていない。別ルートを発見できずに、バストークに戻ったのだろうか? それなら二人でここを攻略しなくちゃならないから、ちょっと面倒なことになりそう。
 アレフと顔を合わせると、彼女は頷く。行きましょう、という意思表示だ。アタシとアレフは並んで結界の間へと入った。
「……なっ、何よ! これ!?」
「ッ!」
 アタシは部屋の有り様をみて度肝を抜かれた。さすがのアタシもこれには驚かずにはいられない。アレフも言葉を失ってしまっている。
 それもそのはずで、壁という壁。そして天井。四方八方、縦横無尽にガーディアンが配備されていた。ざっと数えてその数は500体はいるように思える。考えたくはないけど、それ以上もいるかも……。
 そしてその奥に青白い光を放っている結界の姿を確認できた。
「これ…全部倒すの?」
 思わずアレフに聞く。ありえるはずのない否定の言葉を求めて。
「でしょうね。二人でこれはかなりきついものがありますね」
 予想通りの答え。否定なんて聞けるはずないよね、この状況じゃ。
 止む無くアタシは剣を構える。アレフも杖を浮遊させ、戦闘準備に入る。
「ハッ!!」
 体内のマナを活性化させ、剣に伝わらせる。やがて、アタシ愛用のロングソードは白い輝きに包まれる。これで、少しは攻撃力が上昇する。幾分かはラクになれるでしょ。
「さ〜て、いっちょ気合いを入れていきますか!!」
 永き眠りから解放され、今まさにアタシたちに襲い掛からんとするガーディアンにアタシは真正面から特攻する。
 敵の左右からの攻撃を避け、一瞬でその敵の身体を切り裂く。マナで攻撃力を上げているため、一撃でほふることができた。
 一度に4体は斬らないとダメか。これは骨が折れるわ…。
 休む間もなく、次から次へと雨のように攻撃が降り注ぐ。無傷でこの戦いを終えることは不可能ね。防御よりも攻撃を重視し、アタシは得意のスピードでもって、相手を翻弄しつつ確実に葬っていく。
「雷よ!! 敵を討て!」
 アレフの魔法が完成し、部屋の中央に雷の球が出現した。そして次の瞬間には強烈な電撃が部屋中を駆け巡る。
 そのスパークの一撃により、30体近くのガーディアンが黒こげとなったが、まったく数が減ったように思えない。
 アレフはさらにスパークを連発していく。アタシは改めてアレフの魔法能力の高さを知った。
 とんでもない魔法力だわ。もしかしたら召喚魔法まで扱うことのできる魔力を持っているかも。
 彼女の魔法の破壊力や、ランクを見るとそれも不思議ではない。
 アタシも負けていられないな。魔法でかなわなくても、剣技ならば負けない!
 目前に迫っているガーディアン2体を瞬時に切り払うと、そのまま左右のガーディアンに攻撃を加えつつ前方に移動する。その場に留まって戦っていたら危険だからね。常に動いていないと、背後を取られてジ・エンドになっちゃう。
「はあっ! でいっ!!」
 マナで光り輝く剣を振るい、敵を切っていく。もうどれくらい切ったのか覚えていない。しかし、まだ数は減っていないように思える。まさか、増えてたりしないでしょうねぇ。恐ろしい考えが浮かぶが、それだけは否定したいところだった。
 ザッパとセリカがいればこんな苦労はしないのに。
 今ここにはいない、ウルフリングと魔導人形を思い浮かべる。今頃どうしてるのかな? あの二人は。
 剣を振るいながら思う。ないものねだりをしてもしょうがないけど、いてくれた方が心強いし、なにより戦闘がラクになる。アレフもかなり頑張ってくれているけど、魔法力も限界があるだろうし。その証拠にあれほど連発していたスパークは使用されなくなっている。かわりに氷の魔法であるフリーズで戦っている。アタシが踏ん張らないとね。
「テヤァッ!」
 気合いと共に剣を振り続け、目の前の敵を倒していく。アタシの身体も無傷というわけにはいかず、ところどころに切り傷や打撲を負ってしまっている。まぁ、この中を無傷で切り抜けられたら人間じゃないと思うけど…。
「………ス!!」
 !? 何か聞こえた? どこからか人の声が聞こえたように感じた。それとも、切り疲れてきたんで幻聴でも聞いたかな。今はそんなことを気にしている場合じゃないか。意識を目の前に集中し、剣を振るう。
「セ…レス! アレフ!!」
「!?」
 今度ははっきりと聞こえた。この声は!
「ザッパ!!」
 アタシとアレフの声がハモった。どうやらアレフにも聞こえたようだ。その声を聞き、失いかけていた力が、再びアタシの中に宿っていく。
「なんだ! この数は!!」
 どうやら部屋の中を見たらしい。確かに初めて見ればこの部屋には驚くわよね。
「ザッパ、これをすべて倒さないと結界は破壊できません!」
 アレフの声が聞こえる。
「よし、分かった。任せておけ! いくぞ、セリカ」
「はい、ザッパ様」
 セリカもいるんだ。良かった、ザッパとちゃんとコミュニケーションは取っていたみたいね。
 アタシの目の前を影が横切る。そして、目の前にいた数十体のガーディアンが一気に切り裂かれるのを見た。
「大丈夫か?」
 それはザッパだった。相も変らぬ鬼神の如き戦闘力ね、ウルフリングは。
「ええ、ありがと。助かったわ」
 助かったのは本当。正直に言うともうダメって思った。アタシとアレフだけでは、とてもじゃないけどこの局面は打破できなかったに違いない。
「でも、どうやってここまで?」
 当たり前の疑問。別ルートでも見つかったのかな? それしか考えつかないけど。
「今はそんなことを言っている場合ではないだろう。目の前の敵をなんとかしてからだ」
 言ってザッパはガーディアンの群れの中に突っ込んでいく。彼が腕を振るたびに、確実に数体のガーディアンが短い生を終えていく。
「マスター」
 セリカがやってきた。こころなしか、服や髪が汚れているように見える。戦闘とか大変だったのかな?
「やっ、セリカ。元気だった」
 アタシの目の前に立つ、セリカににこやかに言う。場の雰囲気に笑顔は似合わないっぽいけどね。なんとなく。
「はい。マスターがご無事で何よりです」
 ?? なんだかいつもと違う感じ。どこが違う、と言われると困るけど、どこがが違ったな、今の言葉。喋り方や雰囲気はいつもと同じなんだけど……。
「なにかあった?」
 ガーディアンと交戦中という事も忘れ、アタシはセリカに質問する。なんだか、さっきのセリカは違う気がした。
「何かとは?」
「そう言われると困るけど……」
 逆に聞き返されてアタシは頭を掻いてしまう。アタシもセリカの何が違うのか言葉にできない。だから、具体的にどこ、というように示すことができない。それに今の口調…というか雰囲気はいつものセリカそのものだったし。
「まぁ、いいわ。とりあえず、いまはこの状況をなんとかしましょう。戦える? セリカ?」
 アタシは剣の具合を確かめる。あれだけの激戦をしても、剣の輝きは曇ることがない。我ながら素晴らしい剣を見つけたものよね。
「はい、大丈夫です」
 そう言うと、セリカは手から光り輝く剣を出す。彼女の武器であるマナで造られた剣だ。その辺の武器よりよっぽど鋭い切れ味を持っている。それは、先のケイオス戦で実証済み。
「よし、行きましょ」
「はい、マスター」
 ザッパが奮戦している中、アタシとセリカも突入する。アレフも二人の登場に気を持ち直したらしく、遠慮なく魔法をぶっ放してる。この分ならいけそうね。
 そして、アタシの予想通り、1時間ほどのあと、あれだけいたガーディアンの軍勢はいなくなっていた。
 不思議な事にガーディアンの死体は残らず、すべて霧となって消えた。今まではそんなことはなかったのに。

「はぁ〜、くたびれた…」
 戦闘が終わるや否や、アタシは床に座り込んだ。こんなに疲れたのは久しぶり。とてもじゃないけど、今の体力で結界破りはできないので、ちょっと休憩。
 他のメンバーも同じように座り込んでいる。途中参加のザッパもやっぱり疲れているみたいね。肩で息をしてるし。アレフもか。まぁ、あれだけ高度な魔法を連発すれば無理もないだろうけど。唯一元気なのがセリカか。疲れを知らないんだもんね。でも、アタシたちに合わせるように彼女も床に座ってる。
「それじゃあ、聞かせてもらおうかな」
 両手を後ろについて、身体を斜めにするようにすると、アタシはザッパに聞く。もちろん内容はここまで、どうやってやってきたかということだ。
「ああ、隠し通路みたいなものが見つかってな」
 質問の意図は察しているのだろう、聞き返すことなく同じように座っているザッパが言う。そんなものがあったんだ。アタシは気がつかなかったけど。
「今考えればセレスでも分からなかったものを、よく見つけたと思うよ。奇跡に近い確率だったな」
 そして今度は笑う。いかにも獣人らしい、豪快な笑い方。でも、そんなのが妙に似合う。
「ここまでの道のりは? 最初は一本道だったけど、後半は迷宮してたでしょ?」
「ああ、それはセリカが言ったんだよ。敵のいる方向へ進みましょうって」
 セリカのほうを見ながら言った。彼女はやはりいつものように、人形のように鎮座している。
「セリカが?」
 アタシもセリカを見る。彼女もアタシを見ているが、特に表情を動かさない。いや、表情どころか眉さえも動いていない。生きているのか心配になってしまうほどだ。
「はい、敵がいる方向。すなわち、遺跡の最重要部へと続いていると判断した上でです」
 説明はザッパでなく、セリカがしてくれた。
 うん、なかなかいい判断だと思う。全部の遺跡がそういうわけじゃないけど、ここに関してはそれが当たったってわけね。でも、それって……。いや、今はこれに関して追及することは止めよう。今は結界を破壊するほうが大事だし。
「…さて、そろそろここの結界を壊しましょうか!」
 アタシは勢いよく立ち上がり、部屋の中心で青白い光を放つ球体を見た。いままで見てきたものと同じ。かなりの大きさだ。それが、地上数センチのところで浮遊している。
「アレフ、お願いね」
 そう言って、アタシは結界と向き合う。剣を上段に構え、アレフの魔法に備える。
「はい、いきます」
 アレフが杖を自分の周囲に浮かべ、それを円運動させる。なんでも、こうした方がマナがよく練れるらしい。アレフの頭上で数回回転したあと、ぴたりと杖の先端がアタシに向けられる。
「雷よ! 来たれ!! スパーク!!!」
 スパークの魔法が完成し、アタシの剣めがけて凄まじい雷撃が送り込まれる。気を抜くと剣を離してしまいそうになるほどの威力。でも、なんとかマナを活性化させ、その電撃すべてを剣に留まらせる。
「よし!」
 準備を完了させ、アタシは力を込める。この電撃にアタシのマナをさらに上乗せする。そうすることにより、さらに破壊力が増すからだ。
 アレフがいて本当に助かってる。アタシの力だけだと、身体に負担がかかりすぎちゃうからね。
「デヤアァッ!!」
 気合い一閃。雷をまとった剣の一撃を上段から下段へと、青白い光を放つ結界に向け切りはなった。
 剣の軌跡にわずかに雷光が走る。そして……、
 ピシッ!! ピシピシッッ!!
 ひび割れるような音と共に結界が真っ二つに崩れ去った……。
「よーし、これで三つ目。半分終了ね」
 剣を鞘に収め、アタシは後ろの仲間にVサインと送った。仲間たちもそれに答える。最もセリカだけは相変わらずだけど。きょとんとした顔で見てる。なんの意味があるか、判らないような感じ。それに苦笑しながら、アタシは信頼すべき仲間の元に戻る。
 …ドクンッ…。
「??」
 なんだか床が少し揺れたような……。気のせいかな?
「ねぇ、今揺れなかった?」
 アレフや、ザッパ、そしてセリカに聞いてみる。しかし、皆そろえて首を振るだけだった。
 アタシの気のせいだったのかな?



後書き

 どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十話「軍勢」掲載完了です。
 今回は初めてかもしれない、大勢の敵を一度に相手をするというシチュエーションでいってみました。上手い具合にその切迫感というか、危機感とかが伝われば幸いです。
 一対一でも難しいんですが、大勢となるとさらに難しいですね。なんつーか、いつもいっているけど、描写の甘さを実感します。
 最初はザッパとセリかは合流せずに、セレスとアレフの二人で片付ける予定でした。でも、それだと二人が異様に強い感じになってしまうので却下。今の形に落ち着きました。
 ちなみにボスを使わなかった訳は、最下層にいる敵=一体だけのボス。というのがなんとなくイヤだったからです。
  では、次の後書きで。



2002年 3/3 ぱんどら

第三の遺跡へ セリカの心 2
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