第四の遺跡へ
三つ目の遺跡を解放した数ヵ月後。体調を万全に整えたアタシたちは四つ目の遺跡を解放するために森を歩いている。
すでに六芒星を構成している三角形一つ分の遺跡の解放に成功している。残りは今回を含めて三つ。今まで以上に気合いを入れていかないとね。
見ると、ザッパやアレフもいつも以上に心構えが違うように見える。なんというか、ぱっと見はいつもと同じなのだけれど、身体から発せられる雰囲気が違うように感じる。半分終わってこれなのだから、最後の一つになったら暴走するんじゃないだろうか?
その中でいつもと変わらない雰囲気を纏っているのがセリカ。相変わらずの無表情。この間の行動はなんだったのだろうか? と言いたくなるほどに昔と変わらないセリカになっている。昔といっても出会ってまだほとんど立っていないんだけどね。なんだか、四六時中一緒にいるせいか、ずっと前からの知り合いのように思えてくる。
「ここを渡ったところにある」
ザッパが目の前に広がる湖の先を指差しながら言った。
綺麗な湖。アタシは素直にそう思った。水は透き通り、土がはっきりと眼に移る。不純物がほとんど混じっていないのだろう。このまま飲み水としても使えるのかもしれないくらいに綺麗だった。
湖に架けられた橋を渡りながら、湖を観賞する。この森を取り巻く危険が去ったらアクアたちを誘ってピクニックに来て見るのもいいかもしれないな。きっと喜ぶだろう。そのためにも頑張らないと。
湖を渡り、さらに歩くこと一時間ほど。遺跡の残骸と思われる石などが目立つようになってきた。どうやら遺跡のあった領域に足を踏み入れた見たい。この様子を見る限り、ここもシューティングスターの攻撃を受けたのね。なんで、彼が破壊の行動に出たかはわからない。セリカも破壊の衝動に飲み込まれた、ということしか知らないし。ルドラに至っても詳しいことは語らなかった。知らないことがあると知りたくなる。それがアタシという人間。でも、資料がないのよねぇ…。
「どうかしたしましたか? マスター?」
アタシの隣を歩いていたセリカが不意に、見上げながら話し掛けてきた。ちなみにアタシの身長は女にしては高いほうであると思われる175センチ。たいしてセリカは150センチほどしかない。見ているこっちの首が疲れてしまいそう。
「ううん、なんでもない。森の風が気持ち良いものだったから」
と言ってアタシはごまかす。多分、ごまかしきれたと思うんだけど。これでセリカは結構、鋭いところがあるからなぁ。
「そうですか。…なんとなく、分かるような気がします。具体的な言葉では示すことはできませんが」
セリカが上を見上げる。アタシもつられるようにして見上げる。木漏れ日が地面を照らす。時折吹いてくる風が気持ちいい。精霊との交信ができる人は、風の精の姿が見えるのだろうか?
「分かってくれるんだ。ありがと」
お礼をいう場面ではないと思うのだが、ついつい言ってしまった。なんというか、最近はセリカが少し人間ぽくなっているような気がして嬉しい。この間の事にしてもそうだし。
そしてさらに歩くこと数時間。ついに石造りの頑丈そうな建物が見えた。完璧に破壊はされていないようで、旧時代の建造物の頑強さにアタシは舌を巻く。
早速バッグから筆を取り出すと、遺跡の入り口付近に帰還の為の魔法陣を描く。アタシが所有している帰還の宝玉を使えば、ここに瞬時にして戻ってこられる寸法ってなわけよ。
準備が整うと、アタシは仲間を振り返る。
ウルフリングのザッパ。フォックスリングのアレフ。そして魔導人形のセリカ。
「さて、ついに遺跡の解放も半分までやってきたわ。この中もいままで同様なにがあるかわからない。遺跡に慣れたと思って油断しないように。この中は何が起こっても不思議ではない世界なんだからね。石橋を叩きすぎるということは絶対にないから」
本当はこんなことを言わなくてもいいんだろうけど、やはり言っておくに限る。自分の自覚しないところで、油断というものは生まれている可能性があるから。実際にアタシもそれで一度、死に直面したこともあったしね。
アタシの言葉に皆はさらに決意を固めた表情になる。よし、準備はオッケーかな。
「よし、いきましょ」
アタシが先頭となり、遺跡へと足を踏み入れていった。
長い長い地下へと続く階段を降りきると、そこは不思議な幻想的な世界だった。
今までの遺跡は無骨で無機的な、そして生物の営みのまったく感じられない世界だったのに、ここは違っていた。
「水…?」
そう、水が張られているのだ。水面の上に一本の道がある。どうやら、さっき通ってきた湖が水源となっているのだろう。いや、もしかたしたらここが地上の湖の水源となっているのかもしれない。
「綺麗…ですね」
アレフが感想を漏らした。確かにね。ここが危険地帯ということを忘れてしまうくらいに綺麗な水。壁に設置された明かりが水面に映り、ゆらゆらと揺れているのがはっきりと見て取れる。
「見とれている場合じゃないわ。行きましょ。ただ、道が細いから気をつけてね」
一歩を踏み出しながら仲間に言う。こんなところでガーディアンに襲われたらひとたまりもないし。って考えると現れるのよね。
とりあえず遭遇しないことを祈りながら、水面の道を進む。ふと水の中を見てみると、底がはるか遠くに見えた。かなり深いのね。目測で水深は20メートルくらいかしら。落ちないようにしないと。
一歩一歩確認するように両の足を前に出す。今までの遺跡とは基本的な材質が違うらしく、足音が甲高い音を立てて遺跡に響く。なんというか、ここで楽器を弾いたら素晴らしい効果が得られそう。
我ながら訳の分からないことを考えながら先頭を切って先へと進んでいく。まだ奥は見えない。かなり長い一本道を言える。まぁ、迷わなくていいんだけどさ。
バシャァァン!!
「!?」
突然の水音に皆が立ち竦む。いや、正確にはセリカを除いてだけど。
見ると、水の中から突然ガーディアンが襲来してきたようだった。奇襲攻撃をザッパがなんとか受け止め、水の中にガーディアンを押しやった。
「サーペントです。水の中に生息する獰猛な魔物です」
セリカが冷静に分析をする。どうする? こんなところじゃ不利だわ。
「どうする! セレス!!」
ザッパが水中を見張りながらアタシに言う。あー! アタシもいま考えているところよ、お待ちなさいな。
バシャァァン!!
再びサーペントが水中から飛び掛ってきた。今度の標的はアレフだ。
「危ない!!」
奇襲に驚き戸惑っているアレフを咄嗟にザッパが庇った。
「つぅ…」
サーペントの攻撃を交しきれなかったようで、ザッパの肩口が血で塗れる。
「ザッパ!」
「大丈夫。かすり傷だ。それよりも数が増えたぞ」
言われて水中を見る。確かに一匹だったはずのサーペントが数十匹に増えている。騒ぎを嗅ぎ付けて集まってきたのだろう。まったく、暇人め!
次から次へとサーペントが襲い掛かってくる。アタシたちはそれを交わすのが精一杯だ。一匹の強襲をかわせば次が。それをかわせばまた次がの繰り返し。反撃を試みようともするが、攻撃後の一瞬の隙をつかれたらあえなく湖へドボン。サーペントの餌となって人生終幕となってしまう。よって現状ではかわすほかない。策がないこともないけど、それには時間がかかる。なんとか時間を稼がないと。
「切りがない。突破するか!?」
攻撃を交しながら、ザッパが叫ぶ。それは得策じゃないように思えた。この先に広場があるという保証はどこにもない。それに下手に動いたらトラップが作動する可能性もある。
「いえ、ここで迎撃するのが一番よ。ここから動いたらトラップが動くかもしれない。痺れを切らすのを待っているのよ」
バシャァァン!!
言い終わると同時にサーペントが襲い掛かってくる。それをスウェーでかわすと同時に剣で攻撃を加えようとしたが、すでにサーペントは水中に潜ってしまっている。
「じゃあ、どうするんだ!」
「アレフ、スパークを使うのにどれくらい時間がかかる?」
ザッパの言葉は無視し、アタシはアレフに言う。
「え? そうですね、3分もあれば可能です」
ひょい、とサーペントの攻撃をかわしながら言う。結構、身軽なのね、フォックスリングも。攻撃がくると分かっていればこの程度はしのげるのか。スパークを3分で使えるということよりも、なぜかアタシはそっちに感心してしまった。
「聞いた! 3分間、アレフの護衛に徹して!! アレフはスパークの準備を!!」
皆、アタシの言った意味を理解したらしく、すぐに彼女の護衛に移る。そして、アレフはいつものように杖を浮遊させ、魔法の準備に入った。
3分間をこんなに長いと思ったことはない。サーペントの攻撃は絶え間なく続き、アタシたちはアレフを守りながらそれを交していく。そして、準備ができたのか、アレフの杖が青白い光に包まれた。
「ハッ! スパーク!!」
アレフの頭上で杖がくるくると回り、その上に青い雷の球が出現する。それはバリバリと放電し、水面へと雷を落とし続けた。
しばらくして雷の雨は止み、水面には無数のサーペントが浮かんでいた。
「ふぅ」
片がついたのを確認し、アタシは溜め息をつく。アレフがいて助かったわ。スパーク程の威力がないとここまではできないからねぇ。水面に無様に浮いているサーペントを見る。そこにはさきほどまで猛威を振るっていた姿は見えない。電撃に痺れ、腹を見せて浮かんでいた。
「さっ、先を急ぎましょ」
ぐずぐずしていたら、また第二波が来る可能性があるし。とっとと先にいくに限るわ。撃退したことによってトラップの心配もないだろうし。
アタシが歩き出すと、仲間たちも後に続いた。
「あれ? 行き止まり?」
一本道をひたすら真っ直ぐに進むと、アタシたちの眼前に巨大な壁が立ちはだかった。どこにも脇道らしいものもなかったし、スイッチの類もない。完全に行き詰まったといってもいいだろう。さしものアタシでも分からない。意見を求めようと仲間たちを振り返る。が、皆首を横に振るだけだ。
「う〜ん…」
アタシは腕を組み、首をかしげて考え込む。
道はない。正面には壁。どこにもスイッチはない…か。道ね。……道。湖のある遺跡。底は深い…。底……。底が深い? 深いと言うことは見えないということ。道はここだけとは限らない。ということは?
「分かった……けど…」
「どうしたんだ?」
ザッパが言う。道は分かったんだけど、実行は不可能に近いと思う。
「うん、多分なんだけど、道はこの下」
言って湖を指差す。それで皆分かったらしい。そう道はここだけとは限らない。水中に何かあるはずだ。しかし、危険もある。サーペントを一網打尽にしたとはいえ、まだどこかに潜んでいる可能性もある。サーペント以外の魔物がいる場合もあるし。
「なるほどな。普通じゃ無理か」
ザッパを始めとする、メンバーが湖の底を見る。しばらくするとセリカが口を開いた。
「私がいきましょうか?」
「えっ?」
いつもと同じ顔で水面を覗き込んでいるセリカを見る。いけるのだろうか?
「私は魔導人形です。活動するために必要なものはマナであり、酸素ではありません。故に水中でも過不足なく行動することができます。私以上の適任者はいないと思いますが」
確かにそうだけど。もし、魔物がでたら…。
というアタシの考えを読み取ったのか、セリカが続ける。
「ご心配なく。水中でも私の能力は衰えることはありません。さきほど程度の魔物であれば退けることは可能です」
考え、迷っているアタシの肩をザッパが軽く叩いて言った。
「ここはセリカに任せよう。どっちみち水中を調べないといけないんだ。彼女以上の適任者は言う通りいやしないさ」
「…うん、わかった」
ここで我侭をいってもしょうがない。アタシは折れた。そして、セリカの小さい肩に手を乗せる。
「無事にね」
それだけを笑顔で言った。
「はい、もちろんです。まだマスターには教えてもらうことがたくさん残ってますから」
えっ? セリカらしかぬ言葉だった。しかし、それについて聞く前にセリカは湖へと消えていった。
「大丈夫かしら?」
まだ心配は拭いきれない。確かに彼女は強いけれど、やはり心配をしてしまう。でも、どちらかというとこの心配の気持ちは、姉が妹を心配するような気持ちに近い気がする。なんとなくアクアの心情を読めたような気がした。
「なに、そんなに心配する必要はない。セリカの強さは私はこの目で見たからな」
そう言って笑う。そうよね、ザッパは前回セリカと行動を共にしたのだし。戦闘能力に限って言えば、アタシより詳しいかもしれない。
「今は心配しても始まりません。セリカさんを信じて待ちましょう」
アレフが遥か水底を見ながら言う。
「そうね、アタシたちが信じないとね」
そして待つこと1時間ばかり。水面に波紋が起こり、そしてセリカが姿を現した。
水に濡れたその様相が美しく、水の中から女神が現れたかのように錯覚してしまう。
「どうだった?」
彼女の濡れた髪や、身体を拭いてやりながらアタシは探索結果を聞く。
「はい。水中をくまなく探した結果、通路がひとつありました。その奥にドーム状の部屋。そして奥へと続く通路。ガーディアンはいないようです。ですが、海洋性の魔物が潜んでいる可能性はあります。それとこれを見つけてきました」
一気に結果報告したセリカは、一個の箱を床に置いた。宝箱? それはどこからどう見ても宝箱だった。水中にあるとはねぇ。
「開けないのですか?」
「あっ、うん。トラップがないか調べてからね」
宝箱を軽く叩いたり、鍵穴を調べたりする。
……うん、トラップはないみたい。確信すると、鍵をこじ開け、ゆっくりと宝箱を開いた。
「なにこれ?」
中に入っていたのは、銀色の細長いタンクのようなもの。そのタンクの先端から細い管のようなものが伸びている。その管の先は透明な物がついており、管に直結している。初めて見るものだ。どんな物なんだろう? アタシが考え込んでいると、セリカが言った。
「これは酸素ボンベです。このタンクの中に酸素が入っています。この部分を口に当て、中の酸素を吸引することができます」
と説明した。酸素? ということは…。思い立ってセリカの顔を見る。彼女はアタシの思いを察して頷いた。
「でも、一人分しかないわね。どうする?」
酸素ボンベとザッパ、アレフを見比べながら言う。問題は誰が装備するか…よね。
「決まっているじゃないか。セレスがいくしかないだろう」
ザッパが言い、アレフが続ける。
「私たちでは結界を破壊することはできません。ここはセレスさんとセリカさんが行くべきです」
「そう、分かったわ。二人は外で待機してて。用事が済んだら帰還の宝玉で帰るから」
セリカに説明を受けながら、アタシは酸素ボンベを身につけ、彼らに言う。
「おう、しっかりとな」
「お気をつけて」
二人の言葉を背に受け、アタシとセリカは水中へと潜っていった。
後書き
どうも、筆者のぱんどらです。 トレジャーハンターの小さな冒険・第十二話「第四の遺跡へ」掲載完了です。
今回はいままでにない遺跡のタイプだと思います。それに伴って戦闘の形もいままでにない形だと思います。
今回は状況描写とかも、自分では上手くいったほうと思ってます。書けるときはすんなりと書けるんですけどねぇ。毎回がこうだったら最高なんですが……
書いてていつも思うんだけど、アレフのセリフが少ないのがちょっと…。できることならもっと出番を増やしてあげたいところだけど、どうにも上手くいかないのが難点です。そんなに描きにくいキャラというわけではないんだけど…。
では、次の後書きで。